Q

認知症の方への対応方法を教えてください! マニュアルはありますか?

母が認知症になってしまったようです。ご飯を食べたのに食べていないからまた食べようとしたり、外に出ようとしたりしています。
こういう認知症の症状が出たときにはどのように対応すればいいのでしょうか?また行動に対する対応マニュアルはありますか?

A否定したり、間違いを訂正し無理やりやらせたりしないことが大切です。

認知症の症状で理解力や判断力が低下や記憶力の低下があります。
それまでできていたことができなくなる、したことを忘れてしまうことがありますが、そんな時には否定せず、本人の話に合わせながらうまく正しいほうへ誘導できるような対応を心掛けてください。

平栗 潤一
平栗 潤一
一般社団法人 日本介護協会 理事長

認知症=物忘れと思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。しかし、認知症は物忘れのように記憶を失うだけでなく、理解力や判断力にも影響を及ぼします。物忘れだけでなく、認知機能に異常をきたし、日常的な生活に難しい事態が生じる状態の総称が認知症です。正しく理解するために認知症について説明していきましょう。

認知症とは

実は、認知症は病名ではないのです。脳細胞の活動低下や死滅により、物事を認知する機能に異常が起き、日常生活や社会生活を送ることが困難になってしまうなど特定の病気により引き起こされる症状を総称して認知症と定義しています。認知症はよく老化が原因の物忘れと誤解されていますが、根本的に違います。

物忘れは「昨日食べたご飯が思い出せない」と内容が思い出せないことに対し、認知症は「ご飯を食べた」といった体験そのものをすっぽりと忘れているのです。認知症の症状は、

  • 物忘れなどの記憶障害
  • 時間や場所など判別が低下する見当識障害
  • 計画を立てたり実行することがしにくくなる遂行機能障害

が主な症状となります。また、認知症といっても、発症の過程によって「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」などのさまざまな種類があり、この中では「アルツハイマー型認知症」を耳にしたことがある方も少なくないはずです。それぞれの特徴について説明していきましょう。

アルツハイマー型認知症

認知症の中で最も多いのが、アルツハイマー型認知症で、その数は全体の半数以上を占めています。アミロイドβやタウタンパクと呼ばれるたんぱく質が脳内に蓄積し、脳細胞が損傷したり神経伝達物質が減少したりします。諸説ありますが、これらの現象により、脳全体が委縮を引き起こすことが要因なのではないかと考えられているのです。主に記憶障害・見当識障害・遂行機能障害が起こりますが、人それぞれに差があります。

レビー小体型認知症

アルツハイマー型認知症に次いで多いと言われているのがレビー小体型認知症です。特殊なたんぱく質であるレビー小体が脳内に生じ、脳神経細胞が破壊されることで発症します。アルツハイマー型認知症と同じ、記憶障害や見当識障害・実行機能障害の他に幻視や自律神経の症状、薬剤の過敏症、パーキンソン症候群特有の症状が見られます。

脳血管性認知症

脳の血管が詰まったり破れたりして引き起こされる症状を脳血管障害と言います。この障害によって発症する認知症を脳血管性認知症と呼びます。脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などによって、脳細胞が死滅することが要因とされています。記憶障害や見当識障害の他に、身体麻痺や言語障害を伴うケースがあります。

まずは認知症の症状を理解する

認知症の症状は大きく分けて中核症状と周辺症状の2種類です。脳の病気や変化によって生じる脳の障害であり、役割を担っていた細胞が破壊されて消失して起こる症状を中核症状と言い、その中核症状によって発生する二次的な症状が周辺状況です。中核症状と周辺症状を詳細に解説しましょう。

中核症状

認知症の方によく見られる5つの症状を一般的に中核症状と言います。

記憶障害

認知症の早期から見られる症状の一つで、この症状により認知症が発覚するケースもあります。自分がした体験や過去などの出来事についての記憶が抜け落ちてしまい、物忘れとは違い忘れていることさえも分からないため、日々の生活に支障をきたすことが多いです。直近の出来事から忘れてしまうという特徴があり、症状が進行するとともに悪化します。

見当識障害

認知症の方に多く見られる症状の一つで、季節や時間、場所や人などの正しい状況の判別が難しくなるため、自分の置かれている状況を正しく判別できなくなります。最初は時間を把握できなくなるケースが多く、日付や曜日、時間や季節を正しく理解できず間違えてしまうため、季節にあった服装が分からなくなり準備ができず、遅刻してしまいます。

次に多いのが場所を認識できなるケースで、自宅がわからないなど、通い慣れているはずの道がわからなくなり迷子になってしまう事態もあります。症状が悪化すると、家族や友人などの親しい人を間違えてしまう、認識できなくなるケースもあり、自分と相手の関係性が分からないことが増えます。

遂行機能障害

筋道を立てて物事を考えたり、計画を立て実行したりすることを遂行機能と言いますが、ここに障害が生じると、計画的に考え効率的に動くという一連の行動ができなくなります。また、想定外の出来事に対して適切な対応を取ることも難しくなり、どうしたら良いのかわからなくなってしまいます。

理解・判断力への障害

物事に対する理解力や判断力が鈍くなり、一度にいくつものことを言われ、行動しようとしてもできなくなります。また、いつもと違うイレギュラーな出来事に混乱してしまう場合もあります。

失語・失認・失行

失語とは脳の言葉を司る部分が機能せず、言葉がうまく使えない状態をいい、運動性失語と感覚性失語の2種類あります。運動性失語は、相手の話は理解できるものの、言葉がうまく出てこず間違ってしまうことが多くなり、字を書くことすら難しくなります。感覚性失語は、言葉自体はすらすら出てくるものの、相手の話や書かれた言葉の意味を理解できません。

失認とは、視覚・聴覚などの五感による認知能力が正常に働かないため、状況を正しく判別できなくなります。自分の体の感覚だと感じているにも関わらず、その意味が認識できません。失行とは、身体の機能に問題はなく、行動しようとする意思があるにも関わらず今まで普通にしていた箸の持ち方や服の着脱の仕方など、今までは支障なくスムーズにできていた動きが難しくなります。

周辺症状

中核症状に起因し現れる認知症の行動・心理症状を周辺症状と言います。人によって個人差があり、本人の性格や心理状態などによって現れるので、適切な対応やリハビリで改善する場合もありますが、症状は多岐に渡ります。

  • 不安・抑うつ
  • 認知症による徘徊
  • 幻覚
  • 暴力暴言
  • 睡眠障害

などがあります。

認知症の各症状への対応法

認知症を理解し、適切な対応をしたいと考えている方も多いのではないでしょうか。各症状に対する適切な対応方法をまとめました。

記憶障害への対応

記憶力が低下すると、さっきしたはずの行動を忘れてしまい、またしようとすることが多々あります。間違っていると馬鹿にしたり否定したりせず、周囲が本人の状況に合わせてあげましょう。

見当識障害への対応

判断力が低下し、時間や場所の認識ができなくなることがあります。夏なのに冬服を着てしまうなどした場合には、無理に着替えさせたり、否定したりせずに、さりげなくアドバイスし自分で季節にあった服を選べるようにしてあげることが大切です。

遂行機能障害への対応

計画的に物事を考えたり、複数のタスクを同時にすることが難しくなったりしてしまうケースも多く、自分にとって想定外の出来事が起きた時に適切な対処ができず途方にくれる場合があります。そんな時には、できないからと何もさせないのではなく、本人ができるようサポートしてあげましょう。まだ自分にもできることがあると思うことは、認知症の進行を緩やかにする面でも大切です。

失行への対応

今までできていたことができなくなることがあります。箸やはさみの使い方がわからない、ボタンの止め方がわからない、ズボンのはき方がわからないなどの症状が出てくるケースもあります。そのような時には、動作の工程を減らす、本人にわかりやすいよう目印をつけるなど工夫してあげましょう。

うつ・アパシーへの対応

アパシーとは何事にも無気力になってしまうことで、うつと混同されることも多いですが、認知症の症状としてのうつ状態は、うつ病とは違います。アパシーに効果のある薬はないですが、家族の働きかけや規則正しい生活を心掛けることによって症状の緩和ができる場合があります。

不安・焦りへの対応

不安や焦りから介護拒否をする方もいます。そのような場合には、本人が安心できるようにしてあげることで落ち着きを取り戻せることがあります。いきなり拒否されると対応に困ることもあるかもしれませんが、本人にとっては、何か嫌な理由がある場合が多いです。自尊心から介護されることを嫌がるケースもありますが、少しの変化で不安になることも多いので、注意して見てあげましょう。

攻撃・興奮への対応

不満や不安がたまると、普段は抑えていた衝動が爆発し、他者への攻撃となる場合があります。認知症が進むと、脳の機能の低下により感情を理性的に抑えることが難しくなるためです。そういった時には、本人の気持ちやそうなるに至った原因をよく知ることが大切で、本人の意向に対して誠意ある対処をすることで落ち着くケースもあります。一度距離を取り、冷静になってから原因を聞き、対処することが有効です。

過食への対応

ご飯を食べたことを忘れ、また食べたがることもありますが、そういった時には、一回の食事量を減らして数回に分けるなどの対応も良いです。満足するまで食べさせるのは止めましょう。

徘徊への対応

寂しさやストレス、不安などが重なって徘徊をすることがあります。徘徊をした場合には、その理由を聞いて本人の気持ちに寄り添ってあげましょう。無理に辞めさせず、一緒に歩いたり気をそらすような声かけも有効です。

不眠への対応

睡眠時間を十分に確保できないと、本人だけでなく介護している人にとっても負担が大きいです。昼間の活動量が少なく疲れが足りない、時間間隔がないことで昼夜の判断がつかないことが原因のケースも多いため、朝しっかり日光を浴びて体内時計を戻したり、寝る前にゆったりとできる時間を作ったりすることで生活リズムを整える工夫をしましょう。

認知症の介護をしていると先が見えないことに不安を抱いている家族も少なくないでしょう。介護をするには、心の不安を少しでも軽くすることがとても大切です。介護うつにならないために介護者のケアについて解説します。

周りに相談する

昨今では医療技術が発達したことにより、介護が長期化する傾向があります。時には不満も溜まり、やりきれない気持ちもあるでしょう。そんな時には、デイサービスやケアマネジャーなどその道のプロに、話を聞いてもらいましょう。

介護サービスを組み合わせる

最近では「レスパイト」といい、介護者が一時的に認知症の本人のお世話から離れることが推奨されているので、介護サービスを利用しつつストレスをため込まないようにしましょう。

無理をせず、愚痴や弱音を口にする

友人や同じ状況の人が集まる認知症の家族会などに少しでもいいので、弱音を愚痴を聞いてもらうことが大切です。介護はきれいごとだけではすまないのですから、一人で抱えこまないようにしましょう。

ときには息抜きをする

時には周囲に相談し助けてもらうことが大切です。介護者が倒れてしまってのその後の介護にも影響が出てしまいます。自分の時間も大切にし、息抜きする時間を作りましょう。

各協会が監修している認知症対応マニュアル・ガイドブックも参考に

各協会が認知症について、対応マニュアルやガイドブックも出しています。これらの情報もぜひ参考にしてください。

日本看護協会「認知症ケアガイドブック」

公益社団法人日本看護協会が発行した認知症についてのガイドブックです。認知症の診断や特徴、症状やケアについて幅広く掲載されています。

出典:日本看護協会「認知症ケアガイドブック

葛飾区医師会「認知症・BPSD介護マニュアル」

葛飾区医師会が発行した認知症についての介護マニュアルです。認知症の基礎知識や介護のポイント、BPSD対応チャートの一覧などが掲載されています。

出典:葛飾区医師会「認知症・BPSD介護マニュアル

大阪府看護協会「認知症ケアマニュアル」

公益社団法人大阪府看護協会が発行した認知症のケアマニュアルです。認知症の定義や症状、認知症の具体的な対処方法などが掲載されています。

出典:大阪府看護協会「認知症ケアマニュアル

認知症の特徴を理解したうえで対応を

認知症には、記憶力の低下だけでなく、判断力・理解力の低下など日常生活を送るうえで負担の大きく、介護をしていると神経をすり減らすような出来事も多々あるでしょう。

しかし、認知症の特徴を正しく理解し、適切な対処方法をとることで負担が軽減できるケースもあります。一人で抱え込まずに周囲の助けも借りながら、認知症と向き合い寄り添っていきましょう。

平栗 潤一

この記事の監修

平栗 潤一

一般社団法人 日本介護協会 理事長

大手介護専門学校にて教職員として12年勤務し、約2000名の人材育成に関わる。その後、その経験を活かし、認知症グループホームや訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅などの介護事業や、就労継続支援B型事業所や相談支援事業所などの障がい福祉事業を運営。また一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して活動中。

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