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認知症で病院への入院は可能でしょうか? また拒否された場合の対処法は?

母親の物忘れが増えてきたので、病院で検査を受けてみようと思います。もし今後認知症と診断された場合、病院への入院はできますか? また入院を拒否された場合は家族としてどんな対処をすべきですか?

A入院できる施設はあります。拒否された場合は、いま一度立ち止まって対象者のことを考えてみましょう。

認知症になり、介護者だけではケアができない場合は施設入居のほかに「入院」という選択肢もあります。今回は認知症による入院の方法と、本人に拒否された場合の対処法をご紹介しましょう。

平栗 潤一
平栗 潤一
一般社団法人 日本介護協会 理事長

認知症での入院はできるのか

認知症で入院する方は多くいます。しかしながら、一般の病院ではその他の疾病がない場合や、症状によっては入院できない可能性もあるのが現実です。

例えば、大きな声を出したり、物忘れや妄想による火事や近隣トラブルをもたらす恐れ、また徘徊や暴力をふるう場合は病院への入院を断られてしまう可能性が高いといえるでしょう。そうすると自宅での介護を勧められます。

断られた場合「もう入院はできないのでは? この先ずっと家族で介護をし続けるのか」と不安な気持ちになってしまうかもしれません。しかし専門的に認知症患者の入院に対応している病院もあります。ご家族の認知症の症状や程度を医師としっかり相談しながら、信頼できる病院を選びましょう。

認知症の入院に対応している施設①|救急病院

入院を考えたときに最初に思いつくのが「精神科のある救急病院」でしょう。救急外来を受診して、そのまま入院するケースもあれば、骨折やケガがきっかけで救急搬送されて入院となることもあります。

精神科の医師や看護師は認知症患者への対応もよく理解しているので、安心して入院できる施設の一つです。

しかしながら、救急病院の場合は一時的な入院であることが多いのが特徴です。すぐに転院を勧められたり、他の入院患者への影響が大きい場合には早期の退院を促されたりする可能性もあります。

認知症の入院に対応している施設②|認知症専門の病院

認知症専門の病院とは「認知症センター」「もの忘れ外来」と呼ばれることが多く、認知症専門医や認知症患者への対応に慣れている看護師がいる施設です。

認知症専門医は、精神科や神経内科、老年科などのある病院に在籍していることが多く、ご家族の状況や必要な対応について相談できます。またご家族の入院希望や必要があると判断した場合には、大きな病院、専門病院と連携をとってスムーズな入院のためにアドバイスをくれることもあります。

他の病院で入院を断られてしまった場合でも諦めずに、認知症専門の病院へ相談してみましょう。

認知症疾患医療センターの一覧はこちらからご覧ください。

入院後の認知症治療とは

認知症に対応するために入院を検討していても「そもそも入院したら何をしてくれるのだろう?」と疑問に思う方もいるでしょう。入院後に実施される治療について、簡単に紹介します。症状や入院する病院によっては異なる治療を取り入れているケースもありますので、あくまでも一例として参考にしてください。

薬物療法

認知症は、脳の疾患などが原因となっているケースが多数です。原因となっている疾患によっては、服薬することで症状を緩和する効果が期待できます。

入院中は医師や看護師もより患者様の様子を見ることができるため、必要に応じて細かな調整もしやすくなるでしょう。

リハビリテーション

一言でリハビリテーションといっても、その内容はさまざまです。脳トレのように認知機能を刺激するものもあれば、体を動かして生活機能の改善を図るものもあります。

入院するタイミングで一人ひとりの課題や困っていることを洗い出し、その解決に働きかける治療を実施するのです。

認知症の治療については以下の記事でより詳しく紹介しています。

本人が入院を嫌がる場合も

家族は入院を勧めていても、本人が嫌がるために入院できずに悩んでいるケースは多くあります。

本人のためなのになかなか理解してもらえず、家族としては苦しさを感じることもあるでしょう。認知症の方のなかには、症状をあまり自覚していない方もいらっしゃいます。無理に勧めると「私は認知症ではないのに入院させるなんて!」と傷つけてしまうこともあります。家族関係にヒビが入ることを恐れて、仕方なく自宅での介護を続けている方も多くいるのが現状です。

とはいえ、認知症の症状や程度によっては「仕事や家事をしながらのサポートが難しい」「介護ヘルパーが見つからない」などの理由から、自宅で家族が介護をすることに限界が訪れます。

では本人が入院拒否をしている場合、どう対応すればいいのでしょうか。入院を拒否された場合の対処法や、実際に入院するまでの流れを説明します。

「なぜ嫌がるのか」を考える

まず始めに考えるべきことは「入院を拒否する理由」です。本人が「入院なんて必要ない!」と言い張っている場合でも、なぜ入院が必要ないと言っているのか、言葉には必ず理由があります。

例えば、以下のような理由が考えられます。

  • 本人が認知症を自覚していない。
  • 他人にサポートしてもらいたくない。
  • 介護は家族の役割だと思っている。
  • 入院に対してマイナスのイメージがある。
  • 自分の生活スタイルを変えたくない。

本人がなぜ入院を拒否しているのかを考え、理解することでスムーズな入院につながる可能性が高まります。

理由を聞き出すポイントとしては「焦らないこと」です。入院を嫌がって興奮している時に、更に入院の話を続けるのはお互いにとって良い結果を生みません。本人の体調や気分が良いタイミングを見計らって、焦らずに少しずつ本人の気持ちを知ることに努めましょう。

また、第三者に同席してもらうことで本音を聞き出しやすくなることもあります。例えば、家族の前ではプライドや恥ずかしさから「家族に介護してほしい」という気持ちを言えずに入院拒否をしていることもあるでしょう。第三者(友人や医師、親戚など)にはポロっと本当の気持ちを話すことがあるのです。

話し合っても本人が入院を嫌がる理由が分からなければ、第三者と話す機会を作ってみるといいでしょう。

入院拒否をする家族に対して心がけること

本人が入院を嫌がる場合、介護をしている家族にも大きな不安や苦労がのしかかってきます。

「このままずっと介護と仕事を両立できるのか」と考えると、精神的にも肉体的にも負担は大きくなりますよね。また、大人を介護するわけですから、女性が介護をする場合はかなりの力が必要となり、危険な場面もあります。

このような焦りや介護疲れから、家族間の関係がギクシャクすることも大きな問題となっています。介護をするうえで家族の理解や協力が何よりも大切です。では入院拒否している要介護者がいる場合に家族が心掛けたい対応とは一体何なのでしょうか。

本人の気持ちを理解し、受け止める

先ほども説明したように、まずは本人の気持ちを知り、寄り添ってあげることが大切です。

認知症患者のなかには自分自身で「最近おかしいな」と感じているからこそ不安を抱え「自分は認知症ではない」と言い張るケースも多くあります。その気持ちの裏には「自分は認知症であってほしくない」という願望や恐怖があるのです。

他のケースでは、自分の家から離れたくないという気持ちや、家族に介護をしてもらいたいという気持ちから入院を拒否していることもあります。

家族がしっかりと本人の気持ちを理解することで必要なサポートや対応の仕方が変わってきます。

「大事に思っている」と伝える

焦りや不安から、ただ「入院しよう」と伝えることは、言われる本人にとっても辛いことです。家族から見捨てられたと感じてしまう人もいます。

そうならないためにも、入院は「本人にとって必要なサポートが受けられるから」「本人の安全のためであること」をしっかりと伝えましょう。もちろん「辛い介護の日々から解放されたい」と思うこともあって当然です。しかし、そのような感情は本人に伝わり「不信感」となってしまうので、自分の心が落ち着いている時に話すようにしましょう。

本人が「家から離れたくない」ことが理由で入院拒否をしている場合は、入院施設に相談して、自宅にある物をたくさん持っていき、少しでも住み慣れた家を感じて安心できるような環境にすることを提案できます。

「家族に見捨てられそうで入院することが怖い」と感じている場合には、可能な限りで会いに行くことを約束し、本人のための入院だとしっかりと伝えることで、入院に前向きになる場合もあります。

入院しても大事な家族に変わりないことを伝え続け、本人が納得して入院できるようにしていきましょう。

家族全員が同じ気持ちを持つ

いつも介護をしている奥さんは入院を勧めているが、旦那さんは「入院しなくてもいい」と言い張るなど、家族間で意見が異なるケースも多くみられます。

家族のなかで意見が異なると、スムーズに話が進みません。まずは家族の間で話し合い、考えを統一しておくことが大切なポイントです。話し合ううえでは、普段から主に介護を担っている方の意見をできるだけ尊重しましょう。他の家族が気づいていないような症状があったり、見えない苦労をしていたりするかもしれません。

人の気持ちを変えたり、納得してもらうことは簡単なことではありません。周りにいる家族全員が協力し、安心感を与えることが重要です。

認知症の入院までの流れ

本人が納得して入院できることが理想的な流れではありますが、実際はなかなかうまくはいきません。入院するまでには、どのようなステップが必要なのでしょうか。

STEP1:病院を受診する

まずは病院を受診することが第一段階ですが、それさえも嫌がってしまうことで悩んでいるご家族の方は多くいます。入院したくない介護対象者と、本人のためにも入院させたい介護者。無理に進めたり、騙したりしたら家族の関係が壊れてしまいます。

では、認知症患者の家族が納得して入院してもらうにはどうすべきなのでしょうか。

方法1:自然な流れで病院へ誘う

入院するには一度、病院を受診する必要があります。「認知症かもしれないから」「最近おかしいから」などといった理由で病院へ誘うことは、本人にとっても不安が大きく、嫌がる理由にもつながるのです。

そのため「病院から『健診の日程が早まった』と連絡がきたから行ってみよう」などと誘うことで自然に病院に行ける可能性があります。

「健診」と伝えれば嘘にはなりません。介護をするご家族も罪悪感なく病院を促せるでしょう。病院側へは、予約する際に「健診ということにしてください」と事情を説明すれば、うまく対応してくれるはずです。

方法2:知り合いの話をする

身近な人でなくても大丈夫なのですが、知り合いの話をすると自分に置き換えて考えやすくなります。

例えば「友達のお母さんが物忘れがひどくて病院で検査してみたら、脳に異常が見つかったんだって。でも早期発見だったから治療も順調みたい。大きな病気だったら心配だから検査してほしい」といったように、病院への受診を促すのも手段の1つです。

ポイントは「大事だからこそ受診してほしい」と伝えることです。大きな病気がないと分かれば、本人にとっても家族にとっても安心できます。本人も家族のために受診しようと思えるでしょう。

STEP2:受診から入院へ

第一段階の病院を受診することができたら、次は入院へのステップです。入院するには医師の判断が必要となります。本人が検査をしている間に、医師に「家族が困っていること」や「専門的な介助が必要であること」を話しましょう。

その日からすぐに入院となる可能性は低いですが、まずは検査入院や短期入院でもいいので入院するように促します。入院中にたくさん会いに行ったり、本人の安心する物を置いて環境を整えたりすることで、本人は「思っていたよりも快適だ」と感じ、入院を嫌がらなくなることもあるのです。

入院以外の選択肢とは

認知症の症状はさまざまなので、症状の程度によっては入院が難しい場合もあります。危険行動を伴わない認知症の場合は、病院への入院ではなく、特別養護老人ホームやグループホームを勧められる場合もあるでしょう。病院に入院しなければ、どのような選択肢があるのかを見ていきましょう。

在宅介護を続ける

病院だけでなく介護施設にも抵抗がある場合は、自宅での介護を続けるケースもあります。しかし入院を考えるほどに症状が重くなっていると、家族だけで介護を続けるのは難しいかもしれません。

訪問介護やデイサービスなどの介護サービスを利用して、できるだけ負担がかからないように工夫しましょう。症状が悪化しているときは、要介護認定の区分変更を申請することで利用できるサービスの範囲が広がる可能性もあります。

介護保険サービスの種類や要介護認定については、以下の記事を参考にしてください。

介護施設に入居する

病院ではなく、介護施設に入居して介護のプロに任せる方法もあります。介護施設の多くは認知症でも入居可能です。ただし、症状によっては入居できない可能性もありますので、見学の際に状況を伝えて相談しましょう。

また「特別養護老人ホームは要介護3以上」「グループホームは要支援2以上で住民票が同じ市区町村にある方」など、施設ごとに入居条件が異なります。まずは施設の種類や特徴を理解したうえで入居先を検討することが大切です。

介護施設の種類については、こちらの記事にまとめています。

施設を考える際も家族で一緒に見学に行き「楽しそう」と感じることで前向きに入居を促すことができるでしょう。

家族の認知症が心配な場合は病院に相談を

入院するには医師が「入院の必要がある」と判断することが前提です。自宅での介護で危険を感じる場合には、まずはかかりつけ医に相談しましょう。

この時、必ずしも本人を連れていく必要はありません。かかりつけ医でしたら本人の状況も分かっています。家族がどんなことに困って入院すべきだと考えているのかを相談しましょう。

医師にはネットワークもあります。認知症専門の病院や認知症専門医を紹介してくれる場合があるのです。知らない病院をいきなり受診するよりも、まずはかかりつけ医に相談することがおすすめです。

認知症の方の介護をすることは、家族にとって精神的にも肉体的にも負担が大きくなります。また、認知症による危険行為がある場合には、さらに不安がのしかかってくるでしょう。

ケガや他の疾患とは異なり、認知症での入院を断られたり、入院先がなかなか見つからなかったりする場合もあります。そんなときは一人で悩まずに病院やケアワーカー、地域の包括支援センターなど、周りにある環境をうまく利用することが家族にとって大切です。さまざまな意見を聞きながら、本人と家族の両方にとって無理のない方法を考えていきましょう。

この記事のポイント

  • 認知症の治療のための入院は可能
  • 嫌がる本人を無理に入院させると関係が壊れることも
  • まずは「大切に思っているからこそ入院してほしい」ということを伝える
平栗 潤一

この記事の監修

平栗 潤一

一般社団法人 日本介護協会 理事長

大手介護専門学校にて教職員として12年勤務し、約2000名の人材育成に関わる。その後、その経験を活かし、認知症グループホームや訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅などの介護事業や、就労継続支援B型事業所や相談支援事業所などの障がい福祉事業を運営。また一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して活動中。

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