中核症状とは|認知症の症状の内容・周辺症状(BPSD)との違い・本人への対応方法など

認知症には中核症状周辺症状(BPSD)があります。中核症状とは脳細胞が破壊されることで現れる症状であり、記憶障害や見当識障害などの症状が代表的です。周辺症状(BPSD)は中核症状によって引き起こされる症状になります。

ひとくくりに「認知症」と呼んでいますが、実は認知症にもさまざまな症状があります。「中核症状ってなんだろう」「BPSDとは何が違うんだろう」などと疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

この記事では、認知症の中核症状と周辺症状(BPSD)の違いや、それぞれどのような症状が見られるのかを具体的に説明していきます。

中核症状とは|認知症の症状の内容・周辺症状(BPSD)との違い・本人への対応方法など
平栗 潤一

この記事の監修

平栗 潤一

一般社団法人 日本介護協会 理事長

大手介護専門学校にて教職員として12年勤務し、約2000名の人材育成に関わる。その後、その経験を活かし、認知症グループホームや訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅などの介護事業や、就労継続支援B型事業所や相談支援事業所などの障がい福祉事業を運営。また一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して活動中。

認知症は大きく分けて中核症状と周辺症状(BPSD)の2種類

認知症の症状は、「中核症状」と「周辺症状(BPSD)」の2つの区分に分けられます。

脳の病的な変化や障害によって、脳の細胞が破壊されることが原因で現れる症状が「中核症状」です。さらに中核症状の影響で現れる広い範囲の症状が「周辺症状」になります。「周辺症状」は「BPSD」や「行動・心理症状」と呼ばれることもあります。

認知症の中核症状と周辺症状(BPSD)

認知症全般について知りたい方は以下の記事をご覧ください。

中核症状とは?

中核症状は、大脳皮質の破壊により発症する進行性の症状です。完全に治すことはできないとされていますが、薬の服用や生活環境、周りの人の対応によって進行を遅らせることはできます。

中核症状には、どのような症状があるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

認知症の中核症状

記憶障害

認知症の代表的な症状が「記憶障害」です。大脳皮質の破壊により、早期の段階から症状が見られ始めます。

主な症状に以下のようなものがあります。

  • もの忘れ
  • 少し前の出来事が思い出せない
  • 知っている事や知っている人の名前が思い出せない

見当識障害

曜日や時間、季節、場所、人物など、自分を取り巻く状況が分からなくなり、把握できなくなる見当識に起きる症状です。

具体的には以下の行動が見られます。

  • 遅刻が多くなる
  • ゴミ出しの曜日を頻繁に間違える
  • 約束の日を守れなくなる(病院の受診など)
  • 冬なのに半袖で外に出ようとする
  • いつものスーパーへの道が分からなくなり迷子になる
  • 自宅のトイレの場所を忘れて失禁してしまう
  • 家族に対して初めて会う人のように接する

理解・判断力の障害

脳の機能の低下により、状況や言葉の理解と判断ができなくなることがあります。考えればすぐに分かることであっても、いつもと少しでも違ったり目に見えて分からなかったりすると、混乱して分からなくなってしまいます。

また理解力が低下することで、あいまいな表現では意図が伝わらない場合も多いのが特徴です。

次のようなことが起こりやすくなります。

  • 駅の改札をどう通ればいいか分からない
  • 「寒いから気を付けて」と言われても、どうしたらいいか分からない

実行機能障害

遂行機能障害とも呼ばれ、計画を立てて行動を実行したり、効率よく対応したりする能力が低下していきます。

  • お米を炊いている間におかずを作れない
  • 献立を考えてから買い物に行くことができない
  • いつものお店が閉まっているとどうしたらいいか分からなくなる

など、効率を考えることや、突然の出来事などに対して少し考えれば分かることが分からなくなってしまう症状です。

視空間認知障害

視力が悪化していないにもかかわらず、空間的な位置関係が把握しづらくなります。「人の顔を認識する」「物を見つける」「簡単な道具を使う」などの行為が難しくなる症状です。

具体例としては、次のようなケースがあります。

  • 図形を描けなくなる
  • 運転していて道に迷う
  • 探し物を見つけられない
  • 手指の形をまねできない

失語・失認・失行

自分自身の言葉や感覚、動作が思うように操作できなくなる症状です。

失語

言葉をうまく操ることができなくなる症状です。失語のなかでも「運動性失語(ブローカ失語)」と「感覚性失語(ウェルニッケ失語)」の2種類の症状に分けられ、それぞれ対応も異なります。

運動性失語(ブローカ失語) 感覚性失語(ウェルニッケ失語)
できること 話を理解できる 発語は流ちょう
苦手なこと
  • 言葉が出にくい
  • 言葉の間違えが多くなる
  • 字を書くことが難しい
  • 話や書かれた内容を理解できない
  • 質問に答えられない
対応方法
  • 「ゆっくりで大丈夫ですよ」と安心して話せる環境を整える
  • 「~のことですか?」と確認しながら言いたい事をくみ取る
  • 短い言葉で簡潔に話す
  • はい、いいえで答えられるようにする
  • イラスト又は写真などを使って理解を促す

どちらの症状の場合でも「自分の思いをうまく伝えられないもどかしさ」や「何度も聞き返されてしまうことで話す意欲が失われていくケース」があります。話にしっかりと耳を傾けて、相手が緊張せずに話せるように見守ってあげることが大切です。

失認

感覚や状況、空間などを認知できなくなる症状です。視覚、聴覚、味覚、嗅覚によって理解できなくなります。例えば「手を握ったときに、握られていることは分かるがどこの部分を握られているのかが分からない」といった症状が起こります。

また、空間を認識することも難しく、半分しか見えていないこともあります。本人は全部ご飯を食べたと思っても半分だけ残っているのが見えていないことがあるので注意深く観察しましょう。

道を歩いている時には道路にあるもの(電柱や柵、人など)が見えずにぶつかってしまうこともありますので、外出時にはサポートが必要です。

失行

日常的な動作が分からなくなってしまう症状です。リモコンの使い方や服の着方が分からなくなることがあります。

また、複数の手順がある作業が難しい場合があるので、本人が分かりやすいように目印をつけたり、簡単な作業に変えたりするなどのサポートが必要です。

周辺症状(BPSD)とは?

認知症では、中核症状が影響してその他の症状を引き起こすことが多くあります。それらの副次的な症状が「周辺症状(BSPD、行動・心理症状)」です。

周辺症状には本人の性格や生活環境、心理状態が大きな影響を与えるため、症状には個人差があります。進行性の中核症状とは異なり、周りの人が正しく理解し、環境を整えてあげたり、リハビリをしたりすることで改善する症状です。

認知症の周辺症状(BPSD)

不安・抑うつ

認知機能が低下し、日常生活に支障が出ることによってうまく生活ができないイライラや焦りから、意欲が低下しうつ状態になることがあります。

周りの人から叱られると、どうしたらいいのか分からず不安な気持ちになり、不眠や食欲の低下、興味の減退などのうつ病と似た症状が見られるようになるのです。

認知症のBSPDとしての抑うつは早期に不安を取り除いたり、周りの環境で症状が改善したりする場合がありますが、そのままうつ病を併発する可能性もあります。

徘徊

中核症状の見当識障害や記憶障害が影響し、徘徊の症状を引き起こすことがあります。徘徊の症状が見られると絶えず歩き回るため、事故や脱水症状、行方不明などにつながる危険性があるのです。

本人としては、ただ歩き回っているのではなく自分なりの目的があります。ただし昔の記憶や幻覚が混合している場合が多いのも事実です。

徘徊が見られるときは無理に徘徊を止めずに「どこに行きたいのですか?」と理由を聞き「今は暗いので明日一緒にお出かけしませんか?」「お茶があるので一緒に飲みませんか?」などと、本人の出かけたい気持ちを理解したうえで気持ちをそらすことでスムーズに徘徊を阻止できることがあります。

それでも徘徊し始めるときには「一緒に行かせてくださいね」と、寄り添うように声をかけ本人が付き添いを拒否しないようにする対応をしましょう。すると事故の危険を減らすことができます。

物盗られ妄想

記憶障害により、財布をどこかに置いた記憶ごと無くなってしまうことがあります。その結果「盗まれた」と思い込み「お前が盗んだんだ」と周りの人を疑うのです。周辺症状としてよく見られる症状で、疑われるのは家族や介護者であることが多いため、家族の関係にヒビが入ってしまうケースも多くあります。

財布や眼鏡など、本人が日常的に身に付ける物や大切にしているものはクリアボックスに常に置くようにしましょう。本人がすぐに見つけられるようにすることで、物取られ妄想を減らせます。

もし疑われてしまった時には「盗ってない」と言い返したくなる気持ちや悲しみをグッとこらえて「それは大変ですね。一緒に探しましょう」寄り添いましょう。本人の探している物を本人自身が見つけられるようにしていく対応が症状の改善に有効です。

帰宅願望

記憶障害や寂しさ、不安から、家にいるのに「家に帰りたい」と外に出ようとする行為が見られることがあります。ほかにも、入院をしている場合など落ち着かない環境にいる際には「帰宅願望」が強く現れ、病院から抜け出そうとすることもあります。

また、本人が「家」と呼ぶのは今住んでいる住居のことだけではなく、生まれ育った田舎の家や、昔家族と一緒に住んでいた思い出のある住まいなどである場合も多いです。

「帰りたい」という気持ちを受け止め、寂しさや不安な気持ちに寄り添ってあげることで症状が落ち着くこともあります。

せん妄

認知症による環境の変化、体調不良、薬の副作用など、さまざまな要因が重なって発症するのが「せん妄」です。意識障害が大きく影響し、幻覚を見たり興奮したりと精神状態に変化が見られます。物静かな人が大きな声を出したり暴れたりと人格が変わってしまったかのように見えることもある症状です。

高齢者になると骨折などのケガで入院することも多くなります。入院したことによってせん妄が引き起こされる事が多く、看護師に暴力をふるったり治療を拒否したりすることもあり、自宅での看護や転院を勧められる可能性もあります。

病室に見慣れた物を置くことや、家族が頻繁に顔を見せて安心させてあげることで、せん妄の症状を軽減させられることもあります。環境の変化が大きく影響しているので、生活リズムを整えることも大切です。

幻覚

幻覚にはさまざまな種類があり、幻視、幻聴、体感幻覚、幻味、幻臭があります。実際には見えていない物が見えているように感じて怖がったり聞こえない音に対して「聞こえる」と言ったりすることがあります。

本人にとっては見えていたり、聞こえてたりしています。なので否定するのでなく「もういなくなりましたね」「もう大丈夫ですよ」などと、安心できるような声掛けをしてあげましょう。すると幻覚の症状が治まる場合があります。

暴力・暴言

脳の機能の低下によって自分の感情を抑えることができず、暴力をふるったり、暴言を吐いてしまったりといった行動が現れることがあります。

暴力や暴言の症状が見られる前段階として、不満そうな様子が見られることがほとんどです。興奮して抑えられなくなる前に「何か心配なことありましたか?」と本人の気持ちを知り、向き合うことで抑えられる場合があります。

また、散歩に誘ったり「窓を開けてもいいですか? 風が気持ちいですね」と気分転換を促したりすることで、怒りや不満の感情を抑えることができるケースもあります。

介護拒否

介護拒否をするのも本人なりに理由があります。本人が介護を必要だと感じていない場合や、要介護状態の自分を受け入れられないという気持ちから介護を拒否することもあります。

また介護をしてくれる家族に対する申し訳なさや羞恥心がうまく表現できずに、介護拒否につながってしまうこともあります。「嫌だ」という気持ちが介護拒否につながることを理解し、本人が嫌だと思う気持ちや理由に寄り添い、本人も納得できるサポート方法を見つけることが大切です。

弄便(ろうべん)

便をいじったり、便を自分の体や部屋中に擦り付けたりすることも、認知症の周辺症状の1つです。中核症状の発症により便の認識の薄れや、オムツを履くことへの羞恥心や、失禁した時の不快な気持ちから引き起こされる場合があります。

弄便の症状は、介護者にとって心理的にも負担の大きい行為です。可能な限りオムツを使用せずに、頻繁に声をかけてトイレの利用を促して自然排泄ができると弄便の頻度が減る場合もあります。

失禁

認知症による失禁は、加齢や日常生活動作の低下によっておこる「機能性尿失禁」です。認知機能の低下によって、尿意が認識できなくなったり、トイレの場所が分からなくなって間に合わずに失禁したりしてしまうこともあります。

食事の後にトイレに行くことを促す習慣をつけ、生活リズムに合わせてこまめに排泄を促すことで失禁の頻度を減らせます。

睡眠障害(不眠、昼夜逆転など)

認知症の場合は体内時計のリズムが崩れやすく、不眠や昼夜逆転などの睡眠障害を引き起こすことが多くあります。

生活リズムを整え、心地よい入眠を促すために足浴(足湯)をしたり、静かな音楽を聴いて朝は日の光を浴びたりするなど、体内リズムを整えることを意識して生活することが大切です。

異食

認知機能の低下により、食べ物かどうかの判断ができなくなり、食べ物以外の物を食べてしまう症状です。

電池やビニール、洗剤などを食べてしまうと健康被害や窒息など、命に危険を及ぼす可能性があるので、異食が見られたときには、怒らずに本人の目の届く場所に物を置かないなどの対策が必要です。

異食してしまった場合には、すぐに救急車を呼ぶことも頭に入れておきましょう。食後に歯磨きをして食事が終わったことを知らせ、食事の回数を小分けにすることで異食を防ぐことができる場合もあります。

中核症状と周辺症状の違い

中核症状と周辺症状の関係

ここまででご紹介した通り、中核症状と周辺症状はまったく無関係の症状ではありません。脳細胞に問題が起こり、中核症状が発生します。中核症状が起きた際の「周りの対応」や「本人の性格」などによって周辺症状が起きるのです。

例えば中核症状によって記憶能力が衰えてしまい「相手の名前を忘れてしまった」としましょう。その光景を見た家族が「認知症じゃない?」などの言葉をかけます。本人が「神経質でものごとを考え込んでしまう性格」だった場合「不安・抑うつ」といった周辺症状が表れます。

このように中核症状が一次的な症状だとすると、周辺症状は二次的な症状だといえます。

認知症の中核症状が現れた家族への対応法

高齢の家族に、記憶障害、見当識障害、理解・判断力の障害、実行機能障害、失語・失認・失行などの中核症状が見られるようになった場合には、まずは家族が認知症の発症を受け止め、現状を理解することが大切です。

精神面や環境面が大きな影響になって中核症状は進行していきます。本人の気持ちに寄り添うことを心掛け、散歩に出かけて気分転換をして、脳トレなどで認知症の進行を抑えるための対応が必要とされます。

では各症状について家族の対応方法を紹介しましょう。

記憶障害への対応

記憶障害になると、同じことを何度も質問してしまう場合があります。その場合でも怒らずに冷静に対処をしてあげることが重要です。否定せずにきちんと回答をしてあげるのは素晴らしいことですが、何度も同じことを答えていると介護者にとってストレスフルになります。すべてにきちんと返さず、ときにはなんとなくで返事をすることも大切な対処法です。

見当識障害への対応

見当識障害の場合は季節に合った服装などができなくなります。また約束した日付を忘れてしまうこともしばしばです。介護者としては声を荒らげたり、自分ですべて管理したくなるでしょう。しかしさりげなくアドバイスし、要介護の方自身に作業を完了してもらえるように努めることが重要です。

理解・判断力の障害への対応

曖昧な言葉や指示をしてしまうと理解できません。例えば「雨が振りそうだ」「洗濯物干しっぱなしだよ」と伝えても「室内に取り込むべき」ということが分からないので、きちんと「洗濯物を室内に取り込んでください」と明確な行動指示を出すようにしましょう。

実行機能障害への対応

物事を論理的に遂行するのが難しくなってしまいます。なので介護者としては買い物や家事などを自分ですべてやってしまいたくなるでしょう。しかし認知症のケアのためにも、(補助をしながら)実行可能なことはなるべく要介護者に任せましょう。

失語・失認・失行への対応

特に失行の場合は、日常的な動作ができなくなってしまいます。なので、なるべく動作の工程を減らしたり、本人にわかりやすいよう目印をつけたりと工夫をすることが大切です。

中核症状は早期発見・早期対応が大切

中核症状は、認知症における進行性の症状なので根治することができません。進行するにつれ、更にさまざまな周辺症状も見られるようになり、介護や対応が難しくなっていきます。進行していく前に病院を受診して薬を服用することや、環境を変えていくことが大切です。

介護者にとっても精神的、体力的に負担が大きいときも多々あるでしょう。しかし、イライラしたり怒ったりすることが、本人の更なる不安を増長させ、違う周辺症状までも引き起こす悪循環を生み出してしまいます。

そうした悪循環を避けるためにも、まずは家族や周囲の方が中核症状について理解して対応することが必要です。

この記事のまとめ

  • 認知症は大きく分けて中核症状と周辺症状の2種類
  • 中核症状は完治できないが進行を遅らせることは可能
  • 中核症状によって周辺症状が引き起こされる

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