介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、認知症ケア上級専門士、認知症介護実践リーダー、米国アクティビティディレクター、他。介護職として働く傍ら、レクや認知症、コミュニケーションに関する研修講師も務める。2014年米国アクティビティディレクター資格取得。レクリエーションを通じ、多くの高齢者に「人と触れ合う喜び」を伝え、「介護技術としてのレクリエーション援助」を広める一方、介護情報誌やメディアにおいて執筆等を手掛けている。『認知症の人もいっしょにできる高齢者レクリエーション 』(講談社)など著書多数。
現代は高齢社会に向かい、さらに核家族化も進んでいる影響から高齢者の介護問題が深刻になってきています。日本の平均寿命が延びたことで高齢者同士が介護をするケースも増えて、老老介護や認認介護といったワードも認知されるようになりました。
さらに、最近は認知症患者も増加傾向にあり、認認介護の世帯もより一層増えると考えられます。自分や家族が認認介護の状態になってしまう可能性は否定できません。介護は備えが大事なので、今回は知っておきたい認認介護の実態や問題点、対策についてご紹介します。
認認介護とは
認認介護は、認知症を患っている人が認知症患者を介護する状態を指します。一般的に介護は健常な人がしているイメージが持たれますが、さまざまな事情から認認介護が行われる実態があります。
日本国内では高齢化に伴い認知症患者の数が増加傾向にあります。また、厚生労働省が公表する「国民生活基礎調査(2019年)」によれば、介護が必要となった原因の第1位は認知症(17.6%)でした。この結果から、認知症をきっかけに介護を受けている人は非常に多くの人がいるとわかります。
さらに日本では、子どもと離れて暮らす高齢者世帯も多いです。子どもが遠方に住んでいる場合は認知症患者の面倒を見られないため、配偶者が介護者となる状況になりやすいです。また、同居や比較的に近くに子どもがいても女性の社会進出や経済的な都合で仕事を休めない、辞められないといった事情から介護に関われない人もいます。
他にも晩婚や不妊などを理由に子どもに恵まれなかった場合も、配偶者が介護者にならなければなりません。このような社会環境も認認介護を生み出す原因につながっています。
老老介護とは
認認介護と同じく問題となっているのは、老老介護です。老老介護は、介護をする人・受ける人のどちらも65歳以上の高齢者である状態を指します。認認介護と同じく高齢者の増加と社会環境の変化で老老介護も増えています。
2019年9月時点で、総人口のうち65歳以上の高齢者の割合は28.1%で、過去最高を更新しました。高齢者人口の割合は1950年から上昇を始め、2025年には30%にもなると予想されています。
また、国民生活基礎調査(2019年)の介護者と要介護者の年齢階級構成は以下のとおりとなっていました。
介護者の年齢階級 | 40~90歳以上の要介護者の割合(総数) |
---|---|
60~69歳 | 30.6% |
70~79歳 | 26.5% |
80歳以上 | 16.2% |
40歳未満から80歳以上の介護者のうち、約73%は60歳以上という実情です。年齢階級の中で最も多いのは60~69歳の30.6%でした。
60~69歳が面倒を見る要介護者を年齢階級別に見てみると、65~69歳が59.3%、90歳以上が58.2%となっています。この結果から、60~69歳の介護者は同世代の配偶者や歳の近い身内、自分より高齢の年を見ている人が多いと考えられます。
70歳以上の介護者の割合も決して少なくありません。高齢者人口は増えてと予想されているので、それに伴い老老介護はますます増えていくでしょう。
高齢になると体の自由が利かなくなります。若い頃と比べて体力的・精神的な負担はより大きなものとなり、共倒れする可能性が高いです。
認知症は大きなストレスが発症につながると言われています。介護者・被介護者の両方が介護ストレスにより認知症になってしまえば、老老介護と同時に認認介護の状況も生まれてしまいます。
老老介護については下記の記事に詳しく解説しています。
老老介護とは|現状の問題点や対策・解決策についてご紹介
認認介護の世帯数と割合
増加傾向が見られる認認介護では、どのくらいの世帯数で存在するのでしょうか?ここからは認認介護の実情をご紹介します。
認認介護の世帯数
2020年9月末時点で、要支援・要介護認定を受けている人の数は676.0万人です。そのうち、どれだけの世帯が認認介護になるのか正確なデータは出ていません。
正確なデータがない理由は、認知症患者の中には要支援・要介護認定を受けていない人も多いので正確な実態を把握できないからです。特に軽度の認知症の人は日常生活に支障がなく、要介護認定を受けないまま同居人の介護をしているケースも考えられるため、正確な実態が掴みにくいのです。
平成29年度高齢者白書によれば2012年の認知症患者と認められている人の数は約460万人(約15%)となっていました。統計から年数が経つので患者数はより増えている可能性が高いです。認知症は介護のきっかけ第1位であるため、多くの人が介護を受けている状態だと想像できます。
さらに、在宅介護を受ける世帯のうち、核家族世帯の割合は40.3%と発表されています。単独世帯・三世代世帯・その他世帯の中で最も多い割合です。核家族世帯の要介護者や認知症患者の数は多く、その上60歳以上の要介護者も約73%いるとデータを踏まえると、在宅介護の大半は老老介護または認認介護であると考えられます。
ちなみに、山口県が2010年に実施した調査では、県内で在宅介護をしている世帯のうち認認介護世帯は10.4%と推計していました。老老介護をしている人の中には、自分が認知症であることを自覚せずに介護を続けている場合もあるので、実際にはもっと多く存在する可能性もあります。
認認介護の割合
認認介護の世帯数は実態が把握しきれてないため、正確な割合も分かっていません。しかし、認知症の出現率から認認介護の割合を推計することは可能です。
認知症の出現率は80~84歳で21.8%というデータが存在します。80歳頃の夫婦であれば、どちらかが認知症が出る確率は「21.8%×2=43.6%」と推計できます。
夫婦両方が認知症になってしまう確率はどうなるかというと、「21.8%×21.8%×2=約9.5%」です。そして、11組に1組の夫婦は認認介護と考えられます。
さらに、健常者と認知症の境である軽度認知障害MCIを患う65歳以上の高齢者は約400万人(約13%)となっています。認知症患者15%の割合と合わせると、3.6人に1人は認知障害を持つと試算可能です。
認認介護予備軍の夫婦世帯を配慮すると、「28%×28%×2=15.7%」となります。そうなると、65歳以上の夫婦のうち、6.3組に1組の割合で認認介護になる可能性があります。
認認介護で起こってしまった事件
認認介護により起きてしまった事件はいくつもあります。日常生活に支障のないレベルであっても、認知症は適切な介護やケアをしないと悪化し、共倒れのリスクが潜んでいます。危険性を理解するためにも、実際にあった事件を一つご紹介します。
認認介護世帯が熱中症で死亡した事件
2018年8月に東京都で87歳の夫と78歳の妻が自宅の1階で発見され、熱中症により妻は半相互に亡くなってしまいます。さらに2階では夫の兄が腐乱した遺体で発見された事件がありました。
夫は認知症で、夫の兄も足が不自由であり、妻が献身的に2人の介護をしていました。しかし、発見される10日前に妻が認知症であることが発覚していました。
夫婦には離れて暮らす長男家族と同居する次男がいました。しかし、次男は家族とのすれ違い生活が多く、介護は母に任せっきりでした。
2階は伯父(夫の兄)が占領し、次男に「上がってくるな」と言われていたので、接触はほとんどなかったそうです。そして、両親が熱中症で倒れているところを発見し、さらに2階から異臭がすることに気付き、ベッドで横たわる伯父の姿を発見しました。
夫の兄は死後3~4週間は経っていたと判明しています。家族との接触が減っていた理由とは別に、介護者の妻も認知症を患っていたため、介護自体も疎かになっていた可能性が考えられます。
さらに、不幸な事件につながった原因は行政のサポートが利用できなかったからです。ヘルパーなどの訪問サービスの利用条件は65歳以上の高齢者だけの世帯、または75歳以上の独居世帯だけです。しかし、こちらの一家は次男が同居していたため対象から外れてしまい、高齢の妻一人で介護をしなければならない状況が生まれていました。
この他にも、認認介護によるストレスから被介護者を虐待する事件、火元の消し忘れによる火事、お金や体調、食事・栄養の管理が正常にできない、緊急事態に対応できないなどの、リスクが大きな事件につながってしまう恐れがあります。
認認介護で気をつけるべきこと
前述した事件は、認認介護における様々な要因が絡み合って起きた不幸と言えます。このような悲しい事件を引き起こさないために、認認介護で気をつけるべきことをご紹介します。
認知症はできるだけ早く発見する
介護をする中で、突然認知症になってしまう場合があります。認知症は過度なストレスで発症や悪化するリスクがあり、特に高齢者は発症する確率が高いので警戒が必要です。しかし、早い段階で見つかれば症状の緩和や遅らせる治療ができ、認認介護の対策も早い段階で打てるようになります。
前述の事件の妻は、子どもとの会話で同じ会話を繰り返すことに気付き、病院で検査を受けて認知症が発覚しました。しかし、それまで家族も近所の人も妻の変化に気付かないぐらい普通だったと言います。認知症の度合いは人によって違い、第三者には普通でも同居する家族に対しては症状が強く出るケースも多いです。
しかし、健常者であった次男とは接点が少ない、長男とは離れて暮らしていたので、認知症の発見が遅れてしまったのだと考えられます。特に認知症の人は自分からSOSを発信できないケースが多いので、周りがいち早く察知しなければなりません。事件を教訓とするなら同居の有無に関係なく、親が高齢化したら家族は変化に気付けるようにコミュニケーションを取ることが大事です。
近所と関わりを持つ
社会的に孤立する人も認知症になりやすいと言います。前述の妻も10年前は近所の人と積極的に関わっていましたが、近所付き合いと距離を置く生活だったそうです。社会との交流が途絶え、介護に追われる生活の繰り返しが認知症を招く原因であった可能性があります。
また、周りの人も接点が少なくなっていたので、妻の変化に気付けなかったのだと考えられます。家族では気付けなくても、第三者が変化に気付いて家族に伝えてくれる場合もあります。微妙な変化でも気づいてもらうために高齢者や家族はご近所との関係性を構築し、社会的な交流を絶やさないことも大事です。
利用できる施設や制度を確認する
老老介護や認認介護になる可能性があれば、介護の負担を軽減できる施設や制度の利用を考えてください。介護サービスには民間のものもあります。料金は行政サービスよりも高くなりますが、それでも介護の負担は緩和され、共倒れは防げます。
介護サービスには何があるのか、どうすれば利用できるかは介護をする前から把握しましょう。どのようなサービスがあり、何を利用できるのか分からない時は各都道府県に設置される地域包括支援センターに相談するのもおすすめです。
また「認知症保険」「認知症予防保険」が人気です。認知症保険については下記の記事に詳しく解説しております。
認知症保険って加入すべき?各社の特徴を比較して教えてください
認認介護の際に利用する施設・制度
認認介護に備えて、利用できる施設や制度は把握しておいてください。具体的にどんな施設・制度を利用するといいかご紹介します。
老人ホームやサ高住を利用する
在宅介護が難しくなる状況を考え、夫婦で老人ホームに入る選択もあります。訪問や通所サービスよりも費用がかかりますが、スタッフに介護を任せられるので安心です。有料老人ホームであれば、まだ自立した生活ができる人や認知症の受け入れに対応している場合も多く、さらに夫婦で入居できるケースもあります。
また、高齢者が入居できる施設にはサービス付き高齢者向け住宅もあります。ここでは外部の介護サービスを任意で利用できるので、自立した人から介護や支援が必要な人まで住むことが可能です。
まだ認知症になっていない、軽度の認知症の人も介護サービスを利用できるので、介護の負担を軽減しながら生活できて便利です。他にも見守り体制も整っているので、万が一何かあっても発見が遅れるリスクは低くなります。
見守りサービスの利用
子どもと離れて暮らしている、子どもがいない高齢夫婦は見守りサービスの利用もおすすめです。自宅にセンサーなどを設置すると安否確認がおこなわれ、異変が見つかると早急に対応してもらえます。
見守りサービスの形態
- センサー型(電気やガス家電の利用状況を見て家族にメールなど)
- カメラ型
- 緊急時通報・駆けつけ型(セコム、ALSOKなど)
- 訪問・電話型(郵便局など)
- 宅配型(ヤクルトなど)
- 居場所特定GPS(ソフトバンクなど)
自治体の見守りサービスは下の通り、市町村窓口や地域包括支援センターに相談が必要です。
地域包括支援センターに相談する
条件によっては行政のサポートを受けられない可能性があります。ただし、厚生労働省は高齢化への対応策として、地域包括ケアシステムの実現を目指し動いています。地域包括ケアシステムは、地域が住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に実施する体制のことです。
都道府県では、地域包括ケアシステムの中核となる地域包括支援センターは設置されています。介護に関する相談も引き受けているので、介護に不安があれば相談すると認認介護を回避する良い提案が受けられる可能性があります。
認認介護は家族のサポートが必要
今回は認認介護の実態についてご紹介しました。長寿命化により高齢化社会となっている今、認知症患者の割合も増えています。また、さまざまな事情から介護サービスを利用できず、高齢者が高齢者を介護する老老介護も増えているのが現状です。
また、意外と多いのが認知症の親と精神疾患のある子どもの2人暮らしでも、問題が起こっています。やはり地域の結びつきが求められるでしょう。
認認介護には悲しい事件もあります。危険な事件を招かないためにも、認認介護のリスクを知って、介護の負担を減らせる方法を考えていく必要があります。まだ自分や親は大丈夫だと思わず、事前に対策を考えていきましょう。
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この記事の寄稿者
緒方
介護のほんね編集部。認知症サポーターです。
介護を始めたての方に向けて、老人ホームや認知症に関する知っておきたい情報を、誰もが分かる簡単な言葉でご紹介します。