要介護3とは|認定基準・支給限度額・入居可能な施設などをご紹介
「要介護3」は自分ひとりでできないことが増えて、日常的な介護の必要性が高まっている状態です。在宅介護をするうえでも、なかなか目が離せず負担を感じる方も多いでしょう。
「特別養護老人ホーム」など多くの公的施設では、要介護3以上を入居条件としています。要介護3とは具体的にどのような状態なのか、どの介護サービスを利用できるかなど、介護に役立つ情報をまとめました。
病院勤務、ケアマネージャー、自治体の認定調査員を経て、現在は認定調査専門の居宅介護支援事業所の代表をしている。2017年8月、ナツメ社より「現場で役立つ 要介護認定調査員 調査・判断の重要ポイント」を刊行。また介護認定調査員向けのWebサイト「介護認定調査員の部屋」の管理人。
まずは要介護認定の仕組みを理解しておく
「要介護認定」は介護の必要性を客観的な基準で判定する制度です。介護保険サービスを利用するためには、要介護認定を受けて「要介護」もしくは「要支援」と認められることが必要です。
「要介護度」「要支援度」は、主に「介護にかかる時間」を基準に判定されます。
一次判定は、家族・本人への聞き取りと主治医意見書に基づくコンピュータ判定です。心身状態の調査結果と約3,500人の高齢者のデータを照らし合わせて「要介護認定等基準時間」を算定します。「要介護認定等基準時間」とは、1日のうち介護が必要と想定される時間のことです。この「要介護認定等基準時間」によって一次判定の結果は6段階に区分されます。
二次判定では専門家による「介護認定審査会」が一人ひとりの個別の状況を考慮し、一次判定の結果が妥当か判断します。その結果、介護の必要度を示す「要介護度」「要支援度」が決定するのです。
介護が必要な「要介護」は1~5の5段階、介護の予防が必要な「要支援」は1、2の2段階に分けられます。「要介護3」は要介護状態の中間にあたり、中程度の介護が必要とされる状態です。
要介護認定については、以下の記事で詳しく紹介しています。
要介護3の認定基準と心身状態について
要介護3と認定される基準は「要介護認定等基準時間が70分以上90分未満相当」であることです。基本的な日常生活でも、ほぼ全面的な介護が必要となります。要介護3に該当する人は、次のような状態が想定されます。
要介護3の心身状態
- 立ち上がりや片足立ちなどの複雑な動作が自力ではできない。
- 歩行や立位保持が1人でできない場合がある。
- 排泄、入浴などの日常生活全般に介護を必要とする。
- 着替えや掃除など身の回りのことができない。
- 認知症による問題行動が見られる。
排泄や入浴だけでなく、着替えや掃除などのごく日常的な場面でも介助を必要とします。また、認知症による影響も大きくなってくることが特徴です。介護をする方は、離れて過ごす時間を持つことがだんだんと難しくなってくるでしょう。
要介護3の認知症の症状とは
厚生労働省の調査によると、要介護3の方のうち介護が必要になった要因で最も多いのが「認知症」です。要介護3で認知症がある方は、どのような症状を抱えているのでしょうか。
要介護度は、あらゆる項目や状況を考慮して総合的に判定されます。そのため「認知症のこの症状が出たら要介護3」という明確な条件はないのが実情です。しかし、認知症の重さを表す1つの判断基準として「認知症高齢者の日常生活自立度」があります。
認知症高齢者の日常生活自立度
厚生労働省によると、要介護と認定される基準は「認知症高齢者の日常生活自立度がおおむねⅡ以上」です(※)。そのため要介護3であれば、少なくともⅡ以上まで進行していると考えられます。
参考:厚生労働省「要介護認定はどのように行われるか」具体的には「生年月日や自分の名前が分からなくなる」「着替えなど身の回りのことができなくなる」といった場合があります。日常生活に支障が生じたり意思疎通が難しくなったりするため、生活全般を通して見守りや介護が必要といえるでしょう。夜間にも症状が現れるようになると、介護する側の睡眠時間が確保できないというケースもあるのです。
認知症の具体的な症状については、以下の記事で詳しく紹介しています。
要介護3ではほぼ全ての介護サービスを利用できる
要介護3になると「居宅介護サービス」「施設サービス」ともに、ほぼ全ての介護サービスを利用できます。
自宅で生活するときに利用できる「居宅介護サービス」には、次のような種類があります。
自宅で受けるサービス | 日帰りで受けるサービス |
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宿泊して受けるサービス | 訪問・通い・宿泊を組み合わせたサービス |
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このほかに、環境を整えるためのサービスとして「福祉用具貸与(レンタル)」「福祉用具販売」「住宅改修(リフォーム)費用の給付」があります。
介護保険適用のサービスについては、以下の記事で詳しく紹介していますので、参考にしてください。
居宅介護サービスを利用する場合は、居宅介護支援事業所のケアマネジャーに「ケアプラン」の作成を依頼します。「ケアプラン」は、利用する介護サービスの種類や頻度を定めた計画のことです。心身状態に合わせて作成した計画に沿って、必要なサービスを利用します。
ケアプランの作成や運用については、以下の記事で詳しく紹介しています。
また、介護保険のサービス以外にも各自治体で独自のサービスを実施していることがあります。代表的なものが「紙おむつの給付」です。
紙おむつの現物支給のほか、購入費用の給付をおこなっている自治体もあります。自己負担は無料の場合もありますが、数百円程度かかることが多いようです。このように国の制度以外にも利用できるサービスがありますので、各自治体の取り組みを確認して活用するといいでしょう。
要介護3の介護サービス利用例
要介護3の場合、次の例のように1日2回程度のサービスを利用できます。ケアプランは一人ひとり異なりますので、一例として参考にしてください。
介護サービス利用例
- 訪問介護:週2回
- 夜間の定期巡回訪問介護:毎日1回
- 訪問看護:週1回
- デイサービス:週3回
- ショートステイ:2カ月に1週間程度
- 福祉用具貸与:車イス、介護ベッド
要介護3の介護保険支給限度額
介護サービスには「区分支給限度基準額」という利用上限があります。「区分支給限度基準額」は、1カ月に使える介護サービスの限度額を定めたものです。
要介護に認定されても、無制限にサービスを受けられるわけではありません。必要以上のサービス利用は費用が増大するだけでなく、心身機能の衰えを招く可能性もあります。介護対象者自身がひとりでできる動作もサービスに委ねてしまうと、筋力などが低下してしまう可能性があるのです。要介護度に応じた適切な利用を促すため、利用限度の基準が決まっています。
介護サービスは単位数で計算されるので「区分支給限度基準額」も単位数で決められています。1単位当たりの金額は地域・サービスごとに決まっており、10円を基準として最高は11.4円です。要介護3の「区分支給限度基準額」は2万7,048単位で、1単位あたり10円で計算すると「27万0,480円」となります。
要介護3の区分支給限度基準額 | ||
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27万0,480円 | ||
1割負担 | 2割負担 | 3割負担 |
2万7,048円 | 5万4,096円 | 8万1,144円 |
限度内であれば介護保険から給付が受けられるため、1割~3割の自己負担で介護サービスの利用が可能です。自己負担割合は所得によって異なります。「負担割合が分からない」という時は、要介護認定を受けた人に発行される「介護保険負担割合証」に記載された割合を確認しましょう。
なお限度額以上に介護サービスを利用した場合は、超過分の介護サービス費は全額自己負担です。費用が高額になる可能性がありますので、注意してください。
「高額介護サービス費」で超過分の払い戻しが受けられる
介護サービス費が高額になってしまった場合に、費用を軽減できる方法を知っておきましょう。「高額介護サービス費」は、介護サービスにかかる自己負担額が一定の基準を超えると、超過分の払い戻しが受けられる制度です。
所得によって基準額は異なりますが、最高でも世帯あたり4万4,400円が上限となります。
払い戻しを受けるためには、申請が必要です。該当する方には自治体から通知が届きますので、忘れないように申請しましょう。1回申請しておけば、2回目以降は申請なしで自動的に払い戻される仕組みです。
要介護3は障害者控除を受けられるか
「障害者控除」は、本人または同じ家計で生活する配偶者や扶養親族に障害がある場合、課税対象の所得から一定の控除が受けられる税制上の制度です。「要介護3」になると日常生活でできないことも増えてくるため「障害者に該当するのではないか」と思う方もいるでしょう。
障害者控除には、控除対象を定めた次のような規定があります。
障害者控除の対象となる人の範囲(一部抜粋)
(1)精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人引用:国税庁「障害者控除の対象となる人の範囲」(2)児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医の判定により、知的障害者と判定された人
(3)精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人
(4)身体障害者福祉法の規定により交付を受けた身体障害者手帳に、身体上の障害がある人として記載されている人
(5)精神又は身体に障害のある年齢が満65歳以上の人で、その障害の程度が(1)、(2)又は(4)に掲げる人に準ずるものとして市町村長等や福祉事務所長の認定を受けている人
要介護認定を受けた高齢者は(5)に該当する可能性があります。しかし、要介護認定を受けただけでは「市町村長等や福祉事務所長の認定を受けている」という基準を満たさないので、障害者控除の対象外です。
市町村長や福祉事務所長による障害者認定の基準は、各自治体ごとに決まっています。基準として多用されるのが、認知症の項目で触れた「認知症高齢者の日常生活自立度」や「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」です。「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」は要介護認定の判断基準の1つで、次の4段階に分けられます。
障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)の基準
生活自立 | ランクJ | 何らかの障害等を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出する |
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準寝たきり | ランクA | 屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない |
寝たきり | ランクB | 屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体であるが、座位を保つ |
ランクC | 1日中ベッド上で過ごし、排泄、食事、着替えにおいて介助を要する |
障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)については、以下の記事で詳しく紹介しています。
渋谷区の障害者控除対象者の判定基準
一例として、東京都渋谷区の判定基準を見てみましょう。
参考:渋谷区「税金の申告に利用する認定書などの交付」要支援又は要介護の人
- 障害高齢者の日常生活自立度A・B・Cに該当する人は(普通)障害者
- 認知症高齢者の日常生活自立度2・3・4・Mに該当する人は(普通)障害者
要介護3以上の人
- 障害高齢者の日常生活自立度B・Cに該当する人は特別障害者
- 認知症高齢者の日常生活自立度3・4・Mに該当する人は特別障害者
このように、障害者よりも程度の重い「特別障害者」として認定されるケースもあります。
障害者控除の基準は自治体によって差がありますので、詳細な情報は必ずお住まいの自治体のホームページなどで確認してください。
要介護3以上の方におすすめの施設
要介護3になると日常生活での介護負担が増すため、施設への入居を検討する方も多いでしょう。「特別養護老人ホーム」の入居対象が要介護3以上であることも、大きな特徴です。ここからは要介護3以上の方におすすめの施設を紹介します。
費用負担が少ない公的施設
施設への入居を考える際に、心配の声が多く聞かれるのが費用面です。国や地方自治体などの助成が受けられる公的施設は、費用が比較的抑えられる傾向にあります。
要介護3の方が入居できる施設として「特別養護老人ホーム」「介護型ケアハウス」「介護医療院」について解説します。
特別養護老人ホーム
要介護3になると「特別養護老人ホーム」の入居対象になります。「特別養護老人ホーム」は「特養」とも呼ばれる公的施設で、比較的低額で入居できることから非常に人気のある施設です。原則的に、終身にわたって介護サービスを受けながら生活できます。
しかし「特養」は人気が高い分、待機人数も多いのが実情です。場合によっては1年単位で待たなければいけない可能性もあるため、待機期間を別の施設で過ごすという方もいます。
特別養護老人ホームについては、以下の記事で詳しく紹介しています。
介護型ケアハウス
「介護型ケアハウス」は、軽費老人ホームの一種です。家庭環境や経済状況などにより家族との同居が困難で、かつ介護を必要とする高齢者を対象としています。
なおケアハウスには、自立度の高い方を対象とした「一般型ケアハウス」も存在します。「一般型ケアハウス」には介護サービスがついていませんので、混同しないよう気を付けてください。
介護医療院
「介護医療院」は日常的に医療的ケアが必要な方のための施設です。医師や看護師が常駐しており、医療機関に近い環境でケアが受けられます。2018年4月に創設された新しい種類の施設のため、数はまだあまり多くありません。
介護医療院については、以下の記事で詳しく紹介しています。
民間施設では介護付き有料老人ホームがおすすめ
民間施設は、一般企業などさまざまな事業主が運営する介護施設です。公的施設に比べて数が多く、個々の施設によって力を入れているポイントや特色も異なります。
介護を必要とする方に最もおすすめの民間施設は「介護付き有料老人ホーム」です。「住宅型有料老人ホーム」や「サービス付き高齢者向け住宅」も入居可能ですので、特徴を理解して検討しましょう。
介護付き有料老人ホーム
民間施設の有力な候補は「介護付き有料老人ホーム」です。「介護付き有料老人ホーム」は、人員配置や設備などの基準を満たし「特定施設入居者生活介護」という指定を受けています。
介護スタッフが24時間常駐しているため、夜間や早朝の介護も可能です。また日中は看護師も配置されており、体調のチェックなど健康管理も受けられます。
介護サービス費用は月額制で、利用頻度によって金額が左右されることもありません。介護サービスの利用頻度も増えてくる要介護3の方にとっては、安心できるポイントでしょう。
介護付き有料老人ホームについては、以下の記事で詳しく紹介しています。
住宅型有料老人ホーム
「住宅型有料老人ホーム」には基本的に介護サービスがついていません。そのため外部の介護サービスを個別に契約して利用する形式です。「見守りのある施設に入居しながら、これまでと同じ居宅サービスを継続したい」という方には向いているでしょう。
ただし、夜間の人員配置などは最低限で運営されている施設も多数です。入居前に、緊急時の対応や医療連携などを確認しておきましょう。
住宅型有料老人ホームの詳細は、以下の記事を参考にしてください。
サービス付き高齢者向け住宅
「サービス付き高齢者向け住宅」には「一般型」と「介護型」の2種類があります。「一般型」の場合は、住宅型有料老人ホームと同様に外部の介護サービスを利用する形です。
一方「介護型」では、24時間常駐する介護スタッフから介護サービスを受けられます。介護付き有料老人ホームと同じ「特定施設入居者生活介護」の指定を受けていることが特徴です。日中は看護師も常駐しています。
サービス付き高齢者向け住宅を検討する際は、施設の種類が「一般型」と「介護型」のどちらに該当するのかを必ず確認しましょう。
サービス付き高齢者向け住宅について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
民間施設は、同じ種類であっても入居条件やサービスが各施設で異なります。「必要なケアが受けられるか」「どれくらいの費用が見込まれるか」を、施設ごとに確認することが大切です。
その他の介護施設の種類については、以下の記事で詳しく紹介しています。
要介護3は「レスパイトケア」が重要なポイント
「要介護3」は、基本的な日常生活でも全般的に介護が必要になる状態です。内閣府によると、要介護3の方と同居している家族の32.6%が「ほとんど終日介護に時間を充てている」という調査結果もあります。生活のなかで介護が占める割合が高まり、負担の増大を感じることも多いでしょう。
自宅で暮らす場合、家族だけで介護をすることは困難なケースも多くなります。家族の介護は、大きな精神的負担を伴うものです。自分たちだけでどうにかしようと抱え込むと、過度な負担から「介護うつ」や「高齢者虐待」などの新たな問題を引き起こす可能性もあります。
近年では「レスパイトケア」という考えが広まっています。レスパイトケアとは、介護する側が介護から解放される時間を作り、休息を取るための支援のことです。
デイサービスやショートステイなどの介護サービスを利用するほか、他の家族や友人に一時的に介護を交代してもらうことも方法の1つとなります。たとえ短時間でも「介護しなくていい時間」を設けることが大切です。
要介護3になると、特別養護老人ホームなどの施設に入居する方も多くなります。介護老人福祉施設や介護老人保健施設では、入所している方の2割以上が「要介護3」です。
在宅介護が困難だと感じたときは、施設への入居も視野に入れてみましょう。入居まで時間を要するケースもありますので、早めに検討しておくと安心です。
介護を必要とする方やその家族を支えるために、国や自治体、あるいは民間企業によってさまざまなサービスが提供されています。自宅で利用できるものから、一時的もしくは長期的に入居できるものまで、多種多様です。金銭的な負担を軽減する制度もあります。専門的なサービスや制度を活用し「介護する側」の生活を維持することが必要不可欠です。
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関東 [4958]
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北海道・東北 [750]
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東海 [1052]
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信越・北陸 [375]
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関西 [2384]
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四国 [174]
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九州・沖縄 [672]
この記事のまとめ
- 「要介護3」になると、日常生活でも多くの場面で介護が必要
- 要介護3で介護が必要になった要因で最も多いのが「認知症」
- 要介護3の「区分支給限度基準額」は2万7,048単位
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