介護保険法とは? 基本理念や改正の歴史について分かりやすく解説!
介護保険制度を運営するにあたって基本となるさまざまな事柄について定めている介護保険法。成立の背景や基本理念、改正の歴史について解説します。
大手介護専門学校にて12年で約2,000名の人材育成に関わり、その後、人材定着に悩む介護事業所の人材育成や運営支援を実施。2020年4月からは一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して介護甲子園を主催している。
介護保険法とは?
介護保険制度を創設・運営するにあたって必要なさまざまな事柄について定めた法律が介護保険法です。1997年(平成9年)12月に成立・公布され、2000年(平成12年)4月に施行されました。
介護保険制度について詳しくはこちらの記事で解説しています。
介護保険法第1条では、同法の目的について次のように定められています。
第一条 この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。引用:e-Gov法令検索「介護保険法 第1条」
つまり、介護保険法の目的は高齢になり介護が必要な状態になっても、尊厳を保ち自立した暮らしを続けられるよう社会全体で支え合う仕組み(=社会保険)として介護保険制度を創設し、その制度運営のために必要な事項を定めることで保健医療の向上と福祉の増進を図ること、となります。
介護保険法の構成
介護保険法は以下のような構成になっています。
第1章 | 総則(第1条〜第8条の2) |
---|---|
第2章 | 被保険者(第9条〜第13条) |
第3章 | 介護認定審査会(第14条〜第17条) |
第4章 | 保険給付(第18条〜第69条) |
第5章 | 介護支援専門員並びに事業者及び施設(第69条の2〜第115条の44) |
第6章 | 地域支援事業(第115条の45〜第115条の49) |
第7章 | 介護保険事業計画(第116条〜第120条の2) |
第8章 | 費用等(第121条〜第159条) |
第9章 | 社会保険診療報酬支払基金の介護保険関係業務(第160条〜第175条) |
第10章 | 国民健康保険団体連合会の介護保険事業関係業務(第176条〜第178条) |
第11章 | 介護給付費等審査委員会(第179条〜第182条) |
第12章 | 審査請求(第183条〜第196条) |
第13章 | 雑則(第197条〜第204条) |
第14章 | 罰則(第205条〜第215条) |
附則 |
介護保険法の関連法令
介護保険法で定められているのは、制度を運営する上で基本となる事項のみです。より具体的な事項については政令(施行令)や省令(施行規則、運営基準)などによって定められています。
法律 | 介護保険法 |
---|---|
法律 | 介護保険法施行法 |
政令 | 介護保険法施行令 |
省令 | 介護保険法施行規則 |
省令 | 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準 |
省令 | 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準 |
省令 | 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準 |
省令 | 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準 |
省令 | 介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準 |
通知 | 有料老人ホームの設置運営標準指導指針について |
介護保険創設の背景
戦後の日本は、高度経済成長期(1955〜1973年ごろ)を経て社会や家族のあり方が大きく変化しました。
まず、生活基盤が安定したことや公衆衛生・保健医療の水準が向上したことで、長寿化・高齢化が進行。これが要介護高齢者の増加や介護期間の長期化につながりました。
なお、日本の高齢化率*が7%を超えたのは1970年、14%を超えたのはそのわずか24年後の1994年のことです。高齢化率が7%から14%になるのにかかった期間は、フランスが115年、スウェーデンが85年、イギリスが46年、ドイツが40年だったため、日本の24年というスピードは当時世界で類を見ないものでした(出典:内閣府「令和5年版 高齢社会白書」)。
一方、産業構造の変化により人口が地方から都市に流出し、核家族化が進んだことで家族による高齢者の扶養がだんだん難しくなってきました(家族の互助機能の低下)。
このように、高齢化により介護ニーズが急増したことに加え、家族のあり方が変化したことで高齢者介護が社会問題となったのです。
なお、2000年に介護保険法が施行される前から特別養護老人ホームやホームヘルプサービスは存在していました。1963年に施行された老人福祉法により整備された高齢者向けの施設やサービスです。しかし、これらはあくまで社会的弱者や生活困窮者向けの社会福祉制度(措置制度)だったため、次のような問題がありました。
- サービス利用や事業者選択の決定権が行政にある
- 本人の意向よりも行政や専門職の意見が重視される(パターナリズム)
- 事業者間での競争原理が働かず、サービスが画一的になる
- サービスの利用にあたって所得調査が行われるため、心理的抵抗感を伴う
- 本人と扶養義務者の収入に応じた負担を求められるため、中高所得者の負担が重くなる
さらに、高度経済成長期の終焉やバブル経済の崩壊による税収減少と財政逼迫も追い討ちとなり、高齢者介護の社会保険化が図られ実を結んだのが現在の介護保険制度です。
1963年 |
老人福祉法施行 →老人福祉施設(特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホームなど)や在宅福祉サービス(ホームヘルプサービスなど)の整備が進む |
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1973年 |
老人医療費支給制度(高齢者医療費の無償化)制定 →高齢者医療費の膨張を招いたため、1983年の老人保健法の施行と同時に廃止 |
1978年 | ねたきり老人短期保護事業(ショートステイ)開始 |
1979年 |
デイサービス事業開始 →在宅福祉の三本柱(ホームヘルプ・ショートステイ・デイサービス)が揃う |
1983年 |
老人保健法施行 →高齢者医療が社会福祉から社会保険へ |
1989年 |
ゴールドプラン(高齢者保健福祉推進十カ年戦略)策定 →10年間で6兆円を投じて、在宅福祉対策(ホームヘルプ・ショートステイ・デイサービス・在宅介護支援センター等の整備)、施設対策(特別養護老人ホーム・老人保健施設・軽費老人ホーム等の整備)、寝たきり予防対策を進める計画 |
1990年 |
老人福祉法を含む福祉八法改正 →都道府県と市区町村に老人保健福祉計画の作成を義務付け |
1994年 |
新ゴールドプラン策定 →各市区町村が作成した老人保健福祉計画を取りまとめたところ、必要なサービス量が予想を大きく上回ったため、予算と整備目標を引き上げ |
1997年 | 介護保険法成立 |
2000年 |
介護保険法施行 →高齢者介護が社会福祉から社会保険へ |
介護保険の基本理念
このような背景を踏まえ、介護保険は自立支援・利用者本位・社会保険方式の3つを基本理念としています。
自立支援 | 利用者本位 | 社会保険方式 |
---|---|---|
介護を必要とする高齢者に対して単に身の回りの世話をすることを超えて、持っている能力に応じて自分らしい暮らしができるように支援する。 | 利用者自身の選択により、多様な事業者から保健医療サービスや福祉サービスが総合的かつ効率的に提供されるように配慮する。 | 給付と負担の関係が明確な社会保険方式を採用する。 |
介護保険創設により変わったこと
介護保険の創設により、介護を必要とする人なら誰もが、要介護度に応じた支給限度額の範囲内で、必要なサービスを利用できる利用者主体の制度へと変わりました。
Before:社会福祉制度(措置制度) | After:社会保険制度 |
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低所得者を中心に市区町村が認めた人しか利用できない | 所得は関係なくサービスを必要とする人なら誰でも利用できる |
公費を財源とするため、給付を受けるのに心理的抵抗が大きい | 保険料を公平に負担しているため、給付を受けるのに心理的抵抗が少ない |
サービスの種類や事業者は行政が決定する | サービスの種類や事業者は利用者が決定する |
サービスは施設入所中心 | サービスは在宅介護中心 |
サービスの提供主体が市区町村や公的団体に限られるため、競争原理が働きづらく、画一的なサービスになる | 民間企業やNPO法人を含む多様な事業者が参入するため、一定の競争原理が働き、利用者本位のサービスになる |
事業者が行政からの依頼によりサービスを提供する(利用者と事業者は対等な関係ではない) | 利用者と事業者が契約を結ぶことで、サービスが提供される(利用者と事業者は対等な関係) |
医療サービスと福祉サービスの窓口が別々 | ケアプランに基づき、医療サービスと福祉サービスが総合的に提供される |
サービスの利用に際して、所得に応じた負担が求められる(応能負担) | サービスの利用に際して、原則1割負担を求められる(応益負担) |
介護保険法改正の歴史
介護保険制度は世界的にも前例のない社会課題に対して「走りながら考える」制度として発足しました。そのため、社会のニーズの変化に対応できるよう介護保険法附則第2条に5年を目処に必要な見直しを行う旨が記されています。
初めての改正こそ5年後の2005年に実施されましたが(施行は翌2006年4月)、それ以降は3年に一度のペースで介護保険法の改正と介護報酬の改訂が行われています。
近年は自己負担の2〜3割導入や、特定入所者介護サービス費(補足給付)の厳格化、高額介護サービス費の上限引き上げなど、利用者負担の増加につながる改正が続いています。
第1期 | 1997年12月 介護保険法成立 2000年 4月 介護保険法施行 |
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第2期 | 2003年度〜|介護保険法の改正なし(介護報酬の改定のみ) |
第3期 |
2006年度〜|予防重視型システムへの転換を鮮明にした大改正
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第4期 |
2009年度〜|民間最大手事業者の組織的不正問題を受け、コンプライアンス面を強化
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第5期 |
2012年度〜|地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組みを推進
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第6期 |
2015年度〜|医療・介護の一体改革により関連法を一括改正
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第7期 |
2018年度〜|地域包括ケアシステムの深化・推進と介護保険制度の持続可能性の確保
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第8期 |
2021年度〜|地域共生社会の実現に向けた改正
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第9期(2023年改正、2024年4月施行)のポイント
2023年の7月末時点で決まっていること・年末に結論が持ち越されたことは次のとおりです。この中で利用者への影響が大きいトピックは「2割負担の対象拡大」でしょう。現状、標準負担率は1割で、2・3割負担は一部の方に限定されています。負担率が1割から2割になれば、毎月かかる介護サービス費が2倍になるわけですから影響は大きく、議論の行く末が注目されます。
- 新しい複合型サービスの創設
- 財務諸表の公表を義務化
- ケアプランのデータ連携の推進(LIFE[科学的介護]の本格稼働)
- 2割負担の対象拡大
- 老健多床室の有料化
第10期(2026年改正、2027年4月施行)以降に先送りされたトピック
以下のトピックについては2027年から始まる第10期以降に結論が先送りされました。いずれも利用者への影響が大きく、より慎重な議論が求められます。
- ケアプラン作成費の有料化
- 軽度者(要介護1〜2)の訪問・通所サービスを地域支援事業へ移管
理念と持続可能性の間で揺れる介護保険
利用者主体の制度として介護保険法の成立は画期的な出来事でしたが、介護保険制度は今、理念と持続可能性の間で揺れています。
近年(2015年以降)の介護保険法の改正内容は給付抑制と利用者負担増が鮮明になっています。その背景にあるのは増え続ける給付と負担という現実です。
介護保険制度が始まった2000年から2020年の間に65歳以上の第1号被保険者の数は約1.6倍に、サービスの利用者は約3.3倍に増加しました。その結果、給付総額は3兆円から10兆円規模に、一人あたりの保険料は月3,000円から6,000円になっています。
担い手不足も深刻で、サービスの利用を制限せざるを得ない事態に陥っている事業所もあります。これについては他業界と比較して低い介護職員の賃金水準を改善すること、テクノロジーの活用や手続きの簡素化により生産性を高めること、といった対策が急がれています。
2022年10月時点の日本の高齢化率は29.0%と、ほぼ3割に近い水準で推移しています。65歳以上の高齢者人口は2045年ごろにピークを迎えますが、総人口の減少によりその後も高齢化率は上昇し続け、2065年には38.4%に達するとみられています(出典:内閣府「令和5年版 高齢社会白書」)。
今後も増え続ける介護ニーズに対していかに制度を安定して運営していくかが引き続き焦点となりそうです。
- e-Gov法令検索「介護保険法」
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」
- 内閣府「高齢社会白書」
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本社会保障資料Ⅳ(1980-2000)16 老人福祉」
- 杉本敏夫、家高将明・編著『新・はじめて学ぶ社会福祉1 高齢者福祉論[第2版]』ミネルヴァ書房(2018年)
- 長谷憲明『よくわかる! 新しい介護保険のしくみ 令和3年改正対応版』瀬谷出版(2021年)
- 本間清文・編著『最新図解 スッキリわかる! 介護保険 第2版 基本としくみ、制度の今とこれから』ナツメ社(2021年)
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関東 [12230]
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北海道・東北 [6915]
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東海 [4888]
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信越・北陸 [3312]
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関西 [6679]
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四国 [2057]
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