アパシーとは|基本的な言葉の意味や症状、認知症の介護時の対応など
皆さんは認知症というと、どのような症状を思い浮かべるでしょうか。身内を忘れてしまったり、徘徊したり、場合によっては暴力を振るったりする人もいます。こうした症状はあくまでも一例であり、認知症になるとさまざまな症状が見られるようになります。
そのなかでも今回注目していきたいのが「アパシー」です。アパシーは高齢者に見られる精神系の症状です。物忘れや徘徊、暴力などの症状とは異なり、本人はもちろん身内でも気付かないことが多く、その結果認知症が進んでしまったというケースもあります。
そこで今回は、認知症の症状である「アパシー」についてどのような症状なのか、アパシーの症状が見られる人を介護する際にどんなことに注意しなくてはならないのかを解説していきます。アパシーについて知りたい人はもちろん、身内にアパシーの症状が見られどのように接していいのか分からないという人もぜひ参考にしてみてください。
大手介護専門学校にて12年で約2,000名の人材育成に関わり、その後、人材定着に悩む介護事業所の人材育成や運営支援を実施。2020年4月からは一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して介護甲子園を主催している。
アパシーとは
まずはアパシーがどういったものなのか解説していきましょう。アパシーは、一般的には感情が動かされるような出来事が起きても、関心が湧かなくなってしまう状態を指します。また、自分のことに関しても無関心になってしまい、家事や入浴、着替えなどもできなくなります。
アパシーの言葉の意味
アパシーはギリシア語の「感情の欠如」を意味する“apatheia”が語源となっています。認知症の症状で見られるということで医療用語と思っている人も多いですが、実はもともと社会学で使われていた言葉でした。
社会学におけるアパシーは、世の中で起きている出来事に対し人々が無関心になってしまうことを指しています。例えば、日本では選挙の投票率が低下していますが、これも政治に対するアパシー(無関心・消極的に捉えている)と言えます。
アパシーという言葉自体は医療現場でも昔から使われていました。認知症だけでなく多くの疾患でアパシーの症状が見られたためです。しかし、注目され始めたのは近年になってからで、詳しい病態や意義などについてはさらなる話し合いが必要とされています。
アパシーの症状
アパシーの症状は無気力・無関心が主で、そこからさまざまな症状が見られるようになります。特に多いのが、これまで普通に生活を送っていたのに無精や怠惰により生活習慣が乱れてしまうことです。1日や2日程度、「面倒くさい」と思うのは誰にでもあることですが、これが長期的に続き健康面や衛生面にまで影響が出始めるとアパシーの可能性が高くなります。
また、意欲が低下し関心が薄れてしまうと感情表現もなくなってきます。認知症では失語などの症状も表れるため、場合によってはコミュニケーションを取ることも難しくなってしまうでしょう。
アパシーとうつ病の違い
意欲がわかず無関心になることから、アパシーとうつ病は間違えられることも多いです。しかし、アパシーとうつ病には大きな違いも見られます。どのような点が異なるのか、違いについても理解しておきましょう。
アパシー
アパシーの場合、無気力・無関心になるため感情表現も乏しくなります。そのため気分が落ち込んで悲観的になってしまうことはありません。常に一定の気分を保っています。
さらに、症状に対して「自分はアパシーになっている」と自覚することはほとんどないでしょう。病院でアパシーと診断されても治療に対する意欲がないので、他の人の手を借りながら治療を進めていきます。
他にもうつ病との違いとして、すべてに対して無気力になっているので自傷行為に走ることもありません。専用の治療薬はまだ開発段階であり、主にカウンセリングなどの心理療法を用いて治療していきます。
うつ病
うつ病はアパシーのように無気力・無関心も表れますが、気分が大きく沈み込んでしまう傾向にあります。気分が一定することもなく、例えば昨日は大きく沈んでいたけれど今日はそれほど落ち込まずに済んだというように、気分の波が見られるのです。
症状に関しては、うつ病の人は「自分はうつ病だ」と認識できます。さらに、うつ病と認識してから周りの人に相談したり、病院を受診したりもできるでしょう。このように、自ら治療に向けて動き出せるのがうつ病の特徴です。
自ら治療を進めていけますが、その一方で重症化すると自傷行為に走りやすいというリスクもあります。他の精神疾患も見られる場合は苛立ちを抑えきれず、他人への暴力行為につながってしまうこともあるでしょう。
うつ病の治療は基本的に抗うつ剤による薬物療法や心理療法、運動療法などが挙げられます。また、心身を休ませるために十分な休養を取ったり、しっかりと休養が取れるような環境を作ったりすることが大切です。
認知症とアパシーの関係
認知症の周辺症状としてのアパシーは、特に血管性認知症で見られるといわれています。血管性認知症とは、脳梗塞・脳出血などの脳血管障害によって引き起こされる認知症です。
老化が進むにつれて起きる認知症とは異なり、突然、認知症特有の症状を発症します。例えば、昨日まではしっかりと物事を覚えていたのに、今日になって突然忘れてしまい思い出せないというケースです。また、アパシーも同じく段々無気力になっていくわけではなく、突然無気力になって感情が乏しくなってしまうため、家族は症状を認識しやすいでしょう。
他にも、パーキンソン病でアパシーを発症することがあります。パーキンソン病は50歳以上の中高年に見られやすい病気で、ドパミンの分泌量が減少することにより発症してしまいます。パーキンソン病になると最初は筋肉のこわばりや手足の震えなどを感じ、それからゆっくりと症状が進行し、最終的には寝たきりになる場合もあります。
パーキンソン病は運動障害のイメージを持つ人も多いですが、実は非運動症状も見られます。例えば、立ちくらみや発汗、むくみなどの自律神経症状や認知障害、睡眠障害、疲労感などです。さらに、精神症状としてアパシーを発症する場合があります。
表れる症状には個人差が見られますが、パーキンソン病ではアパシーを含む精神症状も引き起こりやすいことを覚えておきましょう。
アパシーの高齢者への接し方
もしも高齢の家族がアパシーを発症した場合、どのように接すれば良いのか分からない人も多いでしょう。そこで、アパシーを発症した高齢者への接し方についてご紹介していきます。
規則正しい生活のリズムを作ってあげる
アパシーを発症すると無気力になってしまい、日常生活にも支障をきたしてしまいます。例えば何もやる気が起きず、食事をしなかったりずっとベッドの上で過ごしたりすることも多いです。こうした生活リズムの乱れは、アパシーの悪化を助長させる可能性があります。
そこで、同居しているのであれば起床から食事、就寝まで時間を決め、声掛けをしてあげましょう。決まった時間に声掛けを続けて自分から体を動かすように促してあげてください。
あまりサポートしすぎないことも大切
アパシーになった高齢者をサポートする際に、つい介護者がサポートしすぎてしまう場合があります。例えば、着替えをするにも本人はただ座っているだけで、ボタンを閉めるところまで全部介護者が手を出してしまいます。また、トイレでも高齢者が自分でできることもあるのに、サポートしてしまうのです。
サポートすること自体は良いことなのですが、あまりに手を貸しすぎてしまうと本人は「何もしなくていいんだ」と思ってしまい、アパシーの症状が悪化する可能性もあります。できるだけ手を貸さず、本当に必要なサポートだけを実施するようにしましょう。
アパシーを改善する方法
アパシーはうつ病とは異なり、本人がつらいという感情を持っていないため積極的に治療しようとは思いません。しかし、アパシーを放置していると、うつ病をはじめとする精神疾患につながるリスクも高まるので注意が必要です。
アパシーはあくまでも症状の1つであり、病気ではありません。抗うつ剤による効果もあまり期待できないと言われています。そのため、治療する際には「生活習慣の改善」と「心理療法」が中心となります。
生活習慣を改善させる
まずは生活習慣を改善させることが大切です。無気力になってしまうと自分のことがどうでも良くなり、生活習慣が乱れる傾向にあります。
また、睡眠の質が低下したり、食事もおろそかになるので栄養がきちんと取れていなかったりするでしょう。特に高齢者はノンレム睡眠の時間が増え、ちょっとした音や尿意に目覚めてしまうことも多く、睡眠の質は下がりやすいです。
栄養面に関しても、高齢者は若年層と比べて食事量も減り、相対的にエネルギー摂取量が減ります。さらにアパシーで生活習慣が乱れてしまうと、栄養不足も進行し慢性疲労や無気力が悪化する可能性が高いです。
負のスパイラルを断ち切るためにも、生活習慣の改善が必要となります。起床したら日光を浴びてセロトニンの分泌を促しましょう。
セロトニンは精神を安定させ、脳を活性化させるキーにもなるホルモンです。睡眠の質を高めるのにもセロトニンは重要な役割を果たしてくれるので、朝目が覚めたらカーテンを開けて日を浴びるという習慣付けをしていきます。
あとは先ほどご紹介したように、食事や就寝の時間になったら声掛けをして毎日規則正しい生活を送るようにサポートしてあげましょう。毎日続けていくと疲れも自然と取れやすくなり、アパシーの症状改善につながります。
心理療法を実施する
うつ病と同様に、アパシーにも心理療法は効果的といわれています。心理療法では新しい目標を立てて、その目標をクリアするためのサポートも実施します。
頑張ってきた目標が失われてしまうとアパシーを発症しやすくなるため、新たに目標を立てることが大切なのです。しかし、最初は無気力の状態にあるため目標も拒否されてしまうかもしれません。そのため心理療法でも家族のサポートは非常に重要なものとなります。
場合によっては抗認知症薬や脳代謝賦活剤が用いられることも
アパシーの治療は主に生活習慣の改善と心理療法という非薬物的なアプローチが中心となりますが、場合によっては抗認知症薬や脳代謝賦活剤が用いられる場合もあります。
抗認知症薬は認知機能の改善に役立つ薬で、脳内のドパミン量を増加させる働きを持っています。ただし副作用も多く見られるため、処方するかどうかは医師が慎重に判断して決定します。
脳代謝賦活剤は元々脳血管の病気や脳炎の後遺症で、軽度の精神障害による記憶や知能の低下を防ぐために用いられる薬剤です。脳に栄養や酸素の取り込み、糖代謝を促進させ、脳の働きを活性化させていきます。脳梗塞や脳出血、動脈硬化などが影響してアパシーが見られる場合、処方される可能性があります。
アパシーは病気ではない
高齢者の認知症は人それぞれで見られる症状が異なります。妄言・妄想が激しい人もいれば徘徊をする人もいますが、なかにはアパシーという精神症状を発症する人もいます。アパシーはこれまで普通にできていた身の回りのこともできなくなり、生活習慣の乱れや無精が目立つようになるでしょう。
しかし、アパシーはあくまでも認知症で見られる症状の1つであり、病気そのものではありません。病気ではないため非薬物的アプローチを取りながら、体調面も考慮しつつ症状の緩和を目指していきます。
もしも家族がアパシーを発症した場合、生活習慣の乱れを改善させるための声掛けも必要ですが、あまり根を詰めすぎると大きな負担になってしまいます。本人の体調や気持ちも重視しながら、穏やかな時間が送れるように配慮することも大切です。
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この記事のまとめ
- アパシーは認知症で見られる症状の1つであり、無気力・無関心になる
- うつ病は気分が落ち込みやすいが治療に向けて積極的に動けるが、アパシーの場合は気分が一定であるものの治療しようという気になりにくい
- アパシーには生活習慣の改善と心理療法で症状の緩和を目指す
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