認知症による妄想や作り話への対応方法や種類を教えて下さい
先日、父が認知症と診断を受けました。認知症になった場合、妄想障害になってしまうケースが多いと聞いています。今から対策法を知っておきたいので、種類ごとに対応の仕方を教えてください!
A「被害妄想」や「嫉妬妄想」などの症状があります。対応策は種類によって違います。
「妄想」と一言で言ってもあらゆる種類があります。「物盗られ妄想」「被害妄想」「嫉妬妄想」などが主な種類です。それぞれについて対策をご紹介しましょう。
認知症の方に現れやすい症状に「妄想」があります。妄想の症状はときに健常者の方からすると異常と感じることもありますが、本人は本気で何かを訴えかけようとしています。
また妄想にはいくつかの種類があり、それによって介護する側の対応策なども異なってきます。そこで、今回は認知症による妄想の種類、対応法などに関する情報を解説します。
認知症による妄想障害とは
冒頭でもお伝えしたように、認知症による症状のひとつには「妄想」があります。東京都が過去に行った調査によると、このような妄想は認知症を患っている方の約15%に見られる症状とのことです。
またその多くは、自分が被害を受けたと思い込んでしまう「被害妄想」といわれています。詳細は後述しますが、被害妄想の一例を挙げると自分の財布を盗られたと思い込んだり、介護者である配偶者の浮気を疑ったりなどがあります。
もちろんこのような出来事は実際に起きているわけではないため、介護をする側は「そのようなことは起きてないよ」と諭します。
この介護者や家族の説得により、初めは疑いながらもその言葉を受け入れるという生活が続くのが認知症で被害妄想を抱えている方の特徴です。
また介護者や家族の言葉を受け入れて納得するならよいですが、中には妄想が頭の中でどんどん膨らみ、揺るぎのない事実として心に定着してしまう方もいます。このような状態になると、介護者や家族の説得の言葉を受け入れないというケースも出てきます。
被害妄想は認知機能の低下、それに対する症状の苦しみ、「家族に迷惑をかけているな…」といった負い目、疎外感や不安、一人暮らしの寂しさなどさまざまな感情が複雑に絡み合って現れる症状だといわれています。
またある研究によると妄想が現れる引き金となるのが、介護者や家族など周囲の人の言動ということもわかっています。
一例ですが家族で食卓を囲んで食事をしているとき、自分以外の人間たちだけで盛り上がっていると、異常に強い孤独感や疎外感を覚えるなどが挙げられます。
妄想障害の種類
一口に認知症の妄想障害といっても、その中身には複数の種類があります。ここからは認知症の主な妄想障害の種類を4つ解説します。
物盗られ妄想
物盗られ妄想は、認知症の妄想被害の中でも非常に出現率が高い症状のひとつとされています。物盗られ妄想とは簡単に説明すると、自分の大切な物を盗られたと思い込み、それを介護者や家族に訴える症状です。
前述の被害妄想の一例でも挙げた「財布を盗られた」という思い込みも物盗られ妄想に該当します。高齢になると認知症を患っていない方でも置き忘れなどをすることがありますが、その場合は自分が「置き忘れた」という自覚があります。
ところが認知症の物盗られ妄想は、自分が失くしたという自覚はありません。これは、認知症の記憶障害によって置き忘れた事実を覚えられないためとされています。
結果、自身でほとんど探す努力もせずに「○○がない=盗まれた、盗られた」という結論に至ってしまうのです。また物盗られ妄想で盗んだと疑われるのは、介護時間が長い方などが中心といわれています。
被害妄想(見捨てられ妄想など)
被害妄想、主には見捨てられ妄想などの症状が現れる方は、約3%~18%。これは前述の物盗られ妄想に次いで、現れる確率が高い妄想症状です。
認知症を患うと、介護者や家族など周囲の人間に頼らざるを得ない生活が続くことになります。そして症状が進行してくると徐々に「自分は周りの人間に迷惑をかけている…」などの感情が強くなり、日増しに負い目を感じるようになります。
このような負い目の感情が強まると「自分はもう家族にとってジャマな存在だ…」「見捨てられたも同然だ…」といった気持ちが心の中を支配します。
一例ですが自宅介護をしているケースにおいて、家族が自分以外の誰かと会話をしている。このような状況を見ると、「自分の悪口を言っているんだ」などと思い込んでしまうのが見捨てられ妄想の大きな特徴です。
また家族が自分を置いて外出したときには、「やっぱり自分はもう必要ないのかな」といった感情を覚えることもあります。このような思い込み、勘違いが続くことで家族を信じられなくなり、自室に籠ったままの生活を余儀なくされてしまう方もいます。
部屋に閉じこもった生活が長期に渡って続くと、運動不足による身体機能の低下や人とのコミュニケーションが不足することで起きる認知機能の低下といったリスクが大きく高まるのが問題です。
現状すでに上記のような生活が続く認知症の方を介護している場合は、早め早めの対策が必要になるといえるでしょう。
幻覚・幻視
認知症の妄想のひとつに、幻覚があります。幻覚とは認知症のBPSD(行動・心理症状)のひとつを指し、主に「幻視」「幻聴」「幻臭」「幻触」「幻味」の5つに分類されます。
このうち認知症を患っている方で特によく現れる症状は、「幻視」とされています。幻視とはその言葉通り、幻を見るようになる症状のことを指します。
具体的には、部屋には自分1人しかいないのに誰かがいるように感じる、亡くなった家族が部屋に現れた、存在するはずのない動物や虫が部屋にいるなどが挙げられます。
幻視に悩まされる認知症のひとつにレビー小体型認知症がありますが、この認知症を患っている方の場合は幻視によって突然怯えたり、奇声をあげたりすることがあるため、初めてその症状を見る介護者や家族の多くは困惑します。
また幻視の症状がさらに悪化すると家の中の物を壊したり、暴力や暴言に走ったりすることもあります。この他、幻視と似たような症状に「せん妄」がありますが、こちらは脳の機能が低下し、神経伝達が上手くいかなくなることで頭の中が混乱状態になる症状です。
ちなみに、このせん妄は何かしらの理由で入院している75歳以上の高齢者約15%~50%で起きるとされています。つまりせん妄は認知症の方だけではなく、高齢になれば誰でも起きる可能性があるという症状です。
嫉妬妄想(浮気の疑いなど)
嫉妬妄想は、主に男性の認知症患者の方に多いといわれている症状です。嫉妬妄想とは簡単に説明すると、夫や妻が浮気をしていると思い込んでしまうことです。
家族にとってこのような浮気の疑いをかけられるのは、夫または妻が認知症だとわかっていても心的負担は大きいといいます。なおこの浮気をしているなどと思い込む嫉妬妄想ですが、前述のレビー小体型認知症の方に生じやすい症状のひとつといわれています。
嫉妬妄想にかかる方が取る具体的な行動の一例を挙げると、配偶者が浮気をしていると思い込むと大声で怒鳴ったり、周囲の人に夫(妻)が浮気をしていることを言いふらしたりなどがあります。
嫉妬妄想が発生する主な原因としては「妄想性誤認」が考えられており、妄想を伴う見当識障害が原因とされています。つまり嫉妬妄想は、「いつ」「どこで」「誰が」「何をした」などが頭の中で整理できない状態になると起こりやすいということです。
またこの他にも、認知症を患ったことで抱えやすい劣等感や負い目なども嫉妬妄想の引き金になる可能性があります。
ちなみに男性に嫉妬妄想が多い理由のひとつには、定年後の生活環境がガラリと変わるなどが挙げられます。具体的には数十年間社会で生活してきて、定年後は自宅での生活が中心になる。
このような生活環境の変化は、人によって強い孤独感を覚えるなど不安定な精神状態になりやすいです。また定年をきっかけに「妻から見捨てられるのでは?」という気持ちを抱く男性もおり、そのような感情を抱きやすい方ほど注意が必要になるといえるでしょう。
暴言や暴力につながることも
前述のように、認知症者の妄想は症状が悪化すると暴言や暴力を発生させてしまう可能性もあります。暴言や暴力が発生してしまう主な原因は「脳の機能低下」「自尊心などが傷ついた」「強い不安」などです。
認知症の方は、もともと脳の機能が弱くなっていますから感情のコントロールが難しい状況に陥りやすいです。
また周囲が自身の悪口をいっているなどの思い込みによって、「プライドが傷つけられた」「不安な感情が強くなった」などの気持ちが強くなりやすいことも大きく影響しているでしょう。妄想による暴言や暴力を止めるには、周囲の対応や接し方が非常に重要です。
基本的な対応について
認知症に加えて妄想症状が現れてしまった方への対応や接し方などに悩む介護者、家族は決して少なくはありません。
では認知症の妄想症状が出ている方には、周囲はどのように接すればよいのか?この疑問に対する回答ですが、主には「否定しない」「会話の内容に共感しながら聴く」「周囲への相談」「距離を取る」「本人の自信などを取り戻させる」などがあります。
まず前提として、妄想の症状が出てしまっている方に対しては、日々の会話の中で「話の内容を否定せず、共感しながらコミュニケーションを取る」ことを強く意識しておきましょう。
おそらく妄想症状に慣れていない介護者やご家族の場合、頭ごなしに否定の感情をぶつけてしまう可能性は高いです。しかし、このような対応は余計に相手の頭の中をパニック状態にさせてしまうため、逆効果になる恐れがあります。
よって妄想による症状が強く出たときには、グッとこらえて否定も肯定もせずじっくりと話を聞いてあげることが大切です。このような対応によって本人のつらさを受け止める形になりますので、本人の精神状態も安定する可能性が高まります。
また、このときに「そうですね」「それは大変ですね」などと相槌を打ちながら話を聞いてあげるのもよいでしょう。上記のような共感しながら聞いてあげる姿勢を持つことで、相手にも「この人なら大丈夫」という安心感が生まれます。
この他、自身の力ではどうしようもないときはかかりつけの医師、ケアマネジャー、地域包括支援センターのスタッフなどの専門家に相談することも検討しておきましょう。
また被害妄想の対象が介護者本人に及んでいる場合は、一時的に距離を取り、介護のお世話を他の家族などにお願いすることも大切です。
仮に認知症の方が自信やプライドを失っている状況では、本人の好きなこと(料理や庭いじりなど)をさせてひとつの作品を作り上げるなどの対策も有効です。自身の手で何か形に残る物を作り上げれば、失われた自信やプライドが戻る可能性もあります。
症状別の対応について
ここからは、先ほど上で解説した4つの妄想症状別の対応策について触れていきます。
物盗られ妄想への対応
物盗られ妄想が現れた方に対しては、まず落ち着いて話を聞くことを優先しましょう。人は「お前盗っただろ!」といわれると、「盗ってない!」と反論したくなります。
しかし認知症による物盗られ妄想の症状が現れた方に対しては、すぐに否定するのではなく、まず相手の話をしっかりと聞くことが大切。そしてじっくりと話を聞いた上で「じゃあ一緒に探してみましょうか?」などといった声をかけ、実際に一緒に探します。
その後、探している物が見つかったときには「よかったですね」などと一緒に喜んであげるようにしてください。
また物忘れ妄想が出ているときは、興奮状態に陥っていることもあります。このようなときは冷静な話し合いが難しいため、探しながら本人が好きなテレビ番組や食事など、別の話題に切り替える対策も有効です。
妄想被害(見捨てられ妄想など)への対応
自分が家族などに見捨てられたと思い込む見捨てられ妄想に対する対応は、本人の自信やプライドを取り戻させることで回復する可能性があります。
前述のように、認知症の方は自身の介護によって周囲に迷惑をかけていると思い込んでいることが多く、それがそのまま自信やプライドの低下につながっています。
よってこの場合は、本人の好きなことや趣味を通じて「自分もやればできるんだ」といった自信を取り戻すことが効果的です。
また日々のコミュニケーションをしっかりと取ることで、本人の心の中にも「自分は家族に見捨てられていない」といった気持ちが芽生えやすくなります。肌の触れ合いなどのスキンシップやアイコンタクトも一定の効果を見込むことができるでしょう。
幻覚・幻視への対応
幻覚や幻視の症状が起きたときの対策法ですが、この場合は「否定もしないけど、肯定もしない」ということを意識しておきましょう。
まず幻覚、幻視に対する訴えに対して否定しないというのは妄想症状に対する対応策の基本です。続いて「肯定もしない」という対応についてですが、これは下手に肯定をしてしまうと妄想につながる可能性もあるためです。
では幻覚、幻視の症状を訴える認知症の方にはどのような対応をすればよいか?この疑問に対する回答ですが、基本的には一緒に確認してあげて安心してもらうようにしましょう。
一例ですが「部屋に誰かいる」と訴えている場合は、周囲を一緒に探してあげてから「誰かいたかもしれないけど、もう帰りましたよ」などといった言葉をかけてあげるとよいでしょう。
ちなみに「まだいる」という場合は、その位置を一緒に確認してあげることで「もういない」と納得することもあります。
嫉妬妄想(浮気への疑いなど)への対応
嫉妬妄想への対応も、基本的には冷静に落ち着いて話を聞いてあげることが大切。たとえばですが「お前は浮気をしている!」といわれたら頭ごなしに否定するのではなく、「どうしたんですか?」「そんなことはありませんよ」と穏やかな対応を心がけるようにしましょう。
このように、落ち着いた雰囲気を作って対応することで、本人も次第と落ち着いてくる可能性は高くなります。
また前述のように嫉妬妄想の症状が強く現れる方は、定年などの出来事によって「妻に見捨てられるかも…」といった気持ちを抱いていることもありますので、ときには一緒に出掛けるなどの方法も有効です。
このような対策を施すことで、「自分はまだ妻に信頼されている」といった自信を取り戻す可能性が高くなるでしょう。
まとめ
認知症を患っている方の妄想症状は、介護者や家族の方を悩ませる問題でもあります。基本的に認知症者の妄想症状は「物盗られ妄想」「被害妄想(見捨てられ妄想)」「幻覚・幻視」「嫉妬妄想(浮気の疑いなど)」です。
現在、認知症で上記のような妄想症状が強く出ている方の対応に苦労している方はぜひ本記事の対処法、対応法を参考にしてください。また1人での対処が難しいと感じたら専門家に相談することも検討しておきましょう。
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大手介護専門学校にて教職員として12年勤務し、約2000名の人材育成に関わる。その後、その経験を活かし、認知症グループホームや訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅などの介護事業や、就労継続支援B型事業所や相談支援事業所などの障がい福祉事業を運営。また一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して活動中。
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