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「認知症は一気に進む」と聞きましたが、本当なのでしょうか?

最近、父の物忘れが激しくなっている気がします。認知症は早期発見が大事で、すぐに対処しないと一気に進む、と聞いたことがあるのですが、本当なのでしょうか。

A認知症の進行が一気に進んでしまう可能性も大いにあります。しかし、全員の症状が一気に進むわけではありません。

「最近、物忘れが激しいな…もしかして認知症かしら…」と、家族や身近な人に変化が見られ、高齢になってきている場合には認知症を疑い、不安に思うことも出てくると思います。認知症が一気に進むことがある可能性もふまえたうえで、進行を遅らせるためにはどうすべきなのでしょうか?このページでは、認知症の進行する原因や進行を遅らせるためのケアについて紹介していきます。

平栗 潤一
平栗 潤一
一般社団法人 日本介護協会 理事長

認知症の進行は人によって違う

物忘れや徘徊などの行動をひとくくりに「認知症」と呼んでいることが多いですが、実は認知症にはさまざまな種類があり、症状や原因もさまざまです。

特に「三大認知症」といわれているのは、女性の発症が多い「アルツハイマー型認知症」、男性の発症が多い「レビー小体型認知症」、脳梗塞やくも膜下出血などの脳の血管の病気によって引き起こされる「脳血管性認知症」です。

アルツハイマー型やレビー小体型の認知症は生活環境やストレス、疾患などが要因になる可能性が高いとされていますが、早期の段階からこれらの要因を変えていくことで進行を遅らせる事もできます。

その人を取り巻く環境や性格によって認知症の症状は異なり、進行スピードも人それぞれとなります。

認知症が進行する原因は?

認知症の進行が一気に進む人と、進行を遅らせることができる人では、一体なにが違うのでしょうか? 認知症が進行していく原因を見ていきましょう。

まずはじめに認知症の症状は大きく2つに分かれ「中核症状」「周辺症状」があります。

中核症状

中核症状とは、脳の認知機能が低下することによって現れる症状のことで、大きく4つの症状があります。

  • 記憶障害
  • 見当識障害
  • 遂行機能障害
  • 失語・失行・失認

もの忘れや、今日の日付が分からなくなる、急に電話の使い方が分からなくなる、言葉が出てこないなど、認知症の症状としてよく挙げられる症状です。

これらの中核症状は、程度に差はありますが、認知症患者には必ず現れる症状とされており、完全に治すことはできず更に重い症状に進行していきますが、進行を遅らせることはできます。

周辺症状

周辺症状とは「行動・心理症状(BPSD)」とも言われ、中核症状にプラスして本人の性格や周囲の人、環境が影響して副次的に発症する症状のことです。

症状としては、以下があります。

  • 無関心
  • 不安、焦燥
  • イライラ
  • 興奮、攻撃(暴力)
  • 過食
  • 徘徊
  • 不眠

これらの周辺症状は、本人を取り巻く環境が要因となるため、環境を変えることで軽減したり消滅したりすることもあれば、更なる症状を引き起こす可能性もあります。

つまり中核症状とともに周辺症状の発症を併発することで、更なる中核症状の進行を早めていくのです。

認知症の進行を早めてしまう具体例

ではどのような状況で認知症の進行は進むのでしょうか。

急激な変化が起こる

生活の環境が大幅に変わるなど急激な変化が発生した際に認知症は進行をしてしまう可能性があります。例えば自宅から介護施設に移ったり、部屋の模様替えをするのが悪影響になることもあるので注意が必要です。

思考する機会を奪われる

人は生活のなかで常に脳を動かしています。家事1つをとっても、次にやるべき動作を考えて行動、自分で判断をしながら生活をしているのです。例えば認知症だからといって、周りが過剰にサポートをしてしまうと、自分で思考をして判する能力が欠如してしまい、認知症が進行する要因になってしまいます。

叱ったり、行動を制限したりする

認知症が原因となって起こしたミスなどを責められると、本人が萎縮してしまい自発的に行動するのをためらってしまう可能性があります。また認知症だからといって行動の制限をすると、生活が単調になって生きがいを感じられなくなる可能性もあるでしょう。するとうつ状態になってしまうケースもあり、認知症が進んでしまいます。

認知症の進行を早めてしまう環境

では、認知症の進行を早めてしまう「環境」とは一体どんなものが影響しているのでしょうか?

認知症の発症や進行には大きく3つの原因(生活環境、ストレス、疾患)があります。

1. 生活環境

食事や運動、睡眠など、基本的生活習慣の乱れが認知症の発症や進行につながるといわれています。

また、老人ホームへの入所や入院をきっかけに、今まで自分でやっていたことをやらなくなったり、ボーっとする時間が増えたりするなど、生活の変化によって認知症が進行していくケースもあります。

また、周りの人たちの関わりも大きく影響していきます。認知症の症状による物忘れで、周りの人から怒られたり、面倒くさがられたりといった対応を感じれば、精神の不安定さを引き起こして更なる症状につながる可能性があります。

周りの人が穏やかな笑顔で接するだけで、症状が緩和される可能性もあります。本人を取り巻く生活環境は大きな影響となるのです。

2.ストレス

精神的なストレスは認知症の進行に大きな原因となることが多いです。認知症の初期段階では、本人自身も「あれ?なんかおかしいな」と違和感を感じていることが多いです。

本人の性格や今までの経験などから、なんとか今の状況を改善し適応しようとした結果、不安や恐れ、自信喪失などの心理的なストレスを引き起こすことになります。

そのため介護拒否をしたり、うつ状態や徘徊、睡眠障害、幻視など、更なる周辺症状を引き起こしたりしてしまい、認知症を進行させる原因となってしまうのです。

また、高齢になると長年連れ添ったパートナーを失ってしまう経験や、社会から取り残されていく感覚になり、このような出来事が大きなストレスとなることもあります。

ストレスを感じると精神状態が不安定になり、マイナスな感情が大きくなっていくため、不安や睡眠不足、幻視などの症状を引き起こす大きな原因となります。

生活の中で大きな変化や出来事があった時には特に気を付けて様子を見守り、認知症の症状が重くならないよう気をつけていく必要があります。

認知症の進行を抑えるためのケア

認知症を発症した場合は完全に治すことはできないとされていますが、進行を遅らせたり、周辺症状に関しては症状を無くしたりすることもできます。

では、進行を抑えるためにはどんなケアや対応をしていけばいいのでしょうか?

1.食生活を見直す

アルツハイマー型認知症の場合「アミロイドβ」と呼ばれる脳内物質の蓄積により、脳が徐々に破壊されていくために認知機能が低下していくとされています。

アミロイドβの蓄積を防ぐ効果が高いとされている「カテキン」「DHA」「EPA」「葉酸」「ポリフェノール」を含む食品を積極的に取り入れることで、認知症の進行を遅らせることに効果があるという研究が進んでいます。

積極的に取り入れたい食品10個

  • 緑黄色野菜
  • その他の野菜
  • ナッツ類
  • ベリー類
  • 豆類
  • 全粒穀物
  • 鶏肉
  • オリーブオイル
  • ワイン(グラス1杯程度)

控えるべき食品5個

  • 赤みの肉
  • バター
  • チーズ
  • 揚げ物
  • ファストフード

食事は毎日の生活の基本です。アルツハイマー型認知症の予防としてだけでなく、生活習慣病の予防にも効果的なので、健康的な食生活を意識していきましょう。

2.人との関わりを多くもつ

「一人がいい」と言っている人であっても、本当に独りぼっちがいい人はいません。人間は社会的動物なので、人との関りが大きな影響をもたらします。

一人でいる時間が長くなると、ボーっとしたり、寂しさや不安によって認知症の症状を進行したりする原因となります。

反対に、周りの人が笑顔で明るく接する環境にいれば、コミュニケーションをとることで脳が活性化されたり、「楽しい」や「嬉しい」といった感情や安心感などから心も落ち着き、認知症の症状を抑えたりすることができます。

3.適度な運動

適度に体を動かすことはとても大切です。高齢になってくると、運動機能が低下して転倒によるケガをする可能性が大きくなります。骨折をして動かなくなったことをきっかけに認知症が進行してしまうケースもよく見られます。

歩行ができる人の場合、週に2~3回程度、無理のない距離で散歩をすることが理想的です。体を動かすことで脳が活性化されると共に、運動能力の衰えを阻止することもできます。

しかし、無理な運動は疲れやケガを引き起こす可能性もありますので、気分転換に体を動かす程度の「適度な運動」を心掛けましょう。

また、車いすや寝たきりなど、歩行や運動が難しい場合でも、体を動かすことは大切です。手をグーパー、グーパーと動かしたり、足踏みをしたり、可能な限りで体を動かすことがポイントです。

寝たきりの場合には、マッサージをしたり、手をにぎったりすることで、体の神経が刺激されるので、家族の方に積極的に取り入れてほしいケアです。

4.脳トレ

簡単なゲームや計算問題をしたり、考えたり、発言することによって脳に刺激を与え、認知症の予防に効果的だと注目されているのが「脳トレ」です。

脳トレは一人でも楽しむことができる計算問題や、漢字を使った問題、間違い探しなどの他に、介護施設や病院でも取り入れられている、レクリエーション型の脳トレもありあます。

レクリエーション型の脳トレは、みんなで一緒に答えを考えたり、歌を歌ったりと、コミュニケーションをとりながら楽しめるため、高齢者から大人気です。

自宅で簡単にできる脳トレもたくさんあり、認知症の進行を抑える効果も大きいとされています。毎日の生活に脳トレの時間を設け、楽しみながら脳を活性化させていきましょう。

薬による認知症の進行対策

進行を抑えるために薬の服用も効果的です。薬の服用はあくまでも進行対策であり、認知症の症状を完全に治すことができるわけではありません。

早い段階できちんと医師の診断を受けて薬を服用することで、認知機能の低下を防ぎ、軽い症状に留めておく効果が期待できます。

抗認知症薬として主に4つの薬が使用されます。中でも2種類の作用に分けられ、用途にあった薬を服用します。

意欲を向上させる効果

ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンには、アセチルコリンという神経伝達物質を減少させ、意欲を向上させる作用があります。

ガランタミン、リバスチグミンは、軽度~中等度の症状に効果があります、

ドネペジルは軽度、中等度、高度の症状にも使用することができる薬です。

心が穏やかになる効果

メマンチンという薬には、神経細胞の死滅を防ぐことに効果的で、心が穏やかになる作用があり、中等度~高度の症状に使用することが多いです。

これら4種類の薬が認知症の進行を抑えるのに効果的とされ、症状の進行程度により使いわけられます。また、メマンチンは、その他3種類の薬のうちの1つと併用して服用することもあります。

また周辺症状が激しいときには、症状を軽減させるために漢方や抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬などを使用することもあります。

医師に正確な症状を伝えてしっかりと相談しながら、適切な薬を服用することで進行を防ぎ、安定した生活を送れるようにしましょう。

薬の服用については注意すべき点として、薬の管理があります。

進行を抑えるのに効果的な薬ですが、飲み忘れや多く服用してしまう可能性もあり、その場合には進行を早めたりと、逆効果になってしまうケースもあります。

高齢者にとっては薬の管理が難しいので、家族やケアワーカーがこまめに確認し介助することが大切です。

介助の際のポイントとしては、可能であれば薬の服用時には家族やケアワーカーが適切な量をしっかりと飲んだことを確認することが理想的です。

しかしながら、本人と離れて暮らしている場合には毎回薬の時間に介助することが難しい場合もありますよね。そんな時には、ピルケースを活用しながら1回に飲む分を分かりやすく保管したり、カレンダーを使って飲んだら〇をつけたりして、正しい量を服用できるよにする配慮が大切です。

飲み忘れや過剰摂取があった場合には早期に気づいて対処することが大切なので、2日~3日に1回は、薬が正しく飲まれているかや本人の様子を確認するようにしていきましょう。

まとめ

認知症は進行性の病気で、進行には様々な要因があります。「認知症は一気に進む」という画一化されたものではなく、本人の精神状態や生活環境、周りの人の対応によって、その症状は大きく変わっていきます。

年をとるにつれ、誰にでも起こりうる可能性のある認知症。本人だけではどうすることもできず、周りの人のサポートがとても重要になってきます。

治らないからといって諦めるのではなく、本人の状況をしっかりと理解し、進行を促している要因や環境を取り除いてあげたり、薬を服用したりすることで現状を大きく変えることができます。

認知症は早期の対応が必要不可欠です。家族や身近な人の様子に違和感を感じたり、気になる様子があったりする場合には、早めに受診しましょう。

家族が一丸となって症状の進行を抑えるための行動をとり、認知症と前向きに向き合っていくことが大切です。

平栗 潤一

この記事の監修

平栗 潤一

一般社団法人 日本介護協会 理事長

大手介護専門学校にて12年で約2,000名の人材育成に関わり、その後、人材定着に悩む介護事業所の人材育成や運営支援を実施。2020年4月からは一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して介護甲子園を主催している。

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