老人ホームで喜ばれる曲の選び方と高齢者に人気の曲リスト
老人ホームでの音楽鑑賞は誰でも楽しめる娯楽のひとつです。季節を感じる曲を聞けば外出が難しい高齢者も気分転換ができ、歌って口を動かせば心肺機能の維持やフレイル(虚弱)予防にも役立ちます。懐かしい曲を聞いた認知症の高齢者が昔の思い出を語り出すこともあるなど、音楽は職員や家族とのコミュニケーションの糸口としても心強いツールです。
この記事では「高齢者に喜ばれる曲がわからない」という方に向けて、老人ホームやデイサービスで過ごす時間はもちろん、家や移動中の時間にもおすすめの曲を紹介します。家で介護をされている方も、高齢のご家族と一緒に楽しめる曲を探してみてはいかがでしょうか。
大手介護専門学校にて教職員として12年勤務し、約2000名の人材育成に関わる。その後、その経験を活かし、認知症グループホームや訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅などの介護事業や、就労継続支援B型事業所や相談支援事業所などの障がい福祉事業を運営。また一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して活動中。
老人ホームで喜ばれる曲の選び方
音楽を使ったレクリエーションで喜んでもらうためには、高齢者が「懐かしい」「楽しい」と感じる曲を季節やイベントに合わせて選択することが重要です。老人ホームで喜ばれる曲全体の特徴を押さえたうえで、個人やグループの趣味にフィットする曲を探してみましょう。
高齢者の好む音楽ジャンル
童謡・唱歌
小さい頃に覚えた曲は高齢になってもずっと頭に残っているものです。「ふるさと」や「あめふり」など童謡はリズムが一定で歌いやすいうえ、当時の思い出や情景、家族とのふれあいを思い出しながら昔を懐かしむことができます。
童謡・唱歌はこんなシーンにおすすめ
- ゲームの中で曲を使いたい
- 家族やスタッフも一緒に歌いたい
- 音楽を使った出し物をしたいが練習時間が限られている
演歌・歌謡曲
70~80代(2024年時点)の高齢者が青春を過ごした1950~60年代は、東京オリンピックや大阪万博など国際イベントも開催された時代です。当時の流行曲には坂本九の『上を向いて歩こう(1961年)』や水前寺清子の『三百六十五歩のマーチ(1968年)』などが並びます。このような明るい歌謡曲ならきっと高齢者に「懐かしい」「歌いたい」と感じてもらえるでしょう。
カラオケで歌う曲としては北島三郎の『函館の女(1965年)』石原裕次郎の『夜霧よ今夜も有難う(1967年)』など、情感たっぷりの演歌も人気があります。
70歳前後の高齢者には、映画音楽よりもテレビ番組のテーマソングやCMソングがより身近に感じられるかもしれません。比較的若い世代の高齢者に喜ばれる曲をお探しなら、堺正章の『さらば恋人(1971年)』やキャンディーズの『春一番(1975年)』など、テレビ番組から人気に火がついた曲を選ぶことも検討してみましょう。
演歌・歌謡曲はこんなシーンにおすすめ
- 高齢者の心に響く曲を歌唱したい、演奏したい
- 音楽鑑賞をきっかけに昔を思い出してほしい
- 利用者のカラオケレクを盛り上げたい
ジャズ・クラシック
1950~60年代は世界的にジャズが流行し、日本でもジャズ喫茶で曲を嗜む文化が生まれました。東京オリンピック開催を機にカラーテレビが普及するまで、映画がカルチャーの流行を牽引していた背景もあり、洋画で使われていたジャズの曲は特に高齢者の認知度が高いといえます。中でも『ローマの休日』や『ティファニーで朝食を』といった、オードリー・ヘプバーン主演作の劇中歌は大変人気です。
幅広い世代が知っているという観点では、流行り廃りに左右されないクラシック音楽もおすすめです。心や体を落ち着かせるにはゆったりとした曲やピアノ独奏曲を、場を盛り上げるにはテンポが早い曲やオーケストラ編成の演奏曲を選んでみましょう。
ジャズ・クラシックはこんなシーンにおすすめ
- 食事やイベントのBGMとして曲を使用したい
- 音楽鑑賞のプログラムを検討している
- 老人ホームの利用者に映画ファンや楽器経験者が多い
1980年代以降の流行曲
老人ホームなどの介護施設で生活する高齢者の中には、子世代、孫世代と一緒に80年代以降のヒット曲を聞いていた方や、現役の若手演歌歌手が好きで今も最新曲を楽しみにしているという方もいます。「高齢者はこれが好き」と決めつけず、多くの人が知っている流行曲をスパイス的に取り入れるとメリハリが出ます。
1980年代以降の流行曲はこんなシーンにおすすめ
- 高齢者との話題のきっかけとして曲を活用したい
- 歌謡曲や演歌に対する反応が薄い高齢者の好みが知りたい
音楽を選ぶ際の注意点
歌いやすさや認知度を優先して曲が童謡・唱歌ばかりに偏ると、高齢者が「子ども扱いされている」と感じてしまうことも。一方、高齢者の青春時代を意識するあまり、特定の年代に偏った選曲をしてしまうと、世代の異なる利用者が退屈してしまうおそれもあります。こうした失敗を避けるためには「幅広い世代が楽しめる定番曲」と「特定の世代が深く関心を持っている曲」を目的やシーンに合わせて使い分ける工夫が大切です。
年代別・ジャンル別 推薦曲リスト
ここからは高齢者の幼少期や青春を過ごした時代の流行に着目し、老人ホームで喜ばれる曲をピックアップして紹介します。音楽鑑賞会、演奏会などのイベントにはもちろん、移動の車内や食事中のBGM選曲にもぜひご活用ください。
童謡・唱歌
曲名 | 適した季節 | 喜ばれる理由 |
---|---|---|
さくら さくら | 春 | 日本の伝統的な旋律が味わい深く演奏会にもぴったり |
おぼろ月夜 | 春 | 落ち着いたメロディで子どもっぽく聞こえない |
茶摘み | 夏 | 明るいメロディーで手遊び歌にもおすすめ |
われは海の子 | 夏 | 快活な雰囲気で季節を感じられる |
虫のこえ | 秋 | 歌詞に鳴き声が入っておりレクや体操とも好相性 |
赤とんぼ | 秋 | 短いフレーズの繰り返しで歌いやすい |
雪 | 冬 | 親しみやすい歌詞とわかりやすいリズム |
一月一日 | 冬 | 新年を祝うストレートな歌詞でイベントにも◎ |
マンネリを防ぐため、季節の曲と通年で楽しめる曲(『赤い靴』『かごめかごめ』など)を組み合わせたり、天気が悪い日には『あめふり』『てるてる坊主』などの唱歌を選んでみるとより楽しい時間が過ごせるでしょう。最後に全員が知っている『ふるさと』などの曲を合唱すると雰囲気よくレクリエーションが締まります。
1940〜1970年代の懐かしの曲
曲名 | アーティスト | リリース年 | 喜ばれる理由 |
---|---|---|---|
東京ブギウギ | 笠置シヅ子 | 1947 | 有名アーティストにカバーされ続ける名曲。アップテンポな曲調でエネルギッシュ |
青い山脈 | 藤山一郎・奈良光枝 | 1949 | 同名映画の主題歌としてヒット。藤山一郎は国民栄誉賞も受賞 |
ミネソタの卵売り | 暁テル子 | 1951 | 70年代にCMソングとしても有名に。覚えやすい振り付けがありダンスでも使える |
若者よ恋をしろ | 中島孝 | 1954 | 同名映画の主題歌としてヒット。青春時代を思い出せる曲 |
有楽町で逢いましょう | フランク永井 | 1957 | 都会派ムード歌謡の流れを築いた歌手。1961年には『君恋し』でレコード大賞も |
ソーラン渡り鳥 | こまどり姉妹 | 1961 | 1961年から7年連続でNHK紅白歌合戦に出場したこまどり姉妹の代表曲 |
ブルー・シャトウ | ジャッキー吉川とブルー・コメッツ | 1967 | 当時の若者から絶大な支持を得たグループ・サウンズを代表する一曲 |
夜明けのスキャット | 由紀さおり | 1969 | ラジオ番組のオープニング曲として有名に。150万枚を売り上げる大ヒット |
また逢う日まで | 尾崎紀世彦 | 1971 | みんなで口ずさみながら楽しめるメリハリのある曲調 |
瀬戸の花嫁 | 小柳ルミ子 | 1972 | 男女問わず人気の曲で瀬戸内海のご当地ソングとしても知られる |
ラヴ・イズ・オーヴァー | 欧陽菲菲 | 1979 | しっとり聴かせるバラード曲でカラオケでも演奏会でも盛り上がる曲 |
歌謡曲や演歌が好きな方には、坂本九、石原裕次郎、北島三郎、ザ・ピーナッツ、ちあきなおみ、八代亜紀といったアーティストの曲も喜ばれます。1960年代に大流行したグループ・サウンズが好きだったという方にはザ・スパイダーズやザ・タイガースの楽曲もおすすめです。
1980年代以降のヒット曲
曲名 | アーティスト | リリース年 | 喜ばれる理由 |
---|---|---|---|
もしもピアノが弾けたなら | 西田敏行 | 1981 | 同年放送のテレビドラマの挿入歌としてヒット、心にしみるメロディーで人気 |
赤いスイートピー | 松田聖子 | 1982 | 職員や家族と一緒に歌う曲としても人気。花が好きな高齢者との話題作りにも |
北酒場 | 細川たかし | 1982 | 活力みなぎる演歌の定番。細川たかしはNHK紅白歌合戦に通算40回出演している |
川の流れのように | 美空ひばり | 1989 | 誰もが知っている日本の名曲。合奏や歌のプログラムにもおすすめ |
デイドリーム・ビリーバー | ザ・タイマーズ | 1989 | アメリカのバンド「モンキーズ」が1967年に発表した曲のカバー、幅広い世代に◎ |
浪漫飛行 | 米米CLUB | 1990 | 明るく元気な曲調。職員によるダンスの出し物などにも |
少年時代 | 井上陽水 | 1991 | 美しいメロディーでしっとり鑑賞できる。少人数で演奏してもサマになる |
LOVEマシーン | モーニング娘。 | 1999 | 合いの手を入れやすく参加型のレクや出し物におすすめ |
演奏会や職員による出し物などには、全員で楽しめる80年代以降の流行曲を選ぶと盛り上がります。反応を見ながら、アリス、長渕剛、山下達郎、山口百恵、荒井由実(松任谷由実)などのヒット曲も候補に加えてみてはいかがでしょうか。
洋楽・ジャズ
曲名 | アーティスト | リリース年 | 喜ばれる理由 |
---|---|---|---|
In the mood | ウィンギー・マノン ほか | 1939 | 華やかな曲調で、グレン・ミラー楽団の演奏によりヒットしたスウィング・ジャズ |
When you wish upon a star | クリフ・エドワーズ | 1940 | 邦題『星に願いを』ディズニー映画『ピノキオ』の主題歌としても知られる |
Take the “A” train | デューク・エリントン | 1941 | 邦題『A列車で行こう』スウィング・ジャズの代表曲で軽快な曲調が人気 |
Les Feuilles mortes | ジョゼフ・コズマ ほか | 1945 | 邦題『枯葉』越路吹雪やペギー葉山など日本の歌手も持ち歌にしたシャンソン |
So what | マイルス・デイヴィス | 1959 | 伝説的なトランペット奏者マイルス・デイヴィスの代表曲 |
Moon River | オードリー・ヘプバーン | 1961 | 映画『ティファニーで朝食を』の劇中歌 |
The Girl from Ipanema | アストラッド・ジルベルト | 1962 | 邦題『イパネマの娘』ボサ・ノヴァのスタンダード曲 |
Yesterday | ビートルズ | 1965 | 「世界で最も多くカバーされた曲」としてギネス・ワールド・レコーズも認定 |
What a Wonderful World | ルイ・アームストロング | 1967 | 邦題『この素晴らしき世界』平和を願うメッセージ性も強い |
ジャズには「スタンダード」と呼ばれる定番曲があり、多くのアーティストのカバーによってそれぞれのアレンジが生まれています。老人ホームでの生演奏会では、ライブ感のある大胆なアドリブに拍手が起こることも珍しくありません。
他にはビートルズやローリング・ストーンズなどのロックバンドの曲や、カーペンターズなどのポップス曲も人気があります。
クラシック音楽
曲名 | 作曲家 | 喜ばれる理由 |
---|---|---|
交響曲第9番ニ短調作品125 | ベートヴェン | 『第九』の通称で知られる年末の定番曲 |
野ばら | シューベルト | 近藤朔風による日本語訳詞もなじみがある |
ハンガリー舞曲第5番 | ブラームス | 心にしみる旋律がコンサートで人気 |
カノン | パッヘルベル | 美しいメロディ展開で心安らぐ名曲 |
トロイメライ | シューマン | ピアノ演奏会で人気の曲 |
木星 組曲『惑星』より | ホルスト | 平原綾香のカバーでも知られる荘厳な曲 |
モルダウ 「わが祖国」より | スメタナ | 望郷の思いが美しく表現されている |
一口にクラシックと言っても、作られた時代や国が違えば曲調もまったく異なります。演奏会などで喜ばれる曲をお探しなら、事前に利用者から聴きたい曲のリクエストを募ってみてもよいでしょう。
高齢者の健康維持に役立つ、音楽を使った活動の例
好きな音楽を鑑賞すると、塞いでいた気分が晴れやかになる、昔を思い出して活力が湧くなど、高齢者の心理にポジティブな影響が期待できます。また、音楽を使ったレクリエーションへの参加が社会性を喚起したり、生活の楽しみに昇華したりすることもあります。
聴くだけでも楽しい音楽ですが、せっかくなら曲に合わせて体を動かしたり、頭を使ったりして、音楽を筋力維持や記憶力のトレーニングに役立てたいものです。ここからは音楽を活用した、高齢者を対象に行うレクリエーションのアイデアを紹介します。
音楽鑑賞会
レコードやCDで曲を聴く音楽鑑賞会では、ただ曲を流すだけではなく、高齢者の思い出の曲や好きなジャンルを語ってもらう時間を設けましょう。利用者同士や職員との会話が刺激になり、記憶力のトレーニングになります。また、過去の思い出や挑戦を語り認め合うことが、高齢者の精神を安定させ自尊心を保つことにもつながります。
演奏会
ミュージシャンや職員による演奏会では、利用者も手拍子や掛け声などで演奏に参加する機会を設けるとより一体感が出ます。簡単に演奏できる打楽器(鈴、カスタネット、タンバリンなど)があれば、利用者に配って演奏に参加してもらってもよいでしょう。楽器を奏でる動きが手先や上半身の運動になり、その振動を身体で感じることが脳の刺激にもなります。
カラオケ大会
利用者自身が歌を披露するカラオケも老人ホームで人気の催しです。モニターやスクリーンに歌詞を投影し、マイクを使って一人ずつ歌うカラオケは日常にはない高揚感があります。歌を披露した利用者には表彰状を贈るなど承認の機会をセットで設け、技術を磨く楽しみや達成感を得られるように工夫しましょう。
大勢に歌を披露するのは気が引けるという場合は、一人カラオケもおすすめです。新しい曲の歌詞やメロディーを覚え練習することがよい脳トレになります。
歌詞を使ったクイズ
高齢者向けのレクリエーションとしては童謡や歌謡曲の一部をブランクにしたクイズや、曲名や歌詞でしりとりをするゲームも人気があります。
音楽好きの高齢者が多いグループでは、誰もが知っている有名な曲の冒頭を流して曲名を答える「イントロクイズ」も盛り上がります。続きの歌詞は出てくるのに曲名が思い出せないという展開が続く場合は、頭文字や歌手名でヒントを出して答えやすい雰囲気を作りましょう。
ダンス・体操
音に合わせて体を動かすダンスや体操は、身体機能の維持・向上に有効です。適度な疲労感は食欲増進や安眠にもつながるため、生活リズムを構築するためにも積極的にダンスや体操などのレクリエーションを取り入れましょう。
回想法を使ったレクリエーション
懐かしい音楽を聞くと記憶がよみがえることがあります。「この曲が流行った時、こんな仕事をしていて……」と普段あまりお話されない方が思い出を話し始めることもあります。回想法はその方の記憶の中にある過去を振り返り、心を安定させる心理療法のひとつです。コミュニケーションを取る一つのきっかけとして音楽を活用してみてはいかがでしょうか。
音楽レクリエーションを実践する際のヒント
音楽を適度に楽しむことは心身の健康にメリットがあります。ただし、参加者がヒートアップしすぎて体に余計な負荷がかかったり、怪我をしてしまっては元も子もありません。音楽を使ったレクリエーションが盛り上がったあとは、落ち着いたテンポの曲を流してクールダウンを図るなど、普段の生活にスムーズに戻るための気配りも忘れないようにしましょう。
音楽を高齢者の生活を豊かにするツールに
老人ホームでは、利用者のストレス解消や身体機能の維持・向上を目的に、音楽鑑賞や合唱、歌を使ったクイズなどのレクリエーションが日々行われています。懐かしい曲が記憶を呼び起こすこともあり、認知症の高齢者とのコミュニケーションを図るうえでも、音楽は上手に活用したいツールです。
今回は1950年代以降の歌謡曲を中心に、童謡、唱歌や演歌、ジャズ、クラシックの有名曲を紹介しましたが、高齢者の音楽の好みは一人ひとり異なります。「ドライブでは何を聴いていた?」「好きな映画はある?」など普段の会話から情報を収集して、本当に喜ばれる曲を探してみてはいかがでしょうか。
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関東 [771]
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北海道・東北 [88]
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東海 [118]
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信越・北陸 [30]
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関西 [292]
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中国 [48]
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四国 [21]
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九州・沖縄 [100]
この記事のまとめ
- 音楽を使うレクリエーションは高齢者の身体機能の維持・向上に役立つ
- 高齢者に喜ばれる曲を見つけるには年齢や好きな映画などが参考になる
- 音楽の好みは人それぞれ、決めつけずにコミュニケーションを
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