身体拘束とは|禁止行為・5つの方針・3つの原則などの知っておくべきこと
少子高齢化社会が進み、今後介護をしてもらうために施設に入る、もしくは介護をしてもらうために家族を施設に入れなければならない人は多くいます。介護施設では、日常生活のサポートや自立支援を受けつつ生活していきますが、なかには安全を確保するために身体拘束をしてしまうケースも少なからず存在していました。
一昔前のイメージから、自分も身体拘束をされるのではないかと心配になってしまう人もいるでしょう。しかし、現在では一昔前のような身体拘束をせず5つの方針と3つの原則を踏まえたうえで必要とあれば実施するものと変容してきました。今回の記事では、身体拘束について、具体的な行為例や身体拘束による弊害、5つの方針と3つの原則、やむを得ない場合とはどのような状況なのかを併せてご紹介していきます。
大手介護専門学校にて12年で約2,000名の人材育成に関わり、その後、人材定着に悩む介護事業所の人材育成や運営支援を実施。2020年4月からは一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して介護甲子園を主催している。
身体拘束とは
身体拘束とは通常、医療現場において援助技術の一つとして必要とみなされた患者に対し実施する行為です。患者本人の意思では自由に動くことができないように、身体の一部を拘束すること、または運動を制限することを言います。
必要とみなされる場合には、手術後の患者や知的障害がある患者の安全面への配慮からやむを得ず実施されています。それが、高齢者ケアとなる介護の現場においても高齢者の転倒、転落防止といった安全面への配慮を理由に身体拘束がされてきました。
身体拘束をすることによって、患者や高齢者の安全は確保できるかもしれませんが、人権擁護の観点からすれば非常に問題となる行為でもあります。特に、治療が必要でない高齢者が安全面の確保という名目で身体拘束をされてしまえば、それだけ高齢者のQOLの低下をもたらしてしまう恐れがあります。
身体拘束によって体を自由に動かせなくなれば、普段できていた日常生活動作であっても身体的な機能が低下してできなくなってしまうケースや、それが原因で寝たきりとなることも十分あり得ます。医療現場のみならず介護現場での身体拘束は、高齢者ケアにおいて本当に必要なものであるのか、人間の尊厳も交えて考えなければならない行為です。
平成12年から原則禁止に
身体拘束は現在、高齢者が利用するための介護保険施設などでは原則禁止されている行為です。平成12年4月に高齢者の自立した生活を支えることを目的とした介護保険制度が始まり、それに伴って介護現場において身体拘束をなくす「身体拘束ゼロ作戦」という取り組みが進められています。
身体拘束ゼロ作戦は、あらゆる介護の現場で実現に向けての取り組みがなされています。しかし、身体拘束をゼロにできない理由について「現場スタッフの人員不足」が挙がることもあります。人員不足は解消しなければならない問題の一つですが、あらゆる工夫をしていくことで身体拘束を廃止できている介護施設や医療現場ももちろん存在しています。
身体拘束について、その施設や医療現場がどのような認識を持っているのか、患者のみならず高齢者ケアの本質を、スタッフや施設関係者などの職員全体で見直していかなければなりません。事故防止のためには身体拘束が本当に必要か、また高齢者の立場となり人権についても配慮をしていく必要があります。
身体拘束禁止となる具体的な行為について
身体拘束は、平成12年4月から介護保険法により原則禁止となりました。一般的にどのような行為を禁止しているのか、理解していることで違和感を敏感に察知できるようになるでしょう。ここでは、身体拘束禁止となる具体的な行為11例を挙げていきます。
徘徊できないよう、車いすや椅子、ベッドに体や手足を縛る
徘徊してしまう人に対して、車いすや椅子、ベッドなどに体や手足をひもで縛り付ける行為は禁止となっています。
ベッドからの転落防止目的で、ベッドに体や手足をひもで縛る
転落しないようにするための配慮でも、ベッドに体や手足を縛り付ける行為は禁止されています。
ベッドから自分で降りられないよう柵で囲む
自分の意思でベッドから降りられないようにするために、ベッド柵やサイドレールで囲む行為は禁止されています。
点滴や経管栄養などのチューブを抜かないよう手足を縛る
治療や療養目的でつけている点滴などのチューブを勝手に抜かないよう、手足を縛る行為は禁止となっています。
点滴や経管栄養などのチューブを抜かないため、また皮膚をかきむしってしまわないようにミトン型の手袋を着用させる
手指が自由に動かせなくなってしまうミトン型の手袋を用いることは、体に機能制限を設けることとなるため禁止です。
車いすや椅子から落ちてしまったり、立ち上がったりしないようY字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルを付ける
自らの意思で自由に車いすや椅子から動けなくなってしまうY字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルを用いることも身体拘束の一つとして禁止されています。
立ち上がれる人を自由に立ち上がらせないようにする椅子を使用する
自ら立ち上がれる能力がある人に対して、その自立を妨げる椅子の使用は禁止となっています。
服を脱いでしまう人やおむつを外してしまう人に介護衣(つなぎ服)を着用させる
脱衣やおむつ外しであっても動作を制限するような介護衣を着用させてはなりません。
他人への迷惑行為を防止するためにベッドなどに体を縛る
たとえ、他人への迷惑行為を防止するためであっても他に防止策を検討することもできることからベッドに体や手足を縛り付けることは禁止されています。
落ち着かせるために向精神薬を過剰に服用させる
行動を落ち着かせるという目的で、向精神薬を過剰に服用させることは禁止されています。
自分では開けることのできない部屋などに隔離する
自分の意思で自由に開けることのできない居室などに隔離することは禁止されています。
身体拘束による3つの弊害
身体拘束は患者や高齢者の安全を確保するために必要とされてきた行為ですが、身体拘束によってもたらされる3つの弊害についても考えていかなければなりません。では、身体拘束をすることでもたらされる3つの弊害をそれぞれ解説していきます。
身体的弊害
身体拘束によって、身体的な弊害がもたらされます。これは、身体拘束をすることで高齢者の関節が拘縮してしまう、拘束することで動けない状態となり筋力が低下してしまうなどの身体機能の低下や、拘束している部分が圧迫されて褥瘡が発生してしまう可能性があります。
身体機能の低下や褥瘡の発生などの外的な弊害のみならず、拘束されていることで食欲低下・心肺機能の低下・免疫力の低下などの内的な弊害がもたらされる可能性もあるでしょう。さらには、無理に動こうとしたことで転倒・転落、拘束具による窒息などの重大な事故の発生にもつながります。
精神的弊害
身体拘束をすることで、患者本人や高齢者に不安や怒り、屈辱、諦め等の精神的苦痛、さらに人間としての尊厳をも侵してしまいます。また、身体拘束により痴呆が悪化してしまいせん妄などを併発させる可能性もあります。
身体拘束は本人に与える精神的苦痛だけでなく、その家族にも多大な精神的苦痛をもたらします。親や配偶者が拘束されている姿を見て、混乱や後悔、罪悪感を与えてしまうでしょう。
社会的弊害
身体拘束による身体的弊害や精神的弊害は、介護保険施設などに対する不信感や偏見をもたらす恐れがあります。身体拘束によって本人の心身機能が著しく低下した場合、QOLの低下を招くだけでなくこれまで以上に医療的処置が必要となり、家族への経済的負担にも影響がもたらされるでしょう。
身体拘束の5つの方針とは
身体拘束を廃止するためには、患者や高齢者、施設の職員だけでなく施設全体として取り組まなければなりません。身体拘束についての5つの方針を知り、確かなものとしていく必要があります。ここからは、身体拘束の5つの方針を解説していきます。
組織のトップが決意して病院や施設一丸となって取り組む
施設において、身体拘束廃止を徹底するためには現場を知り、バックアップする体制を取らなければ実現できません。施設内の一部のスタッフのみで身体拘束廃止に取り組んでも効果は期待できないでしょう。現場スタッフの不安を解消し、一丸となって取り組むためにも組織のトップが決意することが大切です。
議論し合い、共通の意識を持つ
身体拘束に対する考えは、人それぞれが持つ意識の問題とも言えます。身体拘束によってもたらされる弊害を全員で認識し、身体拘束を廃止するためにはどのようにすれば良いのか、トップだけでなく現場スタッフも交えて議論を重ね、問題意識を共有させることが重要です。
身体拘束を必要としない状態の実現を目指す
高齢者一人ひとりの状態を客観的に調べ、評価することで身体拘束を必要としない状態を目指すことが大切です。問題行動を抱えている人であっても、なぜそのような行動をしてしまうのか原因や理由があるはずで、その原因や理由を取り除くケアができれば身体拘束を必要としない状態が実現できる可能性も高まります。
事故の発生しない環境整備と柔軟な応援体制の確保
身体拘束は高齢者の安全面を確保するために用いられてきた背景から、事故の発生しない、または発生しにくい環境の整備が必要です。手すりを付けたり、足元に物を置かないようにしたり、ベッドの高さを低くしたりするだけでも事故はある程度防げる環境となります。
また、現場スタッフが全員で応援し合える体制を確保することも重要です。対応が困難となってしまう場合でも、施設全体で随時応援に入れる柔軟性を持つことが必要となります。
身体拘束に代わる代替案を常に考慮し、身体拘束を極めて限定的にする
やむを得ず身体拘束をしなければならない場合でも、本当に身体拘束しか方法はないのか常に検討し、身体拘束自体の正当性をなくす意識を持つことが大切です。問題として提起せずただ身体拘束のみをしているのであれば、拘束を解除しなければなりません。いかにケア方法を考えていくかが重要となります。
身体拘束の3つの原則とは
身体拘束をすることなくケアしていくためには、身体拘束をしなければならない原因の特定と取り除くケアが必要です。身体拘束における3つの原則を踏まえながら、身体拘束をしないように取り組みを進めていきましょう。
原因の特定とその原因の除去
身体拘束が必要となる場面では、徘徊や興奮状態での迷惑行為、不安定な歩行、点滴抜去、自傷行為、体位保持が困難であることなどが挙げられます。しかし、それらすべての行動には本人の抱える理由や原因があり、その原因を特定し除去するケアができれば身体拘束は必要にならないでしょう。
基本的なケアの徹底
施設全体として、高齢者一人ひとりの状態に合わせた基本的なケアが必要です。起床から食事、排泄、衛生、活動をその人に合ったものを取り入れることで、身体拘束が不要な状態にもなり得ます。
よりよいケアの実現を目標とする
身体拘束を廃止すると、施設でのケアを全体的に向上させることにもつながります。身体拘束廃止を目標とするのではなく、「より良いケアを実現する」という目標を掲げて取り組んでいくことが大切です。
「やむを得ない場合」とは
緊急時のやむを得ない場合に限り、身体拘束は認められています。しかし、これは3つの条件を満たし、かつ要件の確認等の手続きが慎重に実施されている場合に限られています。「やむを得ない場合」の3つの条件について詳しく解説していきましょう。
切迫性
患者、または高齢者本人、その他の人の生命または身体に危険が及ぶ可能性が著しく高いことが切迫性の条件となります。本人等の生命や身体に危険が及んでしまうのかを確認する必要があります。
非代替性
身体拘束などの行動制限をする以外に代替方法がない場合、非代替性の条件が満たされます。常に身体拘束以外の方法でケアできないか複数のスタッフで検討しなければなりませんし、拘束しても本人の状態に応じて必要最低限の拘束とする必要があります。
一時性
身体拘束等の行動制限が一時的なものであることが条件となります。本人の状態に応じて最も短い拘束時間とする必要があります。
入居の際には「身体拘束」をした経験について確認することが重要
身体拘束は現在、介護保険法で原則禁止とはされていますが、あらゆる理由をもとに身体拘束をしなければならないこともあると認識する必要もあります。施設に入居するとなった場合には、身体拘束について施設がどのような意識を持っているのか、身体拘束廃止への取り組みを進めているのかなどを確認しておくと安心でしょう。
入居前には必ず、施設の職員との面談の場が設けられます。その際に、これまで身体拘束をした経験があるかどうか質問してみてください。誠実な施設であれば、どのような場合に身体拘束をしたか、それに対してどのような取り組みをしたかなど、具体的に説明してくれます。
一方で、なぜそのような質問をするのかと逆に聞いてくる施設であれば、身体拘束に対して職員の負担軽減を目的として認識して実施している可能性があります。利用者のためのケアをしなければならないはずですが、職員の目線をベースとして介護を提供している可能性も十分考えられるでしょう。
身体拘束は必ずしも悪ではありませんが、しないに越したことはありません。どのようなケアを心がけている施設なのか、身内が安心して過ごせるかどうかを見極めるために、身体拘束についてどのような認識を持っているか施設側に確認することが大切です。
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この記事のまとめ
- 身体拘束は安全面に配慮した結果として実施されている
- 身体的・精神的・社会的弊害をもたらす可能性がある
- 身体拘束をしているかはもちろん、身体拘束に対してどのような認識でいるかが大切
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