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「認知症は一気に進む」と聞きましたが、本当なのでしょうか?

最近、父の物忘れが激しくなっている気がします。認知症は早期発見が大事で、すぐに対処しないと一気に進む、と聞いたことがあるのですが、本当なのでしょうか。

A認知症の進行が一気に進んでしまう可能性も大いにあります。しかし、全員の症状が一気に進むわけではありません。

「最近、物忘れが激しいな…もしかして認知症かしら…」と、高齢の家族や身近な人に変化が見られてきたときは認知症を疑い、不安に思うことも出てくると思います。認知症が一気に進むことがある可能性もふまえたうえで、進行を遅らせるためにはどうすべきなのでしょうか?このページでは、認知症の進行の仕方や原因、進行を遅らせるためのケアについて紹介していきます。

平栗 潤一
平栗 潤一
一般社団法人 日本介護協会 理事長

認知症の進行は人によって違う

物忘れや徘徊などの症状をひとくくりに「認知症」と呼ぶことが多いですが、実は認知症にはさまざまな種類があり、症状や原因もさまざまです。

特に「三大認知症」といわれているのは、女性の発症が多い「アルツハイマー型認知症」、男性の発症が多い「レビー小体型認知症」、脳梗塞やくも膜下出血などの脳の血管の病気によって引き起こされる「脳血管性認知症」です。

アルツハイマー型やレビー小体型の認知症は生活環境やストレス、疾患などが要因になる可能性が高いとされていますが、早期の段階からこれらの要因を変えることで進行を遅らせることもできます。

その人を取り巻く環境や性格によって認知症の症状は異なり、進行スピードも人それぞれとなります。

認知症はどのように進行するの?

認知症の進行の仕方は、種類によって異なります。「三大認知症」の進行の仕方とその特徴について見ていきましょう。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、脳の機能がゆるやかに低下していくのが特徴です。個人差はあるものの、おおむね数年~十数年で記憶力や判断力の低下、また妄想や幻覚の症状が現れます。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、症状が軽い日と重い日を繰り返しながら進行するのが特徴です。症状自体は年単位で進行しますが、日によって症状に大きな差があります。極端に調子がいいときもあれば悪いときもあるため、全体的な症状の進行度合いをつかみづらい認知症です。

脳血管性認知症

脳血管性認知症は、主に階段状に症状が進行します。ゆっくり進む場合もあります。脳の血管が詰まって一部の細胞が壊死することで起こる認知症です。そのため脳血管障害を起こすたびに神経細胞が減り、一気に悪化するというわけです。

なお、神経細胞が死んでいない部分は正常に働いているため、一部の認知機能は保たれています。問題がある脳機能とない脳機能によって進行度合いに差があることから「まだら認知症」とも呼ばれています。

認知症が進行する原因は?

認知症の進行が一気に進む人と、進行を遅らせることができる人では、一体なにが違うのでしょうか? 認知症が進行していく原因を見ていきましょう。

まず、認知症の症状には大きく「中核症状」と「周辺症状」の2つがあります。それぞれ解説しましょう。

中核症状

中核症状とは、脳の認知機能が低下することによって現れる症状のことで、大きく4つの症状があります。

  • 記憶障害
  • 見当識障害
  • 遂行機能障害
  • 失語・失行・失認

もの忘れや「今日の日付が分からなくなる」「急に電話の使い方が分からなくなる」「言葉が出てこない」などは認知症の症状としてよく挙げられます。

中核症状は、程度に差はあるものの認知症患者には必ず現れる症状とされています。完全に治すことはできず症状は重くなっていきますが、適切な治療をすれば進行を遅らせることは可能です。

周辺症状

周辺症状とは、中核症状にプラスして本人の性格や周囲の人、環境が影響して副次的に発症する症状のことです。「行動・心理症状(BPSD)」ともいわれています。

主な症状は以下の通りです。

  • 無関心
  • 不安、焦燥
  • イライラ
  • 興奮、攻撃(暴力)
  • 過食
  • 徘徊
  • 不眠

これらの周辺症状は、本人を取り巻く環境が要因となるため、環境を変えることで軽減したり消滅したりすることもあれば、さらなる症状を引き起こす恐れがあります。

中核症状とともに周辺症状を併発することで、さらに認知症の症状が進んでしまうのです。

認知症の進行を早めてしまう具体例

本人が置かれた状況や周りの人の反応が、認知症の進行に影響するとご紹介しました。

では、どのような状況が認知症の進行を早めてしまうのでしょうか?

急激な変化が起こる

生活環境が大幅に変わるなどの急激な変化が発生した場合、認知症の進行を早めてしまう可能性があります。例えば自宅から介護施設に移る、部屋の模様替えをするといったことが悪影響になることもあるため注意が必要です。

思考する機会を奪われる

人は生活のなかで常に脳を動かしています。家事1つをとっても、次にやるべき動作を考えて行動、自分で判断しながら生活をしているのです。認知症だからといって周りが過剰にサポートをしてしまうと、自分で思考して判断する能力が欠如してしまい、症状の進行を早める要因になってしまいます。

叱ったり、行動を制限したりされる

認知症が原因となって起こしたミスなどを責められると、本人が萎縮してしまい自発的に行動するのをためらってしまう可能性があります。また認知症だからといって行動を制限すると、生活が単調になって生きがいを感じられなくなる人もいます。すると、うつ病になってしまい、認知症が進むケースもあります。

認知症の進行を早めてしまう環境

次に、認知症の進行を早めてしまう環境にはどのようなものがあるのでしょうか?

認知症の発症や進行にかかわるのは大きく「生活環境」「ストレス」「疾患」の3つです。

1. 生活環境

食事や運動、睡眠など、基本的生活習慣の乱れが認知症の発症や進行につながるといわれています。

入院や住まいの変化をきっかけに、今まで自分でやっていたことをやらなくなったり、ボーっとする時間が増えたりするなどの理由で認知症が進行していくケースがあります。

また、周囲の人たちがどんなコミュニケーションを取るかも大きな要素です。認知症の症状による物忘れで、周りの人から怒られたり、面倒くさがられたりしたと感じれば、精神的に不安定になり症状の悪化につながる場合があります。

周りの人が穏やかな笑顔で接するだけで、症状が緩和される可能性もあります。本人を取り巻く生活環境は、認知症の進行スピードに大きな影響を与えるのです。

2. ストレス

精神的なストレスは認知症の進行に影響を及ぼします。認知症の初期段階では、本人も「あれ? なにかおかしいな」と違和感を覚えていることが多いです。

認知症の症状を本人の努力だけで改善しようとした結果、逆に不安や恐れ、自信喪失といったストレスを引き起こす場合があります。強いストレスは介護を拒否したり、うつ状態や徘徊、睡眠障害、幻視などの周辺症状を誘発する原因になるので注意が必要です。

また、高齢になると長年連れ添ったパートナーを失ってしまう喪失感、社会から取り残されていく孤独感を味わうこともあります。

ストレスを感じて精神状態が不安定になると、マイナスの感情がふくらみ、さらなるストレスを生むことも。そのストレスがまた不安や睡眠不足、幻視といった症状につながります。

認知症の人の生活に大きな変化や出来事があったときは注意深く様子を見守り、症状が重くならないようサポートしましょう。

認知症の進行を抑えるためのケア

現在の医療ではほとんどの認知症は完治できないとされていますが、進行を遅らせたり、周辺症状を改善したりすることはできます。

では、進行を抑えるためにはどんなケアや対応をしていけばいいのでしょうか?

1. 食生活を見直す

アルツハイマー型認知症の場合「アミロイドβ」と呼ばれる脳内物質の蓄積により、脳が徐々に破壊されていくために認知機能が低下していくとされています。

アミロイドβの蓄積を防ぐ効果が高いとされている「カテキン」「DHA」「EPA」「葉酸」「ポリフェノール」を含む食品を積極的に取り入れることで、認知症の進行を遅らせることに効果があるという研究が進んでいます。

積極的に取り入れたい食品10個

  • 緑黄色野菜
  • その他の野菜
  • ナッツ類
  • ベリー類
  • 豆類
  • 全粒穀物
  • 鶏肉
  • オリーブオイル
  • ワイン(グラス1杯程度)

控えるべき食品5個

  • 赤身の肉
  • バター
  • チーズ
  • 揚げ物
  • ファストフード

食事は毎日の生活の基本です。アルツハイマー型認知症の予防としてだけでなく、生活習慣病の予防にも効果的なので、健康的な食生活を意識していきましょう。

2. 人との関わりを多くもつ

「一人がいい」と言っている人であっても、本当に独りぼっちがいい人はいません。人間は社会的動物なので、人との関わりが大きな影響をもたらします。

一人でいる時間が長くなると、ボーっとしたり、寂しさや不安を感じたりして、認知症の症状を進行させる可能性があります。

反対に、周りの人が笑顔で明るく接してくる環境にいれば、コミュニケーションによる脳の活性化が期待できます。「楽しい」「嬉しい」といった感情や安心感を味わうことで心も落ち着き、認知症の症状を抑えるのに効果的です。

3. 適度な運動

適度に体を動かすことはとても大切です。高齢になってくると、運動機能の低下により転倒してケガをする可能性が大きくなります。骨折で動けなくなったことを機に認知症が進行してしまうケースもよく見られます。

歩行できる人の場合、週に2~3回程度、無理のない距離で散歩をするのが理想的です。体を動かすことで脳が活性化されるとともに、運動能力の衰えを阻止できます。

しかし無理な運動は疲れやケガを引き起こす恐れもありますので、気分転換に体を動かす程度の「適度な運動」を心掛けましょう。

また、車いすや寝たきり状態で歩行や運動が難しくても、体を動かすことは大切です。手をグーパー、グーパーと動かしたり、足踏みをしたり、できる範囲で体を動かすことがポイントです。

寝たきりの方の場合には、マッサージをしたり、手をにぎったりすることで、体の神経が刺激されます。家族の方に積極的に取り入れてほしいケアです。

4. 脳トレ

簡単なゲームや計算問題をすることで脳に刺激を与え、認知症の予防に効果的だと注目されているのが「脳トレ」です。

計算問題や、漢字を使った問題、間違い探しなどは1人でも楽しめる脳トレです。介護施設や病院で取り入れられている、レクリエーション型の脳トレもあります。

レクリエーション型の脳トレは、みんなで一緒に答えを考えたり、歌を歌ったりと、コミュニケーションをとりながら楽しめます。

自宅で簡単にできる脳トレもたくさんあり、認知症の進行を抑える効果も大きいとされています。毎日の生活に脳トレの時間を設け、楽しみながら脳を活性化させていきましょう。

薬による認知症の進行対策

進行を抑えるために薬の服用も効果的です。ただし、薬の服用はあくまでも進行対策であり、認知症を完全に治せるわけではありません。

早い段階できちんと医師の診断を受けて薬を服用することで、認知機能の低下を防ぎ、軽い症状に留めておく効果が期待できます。

抗認知症薬として使われる薬は主に4種類です。2種類の作用に分けられ、用途にあった薬を服用します。

意欲を向上させる効果

「ドネペジル」「ガランタミン」「リバスチグミン」には、アセチルコリンという神経伝達物質を減少させ、意欲を向上させる作用があります。

ガランタミン、リバスチグミンは、軽度~中等度の症状に効果があります。

ドネペジルは軽度~高度の症状に使用できる薬です。

心が穏やかになる効果

「メマンチン」は神経細胞の死滅を防ぐ効果をもつ薬です。心が穏やかになる作用があり、主に中等度~高度の症状に使用されます。

これら4種類の薬は、症状の種類や程度によって使い分けられます。また、メマンチンは、ほかの3種類の薬のうちの1つと併用することが可能です。

また周辺症状が激しいときには、症状を軽減させるために漢方や抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬などを使用することもあります。医師に正確な症状を伝えて適切な薬を服用し、進行を防ぎつつ安定した生活を送れるようにしましょう。

薬を服用する際には、管理に注意が必要です。薬の飲み忘れや飲みすぎは、進行を早めるなど逆効果になってしまうケースがあります。

認知症の人にとっては薬の管理が難しいので、家族やケアワーカーがこまめに確認し介助することが大切です。可能であれば、薬の服用時に家族やケアワーカーが適切な量をしっかりと飲んだことを確認することが理想的です。

しかし本人と離れて暮らしている人は、毎回薬の介助をするのが難しい場合もあります。その際はピルケースを活用しながら1回に飲む分を分かりやすく保管したり、カレンダーを使って飲んだら〇をつけたりして、正しい量を服用できるようにする配慮をしましょう。

飲み忘れや過剰摂取があった場合は早期に気づいて対処するのが大切です。2~3日に1回は、薬が正しく飲まれているかや本人の様子を確認できるのが理想です。

まとめ

認知症は進行性の症状で、進行には様々な要因があります。「認知症は一気に進む」という画一化されたものではなく、本人の精神状態や生活環境、周りの人の対応によって、その症状は大きく変わっていきます。

年をとるにつれ、誰にでも起こりうる可能性のある認知症。治らないからといって諦めるのではなく、本人が置かれている状況を周りの人がよく理解することが必要です。症状の進行を促している要因を取り除いたり、薬を服用したりすることで現状を大きく変えられます。

認知症は早期の対応が重要です。家族や身近な人の様子に違和感を覚えたり、気になる言動があったりした場合は、早めに受診しましょう。

家族が一丸となって症状の進行を抑えるための行動をとり、認知症と前向きに向き合っていくことが大切です。

平栗 潤一

この記事の監修

平栗 潤一

一般社団法人 日本介護協会 理事長

大手介護専門学校にて教職員として12年勤務し、約2000名の人材育成に関わる。その後、その経験を活かし、認知症グループホームや訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅などの介護事業や、就労継続支援B型事業所や相談支援事業所などの障がい福祉事業を運営。また一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して活動中。

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