嚥下とは|嚥下障害や治療法、おすすめの食事など

食べ物を食べる際、咀嚼をした後に飲み込んで胃に送り込む動作を「嚥下(えんげ)」といいます。嚥下は歳をとるごとに低下していく機能です。その原因について理解していない人も多いでしょう。

そこで嚥下障害の原因や嚥下障害によって引き起こされる危険性のある誤嚥性肺炎について、また嚥下障害の治療法といった疑問について迫っていきます。嚥下障害の際に工夫したいおすすめの食事法についてもご紹介しますので、嚥下障害に悩む方やそのご家族は参考にしてください。

嚥下とは|嚥下障害や治療法、おすすめの食事など
平栗 潤一

この記事の監修

平栗 潤一

一般社団法人 日本介護協会 理事長

大手介護専門学校にて教職員として12年勤務し、約2000名の人材育成に関わる。その後、その経験を活かし、認知症グループホームや訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅などの介護事業や、就労継続支援B型事業所や相談支援事業所などの障がい福祉事業を運営。また一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して活動中。

嚥下とは

嚥下について詳しく理解している人は少ないでしょう。若いうちであれば何も問題がないと思っていても、実は若いころからの行動によって後々障害が引き起こされる可能性もあります。

まずはじめに、嚥下とはどういった動作について言うのか、また使われている筋肉について見ていきましょう。

ものを飲み込むこと

食べ物を食べる時には、食材を口に運び歯で噛み砕いて飲みこみやすい形(食塊)にします。飲みこみやすい大きさになったら飲み込み、食道を通って胃に送り出されますが、その一連の動作を「嚥下」と言うのです。

健康な人であればものを飲み込む際に意識する必要はないでしょう。しかし、嚥下の仕組みは実に複雑で、さまざまな器官を用いることで動いているのです。

どの筋肉が使われているか

嚥下をする際には、さまざまな器官のほか多くの筋肉も活躍しているのです。どの筋肉が使われているのか解説していきましょう。

使用される筋肉 動作
口輪筋 食べ物を口の中に入れる。
舌筋 食べ物を口の中に入れる。
咀嚼筋(側頭筋・内側翼突筋・外側翼突筋など) 舌と唾液を使って食塊を作る。
舌筋(顎舌骨筋・舌骨舌筋など) 舌に食べ物をのせて中咽頭に送る。
顎二腹筋・顎舌骨筋 顎を固定して口の中を陰圧状態にする。
口蓋帆張筋・上咽頭収縮筋 咽頭部に空間を作って食塊を送り込む。
甲状舌筋 喉頭蓋を閉じて食塊が気道に入るのを防止する。

このように、さまざまな筋肉を使用して嚥下をします。聞いたことのない筋肉もあるでしょうが、それぞれが作用することで快適に食事を楽しめるのです。

嚥下障害とは

次に嚥下の機能が低下する嚥下障害について見ていきましょう。代表的な症状もご紹介します。

加齢によって嚥下機能が弱まっていく

正常に嚥下ができれば問題ありませんが、飲み込む動作がうまくできない、咀嚼がうまくできないといった事態になると生活にも支障が出てしまいます。この状態が「嚥下障害」です。

嚥下には多くの筋肉が使用されているため、加齢とともに筋力が失われると咀嚼や飲み込む動作に影響があるのです。

嚥下障害の代表的な症状

以下のような症状が現れると、嚥下障害が疑われます。

  • 食べ物を飲み込む際に痛みがある
  • 喉に食べ物が詰まったような感じになる
  • 物を飲み込むことが難しくなる
  • 食べ物を飲み込んでも口の中に食べ物が残っている
  • 食べ物が口からこぼれてしまう
  • 口の中が乾燥する
  • 唾液が多くなる
  • 食べ物や飲み物を飲み込む時に咳込む
  • 食べ物が下の奥側に引っ掛かる
  • 食べるのに時間がかかってしまう
  • 胃酸が口の中に戻ってくる
  • 固形物が飲み込みにくい
  • 食べ物が胸につかえていると感じる
  • 胸やけがする
  • 体重が減少した

特に咳込みやすいのは、水分と固形物が混在した食べ物です。むせたり、咳込むことを避けようと水分を摂らないよう気を付けてしまう高齢者も中にはいますが、その場合、脱水につながる危険性があるので注意してください。また、咀嚼を多くするために食事に疲れてしまい、食べる意欲がなくなってしまう人もいます。その場合は低栄養につながるので体重の減少が見られます。食事を楽しめる工夫をすることが重要となるでしょう。

食後に声が枯れるケースも嚥下障害に見られる症状です。口の中に食べ物が残るので、痰が絡みやすくなり風邪を引いているようにガラガラとした声質になってしまうのです。

上記のような症状が多くある場合には、嚥下障害が起こっている可能性があります。嚥下障害が引き金となって体調を崩さないためにも、早めに専門の医師に相談しましょう。

嚥下障害の代表的な症状

嚥下障害の原因

嚥下障害になってしまう原因は何なのでしょうか。原因は大きく4種類に分けられるので、それぞれ確認していきましょう。

機能的な原因

筋肉や神経に異常があると嚥下機能が低下します。嚥下のために必要な口腔や食道といった器官に異常がなくても、器官を動かすための神経や筋肉に問題が発生するため、噛み砕いた食材をうまく送り出せないのです。

原因となる疾患は以下の通りです。

口腔・咽頭 食道
  • 脳血管障害
  • 脳腫瘍
  • 頭部外傷
  • 脳炎
  • 多発性硬化症
  • パーキンソン病
  • 筋委縮性側索硬化症
  • ギラン・バレー症候群
  • 筋ジストロフィー
  • 筋炎
  • 糖尿病 など
  • アカラジア
  • 筋炎
  • 脳幹部病変
  • 強皮症
  • 全身性エリテマトーデス など

器質的な原因

嚥下に必要となる口腔や咽頭、食道といった器官の構造に問題が発生し嚥下障害を引き起こします。先天的、後天的な疾患があります。原因となる疾患は以下の通りです。

口腔・咽頭 食道
  • 舌炎
  • 口内炎
  • 歯槽膿漏
  • 扁桃炎
  • 扁桃周囲脳瘍
  • 咽頭がんによる腫瘍
  • 良性の口腔や咽頭にある腫瘍
  • 口腔や咽頭部の手術後
  • 圧迫
  • 唇顎口蓋裂 など
  • 食道炎
  • 食道潰瘍
  • 良性や悪性の腫瘍
  • 食道裂孔ヘルニア
  • 異物
  • 圧迫 など

心理的な原因

うつ病といった心因性の疾患が要因で嚥下障害となる可能性もあります。うつ病になると食欲不振を起こすケースもあり、結果的に嚥下機能にも影響を与えてしまうのです。

加齢による原因

歳を重ねるとあらゆる機能が低下していきます。高齢になると歯の数が減少することがあり、食べ物を噛み砕く行為が難しくなってしまうので嚥下反射に衰えが現れてしまうのです。噛み合わせが悪い場合も嚥下反射に影響を与えます。

嚥下障害は関係ないと感じている若者でも、高齢になった時を考えて歯を大切にしていきましょう。

また、高齢者の中には疾患をいくつも抱えている人もいるでしょう。疾患があれば薬を服用することがありますが、薬剤も嚥下障害に大きな関りを持っているのです。唾液の分泌が抑えられてしまう薬や嚥下反射を抑制する作用がある薬もあるので、注意しましょう。

嚥下障害の原因

嚥下障害による誤嚥性肺炎

嚥下障害が原因で「誤嚥性肺炎」になる高齢者もいます。嚥下障害があると、さまざまな器官が正常に動かず唾液や食べ物、胃からの逆流物が気管に入り込む場合があります。これが「誤嚥」です。その際に細菌が一緒に気管に入り込んでしまうと、肺の中で炎症を起こして誤嚥性肺炎になってしまうのです。

誤嚥性肺炎の症状としては、次のものが一般的です。

  • 発熱
  • 激しい咳
  • 膿のような痰

しかし、なかにはこうした症状が発生しないケースもあります。いつもよりも元気がない、だるく感じる、食欲が低下している、喉に違和感があるなどの症状だけが生じて、気が付いた時には肺炎が進行している場合もあるのです。

  • 食事の時間が長くなった
  • ぼんやりとしている時間がある
  • 失禁する
  • 食べ物を飲み込めない

これらの症状が現れたときには、誤嚥性肺炎を疑ってみましょう。

治療は炎症を抑えるために抗菌薬を用いた薬物療法が一般的です。重症であれば人工呼吸器を使って治療を進めていくケースもあります。

嚥下障害の治療

嚥下障害にはさまざまな治療法があります。代表的なものを紹介しましょう。

リラクゼーション

力が入っていると器官を正常に動かしにくくなってしまいます。そのため、ストレッチや準備運動をして食べる前に体をほぐし、リラックスさせます。嚥下のための器官をスムーズに動かすためにも大切なトレーニングです。

口唇や舌、頬の運動

器具や手を使用してそれぞれを動かす訓練をします。可動域を拡大し、筋力アップをすると嚥下にもいい影響を与えるでしょう。

喉のアイスマッサージ

冷たい水を綿棒に付けて口腔内や喉を刺激するトレーニングです。刺激をして嚥下反射を促します。

嚥下反射促通手技

顎から下部分をマッサージすると筋肉が刺激されて嚥下運動が促されます。

バルーン訓練

咽頭部分に嚥下障害の原因がある際に活用されるトレーニングです。バルーンカテーテルを使って喉や食道を拡大していきます。

呼吸訓練

誤嚥を防ぐために欠かせないトレーニングです。呼吸に必要となる筋力の機能を高め、気管に食べ物や痰が入った際に強い咳をして排出できるように促します。

食べ物を活用して実施する直接訓練

嚥下の意識化

食事に集中できる環境を整える他、声掛けによって嚥下を意識的に実施します。その結果、誤嚥や窒息を防げるのです。

食品調整

食事を通常のものからとろみ調整食品などに変えると、嚥下後に口の中に残る食べ物を減らせる他、誤嚥も防げます。

交互嚥下

とろみのある食品やゼリー、べた付いている食品やパサパサした食品と代わる代わる食べていくトレーニングです。固形物を口腔内に残さないようにする効果があります。

複数回嚥下

一口大ずつ食べ物を用意し、回数を分けて嚥下してもらうと誤嚥を防げます。

運動によるリハビリ

呼吸の訓練

呼吸をする際に使用する筋力を鍛えるために腹式呼吸のトレーニングをします。呼吸機能が上がると食事が喉に引っ掛かった際に排出されやすくなります。

首と口周りの運動

筋肉をほぐすために肩の力を抜いて首を前後左右に倒す他、回していきます。口周りは、頬を膨らませてしぼめる動作を繰り返しましょう。舌も前後に動かすと嚥下障害に役立つトレーニングになります。

発声の訓練

大きな声で「パ・タ・カ・ラ」と発生を繰り返す嚥下に必要となる気管を動かすトレーニング法です。パとタで口唇と舌の筋力をアップし、カで喉の奥を動かし、ラで喉に送るための舌の動きを鍛えられます。

また、嚥下障害を和らげるためにリハビリだけではなく手術が実施されるケースもあります。手術では機能の改善や回復はできませんが、嚥下機能改善手術や誤嚥防止術を実施すると誤嚥を防げるようになります。誤嚥防止術は、発声機能がなくなる可能性もあるので、リスクについてしっかりと確認しましょう。

嚥下障害の際におすすめの食事

ここからは、嚥下障害の際におすすめの食事をご紹介していきます。症状ごとに気を付けるべきポイントが異なりますので、それぞれ確認してください。

食事は人生において欠かせないものです。嚥下の障害が見られてもできるだけ食事を楽しめるよう、さまざまな工夫をしましょう。

咀嚼に問題がある場合の食事

焼いたり炒めたりするのではなく、柔らかく煮たものが食べやすいです。噛めないからと細かく切ると反対に咀嚼がしにくくなるので、ある程度厚みを持たせた方が食べやすくなります。

水分を飲むとむせる場合

水分にとろみをつけて固体として食べさせると水分摂取がラクになります。ただし、とろみをつけ過ぎてしまうとべた付いて飲みにくくなるので、つけ過ぎには気を付けてください。また、とろみをつけてもむせてしまう場合には、ゼラチンや寒天を用いてゼリー状にして水分を摂取させてください。

咽頭に送り込むことがうまくできない場合

なめらかにすると滑りが良くなり送り込みやすくなります。野菜のお浸しや和え物は、豆腐を加えて白和えにするといいでしょう。片栗粉でとろみをつけてあんかけ風にしても送り込みやすくなります。

食欲を高めるための方法

食欲を高めるためには、好みの食材を使用して料理をすることはもちろん、味付けや見た目、香りにも気を配りましょう。味は、やや濃い目にすると刺激となり、唾液の分泌量も増えて嚥下がしやすくなります。

ペースト状だと見た目が悪くなりがちですが、食欲をそそるように見栄えを良くする工夫も大事です。食器を変えるだけでも効果があるので、試してみてください。また、香りは食欲増進につながるので、香りの良いものを取り入れるのもおすすめです。

若いうちから口腔機能を鍛えておくことが重要

高齢になるとさまざまな要因で嚥下障害を引き起こしてしまいます。誤嚥性肺炎といった病気を発症させる危険性もあるため、嚥下障害を少しでも改善できるようリハビリを用いて機能向上を目指していきましょう。その際には、上記のリハビリ方法を参考にしてください。ご家族は、毎日の食事にも気を使い、見た目も味も美味しい食事の提供を心掛けましょう。食事をする環境を整えて楽しく食べられる工夫をするのも大切です。

また、口腔内の環境も嚥下障害の要因のひとつです。若いから大丈夫だとは思わず、将来のためにも口の中の環境は整えておきましょう。

この記事のまとめ

  • 嚥下は多くの器官が働いて動いている
  • 嚥下障害の原因は疾患や心理的、加齢が関係している
  • 嚥下障害のリハビリは自宅でもできる

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