特定入所者介護サービス費(補足給付)とは|対象施設・利用条件・具体的な金額などを紹介
介護施設への入居する場合食費や毎月の居住費、日用品などに使用する生活費など、のお金が掛かります。経済的不安を感じる人も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、介護施設に入所する人を対象に金銭的なサポートにつながる、「特定入所者介護サービス費」という制度をご紹介。対象となる施設や利用条件、具体的にどれくらい負担が軽減されるのかなどを解説します。
大手介護専門学校にて教職員として12年勤務し、約2000名の人材育成に関わる。その後、その経験を活かし、認知症グループホームや訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅などの介護事業や、就労継続支援B型事業所や相談支援事業所などの障がい福祉事業を運営。また一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して活動中。
特定入所者介護サービス費(補足給付)とは
特定入所者介護サービス費とは、介護保険が適用される施設に入所した人で、所得や資産等が一定以下だった場合に適用される制度です。主に、負担限度額を超える居住費・食費が発生した場合、超過分の費用が介護保険からまかなわれます。
特定入所者介護サービス費を利用するためには負担限度額認定を受けなくてはなりません。負担限度額認は市区町村へ申請手続きをする必要があるため注意してください。なお、負担限度額は施設や部屋のタイプ、所得に応じた段階によっても異なります。
特定入所者介護サービス費の対象施設は
特定入所者介護サービス費の制度を利用するためには、入所する施設が制度対象の施設である必要があります。対象施設とその概要をご紹介します。
特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)
介護老人福祉施設は、公的な介護保険施設として運営されており、入居基準には「要介護度3以上」と設定している施設がほとんどです。身体介護だけでなく、掃除や洗濯といった生活支援やリハビリテーションなども受けられます。さらに、認知症が重度の方の受け入れにも対応しています。
部屋は施設ごとに異なりますが、主に従来型個室と多床室から構成される旧型と、ユニット型個室を中心に構成される新型に分かれます。介護保険施設の中でも入居費を安く抑えられるという点から非常に人気であり、場合によっては入居するまでに数カ月~数年掛かってしまうケースもあります。
特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)については、下記の記事をご覧ください。
介護老人保健施設(老健)
介護老人保健施設は、病院から退院した直後に自宅で生活するのは難しいと判断された要介護1以上の人を対象とした施設です。基本的には老人ホームのように長期間入居する場所ではありません。
身体介護やリハビリが提供され、自宅での生活が可能と判断されれば退去することになります。初期費用も掛からず、特養と同様に費用は安めです。
介護老人保健施設(老健)については、下記の記事をご覧ください。
介護療養型医療施設
介護療養型医療施設は、老健と同じく医療ケアが充実している介護保険施設です。医学的管理が必要と判断された要介護1以上の人を対象にしています。
老人ホームで見られるイベントやレクリエーションには力を入れていないものの、医療ケアやリハビリ内容が充実している点や、容体が悪化した場合でも一般病棟にすぐ移動できるため安心などはメリットです。ただし、療養病床は既に制度廃止が決まっており、2023年度末にはすべての介護療養型医療施設が介護医療院に転換されます。
介護療養型医療施設については、下記の記事をご覧ください。
介護医療院
介護医療院は、2017年度に廃止が決定した介護療養型医療施設に代わる介護保険施設です。主に医療と介護どちらも長期的に必要となる高齢者が対象になります。日常的な医療ケアに加え、看取りや終末期医療、さらに生活する上で必要な機能も提供可能な施設です。
例えば老人ホームなどでは喀痰吸引や経管栄養、点滴などに対応していない場合もありますが、介護医療院なら生活の介助も受けつつこれらの医療ケアも受けられます。医師・看護師が常駐しているため医療的に安心できるでしょう。
介護医療院については、下記の記事をご覧ください。
地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護とは、入所定員が30人未満の特別養護老人ホームで受けられる介護サービスを指します。入所条件や介護サービスの内容は一般的な特養とあまり変わりません。普通の施設よりも人数が少ない分、家庭的な雰囲気を持ち、地域や家族との関わりを重視した運営を担っています。
特定入所者介護サービス費の利用条件
特定入所者介護サービス費を利用するためには、対象施設への入所以外にも条件が設定されています。以下の条件にすべて当てはまる人が特定入所者介護サービス費で自己負担を軽減できるので、まずは当てはまるかチェックしてみてください。
- 本人とその同一世帯の人全員が市町村民税非課税者
- 本人の配偶者(世帯別も含む)が市町村民税非課税者
- 本人の預貯金額合計が単身で1,000万円以下、配偶者がいれば2,000万円以下
場合によっては上記条件に当てはまらなくても、食費・居住費の負担が家族の生活に大きく影響し、生活に困窮してしまうと判断された場合、「特例減額措置」が適用される可能性があります。ただし、特例減額措置についても細かく条件が設定されているため、必ず適用されるとは限りません。
4つの利用者負担段階
所得によって負担上限額が次の4段階に分けられています。
利用者負担段階 | 対象者 |
---|---|
第1段階 | 生活保護者等
世帯全員が市町村民税非課税で、老齢福祉年金受給者 |
第2段階 | 世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金収入額+合計所得金額が80万円以下 |
第3段階 | 世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金収入額+合計所得金額が80万円超 |
第4段階 | 市区町村民税課税世帯 |
特定入所者介護サービス費でどれくらい負担が軽減されるのか
実際に特定入所者介護サービス費を利用した場合、どれくらい自己負担が軽減されるのでしょうか?計算方法や事例についてもご紹介していきます。
給付額は見直しが進んでいる
特定入所者介護サービス費は介護保険制度の一部であり、改正のたびに見直しが実施されてきました。見直しによって特定入所者介護サービス費を利用できない人や在宅介護を受けている人との公平性を保ち、所得段階の中で均衡が取れるように図られています。
2021年には介護保険制度の改正が実施され、それと同時に特定入所者介護サービス費の給付額見直しが進められます。改めて自分や家族は対象となるのか、対象となる所得段階が前回と異なっていないかを確認しておきましょう。
計算方法について
特定入所者介護サービス費を計算する際には、介護老人福祉施設・短期入所生活介護の場合と、介護老人保健施設・介護療養型医療施設・短期入所療養介護の場合で2種類に分類されます。それぞれ1日にどれくらいの負担額となるのか、確認してみましょう。
介護老人福祉施設・短期入所生活介護
基準費用額(1日当たり) | 負担限度額(1日当たり) | ||||
---|---|---|---|---|---|
第1段階 | 第2段階 | 第3段階 | |||
食費 | 1,380円 | 300円 | 390円 | 650円 | |
居住費 | ユニット型個室 | 1,970円 | 820円 | 820円 | 1,310円 |
ユニット型個室的多床室 | 1,640円 | 490円 | 490円 | 1,310円 | |
従来型個室 | 1,150円 | 320円 | 420円 | 820円 | |
多床室 | 840円 | 0円 | 370円 | 370円 |
介護老人保健施設・介護療養型医療施設・短期入所療養介護
基準費用額(1日当たり) | 負担限度額(1日当たり) | ||||
---|---|---|---|---|---|
第1段階 | 第2段階 | 第3段階 | |||
食費 | 1,380円 | 300円 | 390円 | 650円 | |
居住費 | ユニット型個室 | 1,970円 | 820円 | 820円 | 1,310円 |
ユニット型個室的多床室 | 1,640円 | 490円 | 490円 | 1,310円 | |
従来型個室 | 1,640円 | 490円 | 490円 | 1,310円 | |
多床室 | 840円 | 0円 | 370円 | 370円 |
特定入居者介護サービスを使った際の事例
もしもユニット型個室的多床室の介護老人福祉施設に入所することになり、特定入所者介護サービス費を利用する場合、利用しない場合と比べてどれくらい安くなるのか算出してみましょう。
特定入所者介護サービス費が適用されない場合
適用されない場合、1カ月当たりの食費は1,380円×30日=4万1,400円、居住費は1,640円×30日=4万9,200円になります。食費・居住費を合わせると、4万1,400円+4万9,200円=9万0,600円であることが分かります。
第1段階の場合
第1段階だと、食費は300円×30日=9,000円、居住費は490円×30日=1万4,700円となり、合計2万3,700円の自己負担になります。適用されない場合と比べると6万6,900円もの差が付きます。
第2段階の場合
第2段階では、食費が390円×30日=1万1,700円、居住費が490円×30日=1万4,700円で、合計2万6,400円です。適用されない場合とは6万4,200円の差額になります。
第3段階の場合
第3段階は、食費が650円×30日=1万9,500円、居住費は1,310円×30日=3万9,300円になります。1カ月当たりの合計は1万9,500円+3万9,300円=5万8,800円です。
第3段階になると一気に負担額が増えてくることが分かります。それでも適用されない場合と比べると3万1,800円の負担軽減となるため、本人や家族に掛かる生活負担も少なくなるでしょう。
【2021年4月施行】特定入所者介護サービス費は?
2021年になると介護保険が改正され、特定入所者介護サービス費もさらなる見直しが実施されます。どのような改正が入ったのか解説していきましょう。
所得段階は現在4段階に分けられており、第3段階は世帯全員が市町村民税非課税かつ本人の所得合計が80万円超の人が該当していました。しかし2021年の改正によって所得段階の見直しが図られ、所得合計が80万円超120万円以下(第3段階①)と、所得合計が120万円超(第3段階②)に細かく区分されることになります。
第3段階②の場合、第4段階との支出額の差が概ね2分の1を本人の負担限度額に上乗せされます。実質、第3段階②の方が①よりも2万2,000円の負担増です。
また、給付を受ける条件にも含まれている「資産要件」も変更されました。現在は単身者1,000万円以下の基準が、第2段階では650万円以下、第3段階①で550万円以下、第3段階②で500万円以下となります。なお、配偶者がいる場合の1,000万円上乗せは現行制度と変わりありません。
利用者負担段階 | 対象者 | 資産要件 |
---|---|---|
第1段階 | 生活保護者等
世帯全員が市町村民税非課税で、老齢福祉年金受給者 |
かつ、預貯金等が単身で1,000万円(夫婦で2,000万円)以下 |
第2段階 | 世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金収入額+合計所得金額が80万円以下 | かつ、預貯金等が単身で650万円(夫婦で1,650万円)以下 |
第3段階(1) | 世帯全員が市町村民税非課税で、かつ本人年金収入など80万円超120 万以下であること | かつ、預貯金等が単身で550万円(夫婦で1,550万円)以下 |
第3段階(2) | 世帯全員が市町村民税非課税かつ本人年金収入など120万円超であること | かつ、預貯金等が単身で500万円(夫婦で1,500万円)以下 |
第4段階 | 市区町村民税課税世帯 | - |
他にもショートステイを利用する際の食費も見直されることになりました。従来の1日当たり負担額は、第1段階で300円、第2段階で390円、第3段階で650円でした。今回の改正では第1段階は変わらず、第2段階から600円(210円増)、第3段階①は1,000円(350円増)、第3段階②は1,300円(650円増)と、従来に比べてかなり負担額が増えていることが分かります。
前回の改正時にも自己負担額が増加したことで、介護施設から退所しなくてはいけなくなった人もいました。今回も厳しい改正内容であり、負担額の増加に当てはまってしまった人も多いでしょう。「気が付いたら自己負担額が増加しており、施設での生活が厳しくなった」とならないように、事前にケアマネジャーへ相談し、必要に応じてケアプランの見直しをしてもらいましょう。
特定入居者介護サービス費によって毎月数万円の負担が軽減される可能性も
今回は、特定入所者介護サービス費についてご紹介してきました。特定入所者介護サービス費を利用することで、施設に入所した際に掛かる食費・居住費の自己負担を軽減できるため、できるだけ利用したいサービスと言えます。ただし、利用するためには条件に当てはまっていて、なおかつ手続きを済ませておかなくてはなりません。
それでも手続きを済ませてしまえば、毎月数万円近くの自己負担額を抑えられる場合もあります。2021年度の改正によって自己負担額が増えてしまう人もいるかもしれませんが、まずは自身や施設に入所する家族がどの所得段階に分類されるのか、施設に入所した場合の自己負担額はどうなるのか計算してみましょう。
-
関東 [12230]
-
北海道・東北 [6920]
-
東海 [4898]
-
信越・北陸 [3311]
-
関西 [6702]
-
中国 [3567]
-
四国 [2056]
-
九州・沖縄 [7732]
この記事のまとめ
- 特定入所者介護サービス費は、介護保険施設に入所した場合の食費・居住費負担を軽減するための制度
- 施設や所得段階に応じて異なるものの、毎月数万円近い負担額の軽減が可能
- 2021年の改正によって自己負担額が増えてしまう人もいるので要注意
豊富な施設からご予算などご要望に沿った施設をプロの入居相談員がご紹介します