正しい認知症ケアとは|基本の考え方・家族が知っておきたい9大法則など
認知症は、誰にでも発症する可能性のある病気です。もしも家族に認知症の症状が見られ始めたとき、どんなケアをするべきなのか知っておくことで介護の負担を軽減できます。
この記事では、認知症ケアの基本的な考え方を紹介します。さらに、認知症を理解し穏やかな生活を過ごすために知っておきたい「認知症の9大法則と1原則」と、それぞれの症状に対するケアの方法を説明していきます。
大手介護専門学校にて教職員として12年勤務し、約2000名の人材育成に関わる。その後、その経験を活かし、認知症グループホームや訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅などの介護事業や、就労継続支援B型事業所や相談支援事業所などの障がい福祉事業を運営。また一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して活動中。
介護する側にとっても負担が大きい認知症
認知症とは、さまざまな疾患などによって脳の認知機能に障害が生じ、日常生活に支障をきたす状態のことです。原因によって認知症の種類も異なり、幅広い症状が現れます。
認知症には完全な予防策や治療法がありません。そのため誰でも発症する可能性があるのです。
認知症が進行すると、普段の生活のあらゆる場面で介護が必要になります。毎日の生活がスムーズに送れないことは、認知症の本人にとってはもちろん、世話をする家族や周囲の方にとっても大きな負担です。
完治が難しい病気だからこそ、認知症に対する理解を深めて少しでもケアの負担を軽くすることが大切といえます。
認知症について詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
認知症ケアの基本的な考え方とは
認知症の方へのケアで一番大切なことは「尊厳の保持」です。さまざまなことを忘れていき、日常生活のサポートが必要となっていく認知症患者は、周りからの理解が得られずに人としての尊厳が失われていく状況に陥ることがあります。
「尊厳の保持」というと少しイメージしにくいかもしれませんが「認知症の方も健常者と同様に、人権を守られるべきである」ということです。
例えば、トイレの場所が分からなくなって失禁が増えたとします。本人や他の人の前で「最近、失禁ばかりで本当に処理が大変! ちゃんとトイレでしてほしいわ」などと言われたら、恥ずかしい気持ちになるのはもちろん、自尊心も傷つくでしょう。
家族にとっては「すぐ忘れる」と思って言ってしまった言葉でも、本人には感情としていつまでも心に残るのです。さらに、傷ついた心は更なる症状(周辺症状)を引き起こしていきます。
では一体、尊厳を保持するためにはどのようなことに気を付けるべきなのでしょうか。
ここでは、認知症患者の尊厳を守るための「4つの基本的理念」を紹介します。一つ一つを理解して正しいケアと関わりをすることが、認知症患者の尊厳を守るために大切です。
心のケア
認知症は精神状態によってさまざまな症状を発症するため、生活や行動など全てにおいて心のケアが大切です。
異常と思われる行動にも本人なりの考えがあり、不安や寂しさ、焦りなどから様々な行動をとるようになります。
起きている状況や行動を否定することや、抑制しようとしたり怒ったりすることは、更なる精神的負担をかけることになります。まずは、認知症の症状であることを理解し、本人の気持ちをしっかりと受けとめて寄り添っていくことが大切です。
関係性の重視
関係性とは、家族や長年過ごした住居、町など、本人に関係する環境のことを示します。
認知症の方にとって環境の変化は、大きな不安やストレスとなります。家族と過ごしたいと思っている本人の気持ちを無視して入院を勧めることや、落ち着く自宅を離れて施設に入ることなど、本人の納得なしに家族の都合で環境を変えることは極力避けるべきです。本人の関係性を守ることを優先しましょう。
継続性と専門性の重要性
認知症は進行性の病気です。精神状態や環境によって状態は変化していき、継続的なケアが必要となります。また、一つ一つの症状によって対応も異なり、専門的なケアが必要となる事も多いです。
医療機関や専門的なサポートを利用しながら、適切なケアをしていくことが重要です。
権利擁護の必要性
高齢者本人の意思を代弁することが必要です。判断能力の低下により金銭的な権利をのっとられてしまう場合や、悪徳商法の被害にあう可能性も多くあります。
判断できない本人の代わりに法律的に保護や支援をおこなったり、福祉サービスの利用援助をしたりして、本人が持つ権利を守る必要性があります。
認知症をよく理解するための9大法則・1原則
認知症の方の介護の難点は、症状に対する理解や対応が難しいことです。そんな認知症を理解してうまく向き合っていくために、「認知症をよく理解するための9大法則・1原則」を紹介します。
記憶障害に関する法則
記憶障害には3種類あります。
1つ目は記銘力低下、つまり直近のことが覚えられないことです。数分前に話したことや見たもの、おこなったことを忘れてしまうため、同じことを何度も繰り返してしまいます。
2つ目は全体記憶の障害です。体験したこと全てを忘れてしまいます。
3つ目は、記憶の逆行性喪失です。新しい記憶からどんどん忘れていき、記憶が過去に戻っていくのが特徴です。
記憶障害に関して知っておきたい重要なことは、認知症の方は行動や体験したこと自体を忘れてしまうということです。さらに、失った記憶は本人にとっては事実ではなくなることがあります。
つまり「周囲の人からしたら紛れもない事実だとしても、本人の認識からは消えていて事実ではない場合がある」ということを覚えておくようにしましょう。
症状の出現強度に関する法則
家族や介護サポートをしてくれる人など、身近な人に対して認知症の症状がより強く出ることがあります。
たまにしか会わない医師や頻繁に介護をしていない家族には症状が軽く見えるのは、出現強度に関する法則によるものです。
自己有利の法則
認知症の方は、自分に不利なことは認めません。強情になり、自分の意見を貫きとおそうとするのも大きな特徴です。
自分を守るために嘘や言い訳をすることも多い一方で、認知機能の低下により嘘を嘘と感じていないことも多々あります。
まだら症状の法則
認知症の症状は、出たり出なかったりする場合があるということを知っておきましょう。このようなまだら症状は、認知症の初期段階から末期まで通してみられます。
感情残像の法則
起きた出来事に関する記憶は忘れてしまっても、その時の感情だけはしばらくの間残り続けるということです。
ネガティブな感情ばかりが積み重なっていくと、不満や不快感ばかりがどんどん残ってしまいます。逆にポジティブな感情がたくさん残れば、関係性も良くなり、円滑な介護が可能となります。
こだわりの法則
こだわりが強くなり、他人の意見を受け入れなくなるのも認知症の症状の特徴です。説得しようとしたり、否定したりすることは逆効果で、更に強情さを増加させてしまいます。
危険な行為でなければそのまま様子を見守ったり、他のことに誘い興味をそらしたり、本人が納得してこだわりから抜け出せるようにすることが大切です。
作用・反作用の法則
認知症の方は、周りの人の空気を感じ取ります。介護者がイライラすれば、その感情を感じ取り本人にもうつってしまうために悪循環となります。
また、本人のためによかれと思ってやっている事に対して、強く嫌がる反応が見られた時には、それだけ本人がその行為を苦痛だと感じている証拠です。気持ちをうまく言葉で伝えられなくても、反応を見れば気持ちを汲み取ることができます。
認知症症状の了解可能性に関する法則
認知症の症状については、全てにおいて理解や説明ができるとされています。
衰弱の進行に関する法則
認知症の方は、認知症になっていない人より約3倍のスピードで老化していきます。聖マリアンナ医大長谷川名誉教授によると、認知症高齢者の4年後の死亡率は83.2%で、健常高齢者の死亡率28.4%と比べると約3倍であることが報告されています。
介護に関する原則
認知症の方にはその人なりの世界があり、その世界と現実の中を行き来しながら生活をしています。介護をするうえで、その人の世界観を認め、無理に現実に引き戻そうとしないことが原則です。
認知症の対応とケアのポイント
家族や周りの介護者は、認知症の9大法則と1原則を理解したうえで認知症の方と関わり、サポートしていくことが必要とされます。
それぞれの法則に基づき、どのようにケアをしていけばよいのかを紹介していきます。
記憶障害へのケア
怒ったり否定したりせずに接することが、大切です。
ひどいもの忘れは、脳の機能の低下によって起こる症状です。そのため、忘れたことに対して怒っても仕方がないのです。本人は覚えていないので、どうして怒られているのかも分からなければ、怒られたからといって数分前にやったことを思い出すこともありません。
症状の出現強度へのケア
「家族なのに…」「こんなに一生懸命介護しているのに...」と悲しい気持ちになってしまうこともあると思いますが、身近な「家族だからこそ」症状が強く出てしまうのです。「家族だからこそ理解してほしい、分かってほしい、助けてほしい」と感じていることを受け止めてあげましょう。
そして、症状が強く見えるのはあなたがしっかりと向き合って介護をしている証拠なのです。介護していない人からの見え方と介護をしている人からの見え方は、違って当然です。
自己有利へのケア
間違いを間違いと指摘しても納得しませんので「分かりました」「そうですね」と受け止めてあげることで心も落ち着き、衝突を防ぐことができます。
認知機能が低下して正しい判断ができない状態ですので、腹が立つこともあると思います。しかし、認知症の症状による言動だということを理解し、言い争わずに対応していきましょう。
まだら症状へのケア
認知症の症状が出たり出なかったりすると悩んでしまい、ついつい様子をみるという対応を選択しがちです。しかし、症状が見られた時には、加齢による症状ではなく、認知症による症状だと捉えて早期から対応していくようにしましょう。
感情残像へのケア
嫌な感情だけがつのっていくと不信感がうまれ、関係性を悪くしてしまう可能性もあります。楽しい気持ちや嬉しい気持ちを増やしていくように心がけていくことが大切です。
こだわりへのケア
危険な行為でなければそのまま様子を見守ったり、他のことに誘って興味をそらしたりして、本人が納得してこだわりから抜け出せるようにすることが大切です。
無理にこだわりから離そうとしたり、介護者の考えを押し付けたりすると、更なる反発を生み、不信感が増えていきます。認知症の方にはその方なりの強い世界があります。その世界観を尊重しながらスムーズに他のことへ誘導するようにしましょう。
作用・反作用へのケア
認知症の方は、自分の鏡だと思ってください。強く対応すれば強い反応が返ってきます。その反対に、穏やかな対応をすれば穏やかな反応が返ってきます。
認知症の方の心が荒れているなと感じる時には、まずは自分自身の気持ちや行動と向き合ってみることで落ち着く場合があります。介護者にとっての考え方と、本人にとっての考え方は別物である事を忘れないようにしましょう。
了解可能性へのケア
認知症の方の行動や言動には理由があります。その理由が何なのか、どんな背景によってその症状が引き起こされているのかを理解していくことが、最適な対応方法のヒントとなるでしょう。
まずは、現在起きている症状だけに目を向けるのではなく、その症状を引き起こしている原因を知るようにしていきましょう。
衰弱の進行に関する身体的なケア
介護の初期段階では元気であっても、その状態がいつまでも続くとは限らないということをしっかりと理解しましょう。
生活リズムを整え、可能であれば2~3日に1回は散歩ができると良いですが、足腰が弱い場合には、座ったままできる体操やマッサージを行うことが有効的です。また、脳トレで脳に刺激を与えたり、手指を動かす動作を頻繁に取り入れたりすることも大切です。
認知症への理解を深めて正しいケアを
認知症は誰でも発症する可能性のある病気です。脳の機能低下が原因で中核症状を発症し、そこから様々な要因が混ざり合って周辺症状を引き起こします。
症状は人それぞれ異なり、対応の仕方に苦労する介護者は数多くいます。一生懸命介護をしてもうまくいかず精神的に疲労してしまう事も多く、認知症のケアは大きな問題でもあります。
「認知症をよく理解するための9大法則・1原則」を理解することで、「認知症の症状だから仕方ない」「こんなもんなんだ」と捉えることができ、ストレスをため込みすぎずに認知症の方と関わっていくことができるでしょう。
そして、症状や対応について困っている場合には一人で抱え込まずに、医師や専門機関、認知症ケア専門士に相談するようにしましょう。
少しでも認知症の方とその家族が穏やかな日々を過ごせるよう、認知症への理解を深めていただけますと幸いです。
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この記事のまとめ
- 認知症は身体だけでなく心にも大きな影響をもたらす
- 「認知症の9大法則と1原則」の10項目を守ることが大切
- 一人ひとりが認知症への理解を深めることを意識する
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