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認知症による過食にどう対応すべきですか? また期間の目安は?

認知症の母の在宅介護をしています。食事をしたのに「お腹が空いた」とご飯を催促する場面があって困っているのですが、どう対処をしたらよいでしょうか。また過食はいつごろ落ち着くのでしょうか。

A認知症による過食は多くの場合、一過性の症状といわれています。それまでは「食器を片付けない」「軽食を渡す」などの対処法があります。

認知症を発症すると、その進行段階で過食の症状がみられることがあります。過食は健康上の問題も引き起こすことから、介護を行う家族などによって適切に対処することが大切です。また、認知症では過食以外にも食にまつわるさまざまな異常行動を起こすことがあります。

平栗 潤一
平栗 潤一
一般社団法人 日本介護協会 理事長

認知症を発症すると起こる異常行動のひとつが、過食です。放置すると健康への悪影響が懸念されるため、認知症の人が受け入れやすい方法で対処しなければなりません。また認知症は過食以外に、異食、口唇傾向、盗食、拒食、誤嚥などもみられます。

今回は対処法や症状の理由についてご紹介しましょう。

認知症による過食とは

認知症の症状は「中核症状」「周辺症状」に大別されます。このうち中核症状は、認知症を発症すると例外なく現れるもので、物忘れが酷くなる記憶障害、日付や自分がどこにいるのかわからなくなる見当識障害といった症状が代表的です。

過食は周辺症状のひとつ

これに対し、周辺症状には徘徊や幻覚、不眠といったさまざまな症状があり、このうちのひとつに過食があります。

人が感じる空腹感あるいは満腹感は、脳下垂体の満腹中枢や摂食中枢と関係しています。このうち空腹感は、血中の糖質、脂肪、インスリンといった栄養素が減少して摂食中枢が刺激され、同時に満腹中枢が抑制されることで起こります。

一方、食事によってこれらの栄養素が血中で増加し、満腹中枢が刺激されて得られるのが、満腹感です。

認知症を発症した場合、この満腹中枢が正常に機能しなくなります。さらに、食事をしても摂食中枢が刺激され続けることから満腹感を得られず、過食が起こると考えられています。

ただし、周辺症状に関しては人によって現れ方が異なるため、過食に関してもすべての人に現れる症状ではありません。

認知症における過食状態の症状

認知症の過食には、一般的に起こる精神疾患による過食とはやや異なる特有の症状があります。

症状は一過性

認知症における過食の多くは一過性で、一定期間を過ぎると食欲が正常に戻ることも少なくありません。ただし過食が悪化していく傾向がみられる場合には、専門家に相談するなど、適切な対処が必要です。

また過食が続く期間は一過性といえど個人差があり、認知症が進行するスピードや環境によって異なります。

異常な食欲

認知症を発症すると、極端に食欲旺盛になり、これによって過食が起こることがあります。

食事の直後にさらに食べ物を欲しがったり、目につく食品を手当たり次第に食べてしまったりするのが典型的な例です。注意しても聞く耳を持たず、家族が対応に苦慮することが少なくありません。

また、こうした暴飲暴食は一定期間放置すると健康への悪影響を及ぼす可能性が懸念されます。

食事したことを忘れてしまう

認知症における過食の要因としては、中核症状となる記憶障害が起因していることもあります。単なる物忘れの場合、何を食べたかは忘れてしまっても、食事をしたこと自体は忘れません。

ところが認知症の場合、食事をしたという記憶そのものが欠落してしまうため、食事をしていないと思い込んでしまいます。

さらに、満腹中枢の機能が低下していることで満腹感を得られないため、より過食に拍車をかけることがあります。

認知症によって過食になってしまった人への対応

食事をしたことを忘れてしまい、満腹感を得られずに空腹を訴えている認知症患者は「食事を与えてもらえない」という被害妄想「この先何も食べられない」といった不安を抱きがちです。

こうした場合、食事が済んでいることを強く言い聞かせるとかえって逆効果になり、暴言や暴力といった問題行動に発展してしまうことがあります。

しかし、本人の要求通りに食べ物を与えることは肥満などを招くうえ、健康管理上も不適切です。そこで、認知症が要因となる過食に対しては、認知症の人が感情的にならず受け入れやすい対応を心がけなければなりません。

食器をすぐに片付けない

食事が済んだあとの食器はあえてすぐに片づけないことで「食べ終わった」という意識づけにつながります。またそうすることで、すでに食事をしたと説明できます。

このほか、食事が済んでもすぐに食卓を離れず、お茶などを飲みながら会話すると食事した印象が残りやすくなるでしょう。

軽食を渡す

食事をしたにもかかわらず食べ物を要求する認知症の人に対しては、あえてお菓子などを渡し、食事を用意することを伝えると効果的な場合があります。

このとき次の食事の時間も伝え、献立を話題にするのもよいでしょう。こうすることで「食事をさせてもらえない」という被害感情が「もうすぐ食べられる」という期待に変わることがあります。

また、おにぎりやパンなどの軽食を用意しておき「食べたい」と訴えた際に食べてもらうのもよいでしょう。少量であっても「食べたい」という欲求が満たされると、本人が落ち着きを取り戻すことにつながります。

食事の回数を増やす

どうしても過食が治まらない場合には、1日の食事回数を増やし、食べたいという欲求をこまめに満たすのもひとつの方法です。

この場合、朝食と昼食の間や、昼食と夕食の間などに回数を増やす一方で、1日の摂取カロリーを考慮し、1回あたりの食事量を減らします。

「食べる」ことから意識を逸らす

認知症の人の過食を改善するためには「食べること」そのものから意識を逸らすのも大切です。特に食後に時間をもてあましていると「食べたい」という欲求が起こりやすくなってしまいます。

この状態を防ぐには、少しでも気がまぎれるようレクリエーションやゲームに誘う簡単な家事を頼んでみるといった対処法があります。

目につきやすい場所に食べ物を置かない

過食の症状がある認知症の人は目につく場所に食べ物があると手当たり次第に食べてしまうことがあります。

このため、食べ物は目につきにくい場所に保管するほか、冷蔵庫に鍵をつける、鍵付きの棚にしまう、中身が見えない容器に保存するといった対処が必要です。

怒らない

過食に限らず、認知症の人への否定的な態度や言動は避けなければなりません。周囲が困惑するような問題行動は介護者にとって大きなストレスとなりますが、認知症の人を怒鳴ったり叱ったりすることはかえって逆効果です。

周囲からは不可解に感じられる行動や言動にも、本人なりの理由があると考え、できるだけ丁寧に接しましょう。

話を聞いてあげる

怒らないこと同様、認知症の人の話をよく聞くことも大切です。これにより、介護者に対して「食事のことを考えてくれる人」という認識と信頼関係が生まれ、その安心感から過食の症状が緩和されることもあります。

認知症による食の乱れは「過食」だけではない

認知症患者のなかには、過食のほかにも食に関するさまざまな異常行動を起こすケースが見受けられます。それらも事故や健康上の問題につながる懸念があるため、十分注意しなくてはなりません。

異食

異食とは、食用ではないものを食べてしまう行為です。幼児や小児に多い行動ですが、認知症患者にもみられることがあり、食べられないものを食べられると誤認する認知障害によって引き起こされるといわれます。

口に入れてよいものであればさほど問題はありませんが、農薬や紙タバコなど健康に悪影響を及ぼすものであれば最悪死に至る危険性があります。発見あるいはその疑いがある段階で、直ちに病院へ搬送しなければなりません。

また毒物などの異食は、呼気からの異臭によって発見できることもありますが、ボタン電池のような無臭の固形物は胃潰瘍を引き起こすまで発見に至らないケースもあるため注意が必要です。

このように、異食を未然に防ぐには監視と環境の整備が重要であり、認知症の人が口にすると危険と考えられるものは本人の目の届くところに置かないことが大原則となります。

口唇傾向

口唇傾向は異食と似たものです。本来は新生児の唇に物が触れると舐めようとして吸い付く原始反射のひとつであり、幼児がおもちゃを舐めたり何でも口に運んだりする行為も口唇傾向といいます。

認知症の場合は、前頭側頭型認知症が重症化した際にみられることが多い症状です。両側の側頭葉が委縮することで起こります。また、他の種類の認知症が重症化して両側側頭葉が破壊されたときにも口唇傾向が出る場合があります。特に認知症末期に出現しやすい症状です。

食べられないものとわかれば口に入れたものを吐き出すため、口唇傾向自体は問題にならないこともあります。しかしこの行動の延長で異物を誤って飲み込んでしまうこともあるため、異食同様、介護者は注意しなければなりません。

盗食

過食の症状がある認知症の人は、家族などの介護者から食べ物がもらえないと冷蔵庫や食器棚から食べ物を探し出し、盗み食いをすることがあります。

これを盗食といい、特に夜間や家族が不在のときにこうした行動をとります。対処方法としては、過食と同じく目につきにくい場所に食べ物を保管するほか、中身の見えない容器や、鍵のかかる場所にしまうのが効果的です。

拒食

認知症では過食とは逆に、食事をとらなくなるケースもみられます。それが拒食です。そもそも高齢者は認知症かにかかわらず、活動量や必要なエネルギー量が少ないため、食欲がわかずに食事を拒否することがよくあります。

さらに認知症の場合には、食べ物が認識できずもてあそんでしまう、食べ方がわからない、周囲の環境の影響で食べられないといった症状が引き起こされることもあります。

一時的な症状であれば問題ありませんが、食事の拒否が続くと栄養不足で健康に影響を及ぼす恐れがあるため注意が必要です。

さらに持病に糖尿病の症状などがあると、食事を摂らずに治療薬を服薬して低血糖を起こす場合があります。また、本来であれば食事から摂取するはずの水分が体内に補給されないため脱水の危険が高まります。

ただし、本人に食べることを無理強いすると食事そのものが不快となり、かえって逆効果になることがあります。そこで、食事が摂れない場合には果物や牛乳といった少量でも栄養補給できる食品や、栄養補助食品、食欲がなくても食べられる本人好みの食品を用意しておくのもよいでしょう。

また認知症では、感覚器や運動機能に異常がなくても食事を摂るときの一連の動作がわからなくなる症状がみられることがあります。これを失行といいます。その場合、本人から見える位置で介護者が一緒に食事をすると、見よう見まねで食事ができることもあります。

このほか、料理の量が多すぎると手の付け方がわからなかったり、食器の数が多いと混乱したりすることもあります。食事の盛り付けや食器を工夫するのも対処法のひとつです。

誤嚥

誤嚥とは、食べ物や飲み物が正しく食道へ入らず気道に入ってしまうことです。本来、食べ物や飲み物を認識し、口に入れて、噛み、飲み込むという一連の流れ(嚥下)は神経や筋肉が連動しておこなわれます。

しかし、認知症の人は脳が委縮しているため、一連の動作に支障をきたして誤嚥が起こります。これを嚥下障害といい、認知症の誘因となる脳梗塞や脳出血によって起こることが少なくありません。また、認知症による暴言や暴力といった行動心理症状を緩和する抗精神病薬などの影響によって、嚥下障害が出る場合があります。

また誤嚥は本来、咳こみといった反射運動によって防御されるものです。しかし認知症になるとこの力が弱まるため、気管に入ってしまった食べ物が肺に至って感染源となる誤嚥性肺炎が引き起こされます。

誤嚥性肺炎は誤嚥によって引き起こされる最大のリスクです。通常の肺炎と同様に抗生剤で治療できますが、根本的な原因となる誤嚥が繰り返されることで、やがて命にかかわる重大な疾患となります。

そのため、食べ物や飲み物はできるだけ飲み込みやすくするなどの工夫をし、できるかぎり誤嚥を回避しなくてはなりません。水物にはトロミをつけるほか、固形物は細かく刻む、あるいはペースト状するといった方法が有効です。

また、食べ物をできるだけ少量ずつゆっくりと口に入れることなどを心がけるとよいでしょう。

それでも誤嚥を回避できず繰り返し誤嚥性肺炎を起こしてしまう場合、医療機関では胃瘻(いろう)増設が検討されることもあります。胃瘻は腹部に小さな穴をあけ、胃の中に管を通して必要な栄養や水分を補給する延命措置です。賛否両論がありますが、高い確率で誤嚥性肺炎を予防できる手段です。

認知症の過食は太らない?

認知症による過食で何度も食事をとった場合、体重に変化はあるのでしょうか。

過食期の認知症では「動きが非常に活発である」「大量の排便をする」という特徴がみられる人がいます。活発な活動で多くのエネルギーを消費し、さらに食事からうまく栄養を吸収できない場合、大量に食事をとっても太らない場合があると考えることができます。また「記憶障害に基づく過食では、体重増加につながらないことが多い」という論文もあります。

また、認知症と直接的な関係はないですが、認知症とともに糖尿病を発症している人がいます。糖尿病の症状のひとつとして、食べても食べても太らないといった現象が起こる場合があります。

参考:川崎幸クリニック「認知症と過食・拒食・異食」/CORE「体重減少を認める認知症入所者の「食」に対する介護職員の介入」/京都糖尿病相談室「糖尿病とは

認知症による食のトラブルは外部と協力して対処をしましょう

食事は人にとって欠かせない行為ですが、認知症の進行過程においては過食などの異常行動がみられることがあります。

過食への対応は介護する家族にとって困難をともなうもので、改善には生活上の工夫や環境の整備が必要です。また、食に関する認知症の症状は取り返しのつかない事故につながる危険も潜んでいます。

家族のみでの対応が難しい場合には、介護の負担をシェアするためにも「プロの介護者の力を借りる」「介護施設への入所を考える」ことも必要といえるでしょう。

平栗 潤一

この記事の監修

平栗 潤一

一般社団法人 日本介護協会 理事長

大手介護専門学校にて教職員として12年勤務し、約2000名の人材育成に関わる。その後、その経験を活かし、認知症グループホームや訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅などの介護事業や、就労継続支援B型事業所や相談支援事業所などの障がい福祉事業を運営。また一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して活動中。

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