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認知症は遺伝しますか?また遺伝子検査について教えてください

祖母と母が認知症です。私もいずれ認知症になるのでは、と不安を感じています。認知症は遺伝するのでしょうか。また遺伝子検査などで調べる方法はありますか?

A遺伝によって発症する認知症の割合は、全体のうちごくわずかです。

明確な遺伝によって発症する認知症は一定数みられます。しかし認知症全体に占める割合はわずかです。

平栗 潤一
平栗 潤一
一般社団法人 日本介護協会 理事長

遺伝によって発症リスクが高まる認知症は存在します。しかし全体から見るとごくわずかです。また不安な場合は、血液検査によって遺伝子型を調べることができ、認知症の発症リスクを知ることができます。

今回は遺伝によって発症する認知症の種類や、遺伝子検査の方法などについてご紹介しましょう。

認知症は遺伝するのか?

認知症の遺伝については、現時点では分かっていないことが多くあります。しかしながら、さまざまな研究や経験則によって徐々に認知症の発症と遺伝との関係が明らかになってきています。

単一遺伝子の異常が親から子に受け継がれ認知症を発症することがある

欠失や遺伝子内の塩基の欠落、置換、挿入などの突然変異といった遺伝子の異常がみられる場合に発症する病気の総称を、単一遺伝子疾患(single gene disorders)といいます。

また、病気が発現するか否かは父親と母親の双方から受け継いだ2種類の同じ遺伝子の相互作用である「メンデルの法則」によって決定するため、メンデル遺伝病とも呼ばれます。

認知症においては、この単一遺伝子の異常によって明確に発症する「家族性アルツハイマー型認知症」というものがあります。

経験則から血縁者のリスクは高いとされている

家族性アルツハイマー型認知症は、単一遺伝子の異常によって遺伝するとされますが、認知症の大多数を占めるのは、アルツハイマー型認知症です。また、アルツハイマー型認知症については明確な単一遺伝子の異常は認められません。

ただし医学的には原因ははっきりとしないものの、血縁者間で同様の疾患の発生率が高いことや一卵性双生児(双子)の間で同じ疾患を罹患することが経験則として知られています。

このため、アルツハイマー型認知症についても、発症者の血縁者の発症リスクは、通常の3倍程度になると考えられています。

認知症の発症率が高いとされる遺伝子も存在する

認知症では、家族性アルツハイマー型認知症のように単一遺伝子疾患による発症事例の割合は多くありません。

しかし、発症率を高めるとされる遺伝子は存在します。そのひとつがApoE(アポリたんぱくE)をつくり出すApoE遺伝子で、アルツハイマー型認知症や、高齢者の認知機能低下に関係しているとされています。

単一遺伝子の異常により発症する家族性アルツハイマー型認知症とは

それでは、まず認知症の中でも単一遺伝子の異常による遺伝が認められる家族性アルツハイマー型認知症について詳しくみていきましょう。

全体の2~3%程度と数少ない

家族性アルツハイマー型認知症は、明確な単一遺伝子の異常によって発症する認知症です。

つまり遺伝が認められる認知症で、家系によっては遺伝子変異が子や孫に受け継がれ、アルツハイマー型認知症を引き起こす有力な要因となっていると考えられます。

ただしその頻度は、認知症全体のおよそ2~3%程度に過ぎません。

アルツハイマー型認知症よりも発症時期が早い

多くのアルツハイマー型認知症の発症年齢は、70~80歳に集中しています。一方で家族性アルツハイマー型認知症は、40~50歳代で発症することが多く、一般的なアルツハイマー病よりも20年以上も早く発症するのが特徴です。

ただし、これはたとえ2代続けてアルツハイマー型認知症を発症したとしても、70歳以上の高齢で発症した場合には、家族性アルツハイマー型認知症である可能は低いということになります。

発症のプロセス

家族性アルツハイマー型認知症は、遺伝によるものであることが解明されつつあります。しかしアルツハイマー型認知症を含め、発症のプロセスははっきりとは突き止められていません。

現時点では「アミロイドβペプチドという老廃物が脳に蓄積することで、脳細胞が死滅し、結果として脳が全体的に萎縮する」というプロセスが多くの患者に共通していることがわかっています。

ApoE遺伝子とは

次にアルツハイマー型認知症に影響するとされる「ApoE遺伝子」とは、具体的にどのような遺伝子なのでしょうか。

ApoE遺伝子は、脳細胞が死滅させるアミロイドβペプチド蓄積や凝集に関わる物質のひとつであるアポリポタンパク質Eを司っています。

また、ApoE遺伝子は主にε(イプシロン)2、ε3、ε4の3種類があり、 2つ1組で遺伝子型を構成するものです。

ApoE遺伝子の型は6パターン

ε2、ε3、ε4の3種類の遺伝子型を持つApoE遺伝子は、父親から1種類、母親から1種類を受け継ぐことで1組となります。つまり、ApoE遺伝子を持つ子どもの遺伝子パターンは「ε2・ε2」「ε3・ε2」「ε3・ε3」「ε4・ε2」「ε4・ε3」「ε4・ε4」の6パターンのうちいずれかです。

ApoE遺伝子については遺伝から認知症との関係が知られており、アミロイドβペプチドが蓄積しやすい遺伝子型の組み合わせもわかっていましたが、測定自体が研究段階であったことから、どのような組み合わせの遺伝子型を持つのかを知ることはできませんでした。

しかし近年では研究が進んだことにより、血液検査によって検査データの測定可能で、臨床データとの関連が明らかになっています。

遺伝子型の違いによってアルツハイマー型認知症の発症率は変化する

東京大学と東京都健康長寿医療センターの研究チームは、ApoE遺伝子を持つ人はアルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβペプチドがより早い段階で蓄積しはじめるとしています。

さらに、日米豪の3か国、182人を対象とした調査では、ApoE遺伝子の中でも特にε4を持つ人と持たない人と比較したところ、ε4を持つ人のほうがアミロイドβペプチドの蓄積が前倒しではじまることがわかっています。

この調査は、60~80歳代を対象として「認知機能が正常」「多少物忘れがある」「アルツハイマー型認知症の症状がある」の3段階に分類し、PET(陽電子放射断層撮影装置)による撮影や血液検査を実施したもので、アミロイドβペプチドの状態と遺伝子型の関係について分析が行われました。

調査結果では、ApoE遺伝子は父親由来、母親由来2つのどの組み合わせでも年齢とともにアミロイドβペプチドが一定量蓄積する割合が増加しましたが、ε4を1つ持った場合、実年齢よりもおよそ11年前倒しになるという結果を得たとしています。さらに、ε4を2つ持っている場合には、およそ23年、前倒しで増加が始まることが判明しました。

また、アルツハイマー型認知症発症前の「多少物忘れがある」段階でも6~7割はε4を持っており「予備軍」としての注意も必要とされています。

ApoE遺伝子ε4のアルツハイマー型認知症のリスクについて

では、アルツハイマー型認知症発症のリスクを高めるとされるε4とはどのような遺伝子なのでしょうか。

ε4はApoE遺伝子の中でも変異型で、脳内でアミロイドβペプチドの凝集と線維化を促進させる効果があります。このため、ε4の遺伝子型を持っていると持たない場合と比較してアルツハイマー型認知症のリスクが高まります。

また「ε3・ε3」の遺伝子パターンを持つ人を基準としてアルツハイマー型認知症を発症するリスクをオッズ比で示すと「ε2・ε3」が0.6、「ε3・ε3」が1.0、「ε2・ε4」「ε3・ε4」が3.2、「ε4・ε4」が11.6と、ε4を持った場合には他の遺伝子パターンよりも発症リスクが高い傾向にあり、2つ持った場合には突出して高いことがわかります。

このように、ε4は、アルツハイマー型認知症発症の可能性を高める遺伝子型です。

ApoE遺伝子検査とは

採血によって行われる遺伝子検査では、ApoE遺伝子の遺伝子型を調べます。検査では医療機関で5mLの採決を行い、結果は2~3週間後に受け取ることができます。ただし、ApoE遺伝子検査はアルツハイマー病の発症のリスクを調べるものであって、将来の発症の有無を判定する検査ではありません。

このためApoE遺伝子検査は「自分の持っているApoE遺伝子の遺伝子型を知ることで、アルツハイマー型認知症発症のリスクを認識する検査」だと捉えるとよいでしょう。そのうえで検査の結果認知症発症の可能性が高い場合には、精密検査や治療が行われる場合もあります。

また、ApoE遺伝子検査の費用は2万円前後で、自費診療となり健康保険は適用されません。

ApoE遺伝子ε4における認知症の可能性

ここまでに説明をしたように、単一遺伝子の異常でない場合にもApoE遺伝子の中で特にε4を持っているとアルツハイマー型認知症の発症リスクが高いことがわかります。

では、ε4を持っている時点で、発症のリスクを軽減することは不可能なのでしょうか。

ApoE遺伝子ε4を持つ人の予防方法

ApoE遺伝子のうち、ε4を持っている人がアルツハイマー型認知症を発症する平均年齢は70歳代です。しかし、これはあくまで平均値であり、60歳代から90歳代までと発症年齢には幅があります。また、この差がなぜ発生するのかは現在のところはっきりしていません。

さらに、たとえ脳にアルツハイマー型認知症特有の変化が現れたとしても、認知機能が低下しないケースもみられます。つまり、こうしたさまざまな違いが起こる要因が解明できれば、将来的に予防方法が確立される可能性も十分にあるといえるでしょう。

ナン・スタディ

アメリカには「ナン・スタディ」と呼ばれる研究報告があります。この研究は1986年にノートルダム教育修道女会の日常生活や食事が似通った修道女678人を対象に行われ、了解を得たうえで、脳を死後に解剖し調査したものです。

結果、60人の脳にはアミロイドβペプチドの蓄積によるアルツハイマー型認知症の所見がみられましたが、このうち4分の1は生前認知機能に異常はありませんでした。

これは遺伝的な要因を持ち、アルツハイマー型認知症の所見があったとしても、認知機能が衰える人とそうでない人が存在する裏付けといえます。

つまり、ApoE遺伝子ε4を持ち、たとえアルツハイマー型認知症が進行したとしても、何らかの方法で認知機能の低下を遅らせたり、脳の萎縮した部分を補ったりすることができる可能性があるということです。

その点に関しナン・スタディのケースでは、文章の読み書きをしていた人のほうが認知機能の低下が少なかったとされています。

生活習慣病の予防をこころがける

ApoE遺伝子ε4は、アルツハイマー型認知症の発生因子であるとともに、動脈硬化の危険因子でもあります。

脳はもともとある一部が損なわれたとしても他の部位で補う働きをします。しかし、アルツハイマー型認知症を発症している場合、動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞などを併発すると、残された脳の機能をさらに低下させることになります。

ただし、動脈硬化は生活習慣病が大きな要因となって引き起こされるため、ε4を持っていたとしても生活習慣の見直すことによって、脳血管障害を引き起こす誘因となる生活習慣病を予防することは可能です。

認知症は遺伝するケースがあるが、可能性は低い

明確な単一遺伝子の異常によって引き起こされる家族性アルツハイマー型認知症は稀ですが、発症率を高める遺伝子である「ApoE遺伝子ε4」というものは存在します。

しかしながら、ApoE遺伝子ε4があったとしても、発症率が100%というわけではありません。実際、認知症の疑いがあり、医療機関を受診する人の6割はApoE遺伝子ε4を持っていないとされます。

このため、ApoE遺伝子ε4を持っていたとしても過剰な心配はせず、持っていなくても安心しすぎないことが大切です。また、たとえ認知症を発症したとしても、早期の発見、治療、対策によって、改善維持しているケースも少なくありません。

しかしながら、認知症の発症によって起こる前頭葉機能の低下が認められた場合には認知症の進行を遅らせるために、脳の神経伝達を補う抗認知症薬の服薬を検討する必要があります。

さらに、認知症の症状に進行が見られる場合には生活環境の見直しのほか、要介護者であれば早い段階での施設入所などもひとつの選択肢といえるでしょう。

平栗 潤一

この記事の監修

平栗 潤一

一般社団法人 日本介護協会 理事長

大手介護専門学校にて教職員として12年勤務し、約2000名の人材育成に関わる。その後、その経験を活かし、認知症グループホームや訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅などの介護事業や、就労継続支援B型事業所や相談支援事業所などの障がい福祉事業を運営。また一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して活動中。

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