介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、認知症ケア上級専門士、認知症介護実践リーダー、米国アクティビティディレクター、他。介護職として働く傍ら、レクや認知症、コミュニケーションに関する研修講師も務める。2014年米国アクティビティディレクター資格取得。レクリエーションを通じ、多くの高齢者に「人と触れ合う喜び」を伝え、「介護技術としてのレクリエーション援助」を広める一方、介護情報誌やメディアにおいて執筆等を手掛けている。『認知症の人もいっしょにできる高齢者レクリエーション 』(講談社)など著書多数。
セルフネグレクトは、自己管理ができず、生活環境や栄養状態が悪化している状態です。自分自身を大切にしないこともあり、セフルネグレクトと呼ばれています。特に、社会的に孤立している方に多いです。結果、孤独死を招いてしまう引き金となっています。
この記事では、セルフネグレクトについて紹介します。特に高齢者の方に向けて、原因や症状、治し方、セルフチェックなどの方法をまとめました。「家族や親しい方がセルフネグレクトかも?」と心配な方はぜひ参考にしてください。
セルフネグレクトとは
セルフネグレクトとは、衛生や健康行動を放任し、自己の心身の安全や健康が脅かされる状態のことです。セルフネグレクト(Self Neglect)は日本語で「自己放任」と訳されます。
「ゴミ屋敷」と呼ばれている住まいも、セルフネグレクトであることで作り出されたといえるでしょう。セルフネグレクトの特徴としては、具体的には以下の点が挙げられます。
セルフネグレクトの特徴
- 重度な住環境の不潔さ
- 使えないもの、価値のないものを多く入手する
- ガラクタを捨てることができない
- 貧弱な栄養状態
- サービスの拒否
- 不適切な身体衛生
- 服薬管理ができない
データで見るセルフネグレクトの状況
内閣府が平成23年に調査したアンケートを参考に、セルフネグレクトになった方の年齢・性別・家族形態などを紹介しましょう。特筆すべき点は、7割が独居であるということです。データから見ても、社会から孤立している方が多いといえます。
性別
男性が36.6%、女性が54.5%であり、女性のセルフネグレクトが多い傾向にあります。
年齢構成
75歳以上が7割以上を占めました。80~84歳が最も多く24.1%、次に75~79歳が22.8%となっています。
家族構成
家族形態でのアンケートでは、およそ7割が「独居」という結果になりました。この結果からも、セルフネグレクトである場合、孤独死をしてしまう傾向があると考えられます。
建物の形態
建物の形態は「平屋の戸建て」が40.3%、「2階以上の戸建て」が34.7%と、戸建てが7割以上を占めます。集合住宅より戸建てで暮らしている方にセルフネグレクトが多い結果になりました。庭もあるため、ゴミ屋敷として周囲に分かりやすい結果かもしれません。集合住宅のセルフネグレクトは、もっと多い可能性もあるでしょう。
セルフネグレクトになる背景
セルフネグレクトになる背景はさまざまです。ただし単なる「ずぼら」とは違います。セルフネグレクトの方が身近にいる場合は、当てはまる背景があるか確認してみましょう。
頼れる人がいないこと
上記のアンケートでも紹介したように、セルフネグレクトの方は独居であることが多いです。家族や友人、地域などの交流がなく社会的に孤立している状態の高齢者に多いのが特徴になります。
また周りを頼ろうとしない方も多いです。誰かが手を差し伸べたとしても、拒否する傾向にあります。外部との交流を断ってしまうことでセルフネグレクトが悪化するでしょう。
身体機能が低下すること
年齢を重ねるにつれて身体機能が低下します。「視力が低下してよく見えない」「関節が痛く、高い位置に手が届かない」など、体がついていけず、生活がおろそかになるのです。また「脳梗塞などの後遺症で、以前のように生活できない」という方もセルフネグレクトになりやすいでしょう。
認知症を患っていること
認知症になると認知機能が低下するため、適切な判断ができなくなります。判断力が低下すると、生活環境が悪化しても自覚できなくなるのです。なお、認知症の症状は人それぞれで、なかには「やる気が出ない(アパシー)」「不潔行為」「収集癖」などの症状が現われる方もいます。
また内閣府の調査を見ると、セルフネグレクトのうち半数以上の方が、介護を要する認知症であることが分かっています。
認知症高齢者の日常生活自立度
ランク | 基準 |
---|---|
Ⅰ | 何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内および社会的にほぼ自立している状態 |
Ⅱa | 日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが家庭外で見られるが、誰かが注意していれば自立できる状態 |
Ⅱb | 日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが家庭内で見られても、誰かが注意していれば自立できる状態 |
Ⅲa | 日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが日中を中心に見られ、介護を必要とする状態 |
Ⅲb | 日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが夜間を中心に見られ、介護を必要とする状態 |
Ⅳ | 日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする状態 |
M | 著しい精神症状や問題行動あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする状態 |
認知症の症状については下記の記事をご覧ください。
精神的に大きなダメージを受けた
「配偶者が死別した」「家族からいじめを受けている」などの精神的ダメージが引き金となり、セルフネグレクトになる事例もあります。
「配偶者がいたからやっていた料理や家事も、自分の1人のためにはやる気が起こらない」などは誰にでも当てはまるのではないでしょうか。孤独感が増すことで、自分の生活やセルフケアに関心がなくなるのです。
なお、認知症ではなく、いつもと様子がおかしい場合は精神疾患も疑ってみてください。特に若い方のセルフネグレクトの場合は、うつ病や統合失調症、アルコール依存症など、精神疾患の可能性もあります。
経済的に生活が厳しい
経済的に困窮していることで、セルフネグレクトになる方も多い傾向です。生活に全般に対してお金を使うことがなくなった結果「食事がおろそかになる」「風呂に入らない」「住居環境を整備しない」「病院へ行かない」など生活習慣になってしまうことが予想されます。特に栄養バランスの摂れていない食事を続けることは危険です。心身ともに不健康になるリスクが高まります。
さらにもともと医療保険に未加入の方は注意が必要です。医療費が全額負担になるために、病院へ行かない状況に陥ってしまうでしょう。
実際に、原因がわからないことも多い
セルフネグレクト状態になったきっかけを内閣府が調査したところ「覚えていない・分からない」(21.5%)、「特段、きっかけはない」(15.9%)という回答が3割以上占めました。原因不明だと解決の糸口を見つけられないかもしれません。他には「疾病・入院」「家族関係のトラブル」「身内の死去」などが挙げられます。
セルフネグレクトの治し方
セルフネグレクトからの抜け出すためには、どうしたらいいのでしょうか。前述したように、セルフネグレクトにはさまざまな要因があり、状況によって解決策も異なります。
まずは本人の想いを聴く
まずは、本人とサポートする人との間に信頼関係があることが大切です。「なぜゴミを溜めてしまうのか」「介護サービスを拒否してしまうのか」など、本人の想いに耳を傾けてみてください。セルフネグレクトの方が心を開くことで、セルフネグレクトから脱却するための提案も聞き入れてくれるでしょう。
また、本人の行動や発言を否定したり、怒ったりしてはいけません。
認知症など疾患がある場合は医師に相談する
認知症や精神疾患があると分かっている場合は、医師に相談してください。認知症は完治する病気ではありませんが、進行を遅らせたり、緩和させたりすることが可能です。また、身内よりも医師などの専門家の意見の方が素直に聞くパターンもあるでしょう。
なお病院で診断を受け、相談機関で今後の生活についてどのような支援が必要か、家族を交えて話し合うことが大切です。
認知症の治療については下記の記事をご覧ください。
地域包括支援センターに相談する
公的な相談先として「地域包括支援センター」を活用してください。地域包括支援センターは全国の自治体にあり、誰でも相談できる無料の相談窓口です。地域包括支援センターを通じて、本人と介護サービスとつながるきっかけも作れます。
またセルフネグレクトの高齢者は、介護が必要な状態でありながら、要介護認定を取得していない方も多いといわれています。要介護認定の申請も地域包括支援センターが代行することも可能です。まだ申請していない方は相談してみましょう。
地域包括支援センターや要介護認定については下記の記事をご覧ください。
家事手伝い代行サービスを利用する
家事や片付けに困ったら、家事手伝い代行サービスを利用するのも一案です。「部屋がゴミだらけで片付けたい」というニーズの専門業者もあります。また料理が面倒で栄養が偏ってしまっている方は、宅配サービスを利用するのもいいでしょう。
ただし、本人が業者を利用することが嫌がる場合は信頼関係を壊すきっかけになるだけです。本人が納得したうえでサービスを利用してください。
介護サービスを利用する
介護認定が下りている方は、訪問介護や訪問入浴介護、デイサービス(通所介護)などのサービスが受けられます。介護保険を使うことで原則1割の自己負担で済むため、民間のサービスを利用するよりは安価です(収入に応じで2割、3割になることもあります)。
特に身体機能の低下によって、セルフネグレクト状態になった方には効果があるでしょう。なかにはデイサービスを利用することで1年ぶりにお風呂に入った方もいるそうです。
ただし、介護または看護のサービスしか提供しないため、食事や掃除などの家事は代行してくれません。あくまで、身の回りのお世話をし、他人との接点を作るために利用しましょう。
将来的に老人ホームや介護施設に入居することも考えるのも一案です。なお、介護のほんねには全国の老人ホームを無料で探す「入居相談室」がありますので、お困りの際はご相談ください。
訪問介護や訪問入浴介護、デイサービスについては下記の記事にて詳しく紹介しています。
セルフネグレクトのチェックリスト
セルフネグレクトのチェックリストをまとめました。セルフネグレクトであるか、または予備軍であるかを確認してください。
セルフネグレクトのチェックリスト |
---|
□ 1人暮らしである(または1人の時間が長い) |
□ 家族・友人などがいない(または遠距離) |
□ 要介護状態にあるにも関わらず介護サービスを利用しない |
□ 体調が悪くても病院を利用しない |
□ 歯の治療を放置している |
□ 福祉、保健、介護、医療関係の担当者と接触を拒否する |
□ 髪やひげ、爪が伸び放題で汚れている |
□ 金銭管理ができない(家賃の支払いを滞納するなど) |
□ 極端な節約や散財をしている |
□ 食事の栄養バランスを考えていない |
□ 薬や届けたものが放置されている |
□ 屋内や住居の外にゴミがあふれていたり、異臭がしたり、虫が湧いている状態である |
□ 昼間でも雨戸が閉まっている |
□ 部屋の中に衣類やおむつなどが散乱している |
離れている家族がいる場合は特に注意!
超高齢社会がさらに進む日本では、セルフネグレクトは深刻化すると予測できます。独居である高齢者が、家族やご近所にいらっしゃる場合は気にかけてあげましょう。
もし遠く離れている親が「セルフネグレクトかも?」と心配になった方は、孤立した生活を送っていないか、連絡してください。通常の家でも、6カ月ごみ出しをしなかった場合、すぐに部屋中がごみの山となります。定期的に自宅に訪問するなどして、様子を見ることをおすすめします。
すでにセルフネグレクトが悪化した家族がいる場合は、1人で抱え込まず、地域包括支援センターや介護サービス、民間サービスなどを活用しましょう。また近所の方はセルフネグレクトである場合も同じです。孤独死や異臭騒ぎ、火事などの事態になる前に、地域や福祉の手を借りることをおすすめします。
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この記事の寄稿者
井上
介護のほんねニュース編集部。
認知症サポーターです。介護に関する今話題のトピックや疑問を、分かりやすくお届けします。