認知症は治るのですか? 種類によって違うのでしょうか?
私自身、高齢になって、周りにも認知症の症状が出ている友人が増えてきました。「認知症は一度かかったら治らない」というイメージがあります。実際のところ治るのでしょうか。
Aほとんどの認知症は完治しません。しかし種類によっては完治します。また進行を遅らせる方法はあります。
現代の医学では、認知症を完治させることは難しいとされています。ただし、原因によっては治る認知症もあるのです。「治る認知症」であれば、早期発見・早期治療によって発症前の状態に戻すことができます。完治しない認知症は薬物・非薬物療法で進行を抑制する必要があります。
「認知症」とは病名ではなく、いくつかの病気の総称であり、細かく分類されています。認知症にはさまざまな種類があり、治るタイプと治らないタイプがあります。ほとんどの種類が完治できないのに対し、完治が期待できる認知症は「正常圧水頭症」と「慢性硬膜下血腫」の2種類です。今回は両者の違いや治療の方法、また進行を遅らせる方法などについて解説します。
完治が難しい認知症について
まずは完治が難しいとされている認知症の種類について紹介しましょう。認知症の種類は全部で70種類以上もあります。主なものが「三大認知症」です。3種類で全体の認知症の85%を占めているほど代表的な種類です。
アルツハイマー型認知症
認知症で最も多く見られ、全体の67.6%を占めています。「アミロイドβ(ベータ)」や「タウ」というたんぱく質が脳に蓄積すると、異常な構造物を形成します。さらに、正常なたんぱく質までもが変化してしまうと、記憶をつかさどる海馬の脳神経細胞が減り、脳全体が少しずつ委縮してしまうのです。
代表的な例として、次のような症状が見られる場合があります。
- 認知機能障害(見当識障害)
- 判断能力の低下
- 物を盗まれたという妄想
- 興奮
- 幻覚
- 暴力
- 徘徊
- うつ状態
- 喪失感
- 拒食・摂食障害
- 不眠
アルツハイマー型認知症については、以下の記事で詳しく紹介しています。
脳血管性認知症
認知症の19.5%を占めているのが、脳血管性認知症です。
脳の血管障害が原因で、脳梗塞(脳の血管が詰まり、脳の一部分に血液が行き届かずに脳が働かなくなってしまう)や脳出血(脳の血管が破れ、溜まった血液が脳細胞を圧迫する)を発症し、そこから起こる認知症をいいます。
この種類の認知症にかかる方は、高血圧・糖尿病・心疾患などの持病を持っていることも多く、脳梗塞や脳出血の発症頻度や度合いによって認知症の進み具合も異なります。頭部CTやMRIの検査を行うことで、原因を確定することが可能です。
代表的な症状は次の通りです。
- 歩行障害
- 手足の麻痺
- ろれつが回りにくい
- パーキンソン症状(手足が震える、小刻みに歩くなど)
- 転びやすくなる
- 排尿障害(頻尿、尿失禁など)
- 抑うつ
- 感情失禁(感情を抑えられずに、泣いたり怒ったりする頻度が激しい)
- 夜間せん妄(夜間だけ幻覚が見える、興奮して安静にできない、話のつじつまが合わないなど)
この認知症の特徴は、症状の現れ方です。突然症状が現れたかと思えば、急に穏やかになるといった様子で、気分の波が大きくなります。また「まだら認知」と呼ばれる特徴もあり、できることとできないことがはっきり分かれる傾向も見られます。
血管性認知症についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
レビー小体型認知症
認知症全体で、4.3%に見られる種類です。脳の神経細胞にレビー小体というたんぱく質の塊ができ、神経細胞を傷つけて壊すことで、認知症の症状が現れます。
このレビー小体は、脳だけでなく全身の神経細胞にでき、大脳皮質にできるとレビー小体型認知症、脳幹にできるとパーキンソン病と呼ばれます。
レビー小体型認知症も、脳血管性認知症と同じく、状態がいい時と悪い時の波が激しいことが特徴です。また、初期の段階では、症状が目立ちにくいこともあります。
代表的な症状は、次の通りです。
- 記憶力・理解力・判断力などの低下
- 日によって、意識がはっきりするときと虚ろなときがある
- 手足がふるえる、筋肉がこわばり、動作がぎこちなくなるなど
- 幻覚症状
- 寝てる間に、大声で叫んだり暴れたりする
- 立ちくらみ、便秘など
- 気分の落ち込み、意欲の低下など
これらの症状以外にも、さまざまな症状があらわれ、個人差が大きいのが特徴です。他の病気(パーキンソン病、うつ病、アルツハイマー型認知症など)との違いの判断が難しいとされています。
レビー小体型認知症については、以下の記事を参考にしてください。
その他の種類
ご紹介した3種類以外にも、認知症には次のような種類があります。
前頭側頭型認知症(ピック病)
脳の一部である前頭葉や側頭葉前方の萎縮が見られます。社会性の欠如(万引きなどの軽犯罪を起こす、身だしなみがだらしなくなるなど)、暴力、同じ行動や言葉を繰り返す、感情の鈍り、相手の言葉をオウム返しするなどの症状があらわれます。
進行性核上性麻痺
脳の中の神経細胞が減少して起こる症状です。認知症とパーキンソンの症状が合併した疾患だといわれています。転びやすくなる、歩行異常、眼球運動障害(下が見にくくなる)、話し方が聞き取りにくくなる、嚥下障害(物を飲み込みにくくなる)などの症状があらわれます。
大脳皮質基底核症候群
この症状も、認知症とパーキンソン症状を合併しているものです。左右どちらかの手足の筋肉が固まったり、自分の意志とは関係なく動いてしまったりするなどの特徴があります。
神経原線維変化型老年期認知症
後期高齢者でも、特に90歳以上の方に比較的多く見られる認知症です。記憶障害が主な症状で、アルツハイマー型認知症と混同されることもあります。
嗜銀顆粒性認知症
60歳代から80歳代で発症することが多い認知症です。認知症患者全体で、5%から10%を占めるともいわれます。記憶障害、怒りっぽくなる、妄想、不機嫌などの症状があらわれるのが特徴です。
アルコール性認知症
多量のアルコールを摂取することで発症する認知症です。普段からお酒をたくさん飲む習慣がある方、また長期にわたって飲酒を続けている方は、年齢に関係なく脳が萎縮する割合が高いといわれており、認知症を発症するリスクも高まります。
認知症の種類や症状については、以下の記事でもまとめて紹介しています。
治るタイプの認知症について
「治る認知症」に対して、適切な治療を施すことで元の病気が治り、認知症の症状も改善されることがあります。治る認知症には「正常圧水頭症」と「慢性硬膜下血腫」の2種類がありますが、それぞれどのような症状がみられ、治療はどのような流れで進めるのでしょうか。
正常圧水頭症
脳と頭蓋骨の間で、脳脊髄液という液体がクッションの役割を果たしています。この液体が脳を圧迫してしまうと、脳の機能が麻痺してしまいます。足がふらつく、失禁する、歩行障害(がに股歩きになる、歩幅が狭くなるなど)、注意力が下がるなどの症状があらわれます。
この病名を診断確定するには、頭部CTを撮ることで確定が可能です。治療法は、脳に溜まった水を出す処置がなされます。腹膜の静脈から吸収させる、もしくは直接静脈内へ導いて吸収させるなどの方法がとられることもあります。手術をする場合は、頭もしくは腰からお腹へチューブを通します。
慢性硬膜下血腫
頭をぶつけた後、1、2カ月ほどかかって、頭蓋骨の下にある硬膜と脳との間に少しずつ血が溜まっていく病気のことを指します。血腫(血の塊)ができ、脳を圧迫することで、認知症とよく似た症状が発生します。具体的には、頭痛、もの忘れ、失禁、歩行障害、半身に力を入れられないなどがあります。ドアに軽く頭を打っただけでも血腫ができるため、頭を打ったことを忘れている方も多くいらっしゃいます。
血腫が小さければ、自然に治癒することもありますが、外科治療を行うのが一般的です。局所麻酔を打ち、頭蓋骨に小さな穴を開けてから、細い管を入れて血腫を洗い流します。入院期間もそれほど長くなく、入院から退院までおよそ1週間以内です。
「治る認知症」の症状と特徴
正常圧水頭症 | 慢性硬膜下血腫 | |
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原因 | 脳と頭蓋骨の間の脳脊髄液が、脳を圧迫してしまう | 頭をぶつけてから1、2カ月ほどの間に、硬膜と脳の間に少しずつ血が溜まってしまう |
症状 |
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治療 | 脳に溜まった水を出す | 外科治療で血腫を洗い流す |
治らない認知症は進行を遅らせる努力を
認知症は、治るものと治らないものがあると先述しましたが、治らないからと言って放置するのは厳禁です。治らなくとも、適切な対応をとると進行を遅らせることができる可能性があるのです。具体的に見ていきましょう。
認知症治療に効果的な食事
認知症を治すことができる食事はありません。しかし、認知症にかかるリスクを減らしたり、かかったときに進行を遅らせたりする効果が期待できる栄養素があります。また、食事の摂り方にも気を配る必要があります。
抗酸化作用のある食材
抗酸化作用がある物質の代表的なものが、「ポリフェノール」です。ノンフラボノイド系とフラボノイド系に分類され、ノンフラボノイド系の食品では豆腐、納豆、そば、玉ねぎ、トマト、ブドウ、赤ワイン、ブロッコリー、大根、柑橘類、ピーナツ、いちご、ナス、緑茶、カカオ、パセリなどが含まれます。また、フラボノイド系ではコーヒー、ごま、ウコン(カレー粉)などが含まれます。これらを摂ることで、老化の原因を抑える効果があるとされています。
不飽和脂肪酸
中性脂肪やコレステロールを下げる作用があり、動脈硬化を予防する効果があるとされています。特に認知症によいと言われている脂肪酸は、n-9系のオレイン酸(オリーブ油に多く含まれる)やn-3系(青魚、えごま、亜麻仁油などに多く含まれるDHAやEPA)です。
マインド食
マインド食とは、高血圧予防を目的とした食事法を改良したもので、摂取すべき10の食品をあげています。先述したオリーブ油やワインのほかに、緑黄色野菜をはじめとした野菜類、根菜類、ナッツ類、豆類、ベリー、魚、全粒穀物、鶏肉が、その食品です。
食物繊維
食物繊維は、血糖値が上がるのを抑える効果が期待できます。野菜、きのこ類、海藻類から摂ると良いでしょう。
できるだけ控えたい食材は
認知症のリスクをあげる食材は、塩分、糖分、トランス脂肪酸(ショートニングやマーガリンなど)、チーズ、バター、スイーツ、ファストフード、肉の脂身などがあります。
バランスの良い食事を心がける
さまざまな食材をご紹介しましたが、これらの食材ばかりを食べ続ければ認知症が確実に予防できたり、進行を遅らせることができたりするわけではありません。
一度の食事で、できるだけ多くの食材を取り入れるように心がけ、バランスの取れた食事をするようにしましょう。
認知症治療の薬
認知症の患者さんに処方される薬は、認知症を治すものではなく、進行を遅らせる目的を持っています。
日本国内では、認知症の薬として4種類が認可されていますが、適応されるのはアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症のみです。どの薬を使うかは医師が決定しますが、進行度に応じた使い分けは次のように定められています。
軽度から高度
ドネペジル(商品名:アリセプト)
軽度から中等度
ガランタミン(商品名:レミニール)
リバスチグミン(商品名:リバスタッチ、イクセロン貼り薬です)
中等度から高度
メマンチン(商品名:メマリー)
薬は、副作用が出ることも多いため、ご本人の体調も加味して、医師と相談しながら服用を検討しなくてはいけません。よく見られる副作用として、吐き気、嘔吐などの消化器症状や、不整脈のひとつである「徐脈」、精神的興奮などがあります。
認知症の患者さんに対して、初めのうちは薬を服用させることを躊躇するご家族もいらっしゃいます。副作用の件や、服薬管理をしなくてはいけないなどの不安が背景にあるのです。持病をお持ちの方は、薬の飲み合わせの心配もあるでしょう。
なかには、早い段階から薬を飲み始めると、時間が経つにつれて薬が効きにくくなると考えるご家族もいらっしゃいます。この場合には、薬の組み合わせを変えると効果を持続させることが期待できるのです。
認知症の薬は、早い段階から飲み始めることが、ご本人にもご家族にも有益なことが分かっています。著しい効果が出るものではありませんが、効果は期待できますので、できれば薬を服用した方が安心です。さらに、ご本人が穏やかに生活できる環境を整えたり、コミュニケーションをこまめにとったりすることを心がけることが大切です。
認知症薬のより詳しい内容については以下の記事も参考にしてみてください。
まずは家族の認知症の種類を知ることが大切
ご紹介したように、認知症はさまざまな種類があり、種類ごとで症状を抑える方法や治療法も異なります。アルツハイマー型認知症が疑われる症状や行動が見られても、検査したところ実はうつ病だったという症例もたくさんあるのです。
まず、ご家族の症状が、認知症の中でどの分類に該当するのか、確実に把握することが大切です。そのうえで適切に対応して、症状が進行するのを抑えられるようにしましょう。
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関東 [4765]
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北海道・東北 [2429]
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東海 [1646]
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信越・北陸 [1001]
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関西 [2374]
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中国 [1152]
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四国 [722]
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九州・沖縄 [2386]
大手介護専門学校にて12年で約2,000名の人材育成に関わり、その後、人材定着に悩む介護事業所の人材育成や運営支援を実施。2020年4月からは一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して介護甲子園を主催している。
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