実はIT業界は一昔前まで3Kどころか7Kだった
今でこそ転職人気企業ランキングの上位に複数社入るほど人気があるIT業界ですが、ほんの数年前までは信じられないほど人気のない業界でした。2007年・2008年ごろの記事によれば、IT業界は「きつい、帰れない、給料が安い」の3Kに加え「規則が厳しい、休暇がとれない、化粧がのらない、結婚できない」の7Kとまで言われる始末。子どもたちの理系離れも話題となり、このままではIT業界にだれも入ってこなくなるのではと懸念されていました。
と、ここまでで昔のIT業界ってなんだか今の介護業界と似ていると思いませんか?
過去2回に渡ってご紹介してきた、介護を取り巻く環境が抱える今の問題と未来の問題。3回目の今回は、どうやってこの状況を打開するか、IT業界の歴史を振り返りながら5つの方法を考えてみたいと思います。
IT業界に学ぶ、介護を良くする5つの方法
第一から第五まで「× やらないこと」と「○ やるべきこと」を併記してご紹介します。第一の方法
過去2回の記事や、そのほかにも介護のほんねニュースに寄せられる「介護を良くする方法」では、「官僚が介護現場に来ればいい」という意見がたくさんありました。たしかに悪い方法ではないかもしれません。
でも、官僚(ものごとを決める人)と介護職員(現場を知っている人)が分断している限り、なかなか解決しないと思いませんか?
IT業界の場合、ものごとを決める人が現場に来ることで解決してきたわけではありません。むしろ、現場を知る人がものごとを決められるように現場からどんどん発信していきました。
最初にこの発想の転換ができるかどうか。
介護が「現場」にしかないことも要因の一つだと思います。介護が誰にとっても「日常」になるように、現場側から発信していかなければなりません。介護のほんねニュースも介護を「日常」にすることをとても大切にしています。だからサブタイトルが「介護現場の想いを伝える、想いが伝わるニュースメディア」なのです。
第二の方法
その後も介護職のお給料の話題は大変に盛り上がりましたね。「このお給料じゃだれも来てくれない、だからお給料を上げないといけない」という嘆きをあちこちで聞きました。しかしそれでは人が増えれば増えるほどお金が掛かる。たくさんの人が必要だからこそ給与を上げられないという状況になってしまいます。
IT業界がやったこと。それは、少ない人数でできるようにすることで一人一人の給与を上げることです。これは「2人でやってる入浴介助を1人でやりましょう」というような短絡的なことではありません。IT業界のビフォーアフターを絵にしてみました。 中間に入っていたポジションがゴッソリ整理されましたね。これはいきなり中間を抜いたわけではありません。機械にできることは機械に任せ、人にしかできないことに人が集中できるようにすることで、その結果、中間に入っていたポジションが不要となり、お客さんとの距離もグッと近づきました。こうなるとより一層、第一の方法が取りやすくなります。
また、給与水準が高いとなれば優秀な人があつまるようになります。少ない人数でできるようにすることが、たくさんの人が集まる仕組みの始まりなのです。
第三の方法
よく、介護士の方が「一生懸命がんばる!一生懸命がんばらないとお給料は増えない!」と言っているのを聞きますが、この考えは少し危険だなと思います。お給料は、一生懸命がんばったことに対する対価ではありません。産み出した価値に対する対価です。
では、なにを以って価値を生み出したととらえるか。IT業界は、KPIと言う言葉を良く使います。キーパフォーマンスインジケーター。言葉の細かい意味はほかで調べていただくとして、要するに、成果を数字で見える化するということです。IT業界はこれが大好きです。閲覧者数、購入者数、購入額・・・あらゆることを数値化して、どんな施策でどの数字が伸びたのか日夜観測しています。しかもその分析・改善のプロセスを現場がするから、無駄がありません。
介護のKPIは、まだまだあいまいなところが多いと思います。人を相手にしている以上、「笑顔が増えた」「ありがとうと言ってもらえた」のような計測しにくい効果が多いのも事実。でも成果を見える化することで、効果のあるケア技術の知見が貯まり、第二の法則のように少ない人数でも効果的なケアができるようになっていきます。
こうした取り組みをすでに始めている介護施設もあります。介護のほんねニュースでもその事例を取り上げたいと思っています。
第四の方法
かつてのIT業界や今の介護業界のように、人がたくさん必要という状況の業界では、採用コストが膨大に掛かってきます。そうなると採用コストに予算を割きたいから人件費をカットするという悲惨な状態になりがちです。
IT企業はこんな時、お金ではなく人で人を集めるという方法を取る会社がたくさんあります。代表的なものに「社員紹介制度」というものがあります。会社によって内容は異なりますが、だいたいの内容としては、社員が前職などで一緒だった人を会社に紹介してその人が入社したら紹介した社員にボーナスが支払われる、というものです。会社にとっては募集広告費などをカットでき、その分を社員にボーナスとして渡せるほか、社員が働きたいと思うような良質な人材を採用できるメリットがあります。
介護業界の中にも近い取り組みをして採用コストをどんどん人件費に回せるようにしている会社さんもあります。こうした事例も今後詳しく取り上げたいと思っています。
第五の方法
第四の方法までできるようになってきたことで、ようやく余裕が生まれたIT業界。ここからはその余裕をどうやって循環させるか、がカギとなります。
IT業界は多様な価値観を受け入れることで、その価値観の違いが新たな価値を生むようになりました。
『介護のほんね』も今でこそ歓迎してくださる方がたくさんいますが、運営開始当初は「現場を知らないやつが参入してくるな」といった主旨のコメントもたくさんいただきました(新参者への洗礼ですね)。現場経験がないことは威張れることではありませんが、異なるバックグラウンドから参入したからこそ持ち込めるノウハウもあります。
なにも知らない人や言葉の通じない人とともに働くのは、簡単なことではありません。危険だと思うこともたくさんあると思います。でも、どこかで「知らない」を「少しだけ知っている」に変えていかない限り、永遠になにも知らない人だらけです。だから、今すぐは難しくてもいつかは多様な価値観を受け入れられるように、今は第一から第四の方法を実践するのです。
介護業界をひとつひとつ良くする
IT業界は比較的新しい業界です。この道何十年なんていう人はいませんし、それゆえにまだまだ未熟な部分が多いと思います。そんなIT業界でも今のような状態まで発展してきました。今回考えてみた5つの方法は、どれも、一人一人が取り組み始めることができるものです。とはいえ、一人がジタバタしたところで業界すべてが変わるものではないと思います。お互いが助言し合い、知恵を出し合える、そんな場に介護のほんねニュースがなっていれば幸いです。
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この記事の寄稿者
横尾千歌
「介護のほんね」ディレクター。介護の用語や介護関連の仕事のこと、高齢者向けの住宅事情など、今まで縁遠かった人でも読みやすいよう図や絵とともに情報を発信します。