血管性認知症とは|症状・進行の仕方・治療方法などを紹介
認知症にはいくつか種類があり、最も多い認知症と言われているのがアルツハイマー型認知症、次いで多いとされているのが血管性認知症です。
「家族が脳梗塞になってしまった」「または血管性認知症の症状が見られる」といった場合、どのように対応していけばいいのか分からない人も多いでしょう。今回は血管性認知症の症状や進行について、また治療方法などについてご紹介します。家族としてどのように向き合っていけばいいのか考えながら、ぜひ参考にしてみてください。
大手介護専門学校にて12年で約2,000名の人材育成に関わり、その後、人材定着に悩む介護事業所の人材育成や運営支援を実施。2020年4月からは一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して介護甲子園を主催している。
血管性認知症とは
血管性認知症は、アルツハイマー型認知症に次いで2番目に多いとされている認知症です。血管性認知症の発症原因となるのは脳血管障害となります。そのため、交通事故などによる後遺症や生活習慣が乱れてしまうことによる脳血管障害が原因に挙げられます。
では、アルツハイマー型認知症と異なり、血管性認知症にはどのような特徴があるのか詳しくご紹介していきます。
血管性認知症の特徴とは
血管性認知症の特徴としては、アルツハイマー型認知症と比較すると女性より男性の割合が高いことが挙げられます。その数は、約2倍にも上るとされています。
脳血管障害が原因とされているので、もちろん高齢者だけでなく若い年齢の人でも血管性認知症は起こりえます。しかし、若い年齢の人の場合、認知症のような症状を発症してしまうこともありますが、血管性認知症とはならず高次脳機能障害と診断されることが多いです。
血管性認知症と高次脳機能障害の違いとしては、高次脳機能障害は進行することなく回復も見込めますが、血管性認知症は回復することはほぼなく徐々に進行してしまうことが特徴となります。
血管性認知症になる危険因子(原因)は脳血管障害
血管性認知症になる危険因子は脳血管障害です。そもそも、脳血管障害とは一体どのような状態を指すのでしょうか。
脳血管障害とは
脳血管障害とは、その名の通り脳の血管に何らかの障害が生じてしまうことを指します。例えば、脳の血管が破れてしまったり、詰まってしまったりすることで急性的、もしくは慢性的に脳の一部分に血流が回らなくなってしまうのです。その結果、脳の機能が低下してしまい認知症を発症してしまうことがあります。
脳に血流が回らなくなっただけでそこまでの機能障害になるのかと考えますが、脳細胞は酸素が不足したり栄養が不足したりする事態に非常に弱く、少しでも血流に障害が出てしまうとその先の脳細胞が次々と死滅してしまいます。これにより、脳血管障害が引き起こされるのです。
脳の血管が破れてしまう脳内出血、くも膜下という脳を覆っている箇所で出血してしまうくも膜下出血、脳の血管が詰まってしまう脳梗塞などが脳血管障害の中でも有名でしょう。この中でも脳の血管が詰まってしまう脳梗塞による脳血管障害の割合が高くなっています。
脳梗塞の原因には、日々の生活習慣が大きく影響しています。いわゆる生活習慣病が脳梗塞を引き起こす要因となり、さらに脳梗塞となってしまうと血管性認知症の原因になってしまうのです。
脳血管障害の危険因子は日ごろの生活にあり
血管性認知症の直接的な原因は脳血管障害です。前述した脳梗塞や脳内出血、くも膜下出血などの疾患を予防するためには日ごろの生活スタイルを見直す必要があります。
これらの脳血管障害の直接的な原因となるのは高血圧や高脂血症、糖尿病といった生活習慣病のほか、運動不足や肥満、飲酒、喫煙などがあるのです。つまりこれらの生活習慣の乱れによって発症する疾患は血管性認知症の間接的な原因になります。
生活習慣の改善が血管性認知症の予防に
このような悪循環を予防するためには、日々の生活習慣から見直さなければなりません。高血圧や脂質異常症、糖尿病は心臓や血管への負担が強く動脈硬化を引き起こす原因となり、さらに血管を詰まらせてしまうことにもつながります。
適度な運動や栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。また定期的に健康診断を受けることで、生活習慣病にいちはやく気づくことができ、結果的には血管性認知症の予防にもつながります
血管性認知症の症状
血管性認知症の場合は「どこで脳血管障害が生じたか」に着目することが必要です。発生箇所によって脳細胞の死滅部位が異なるため、できること・できないことが変わってきます。また、認知症の症状の前に運動麻痺や知覚麻痺、言語障害を伴うことがほとんどで多様な症状が見られることも血管性認知症の特徴となります。
認知症はそれぞれ名前が異なる通り、その病態や進行、症状なども異なることがあります。血管性認知症の症状は一体どのような症状なのか、ここからはご紹介してきましょう。
失行
失行とは、日常的な行動ができなくなることを指しています。特に運動機能に問題がないにも関わらず、これまでできていた簡単な日常生活動作が一部できなくなってしまうのです。例としては、シャツのボタンを留められない、袖を通すことがうまくできない、ズボンを下ろせないなどが挙げられます。
失認
失認とは、物があることは理解できても意味のある対象として認識できないことを言います。脳血管障害が起きて目や耳に問題が生じなかった場合でも起こり得る症状です。
例としては、水が入っているコップが目の前にあってもそれが飲み物を飲むものだと認識できない、視野の中にあるものでも認識できていないため目の前に食事が置いてあっても残してしまうことなどがあります。
失語
脳血管障害による言語障害が生じていないにも関わらず、言葉を話すことができない、話を聞くことができない(聞こえていても内容の理解ができない)、読んだり書いたりすることができないといった失語が現れることもあります。失語には感覚性失語と運動性失語がありますが、このどちらも生じる可能性があるのです。
症状の変動が非常に大きいことが特徴
失行・失認・失語はそれぞれ、これまで当たり前にできていたことでもあります。自分自身できないと認識はできるものの、これまで当たり前にできていたことができなくなってしまうので、苛立ったり混乱してしまったり、不安を覚えることもあるでしょう。
これらの症状は変動が大きい点も特徴的です。1日の中でも症状が激しく見られる時もあれば、穏やかな時もあります。体調によってできたりできなかったりする時もあるので、注意が必要です。
血管性認知症は段階的に進行する
血管性認知症は老化で引き起こる物忘れとは違い、段階的な進行が見られます。あくまで脳血管が詰まったり破れたりすることで症状が見られるようになるため、また新たに詰まりや破損が生じると血管性認知症の症状も悪化します。例えば、昨日までできていたことが、今日突然できなくなることもあります。
血管性認知症の進行はほとんどが段階的ですが、場合によっては老化で引き起こる物忘れと同じように、緩やかな進行で症状が現れることもあります。これは、脳血管の中でも細い血管が徐々に詰まっていくタイプに見られる進行です。
また、血管性認知症の特徴の1つとして、症状が安定しやすい中期以降は脳血管障害の再発や転倒などの大きな事故による寝たきりが防げれば、ある程度の症状悪化を防げることが挙げられます。再発防止はもちろん、麻痺や身体状態の衰えが原因で起こる転倒を回避するための治療が非常に重要です。
それでも高齢期ということもあり、一度脳血管障害を発症すると微小な梗塞が自覚症状もないまま増えていき、少しずつ機能低下を示していく場合もあります。すべて改善することは難しくても進行の程度を抑えられるようにすることも大切です。
血管性認知症の治療法
血管性認知症は脳血管障害が発生し、認知機能による部位の損傷と認知症症状が発症した場合に診断されます。治療では認知症同様に根本的治療は難しいものの、脳細胞は死滅した細胞の代わりに機能することもあるため、治療を進めていけば段階的な進行を抑えることも可能です。
重要なのは脳血管障害の再発防止と、転倒・肺炎などの予防につながるリハビリテーションです。脳血管障害が再発すると急激な症状悪化につながる可能性が高いですし、転倒・肺炎などによって寝たきり状態になるとリハビリも難しく、症状悪化も考えられます。血管性認知症の治療では、こうした再発防止とリハビリテーションをうまく組み合わせながら、機能回復・維持を目指していきます。
投薬治療
投薬治療では主に脳血管障害の再発を予防するための薬を処方していきます。脳血管障害の再発予防には血圧管理が欠かせません。高血圧は血管機能に大きく負担をかけてしまうため、アデノシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、Ca拮抗薬などといった降圧薬が処方されることもあります。
Ca拮抗薬が処方された場合、一緒にグレープフルーツを食べてしまうと薬の働きが強くなってしまい、血圧が下がりすぎて心拍数の増加や頭痛、ふらつき、顔のほてりといった副作用が出ることもあります。特にカルブロック錠やアテレック錠などが処方された場合は注意してください。
なお、グレープフルーツは摂取してから24時間程度も影響が続くと言われています。そのため、治療中はグレープフルーツの摂取を避けたほうが良いでしょう。また、最近ではグレープフルーツ以外の柑橘(はっさく、ぶんたん、だいだい、ポンカン、いよかん、夏みかん)も影響を及ぼすとされているので気を付けましょう。
投薬治療では降圧薬の他にも、対症療法として抗うつ剤などが処方されることもあります。これは、認知症の初期症状が現れ始め、自覚してから抑うつ状態になりやすいためです。
リハビリによる治療
さまざまな症状を併発する可能性も高い血管性認知症は、身体的・精神的に機能の改善・維持を目指してリハビリテーションを実施します。運動機能や言語機能、嚥下機能に対するリハビリが中心です。
リハビリの内容は症状や状態によっても異なり、その人に合ったものを取り入れていきます。特に血管性認知症では歩行障害・手足のしびれ・片麻痺などの症状も現れやすいため、運動機能のリハビリは欠かせません。通所リハビリ・訪問リハビリを利用するのも良いですし、日常生活の中で取り組めそうな家事や趣味を始められるようにアドバイスをもらうのも良いでしょう。
環境づくり
血管性認知症の進行を防ぐには、転倒防止を防ぐことも重要となります。そのための運動機能を改善・維持させるリハビリも必要ですが、転倒しないための環境づくりも大切です。
例えば、自宅に段差がたくさんあったり部屋が2階にあったりすると転倒リスクも増えてしまうでしょう。バリアフリー化させるリフォームもぜひ検討されてみてはいかがでしょうか?全体をリフォームさせるのは難しくても、手すりを付けるだけでも転倒リスクは軽減されます。
また、福祉用具の活用も考えてみましょう。歩行器や歩行補助つえなどは自力で歩行するのが難しい人に適した福祉用具です。福祉用具のレンタルは介護保険の居宅サービスの1つとして利用できるので、要介護認定を受けている人はぜひ利用してみてください。
家族は本人にどんな対応を取るべきか?
血管性認知症はある日脳血管障害の発症によって突然引き起こされるものです。家族が混乱してしまうのは当然ですが、本人もなぜこうなってしまったのか混乱し、苦しみを抱えてしまうことになります。治療しても改善されない失望感から抑うつ状態になったり、精神的な病であるセルフネグレクトを併発したりする場合もあるでしょう。
家族は本人に対してできないことを責めてしまうことがあるかもしれませんが、本人もできないことに戸惑い、苦しんでいるので共感してあげることが大切です。また、認知症症状によりコミュニケーションがうまく取れなかったり、状況に対して感情がうまくコントロールできなかったりすること(感情失禁)もありますが、理解してあげましょう。
むしろ家族が少しだけ介助をして「自分でもできた」という気持ちを持たせてあげると、感情失禁などの症状が抑えられる場合もあります。まずは家族で血管性認知症を理解し、サポートしてあげるようにしましょう。
ただし、サポートをしすぎてしまうのも良いものではありません。例えば家事をすべて家族が代わりにやってあげると、本人は何もすることがなくなってしまい、意欲の低下につながってしまいます。何かできることを役割として与えるだけで、意欲の向上につながるでしょう。
認知症ケアについて知りたい方は、以下の記事をご参考ください。
血管性認知症は再発予防が重要
血管性認知症は脳血管障害によって引き起こされる認知症です。認知症というとアルツハイマー型がイメージされますが、血管性認知症もさまざまな症状が現れ、本人も突然の症状に驚き、苦しんでしまうケースが多く見られます。
血管性認知症を完全に治療することは難しいですが、進行を遅くすることは可能です。特に脳血管障害の再発を予防し、リハビリを続けて機能回復・維持を目指すことが重要なポイントになってくるでしょう。もし家族が脳梗塞などの脳血管障害になってしまい、認知症症状が現れるようになった場合は、今回ご紹介した内容を参考に環境づくりや本人への対応を考えてみてください。
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この記事のまとめ
- 血管性認知症は脳血管障害が原因で表れ、男性に多く見られる病気
- 失行・失認・失語などの症状が見られる
- 治療は脳血管障害の再発予防とリハビリテーションが中心
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