Q

認知症によって攻撃的になった家族への対応はどうすればいいですか?

母が認知症になってしまい、急に暴力を振るったり、攻撃的な言葉を言ったりするようになってしまいました。正直、戸惑っておりどう対処するべきかわかりません。対応法を教えてください!

Aまずは攻撃的になる理由を理解して、冷静に対処しましょう。

認知症によって攻撃的になる背景には必ず理由があります。まずは原因とその対処法を理解したうえで、冷静に対処することが必要です。

平栗 潤一
平栗 潤一
一般社団法人 日本介護協会 理事長

認知症は種類や進行度合いによって症状が異なり、全ての人が攻撃的になるわけではありません。

しかし、ある日突然攻撃的な行動を起こすこともあり、周囲はどのように対応したらいいのか不安に思ってしまうことでしょう。攻撃的になる原因対処法をあらかじめ知っておくことで、冷静に対応できます。この記事で詳しく解説しますので、ぜひ参考になさってください。

認知症により攻撃的になることも

認知症の主な症状は2つあり「中核症状」「行動・心理症状(BPSD)」に分けられます。はじめに、それぞれについて簡単にご説明します。

中核症状

中核症状とは、脳の神経細胞が壊れることで認知機能に支障が出る症状です。例えば次のような症状が現れます。

  • 記憶障害:ものごとを記憶する能力が低下し、直前に起こったことまですぐに忘れてしまう。ただし、数十年前の出来事は覚えていることもある
  • 見当識障害:自分がいる場所や時間などが認識できなくなる
  • 判断力障害:筋道を立てて考えることができなくなったり、あいまいな表現が理解しにくくなったりする
  • 問題解決能力障害:突発的に起こる出来事に対処できなくなる
  • 実行機能障害:物事の順序を決めて行うことが難しくなる
  • 言語障害(失語):言葉を理解したり口にしたりすることが難しくなる
  • 失行:運動機能は正常なままにも関わらず、スプーンや箸を使う・服を着る・歯磨き、お茶を入れるなどの動作ができなくなる
  • 失認:体の半分の空間認識ができなくなり、服の袖が片方だけ通っていない・ご飯を半分残すなどの行動がみられる

行動・心理症状(BPSD)

以前は「周辺症状」と呼ばれていたものですが、現在ではこの呼び方が主流となっています。中核症状に加えて、環境や精神などあらゆる要因が重なって表れる症状です。次のような症状が現れます。

  • 行動症状:徘徊、多動、不潔行為(便器の中に手を入れる・トイレではない場所で用を足す・弄便など)、収集癖など
  • 精神症状:不安、抑うつ、妄想、幻覚、誤認、不眠、意欲低下など

BPSDにおけるこれらの症状は、中核症状のそれぞれの障害によって発症する内容が変わってくるのです。

例えば、記憶障害によって妄想やうつなどの心理症状が表れますし「失語や失行によって部屋を間違える」「迷子になる」などの行動が見られます。

暴言・暴力が目立つようになる

暴言・暴力は、先述したBPSDの行動症状の1つです。BPSDは、過活動状態非活動状態に分けられますが、暴言・暴力は過活動状態のときに起こります。

障害が起きている脳の箇所は、認知症のタイプによって異なるため、暴言や暴力の原因も変わってくるのです。暴力の要因も複数あり、それらが絡み合って症状が現れることも多いため、1つの理由だけを解決しても根本的な解決は難しいといえます。

認知症によって攻撃的になる理由とその対応法とは

認知症を発症すると、攻撃的な行動を起こすケースがあります。ただしその理由は1つではありません。理由によって柔軟に対処法を変えることが効果的です。

薬の副作用のため

認知症の治療薬に「ドネペジル塩酸塩」があります。この薬は神経伝達物質である「アセチルコリン」を分解する酵素の働きを抑え、認知症の進行を遅らせる効果があるのです。初期段階での投与は、特に効果が高いとされています。

ただし、薬ですので副作用が起こる可能性もゼロではありません。ドネペジル塩酸塩の副作用として、徘徊、幻覚、暴力、攻撃的になるなどの症状が報告されており、特に進行期のアルツハイマー型認知症の方に多く見られます。また、不整脈などの心臓疾患をもっている方には処方できません。

薬の副作用は、高齢者に発生しやすいのが特徴です。これは脱水症状が原因の1つだといわれています。体内での水分と電解質のバランスが崩れ、予想しない副作用が起こることもあるのです。

持病を複数持っている患者さんであれば、さらに薬の相互作用が起きやすいため、様子をこまめに見守る必要があります。

対処法とかけてあげたい言葉

薬の副作用の場合は、主治医に相談し、指示を仰ぐようにしましょう。服用をやめる、他の薬に替えるなど、患者さんに合わせた方法を選んでくれます。

患者さんを否定してしまうと、もちろんとても傷ついてしまいます。「でも」や「だけど」などの言葉にも、患者さんは敏感になっているのです。薬が原因だと分かっていても、患者さんの話す内容を肯定するようにしましょう。

混乱しているから

認知症の方の傾向として、いったん理解してもその後に論理的な記憶を忘れやすいことが挙げられます。しかし、感情的な記憶は残っているものです。

例えば、歯科検診のために嫌いな歯医者に行くとしましょう。「歯医者に行く」という事実は忘れてしまいますが「行きたくない場所に連れていかれる」という感覚は残っています。この感覚が不安や混乱につながり、攻撃的な行動をとる要因となるのです。

対処法とかけてあげたい言葉

記憶を忘れやすくなっているときには、頻繁に声をかけてあげると効果的です。ただし「さっきも伝えた」という注意はしないように気をつけましょう。

言葉以外にも、スキンシップを十分にとったり、話しかけるときに目を見て話したりすることも大切です。患者さんの体に触れる前に、ひとこと声をかけると、患者さんも落ち着いて受け入れてくれます。

体調が悪いから

体調不良のときは、誰しもいい気分にはなりません。認知症の方は、自分の体調が悪いことを自覚できずに、自覚していたとしても状況を自分からうまく伝えられません。この不快感から、攻撃的な行動をとることがあります。

対処法とかけてあげたい言葉

体調不良が疑われる場合は、興奮が収まってから体調を確かめましょう。熱が上がっていないか、お通じや排尿は問題ないかなど、定期的にチェックしておくと安心です。

認知症の種類と攻撃性の特徴

認知症には複数の種類があり、種類ごとで攻撃性の特徴が異なります。患者さんの行動を少しでも理解するために、それぞれの特徴を見ていきましょう。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、認知症で最も多いタイプです。脳の中に、アミロイドやタウという異常なたんぱく質が蓄積することで、最初に海馬が萎縮し、徐々に脳全体が萎縮していきます。

アルツハイマー型認知症では、軽度の段階から感情および人格の変化が見られることが多く、中等度になると幻想や妄想・衝動的な行動などの症状が現れます。高度の段階になると、次第にコミュニケーションをとることが難しくなっていくのです。

前頭側頭型認知症

脳の部分のうち、前頭葉と側頭葉という部分が萎縮を起こすことで発症します。社会において人との関わりを嫌うようになることで、傍若無人の行動をとるのが特徴です。物忘れはあまり起こらず、身の回りのことはできるため、うつ病など他の病気を疑われるケースもあります。

このタイプの認知症では、それまで穏やかだった患者さんが、急に人が変わったかのように怒りっぽくなることがあり、認知症でもその傾向が顕著に見られます。怒りが強いと「攻撃」というかたちで表れてしまうのです。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症の次に多く見られる認知症です。レビー小体という特殊なたんぱく質が、脳の大脳皮質や脳幹に集まり、神経細胞を破壊していくことで神経伝達に支障が起こり、認知症の症状が起こります。

レビー小体型認知症は、初期の段階ではパーキンソン病の症状を発症することが多く、他のタイプの認知症と見分ける重要な判断材料となります。妄想や幻覚、人物の誤認症状も多く、恐怖を振り払いたい気持ちにかられ、衝動で暴れたり暴力をふるったりする行動を起こすことがあります。

脳血管性認知症

脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの疾病によって起こる認知症を言います。脳梗塞は、脳の血管が詰まることで血流が滞り、脳の細胞が壊死してしまう病気です。脳出血は、何らかの原因で脳の血管が破れて出血し、血腫という血の塊が脳を圧迫することで障害が起こる病気です。

この認知症の症状は、ほかの認知症とほぼ変わりません。記憶障害や認知機能障害が見られます。ただ、症状の現れ方に波があり、落ち着いていたかと思えば突然態度が豹変したり、分野によってできることとできないことがはっきり分かれたりと、「まだら認知」と呼ばれることがあります。

不安や焦燥感、抑うつ感を強く感じることが多いため、暴言や暴力などの攻撃的な行動を起こす可能性もあるのです。

攻撃的になった心理状況を推測してみよう

暴力や暴言など、攻撃的になる背景には、症状や行動のウラに隠れている心情を理解することで、対処法が見えてくることもあります。

認知機能に障害があると、不安を感じやすくなり、警戒心が高まる傾向があります。このことで、ちょっとしたことで大声を出したり暴れたりという行動が見られます。

また、脳の一部である「偏桃体」は、好き嫌いや快感・不快感などの記憶につながる役割がありますが、認知症の方はこの部位が敏感に反応する傾向がみられます。

不安やいら立ちが起こると、なかなかそれを抑えることができず、手や足が出てしまい暴力につながるケースも多くなります。特に男性の患者さんは力が強いため、介護する側が身の危険を感じることもあるほどです。

興奮や怒りを受け止める

攻撃的になっていると、感情が高ぶり興奮している状態が続きます。ただ攻撃を止めるだけでは、患者さんは同じことを繰り返してしまうでしょう。

例えば、中核症状のひとつである見当識障害を持っている方が施設に入所している場合、自分がなぜこの場所にいるかということを理解できないことがあります。施設の食事内容や食器も、いつも自宅でとっていたのとは異なりますので、患者さんにとってはさらに混乱を招いてしまう場面となるでしょう。

そこへ、スタッフが声をかけても、スタッフの顔を覚えていないと、知らない人に一方的に命令されたという被害妄想が起こり、恐怖心から暴力に至ってしまうのです。

この場合、まず話を聞く・見守る・一緒に過ごすなど、患者さんの興奮や怒りを受け止め、落ち着けるような環境を作りましょう。その後、落ち着いたら理由や原因を少しずつ探っていくことが大切です。

話を聞くだけでは、根本的な解決にはならないので、考えられる原因を介護する側の方たちができるだけ取り除いていくことが大切です。

例えば、食事環境が落ち着かない原因となっているのならば、メニューを工夫したり、可能であれば自宅の食器を持ち込んだりしてみてはいかがでしょうか。

また、認知症の方は、外部からの刺激に敏感に反応する傾向がみられるため、集中して話を続けることが難しい場合があります。会話中に、イライラした様子がみられた場合には、静かに話せる場所に移るのも有効な対処法だと言われています。

なじみのある生活用品が施設に持ち込めるようであれば、自宅の椅子やカーテン、鏡、本棚、写真立てなどを施設の部屋に置くのも、気持ちを落ち着かせる効果が見られることがあります。

認知症の方を叱ってはいけないと分かっていても実際は難しい

認知症の方は、記憶する能力は衰えてしまいますが、感情を持つことは忘れていません。この症状から、叱られている理由は分からなくとも、叱られている事実は理解しているのです。そして、不快な気持ちだけが残ってしまいます。

このような気持ちが蓄積することで、妄想や異常な行動が悪化してしまい、悪循環に陥ってしまうのです。

ただ、介護する側の方も、認知症の方に叱ってはいけないと理解していても、疲れがたまってくるとつい叱ってしまうこともあるでしょう。

認知症の方は、感情だけでなく羞恥心やプライドも変わらないと言われています。ご本人が、自分の間違いを認識できるうちはいいのですが、同じ話を何度も繰り返したり行動が治らなかったりすると、周囲も困惑してしまいます。

介護者の身の危険を感じる前に専門家に相談を

認知症の方への介護は、百人いれば百通りの方法があります。心を寄せて介護していても、気持ちが伝わらずにうまくいかないこともあるでしょう。介護者の方が倒れてしまっては、生活が立ち行かなくなってしまいます。

身の危険を感じるような状態になる前に、ぜひケアマネジャーなどの周囲の方々に相談しましょう。ケアマネジャーは、ケアプランを作成したり手続きをしたりするプロであり、介護におけるさまざまな事例を把握しています。

ケアマネジャーに相談することで、適切な介護サービスを受けられるようになります。ケアマネジャーには厳格な守秘義務があるので、多くの情報を伝えるとより良い対処法を考えてくれます。

ケアマネジャーを利用するために、まずはお住まいの自治体で介護保険課または地域包括支援センターを尋ね、相談してみましょう。

また認知症専門医も症状を見ながら、投薬やコミュニケーションの対処法を教えてくれます。

平栗 潤一

この記事の監修

平栗 潤一

一般社団法人 日本介護協会 理事長

大手介護専門学校にて教職員として12年勤務し、約2000名の人材育成に関わる。その後、その経験を活かし、認知症グループホームや訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅などの介護事業や、就労継続支援B型事業所や相談支援事業所などの障がい福祉事業を運営。また一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して活動中。

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