認知症の薬にはどんな種類がありますか?具体的な効果や副作用は?
家族が認知症と診断されました。認知症は根本的な治療ができないと聞いていたのですが、治療できないのに薬を飲む意味があるのでしょうか?また何のための薬なのか、薬の種類や効果、副作用についても知りたいです。
A認知症の薬は進行を遅らせるためのもので、さまざまな種類の中から適したものが使用できます。
認知症の薬には脳の活動や神経伝達をスムーズにし、進行を遅らせられるものがほとんどです。薬の種類は複数あるので、自分に合った薬を使って上手に認知症と付き合っていきましょう。
家族や身近な人が認知症になってしまった場合「今後どのような治療をすればいいのか」「将来的にどうなってしまうのか」など、さまざまな不安を抱えてしまうでしょう。認知症と診断されても比較的症状が軽度のうちはであれば薬によって進行を遅らせられるので、症状の改善も期待できます。
しかし、薬の使用と同時にどのような副作用をもたらすのかも気になるところでしょう。認知症と向き合っていくためにも使用できる薬やその効果、副作用などの注意点を知っておきましょう。
アルツハイマーやレビー小体型認知症の治療には飲み薬や貼り薬が使える
認知症はさまざまな原因によって起こる可能性がある病気です。脳細胞の働きが悪くなったり、死んでしまったりすることで記憶力や判断力の低下が引き起こされます。
認知症の中でも代表的なアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症と診断された場合、認知症治療薬として最も古くから用いられている飲み薬が使用されます。しかし、認知症は進行の具合によって薬の管理ができなくなったり、筋肉のこわばりによってうまく薬の服用ができなくなったりします。
症状の進行によって薬の服用ができなくなった場合は、飲み薬以外に貼り薬の使用が可能です。どちらも有効成分は同じなので一定の効果が期待できます。自分に合った薬を上手に使って病気と付き合っていきましょう。
利用時に注意すべきこと
認知症治療薬を使用する目的は、記憶力の向上や精神機能の回復のためではありません。認知症は完治できるものではないので、早い段階で適切な薬を利用することで症状の進行を遅らせて、認知症と上手く向き合っていく目的もあります。
薬は認知症でありながらも自分らしく生きるための時間を長くし、家族や介護する人の負担軽減のために存在します。特にアルツハイマー型認知症の場合は、できるだけ早期の段階から使用することで認知機能障害の進行を遅らせる作用に期待できます。
認知機能を良い状態で維持できれば、日常的な生活の中で困ったことを減らせるだけでなく、自分自身の精神状態も安定します。生活や精神の安定のために薬を使うということを意識しましょう。
本人の意思を尊重する
認知症を患ってしまった場合、本人には分からないからといって家族や介護者が本人の気持ちや意志を聞こうとしない場合があります。認知症であっても治療の際には必ず本人の意思を尊重することが大切です。
また、本人がはっきりと口にしないからといって何も理解していないわけではありません。認知症になって辛いのは患っている本人です。そのため、認知症薬の使用に関して丁寧に説明し、きちんと本人の意思を尊重してから薬の使用の有無を検討しましょう。
用法・用量を守るためにまわりがサポートする
認知症の症状が進行してしまうと自分がいつ薬を飲んだのか分からなくなったり、薬を過剰に飲みすぎてしまったり、用法や容量が分からなくなってしまうこともあります。認知症に関しては、医師が症状に合わせて薬を処方しているので、認知症の進行によって薬の用法や容量が分からなくなってしまった場合は早めに相談しましょう。
また、薬を多く飲んだからといって症状がより改善することはなく、副作用などが表れてしまう可能性があるので、決められた用法や容量がきちんと守るようにしましょう。
薬を飲んでいても症状に変化がなかったり、あまり効果が実感できなかったりする場合でも、自己判断せずに飲み続けることが大切です。薬を飲むことで何も治療しないよりも症状の進行を遅くできるので、自己判断による急な薬の中止によって症状の悪化も考えられます。
認知症の場合は決められた用法や容量を守り、飲み続けることが大切です。そのためにも周りがサポートして薬を管理し、薬の管理を安心して任せられる環境作りをしましょう。
効果と副作用について把握しておく
認知症の薬は問題なく使用できるものがほとんどですが、どのような薬にも必ず副作用というものがあります。認知症の場合、薬を飲んだ後の異変をきちんと訴えられない場合もあるので、効果と副作用について把握しておくと良いでしょう。
認知症の薬として使用されるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬には、アリセプトやリバスタッチ・イクセロンパッチ、レミニールなどがあります。この薬の場合、吐き気や下痢など消化器症状、眠気やめまい、興奮などの精神神経系症状が表れやすくなります。
貼り薬のリバスタッチ・イクセロンパッチには、貼った部分の皮膚が赤くなったり、発疹がでたりすることもあります。中等および高度アルツハイマー型認知症の薬のメマリーには、飲み始めにめまいなどの副作用が現れやすいです。
体調の変化なのか、副作用によるものなのかを区別するためにも効果と副作用について把握しておくと良いでしょう。
アリセプト(ドネペジル)
アリセプト(ドネペジル)は、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症の症状を抑制する薬です。エーザイ株式会社によって開発された、古くからある認知症治療薬です。国内外共にシェア率が高い薬となっています。
アリセプト(ドネペジル)の効果
人間の脳には、アセチルコリンという神経伝達物質を介して記憶や学習をしています。しかしアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症では、アセチルコリンが減少し、記憶や学習がうまくいかなくなってしまうのです。またアセチルコリンの減少に加えてアセチルコリンエステラーゼという分解酵素がアセチルコリンを分解してしまうため、激減してしまうという悪循環になります。
アリセプト(ドネペジル)は、脳内のアセチルコリンエステラーゼの作用を阻害し、アセチルコリンの量を一定に保ちながら神経伝達をサポートする効果が認められています。また認知症の周辺症状の中でも無関心や意欲低下などの症状改善効果も報告されていて、軽度から高度の認知症で使用できる薬です。
アリセプト(ドネペジル)の副作用
アリセプト(ドネペジル)の副作用は、心臓の持病がある場合に徐脈や不整脈などの症状が現れる可能性があります。現在治療中もしくは過去に患った病気などを含めて服用の相談をしましょう。
副作用に関しては、以下の症状が考えられます。
消化器症状
アリセプト(ドネペジル)の代表的な副作用は、吐き気や嘔吐、食欲不振や下痢など消化器症状が最も多くなっています。消化管での神経伝達物質が変化することでこれらの症状が出やすいと考えられています。
主に内服開始後や増量した後に出やすく、軽度な副作用であれば数日~1週間程度で体が自然に慣れていき、症状も軽減していきます。症状が重かったり長引いたりする場合は、吐き気止めや整腸剤を併用しますが、これは副作用の程度や状況によって変わってきます。あまりに副作用が強く現れる場合は、薬の中止や減量となります。
精神症状
脳内のアセチルコリンが増加すると神経細胞が刺激され、イライラや興奮、落ち着かないなど精神症状として副作用が現れることがあります。投薬開始時や増量によって生じることが多くなりますが、次第に体が慣れてくると軽減してきます。ただし、介護する家族などの負担が大きくなってしまう場合は、薬の減量や中止になる可能性があります。
パーキンソニズム
パーキンソニズムとは、パーキンソン病とは違った原因によって起こるパーキンソン病の症状のことを指します。薬によって脳内のアセチルコリンが増加し、ドパミンとのバランスが崩れてしまうと、このような症状の出現や悪化が起こってしまいます。
症状の度合いによって薬の中止するケースもあります。
アリセプト(ドネペジル)の薬価
容量 | 錠剤 | 細粒 | ゼリー状 | ドライシロップ | OD錠 |
---|---|---|---|---|---|
10mg | 537.4円 | 573.2円 | 552.0円 | 562.1円 | 537.4円 |
5mg | 300.6円 | 286.6円 | 306.7円 | 281.05円 | 300.6円 |
3mg | 203.5円 | 172.0円 | 200.2円 | 168.63円 | 203.5円 |
現在、アリセプトには同じ成分の後発品(ジェネリック)があるので、この価格よりも安くなっています。
アリセプト(ドネペジル)の服薬上の注意点
アリセプト(ドネペジル)の服用に際に注意したいことは、現在治療中の病気があるか、副作用の症状が出たかどうかです。現在治療中の病気があり、他に薬を服用している場合は事前に医師に相談しましょう。
また飲み忘れた場合、その時点で服用しましょう。いつも飲む時間から12時間以上経過している場合はお休みし、翌日から通常通りの服用をします。この薬は、体内にとどまる時間が比較的長いという特徴があるので、1日飲まなかったとしても影響が少ないです。
もし服用したか分からなくなってしまった場合は、重複して飲むことを避けるために翌日まで飲まないようにしましょう。
メマリー(メマンチン)
メマリー(メマンチン)は、中等度から高度アルツハイマー型認知症の進行を抑制する薬で、2011年に第一産業株式会社によって発売されました。錠剤と口の中で溶かすOD錠があり、嚥下状態が良くない場合でも安心して服用できます。
メマリー(メマンチン)の効果
メマリー(メマンチン)は、アルツハイマー型認知症に使用される薬で、他の薬と異なる作用メカニズムを持っています。他のアルツハイマー型認知症の薬では、脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を防ぐことに重点を置いています。一方、メマリー(メマンチン)はグルタミン酸仮説という考え方を元に作られています。
グルタミン酸仮説というのは、アルツハイマー型認知症の特徴的な症状となる記憶障害に注目したものです。記憶や学習は、アセチルコリンやグルタミン酸などの物質の伝達によっておこなわれます。
しかしアルツハイマー型認知症では、グルタミン酸が過剰に放出される状態となってしまい、これにより記憶の信号が正しく伝わらなくなると考えられています。メマリー(メマンチン)の服用によって、過剰なグルタミン酸の放出を抑制し、脳神経細胞のダメージを防ぎます。この薬は過剰な放出を抑えるだけなので、正常な範囲に整えると考えておくと良いでしょう。
メマリー(メマンチン)の副作用
メマリー(メマンチン)の副作用には、以下のような症状が現れます。
- 食欲不振
- 頭痛
- 便秘
- 眠気
- 血圧の上昇
食欲不振の場合、体重減少などの症状がみられた場合は早めに医師に相談しましょう。また認知症の場合、頭痛の認識や排便の有無が確認できないこともあるので、服薬後は注意して様子を見ましょう。
血圧の上昇などは日々の健康観察で早めに気付けます。これ以外にも失神やけいれんといった症状が稀に出ることがあります。
メマリー(メマンチン)の薬価
5mg | 134.7円 |
---|---|
10mg | 240.1円 |
20mg | 429.5円 |
※2020年4月改定
メマリー(メマンチン)の服薬上の注意点
メマリー(メマンチン)は、アルツハイマー型認知症の薬ですが、初期の場合は効果が薄くなってしまいます。初期のアルツハイマー型認知症にはアリセプトが主に用いられ、中等度に症状が進行した場合に使用されることが多いでしょう。
また、他の薬とも併用可能なので1日1回5mgから始めていき、徐々に増量していくという方法が用いられます。服薬後にめまいなどの症状が現れやすく、危険能力が低下している認知症では思わぬ怪我にもつながりやすいです。事故がきっかけで骨折や体の動きの低下を招く場合もあるので、服薬の際には十分注意しましょう。
レミニール(ガランタミン)
レミニール(ガランタミン)は、アルツハイマー型認知症の症状抑制に用いられる薬です。ヤンセンファーマ株式会社から2011年に発売され、軽度~中等度のアルツハイマー認知症に使用されています。
レミニール(ガランタミン)の効果
人間の脳は、記憶や学習の際に神経伝達物質が働いてくれます。アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症になると、脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンの減少が起こってしまいます。
レミニール(ガランタミン)は、2つの作用によってアセチルコリンをサポートするのが特徴です。まず1つ目は、情報伝達を終えたアセチルコリンはアセチルコリンエステラーゼによって分解されてしまいますが、その作用を弱めてアセチルコリンを高める働きをします。
2つ目は、アセチルコリンの働きをサポートして情報伝達を活性化し、スムーズな情報伝達が脳内でおこなわれるように働きます。特にアルツハイマー型認知症では、アセチルコリン以外にアセチルコリン受容体の減少が起こってしまうため、少ない受容体でもしっかり働けるようにサポートします。
レミニール(ガランタミン)の副作用
レミニール(ガランタミン)の副作用は以下の通りです。
- 食欲不振
- 吐き気
- めまい
- 下痢
特に内服開始時や増量などをきっかけに副作用が現れやすくなりますが、体が慣れると症状が落ち着くことが多いでしょう。また、食欲不振の場合、胃腸薬などを一緒に処方されます。しかし、それらを服用しても回復しない場合や体重の減少が起こった場合などは早めに医師に相談しましょう。
認知症の場合は、症状を的確に伝えられない場合もあるので、家族や介護する人がきちんと様子を見ると良いでしょう。
レミニール(ガランタミン)の薬価
容量 | 錠剤 | OD錠 | 内服薬 |
---|---|---|---|
4mg | 107.30円 | 107.30円 | 96.60円 |
8mg | 191.50円 | 191.50円 | 193.2円 |
12mg | 242.50円 | 242.50円 | 289.8円 |
レミニール(ガランタミン)の服薬上の注意点
認知症の方本人が服用を管理していると飲み忘れてしまうことがあるでしょう。その場合、通常の服薬時間から数時間経過して飲み忘れに気が付いたら、次の内服時間から服薬しましょう。
もし飲み忘れに気が付いても2回分を飲まないようにしましょう。飲み忘れを防ぐためには、薬の管理を家族などがおこない、お薬カレンダーなど分かりやすく管理できる環境を作ると便利です。
認知症以外に心疾患や消化器疾患、腎障害や肝機能障害などの持病がある場合は、事前に医師に相談しましょう。また同じ認知症薬との併用は不可です。
リバスタッチ・イクセロンパッチ
リバスタッチ・イクセロンパッチは、軽度~中等度のアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の症状抑制に用いられる薬です。小野薬品工業株式会社からは「リバスタッチ(R)パッチ」、ノバルティスファーマ株式会社からは「イクセロン(R)パッチ」という名前で販売されています。製品名は異なりますが、同じ成分なので同じ効果が期待されます。
リバスタッチ・イクセロンパッチの効果
リバスタッチ・イクセロンパッチは、脳の中の神経伝達物質を分解させないように防ぎ、情報伝達機能の低下を防ぐ効果があります。
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症では、情報伝達物質であるアセチルコリンが分解されて阻害されてしまいます。これにより情報伝達がうまくできず、症状として記憶力の低下などを引き起こしてしまいます。
しかし、リバスタッチ・イクセロンパッチにはアセチルコリンエステラーゼの活性を抑制し、アセチルコリンが減少しないようにサポートする働きがあるので、情報伝達の機能改善が期待できます。
リバスタッチ・イクセロンパッチの副作用
リバスタッチ・イクセロンパッチは貼り薬です。皮膚から成分が持続的に体内に吸収されていきます。貼り薬なので、貼った部分の皮膚が赤くなったり、かゆみが出たりする場合があります。
また、貼った後から吐き気が生じる場合があるので、使用後はしばらく様子をみましょう。
リバスタッチ・イクセロンパッチの薬価
リバスタッチ・イクセロンパッチの薬価は以下のとおりです。
リバスタッチの薬価
4.5mg | 312.40円 |
---|---|
9mg | 351.70円 |
13.5mg | 377.50円 |
18mg | 396.00円 |
イクセロンパッチの薬価
4.5mg | 316.50円 |
---|---|
9mg | 355.30円 |
13.5mg | 381.00円 |
18mg | 398.80円 |
リバスタッチ・イクセロンパッチの利用上の注意点
リバスタッチ・イクセロンパッチは、1日1枚貼る薬です。古いものを剥がしてから新しい薬を貼ります。剥がしたものは、粘着面を内側にして処分しましょう。
毎日同じタイミングで貼り換え、そのまま入浴しても構いませんが、皮膚が赤くなってしまう場合は毎日貼る位置を変えるようにしましょう。貼り忘れた場合は、気が付いた時点で貼り、翌日以降はいつもと同じ時間に貼るようにします。
4日以上貼らなかった場合は、医師に相談して指示を受けてください。
認知症のお薬は必ず飲むべき?
認知症の薬は、脳内の情報伝達が遅れるなどの機能低下が起こる病気です。神経細胞が死ぬのを防ぐ作用がある薬はなく、進行を遅らせることで上手に付き合っていきます。
認知症の薬は絶対に飲まなければならないということはありませんが、一定の効果が証明されているので、副作用などに大きな問題がなければ飲むことをおすすめします。また病気が進行してから飲むものではなく、早期の時点から飲んだ方が老後をより自分らしく生きていけるでしょう。
家族や本人の考え方などもありますが、薬の特徴や効果を知って判断すると良いでしょう。
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関東 [4765]
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北海道・東北 [2429]
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東海 [1646]
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信越・北陸 [1001]
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関西 [2374]
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中国 [1152]
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四国 [722]
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九州・沖縄 [2386]
大手介護専門学校にて12年で約2,000名の人材育成に関わり、その後、人材定着に悩む介護事業所の人材育成や運営支援を実施。2020年4月からは一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して介護甲子園を主催している。
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