40歳以上になると介護保険の被保険者となり、介護保険料の納付義務が生じます。しかし、介護保険制度の具体的な仕組みや介護保険サービスの使い方を詳しく知らない人も多いでしょう。このページでは、介護保険制度の成り立ちと仕組み、介護保険サービスの利用方法を紹介。さらに、2020年改正、2021年4月に施行されるに制度改正のポイントについても解説します。介護保険制度について知りたいという人はぜひ参考にしてください。
更新日:大手介護専門学校にて12年で約2,000名の人材育成に関わり、その後、人材定着に悩む介護事業所の人材育成や運営支援を実施。2020年4月からは一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して介護甲子園を主催している。
介護保険制度は、介護が必要な人やその家族の金銭的負担を軽減するため、社会全体で支える仕組みです。
介護保険制度を運営する市町村および特別区(以下、市区町村)による調査で介護が必要と判断された人には「要介護」または「要支援」の認定が下り、介護保険サービスの利用対象となります。介護保険サービス利用料の一部は介護保険料と公費でまかなわれるため、利用者は所得に応じて1割~3割という少ない負担でサービスが利用可能です。
介護保険制度は2000年(平成12年)に創設された比較的新しい制度です。介護保険制度創設以前は、高齢者を取り巻く介護・医療の問題が顕在化していました。
日本の老人福祉は、1962年の訪問介護創設から始まります。それから介護保険制度が創設される2000年までの間、高齢者の介護は「老人福祉」と「老人医療」の2つの制度を軸に進められてきました。
「老人福祉」の対象は、特別養護老人ホームや訪問介護、デイサービスなどです。市町村が管理していたため「利用者がサービスを選択できない」「競争原理が働かずサービス内容が画一的になる」などの問題がありました。また、利用者負担額は本人と扶養義務者の収入に応じて決まるためサービス利用時には所得調査が求められ、利用者にとっては心理的抵抗が大きいものでした。
一方、老人保健施設や療養型病床群、一般病棟などを対象とする「老人医療」では、介護を理由とする一般病院への長期入院、いわゆる「社会的入院」が問題化していました。中高所得層にとっては利用者負担が福祉サービスより低かったこと、また福祉サービスの数も不十分だったことから、治療を目的としない入院が増加していたのです。しかし医療施設は本来長期療養を目的としていないため、生活環境やスタッフの体制が不十分であることに加え、医療費の増加も大きな問題となっていました。
さらに急速に進む高齢化による要介護者の増加、核家族化など介護する側の家族の状況変化など、時流も大きく変化しました。そのため、従来の「老人福祉」「老人医療」という制度では対応の限界が訪れ、新たに生まれたのが「介護保険制度」です。
介護保険制度は、要介護状態となった高齢者が尊厳を保ちながらその人の能力に応じて自立した生活を送るため、必要な保健医療サービスおよび福祉サービスに係る給付をすることを目的としています。介護保険の基本的な方針は「自立支援」「利用者本位」「社会保険方式」の3つです。
つまり、介護が必要になっても自分らしく自立した生活ができるように、必要なサービスを自ら選んで利用できるようにする制度です。
介護保険制度の創設以降、サービス事業者には市町村や公的団体のみならず、民間企業やNPOなども参画しています。以前のように市区町村に決められたサービスを利用するのではなく、利用者は「ケアプラン」という介護サービスの利用計画に基づいて自由にサービスを選択することが可能です。
また介護保険の財政に関しては、社会的入院による医療費の圧迫のような問題の防止が求められました。そのため、給付と負担の関係がはっきりしている社会保険方式を採用しています。
介護保険の加入者は保険者である市区町村に介護保険料を納めることで、介護保険サービス利用時の自己負担額を1割~3割に抑えられます。市区町村はサービス事業者による請求を受け、残りの7割~9割の費用を支払う仕組みです。
介護保険加入時は、特別な手続きは不要です。40歳以上になると全員が被保険者となり、介護保険料の納付義務が生じます。
介護保険料の支払金額については、以下の記事で詳しく紹介しています。
「介護保険料は40歳から払う」ということは、すでに知っている人も多いでしょう。しかし「支払い開始月」については注意が必要です。
介護保険に加入するのは、厳密には「満40歳に達する日」からです。「満40歳に達する日」とは「40歳の誕生日の前日」を指します。そのため、1日生まれの人は誕生月の前月から保険料の支払いが始まります。
例えば、誕生日が10月1日の人の「満40歳に達する日」は「9月30日」です。したがって「9月」から保険料を納付しなければいけません。保険料を納めるのは「1日生まれの人は40歳の誕生日の前月から」「それ以外の人は40歳の誕生月から」と理解しておきましょう。
また、介護保険には満了日がありません。40歳以降は生涯にわたって保険料の納付が求められます。
介護保険料を払い始める時期については、以下の記事で詳しく紹介しています。
介護保険料はいつから支払いが始まるか、納付方法や金額の計算方法、控除の条件を解説
介護保険の財源のうち50%は、被保険者が支払う保険料が占めています。残り50%の財源は公費です。そのうち半分(25%)は国が負担し、さらに残りの25%は都道府県と市区町村とが12.5%ずつ負担しています。
介護保険サービスを利用すると、この財源を基にしてサービス利用料の一部がサービス提供事業者に給付されるため、利用者の本人負担は1割~3割で済むという仕組みです。
40歳以上になると保険料を支払い介護保険の被保険者となりますが、全員が無条件に介護保険サービスを利用できるわけではありません。
介護保険を適用するためには「介護が必要な状態である」と正式に認められることが必要です。また、年齢によっても条件は異なります。詳しく見ていきましょう。
介護保険の被保険者(加入者)は、年齢によって「第1号被保険者」「第2号被保険者」の2種類に区分されます。区分によって、介護保険の給付条件や介護保険料の納付方法も異なります。
「第1号被保険者」に該当するのは、65歳以上のすべての人です。介護保険料は基本的に公的年金から天引きされる「特別徴収」という形式で、市区町村に納付します。
65歳以上であれば「要介護」もしくは「要支援」の認定を受けることで介護保険サービスを利用できます。
「第2号被保険者」は、40歳から64歳までの人です。会社員や公務員など給料を受け取っている人は被用者保険を通じて、自営業の人は国民健康保険に上乗せする形で介護保険料を納めます。
第2号被保険者の場合は、要介護(要支援)認定を受けるだけでは介護保険サービスを利用できません。要介護の原因が、国が定める「特定疾病」であることが条件となります。
共通する条件である「要介護認定」、また第2号被保険者の条件の「特定疾病」について、それぞれ解説します。
第1号被保険者、第2号被保険者ともに、介護保険サービスを利用するためには「要介護」または「要支援」の認定を受ける必要があります。
要介護認定は、介護がどの程度必要かを全国一律の基準に基づいて客観的に判定する仕組みです。介護が必要な度合いは「一次判定」「二次判定」の2段階の審査で決定します。
要介護認定を受けようとする人は、まず各市区町村に申請します。
一次判定は、市区町村の認定調査員による心身状態の聞き取り調査(認定調査)と主治医の意見書に基づくコンピュータ判定です。介護に要する時間の推計や、心身状態の維持・改善の可能性を評価し、6段階に区分されます。
次に、保健・医療・福祉の専門家で構成される介護認定審査会によって二次判定が実施され「要介護度」が決定するという流れです。
要介護度は、介護の必要度によって「要支援1、2」「要介護1~5」の7つに分類されます。要支援1は日常生活の動作をほとんど自分ですることができ、一部のみに支援が必要な状態であるのに対し、要介護5になると寝たきりの場合が多く身の回りのことほぼすべてに介助が必要です。
また、介護の必要性がないと判断される状態のことを「自立」といいます。自立の判定を受けた場合は、介護保険は適用されません。
「判定結果が実態と合っていない」「要介護認定を受けた後に心身の状態が大きく変わった」という場合に申請できるのが、要介護認定の「区分変更」です。要介護認定は原則として12カ月ごとに更新されますが、区分変更の申請をすることで更新時期よりも前に改めて要介護認定を受けられます。実情と要介護度に差があるときは、必要に応じて見直すといいでしょう。
要介護度については、以下の記事で詳しく紹介しています。
要介護認定1~5の判定基準は?給付金の限度額、入居できる施設も紹介
被保険者区分の項目でも述べた通り、40歳から64歳の第2号被保険者の場合、要介護認定を受けただけでは介護保険サービスを利用できません。要介護状態の原因が「特定疾病」であることが、もう1つの条件です。
「特定疾病」とは心身の加齢との関係性が認められる特定の病気のことで、現在は16種類が指定されています。
悪性腫瘍(悪性新生物)のうち、医師が一般に認められている医学的知見に基づき、回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限られます。概ね余命6カ月程度と判断される場合です。
免疫異常により関節の腫れや痛みがおこる病気です。悪化すると軟骨や骨が破壊されて関節の機能が損なわれ、関節が変形します。関節を動かさなくても痛みがあるのが特徴です。
筋肉を動かす命令を伝える運動ニューロンが障害を受けて、筋肉がやせていく病気です。手足、のど、舌などを中心に次第に筋力がなくなっていきます。反面、体の感覚や視力・聴力、内臓機能は基本的に損なわれません。最終的に呼吸する筋力がなくなり呼吸困難に陥ります。完全に治癒する方法は、まだ見つかっていません。
背骨の中を縦に走る「後縦靭帯」が骨のように変化し脊柱管が狭くなる病気です。脊髄や脊髄から枝分かれする神経根が圧迫されて、運動障害や感覚障害を引き起こします。骨化する脊椎の部位は「頚椎」「胸椎」「腰椎」の3種類です。自覚症状が出てからの進行スピードは個人差が大きく、何年間も変化がない人もいれば麻痺が進んで寝たきりになる人もいます。
骨粗鬆症は、骨がもろくなりちょっとした衝撃でも骨折の危険性が高くなる病気です。特に背骨や太ももの付け根を骨折すると、寝たきりになりやすくなります。
若いうちに発症する認知症の総称で、脳血管障害や若年性アルツハイマー病など原因は問いません。正式には45歳から64歳までに発症した場合を「初老期認知症」、18歳から44歳の間に発症した場合は「若年性認知症」といいます。
パーキンソン病は、脳からの命令が全身にうまく伝わらず体が自由に動かなくなる病気です。安静にしていても手足が震えたり、動きが遅くなったり動かなくなったりします。「進行性核上性麻痺」「大脳皮質基底核変性症」は、パーキンソン病に似た症状を引き起こす「パーキンソン症候群」と呼ばれる病気の種類です。原因が異なるため、パーキンソン病の薬は効きません。
小脳や脊髄の組織の異常によって「歩行時にふらつく」「手が震える」「ろれつが回らない」などの運動失調症状が現れます。一つの病気ではなく、これらの運動失調症状をきたす病気の総称です。根治療法はまだ見つかっていません。
背骨の中の神経の通り道である脊柱管が、骨や靭帯の肥厚、椎間板の変形などにより狭くなる病気です。神経が圧迫されることで腰や足の痛み、しびれなどが生じます。圧迫される箇所によって症状が異なることも特徴です。
実年齢よりも早く老化の兆候がみられる疾患の総称で「早期老化症」ともよばれます。含まれるのは「ウェルナー症候群」「ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群」「コケイン症候群」など約10種の病気です。「ウェルナー症候群」は全世界の患者のうち約6割が日本人で、特に日本人に多い早老症と考えられています。老化が進むと若年性の白内障、四肢末梢の難治性皮膚潰瘍、インスリン抵抗性の強い糖尿病、早発性の動脈硬化など多様な合併症を引き起こし、死に至るケースもある難病です。
脳の神経細胞が変性し脱落することで症状が出る非遺伝性の病気です。3種類の分類によって症状が異なります。「オリーブ・橋・小脳萎縮症(MSA-C)」は歩行障害やふらつきなどの運動失調、「線条体黒質変性症(MSA-P)」は筋肉のこわばりや動きの鈍化などパーキンソン病のような症状、「シャイ・ドレーガー症候群」は立ちくらみや排尿障害などの自律神経障害が代表的な症状です。
糖尿病が引き起こす神経障害、腎症、網膜症の合併症です。合併症が進行すると、歩行困難や視力低下、下肢切断に至ることもあります。なお、糖尿病だけでは特定疾病と認められません。
脳血管のトラブルによって脳や神経が障害を受ける病気の総称です。意識障害や左右どちらかに麻痺が出る片麻痺など、疾患がある箇所によって症状が異なります。代表的な病気は「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」などです。
動脈硬化によって血管が細くなったり詰まったりして血行不良になる状態です。歩行時に足のしびれや痛み、冷たさを感じ、悪化すると安静にしていても症状が現れたり、足の組織が壊死したりすることもあります。
有害物質によって気管支や肺胞がダメージを受け、呼吸障害を引き起こした状態のことです。「肺気腫」「慢性気管支炎」「気管支喘息」などが含まれます。最大の原因は喫煙です。
変形性関節症とは、関節の軟骨がすり減り炎症を起こした状態を指します。「痛みや腫れがある」「水が溜まる」などの症状が代表的です。特定疾病として認められるのは、両側の膝関節か股関節の変形によって、激しい痛みや歩行困難などが確認される場合に限ります。
上記のように介護保険サービスの適用条件は被保険者の区分によって異なりますので、自分や家族がどちらに当てはまるのか必ず確認しましょう。
ここからは、実際に介護保険サービスを利用するための手順を説明します。これからサービス利用を考えている人は、ぜひ参考にしてください。
介護保険を適用するためには、要介護(要支援)認定が必要です。要介護認定の申請から介護保険サービス利用までの流れを見ていきましょう。
要介護認定は、市区町村の窓口で申請します。
本人による申請が基本ですが、本人が窓口に行くことが難しい場合は家族による申請も可能です。また、家族がいない人などは地域包括支援センターや居宅介護支援事業者が代行できますので、相談するといいでしょう。
なお、要介護(要支援)認定申請書には個人番号の記入が必要です。記入する際は、マイナンバーカードか個人番号通知書も用意しておきましょう。
一次判定のため認定調査を受けます。
心身の状況などについて本人や家族からヒアリングするため、市区町村の認定調査員が自宅を訪問して実施する調査です。訪問日程は、本人や家族の希望をもとにあらかじめ相談して決定します。長期入院中など本人が自宅にいない場合は、病院など自宅以外で調査を受けることも可能です。
また、一次判定に必要な「主治医意見書」は市区町村がかかりつけ医に直接依頼して作成してもらいます。本人や家族による依頼の必要はありません。
認定調査については、以下の記事で詳しく紹介しています。
要介護認定の認定調査とは、聞き取り内容や所要時間、用紙の記入例など
認定調査と主治医意見書に基づく一次判定、介護認定審査会による二次判定によって「要介護1~5」または「要支援1、2」の区分が決定します。
認定結果は、原則として申請から30日以内に郵送で通知されます。郵送される書類は「結果通知書」と、認定結果が記載された「保険証」の2つです。要介護度によって利用できるサービスや頻度にも差がありますので、認定結果を必ず確認しましょう。もし「自立」と判定された場合は、介護保険サービスは利用できません。
介護保険の利用に関する書類の書き方に関して詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
介護保険の申請についてタイミングや流れ、書類の書き方などを教えてください
「ケアプラン」とは、利用する介護サービスの種類や頻度を決める計画です。ケアプランの作成方法は「要介護」か「要支援」かによって異なります。
「要介護1~5」の認定を受け自宅で生活する場合は、居宅介護支援事業者と契約します。その事業者に属するケアマネジャーに、ケアプランの作成を依頼しましょう。
介護施設に入居する場合は施設でケアプランを作成してもらえますので、事前に作成する必要はありません。
「要支援」の人は「介護予防ケアプラン」を作成します。地域包括支援センターで作成できますので、窓口で相談しましょう。
ケアプランについては、以下の記事で詳しく紹介しています。
作成したケアプランに沿って、介護保険サービスを利用します。
サービスを利用するときには「介護保険被保険者証」と「介護保険負担割合証」の提示が必要です。介護保険の自己負担割合は所得に応じて1割、2割もしくは3割と異なります。「介護保険負担割合証」とは、その自己負担割合を示す証明書です。要介護認定を受けた人に発行されます。
介護保険証については、以下の記事で詳しく紹介しています。
介護保険証(介護保険被保険者証)とは、概要や再発行・更新の手順などを紹介
介護保険の自己負担割合は、所得に応じて1割~3割と幅があります。これはなぜでしょうか。
2000年の介護保険制度開始当初は、自己負担額は所得に関わらず一律1割でした。中高所得層が福祉サービスよりも負担の少ない病院に入院する「社会的入院」問題、福祉サービス利用時に所得調査が必要で抵抗があるという問題を解消するためにも、所得とは無関係に少ない負担で介護サービスを利用できる制度になっていました。
しかし一律の負担では、所得によって生活への影響が大きく異なります。さらに少子高齢化も急激に進行するなか、一律負担のままでは介護保険制度の持続が危ぶまれるようになりました。
そこで世代内・世代間の不公平感を解消し介護保険の制度を存続させるため、個人の負担能力に応じて自己負担割合を変える方針に転換されました。
2015年8月には一定以上の所得の人は2割負担、さらに2018年8月からは現役並みの所得がある人は3割負担まで引き上げられました。
現行の利用者負担割合の判定方法は次の通りです。
本人の合計所得金額が160万円未満の人は、すべて「1割負担」となります。利用者負担が2割、もしくは3割になる可能性があるのは、本人の合計所得金額が160万円以上の人です。
合計所得が160万円以上でも、年金収入とその他の合計所得金額の合計額が単身世帯で280万円未満、2人以上世帯で346万円未満の場合は「1割負担」となります。
反対に合計所得金額が220万円以上、かつ年金収入とその他の合計所得金額の合計額が単身世帯であれば340万円以上、2人以上の世帯であれば463万円以上ある場合は、負担が最も大きい「3割負担」です。
どちらにも当てはまらない人は「2割負担」となります。
このように負担割合の区分は複雑でわかりにくい部分もあるため、市区町村は介護保険サービスの対象者に毎年「介護保険負担割合証」を発行し、ひと目で割合がわかるようにしているのです。
1割~3割の少ない負担で利用できる介護保険サービスですが、要介護認定が下りれば無制限にサービスを利用できるわけではありません。「区分支給限度額」として、要介護度に応じて利用できる上限が定められています。上限を超過してもサービスを利用することは可能ですが「全額自己負担」となりますので、注意が必要です。
介護保険サービスは、金額ではなく「単位」で計算されるため、利用上限も「単位」で決まっています。単位数に1単位当たりの単価をかけ合わせることで利用金額を求める仕組みです。
1単位当たりの単価はサービスごと、地域ごとに10円~11.40円の間で設定されています。単価に差があるのは、人件費の地域差やサービスごとに異なる人件費の割合を金額に反映させるためです。
下の一覧表は、1単位を10円として計算した場合の区分支給限度額と自己負担額を示したものです。地域や利用サービスによっては多少の差異が生じます。
区分支給限度額 (1単位=10円として計算) | 自己負担額 | |||
---|---|---|---|---|
1割負担 | 2割負担 | 3割負担 | ||
要支援1 | 5万0,320円 | 5,032円 | 1万0,064円 | 1万5,096円 |
要支援2 | 10万5,310円 | 1万0,531円 | 2万1,062円 | 3万1,593円 |
要介護1 | 16万7,650円 | 1万6,765円 | 3万3,530円 | 5万0,295円 |
要介護2 | 19万7,050円 | 1万9,705円 | 3万9,410円 | 5万9,115円 |
要介護3 | 27万0,480円 | 2万7,048円 | 5万4,096円 | 8万1,144円 |
要介護4 | 30万9,380円 | 3万0,938円 | 6万1,876円 | 9万2,814円 |
要介護5 | 36万2,170円 | 3万6,217円 | 7万2,434円 | 10万8,651円 |
※2019年10月~の金額
2割・3割負担の人で要介護度が上がると、自己負担額も相当に大きくなります。なかには10万円を超えるケースもあるほどです。
月額の介護サービス費が一定の上限を超過した場合、各市町村に申請することで超過分が払い戻される制度があります。それが「高額介護サービス費」制度です。
所得によって上限金額は異なりますが、最大でも世帯当たり44,400円に抑えられます。なお老人ホームの居住費や食費、差額ベッド代、生活費などは対象に含まれません。
高額介護サービス費に該当する人には、サービスを利用した約3カ月後に市区町村から通知と申請書が送付されます。申請書に必要事項を記入し市区町村の窓口に提出すれば、申請完了です。一度申請すれば、それ以降は条件に当てはまるときに自動的に支給されます。申請期間は、介護サービスを利用した月の翌月1日から2年間ですので、期限を過ぎてしまうことのないよう気をつけましょう。
介護保険制度は2000年の創設以来3年ごとに、これまで計5回見直されてきました。自己負担割合が「一律1割」から「所得に応じて1割~3割」と変更されたのも、制度改正の一環です。
少子高齢化の進行スピードの変化や要介護人口の増加、消費税増税など社会情勢は大きく変化しています。時代のニーズを捉えた持続可能な制度にするため、定期的に見直しを実施し必要に応じて改正しているのです。
介護保険制度が直近で改正されたのは、2018年(平成30年)です。
「地域包括ケアシステムの深化・推進」「介護保険制度の持続可能性の確保」の2つを主軸として、介護・医療・障害福祉の総合的なサービスの創設や財源の確保などに踏み込んだ改正が実施されました。そのなかでも、特に被保険者に関わる項目をピックアップして説明します。
新たな介護保険施設として「介護医療院」が創設されました。介護医療院は、日常的な医学管理や看取り、ターミナルケアといった医療的ニーズを持つ要介護者向けの施設です。介護医療院には、重篤な身体疾患を持つ人や要介護度の高い人を対象とするⅠ型と、容態が比較的安定した人向けのⅡ型があります。
従来、医療的ケアと介護の双方が必要な人を対象とする施設には「介護療養型医療施設」がありましたが、2017年度には廃止が決定しています。運営可能な経過措置期間も2024年3月末までと決まっており、その転換先として設けられたのが「介護医療院」です。
介護保険法、障害者総合支援法、児童福祉法にまたがる「共生型サービス」が新たに位置づけられました。
この背景にあるのは、障害を持つ高齢者のサービス利用に関する問題です。障害者総合支援法より介護保険法に基づく介護保険サービスが優先されることから、障害を持つ人が65歳になると、利用する事業所の変更を迫られることがありました。この問題を解決し、65歳以上になっても使い慣れた事業所でサービスを受けられるようにすることが「共生型サービス」の目的です。また、これによって限りある福祉人材を適切に活用することも見込まれています。
介護施設が増加するなか、問題のある有料老人ホームによるトラブルも跡を絶ちません。そこで、入居者保護を目的とする施策が強化されました。ポイントは3つです。
また、有料老人ホームの「前払金の保全措置義務」も対象を拡大し改正されています。改正前は2006年(平成18年)4月1日以降に届け出た有料老人ホームの入居者のみが対象でしたが、それ以前に届け出を出した有料老人ホームの入居者も対象となり、より幅広く保全措置が受けられるようになりました。
介護保険サービス利用時の自己負担割合はそれまで1割または2割でしたが、2018年8月より所得に応じて「1割~3割」と改められました。
第2号被保険者のうち被用者保険を通じて介護保険料を納める人、つまり会社員など給料をもらっている人に関係します。
それまでは、各被用者保険が担うべき保険料の総額は加入者数によって決められていました。しかし企業によって所得も大きく異なるため、加入者数ではなく報酬額によって保険料を決定することになったのです。総報酬割は2018年より段階的に導入され、2020年度から全面導入されています。
2020年改正(2021年4月施行)では、大きな抜本的な改正はありませんが、地域包括支援センターの役割の強化されるなど、地域がテーマとなっています。具体的な判断は、市町村に委ねられているため、地域によっても施策にも差が開くと考えられるでしょう。また財源確保のための見直しも決定しています。
健康寿命を延伸するため、介護予防への注力を求めています。具体的には「通いの場」を推進するなど、地域全体でのサポートに着目しています。
1つ目のポイントとも共通する考え方として「地域共生」が挙げられます。地域特性に応じた介護基盤を整備できるよう、地域包括ケアセンターの運営に市区町村が適切に関与することを求めています。そのため、市区町村による管理機能が強化されるでしょう。また保育分野における「小規模保育所」「保育ママ」などの制度を参考に、介護分野でも多様な在り方を模索し、地域の実情にあったサービスの提供を目指しています。さらに質の高いケアマネジメントができるよう、多分野の専門職の知見活用やケアマネジャーの労働環境整備なども挙げられています。
介護人材の確保は大きな課題です。処遇改善のほか、既存業務の仕分けやロボット・ICTの活用なども取り入れ、介護現場の革新を図るとしています。
これら3施策を進めるため「保険者機能の強化」「データ利活用のためのICT基盤整備」 に取り組み、かつ継続的に見直しを実施し改善していく方針です。データ利活用に関しては、将来的に個人の保健・医療・介護データを連結して解析することなどを見据えており、そのための基盤整備が進められます。
低所得者のなかでも比較的所得の高い層の自己負担割合を引き上げる方針です。
現状では最大44,000円の自己負担額上限を、医療保険の高額療養費にそろえ、高所得者には現状より多くの負担を求めるとしています。
介護保険料の全体的な引き上げや納付開始年齢の引き下げなどは見送られました。しかし、一部の被保険者にとっては負担が増える改正になると見込まれています。
全体として抜本的な改正は想定されていないものの、介護の在り方や地域との関わり方を問う改正となることが予想されます。これからの介護はどう変わるのか、2025年や2040年を乗り越えることができるのか、2021年の改正に注目です。
介護保険制度の歴史に関して詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
介護保険制度の歴史について2000~2021年までの流れを教えてください!
昨今、介護保険制度を取り巻く問題はさらに複雑化しています。 「2025年問題」という言葉を耳にしたことがある人もいるでしょう。2025年には団塊の世代が75歳以上となり、後期高齢者人口は約2,200万人、介護給付額は総額21兆円程度、介護保険料は全国平均で月額8,200円ほどになると想定されています。介護ニーズの急増、保険料の増額は目前に迫った大きな問題です。
問題はそれだけにとどまりません。2025年以降、高齢者人口の増加率は落ち着くものの、次は高齢者を支える現役世代が急激に減少します。それが「2040年問題」です。
介護現場を直接的に支える人手も、金銭的に保険制度を支える人口も減少します。そのため「介護保険の財政基盤をどうやって維持するか」「少ない人材でいかに効率的・効果的に介護サービスを提供するか」が重要な課題です。
さらに、介護のニーズは地域によっても差があります。すでにピークを迎えている地域もあれば、まだ余力がある地域もあり、全国一律の施策では非効果的です。それぞれの地域特性を踏まえた介護サービス提供体制の確保も欠かせません。
2023年の介護保険制度の改正に向けて、すでに動き出しています。 2021年4月から「第8期介護保険事業計画」がスタートします。
次回の改正で、2025年問題や2040年問題にどう立ち向かうのでしょうか。改正のポイントを見ていきましょう。
団塊世代が75歳以上となる2025年、団塊ジュニア世代が65歳以上となる2040年に備えて、サービスと人員の基盤を整えていくことが必要です。そこで地域ごとの推計人口から導かれる介護ニーズを踏まえて計画を策定していきます。
基盤を整理する際に「介護離職ゼロの実現に向けたサービス」「地域医療構想との整合性」などが重視されています。
厚生労働省が考える「地域共生社会」とは、制度・分野ごとの縦割りや支え手、受け手という関係を超えて、一人ひとりがその人らしい生活を送れる社会のことです。
人口の減少や地域のつながりが希薄になっている昨今、孤立しないためにも地域社会全体で支えていくことが重要視されています。それを踏まえて、各自治体は地域共生社会の実現に向けた考え方や取組について計画を策定するのです。
健康寿命を延伸することは、介護保険制度の重要な目的の1つです。介護予防・健康づくりへ注力し「PDCAサイクルに沿った推進」「専門職の関与」などの施策を進めていきます。具体的には「通いの場」を推奨したり、一人暮らしの高齢者などの見守り体制を強化したり、地域全体でのサポートに着目しています。
生活面で困難を抱える高齢者も多く「自宅」と「介護施設」の中間に位置する住宅も増加傾向です。そのため有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅の質を確保するとともに、各市区町村と都道府県との情報連携を強化することが決まりました。サービス基盤の整備も進めていきます。
認知症施策推進関係閣僚会議において2019年にとり「認知症施策推進大綱」を踏まえた認知症の施策を推進します。基本方針は以下の5つの柱です。
現状の介護人材の不足、2025年以降の働き手の減少などを考慮して、地域包括ケアシステムを支える介護人材の確保が大きな課題です。介護人材の確保については、都道府県と市町村が連携して進める予定です。
なお介護の現場では、業務仕分けやロボット・ICTの活用、元気な高齢者の参入などの業務改善と効率化に取り組んでいきます。
2020年に新型インフルエンザによる感染症が流行しました。また近年は豪雨などの自然災害も発生しています。災害や感染症対策に備えるためにも、訓練や方針などの体制を整えていきます。もしもに備えた平時からの事前準備が重要です。
介護保険制度は日本にとって非常に重要な制度です。少子高齢化の社会だからこそ介護保険制度で社会全体を支える必要があります。また、特に日本の高齢化の課題は、高齢化のスピードが速いことです。だからこそ、介護保険制度もその状況、情勢に合わせて改定があります。3年に1回の改定内容も確認して、安心の老後を過ごしましょう。
2021.01.26更新
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2021.01.25更新
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