【FP監修】老後資金はいくらほど必要ですか? 70歳から90歳までの介護費用も含めて教えてください
40歳を迎えて老後のことを考え始めました。老後資金がいくら必要なのか、不安です。介護施設に入ることも含めて、老後資金は具体的にどれほど必要なのか教えてください。また、70歳から90歳まで介護を受けると仮定した際の介護費用も併せて知りたいです。
A退職後20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の資金が必要だといわれています。
2019年の金融庁のデータによると、高齢者夫婦無職世帯の場合、退職後20年として約1,300万円、30年とすると約2,000万円の生活資金が不足するといわれています。この不足分に関しては貯金や積立資金などの資産で補うとされています。
高齢化が進むにつれて人生100年時代、老後資金2,000万円問題などのキーワードが話題にのぼることも増えました。
金融庁のデータでは老後生活が20年から30年続いた場合、公的年金、厚生年金以外に平均で1,300万~2,000万円の老後資金が不足するという見解が発表されています。
今回は必要とされる老後資金の内訳について解説していきます。
老後2,000万円問題が話題に
令和元年に発表された、金融庁の「市場ワーキング・グループ報告書」は話題になりました。高齢者夫婦無職世帯について「1,300万~2,000万円の老後資金が必要になる」という調査結果が出たからです。「老後2,000万円問題」としてメディアでも報じられました。
この調査結果について、実際に資料を参考にしながら、内訳を紹介します。
参考:金融庁「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』 令和元年6月3日 」老後の月ごとの収支額の内訳
金融庁「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」によると「高齢夫婦無職世帯」の収支額平均の内訳は以下の表の通りです。なお「高齢夫婦無職世帯」とは夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯を指します。
高齢夫婦無職世帯の月ごとの収入
収入項目 | 収入金額 |
---|---|
社会保障給付 | 19万1,880円 |
その他 | 1万7,318円 |
高齢夫婦無職世帯の月ごとの支出
支出項目 | 支出金額 |
---|---|
食費 | 6万4,444円 |
住居費 | 1万3,656円 |
水道光熱費 | 1万9,267円 |
家具・家事用品費 | 9,405円 |
被服・履物費 | 6,497円 |
保健医療費 | 1万5,512円 |
交通通信費 | 2万7,576円 |
教育費 | 15円 |
教養娯楽費 | 2万5,077円 |
非消費支出 | 2万8,240円 |
その他の支出 | 5万4,028円 |
高齢夫婦世帯の月収入が「20万9,198円」、支出が「26万3,717円」です。毎月約5万4,519円が不足し、1年で約65万4,228円ほどが不足します。行政では差分について「貯蓄・退職金でまかなう」としています。
ただし、2021年4月から「高年齢者雇用安定法」の改正法が施行され、希望者は70歳まで働けるようになりました。これにより、不足額の縮小が期待されています。
老後は生活資金以外に費用が発生することも
上記の費用には介護や医療などの費用が含まれていません。これらは上乗せでかかる可能性もあります。
介護を受ける際にかかる費用
厚生労働省および総務省が発表した令和4年3月度のデータによると、80~84歳までの人は25.9%、85歳以上の人は59.8%が要支援もしくは要介護状態とされています。
介護にかかる費用は「介護が必要になった年齢がいくつなのか」「所得はどのくらいか」「介護度はどのくらいか」などによって変わります。詳しくは後述しますのでご覧ください。
参考:厚生労働省「介護給付費等実態統計月報(令和4年3月審査分)」/総務省「人口推計月報 令和4年8月報」がんの治療にかかる費用
疾患のなかでも、がんは発症率が高い疾患です。公益財団法人がん研究振興財団のホームページによると、一生のうち、およそ2人に1人ががんになるとされています。
参考:国立がん研究センターがん情報サービス「最新がん統計(2021年02月10日):がんに罹患する確率~累積罹患リスク(2017年データに基づく)」また「がん」の治療は高額になりがちです。がんを患うと入院や手術だけではなく、退院後の治療にも費用がかかります。化学療法は健康保険適用で3割負担だったとしても100万円近くかかってしまうケースもあり、高額療養費制度を適用しても50万円以上の治療費がかかることがあります。
死後の清算にかかる費用
葬儀代、入院代の清算、お墓の購入費など相続人が負担する費用も考える必要があります。葬儀代はおよそ200万円、入院代の清算は1カ月あたりおよそ5万円が相場です。ただし場合によっては香典などでまかないます。
介護にかかる費用はどれくらいなのか
高齢になって要支援や要介護認定を受けると、介護サービスを利用することになります。続いては、「介護施設に入居した場合」と「在宅介護を選んだ場合」の介護費用についてみていきましょう。
介護施設に入居した場合
入居の際の初期費用・月額費用は、介護施設によって異なります。それぞれの施設でどのくらいの費用がかかるのでしょうか。
介護施設の初期費用・月額費用の目安
施設形態 | 初期費用 | 月額費用 |
---|---|---|
介護付き有料老人ホーム | 0~数千万円 | 10~30万円 |
住宅型有料老人ホーム | 0~数千万円 | 10~30万円 |
サービス付き高齢者向け住宅 | 0~数千万円 | 10~30万円 |
グループホーム | 0~数百万円 | 10~20万円 |
ケアハウス(軽費老人ホーム) | 数十万~数百万円 | 8~20万円 |
特別養護老人ホーム | 0円 | 5~15万円 |
介護老人保健施設 | 0円 | 10~15万円 |
介護医療院 | 0円 | 8~20万円 |
在宅介護を選んだ場合
施設への入居ではなく、在宅介護を選択した場合の費用についてもみていきましょう。なお、ここではよく用いられる一部のサービスのみを紹介しています。
訪問介護
サービス内容 | 時間 | 自己負担額 |
---|---|---|
身体介護 | 20分未満 | 167円 |
20~29分 | 250円 | |
30~59分 | 396円 | |
60分以上 | 579円
(30分ごとに84円加算) |
|
生活援助 | 20~44分 | 183円 |
45分以上 | 225円 | |
通院等乗降介助 | 99円 |
参考:厚生労働省「介護報酬の算定構造(R3.1.18)」
訪問入浴
サービス内容
※介護職員2人でおこなう場合 |
自己負担額 |
---|---|
清拭・部分浴 | 1,134円 |
全身浴 | 1,260円 |
参考:厚生労働省「介護報酬の算定構造(R3.1.18)」
訪問看護
施設種別 | 時間 | 自己負担額 |
---|---|---|
指定訪問看護ステーション | 20分未満 | 313円 |
20~29分 | 470円 | |
30~59分 | 821円 | |
60~89分 | 1,125円 | |
病院・診療所 | 20分未満 | 265円 |
20~29分 | 398円 | |
30~59分 | 573円 | |
60~89分 | 842円 |
参考:厚生労働省「介護報酬の算定構造(R3.1.18)」
このほか、在宅介護の費用についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
また、以下の記事では各施設の入居費用、サービスの費用についてより詳しく紹介しています。
70歳から90歳まで介護を受けた際の費用
ここからは実際に、70歳から90歳まで介護を受けた場合の費用を想定してみましょう。「介護施設に入居した場合」と「在宅介護を選択した場合」の2つの状況で、それぞれシミュレーションします。
介護施設に入居した場合
要介護1の方が、横浜市の介護付き有料老人ホームに70歳から90歳まで入居した場合を例として、費用はどれくらいかかるのかを算出します。
介護施設には、複数の料金プランが設定されていることがあります。今回は初期費用として「入居一時金」を支払うプランを想定します。なお、入居一時金を支払うことによって月々の料金が安くなるため、入居期間が長期にわたる場合は入居一時金を支払ったほうがお得です。
入居一時金なしの場合は、家賃が月額18万5,000円ほどのホームです。入居一時金として1,110万円を支払うと、家賃は0円となります。
家賃のほか、主にかかる費用は管理費、食費、水光熱費、介護サービス費などです。また、医療費やオプションの利用費などを含めた、具体的な月額料金の例は下記のようになります。
横浜市の介護付き有料老人ホームの月額費用例
項目 | 毎月の金額 |
---|---|
管理費 | 80,000円 |
食費 | 66,000円 |
水光熱費 | 22,000円 |
介護サービス費(1割負担) | 19,832円 |
医療・薬剤費 | 5,000円 |
有料レクリエーション参加費 | 8,000円 |
理美容費(カットのみ) | 2,400円 |
新聞購読代 | 3,775円 |
おむつ代 | 1,000円 |
合計 | 20万8,007円/月 |
※要介護1の場合で算出
70歳から90歳まで入居すると、240カ月間入居することになります。240カ月分の月額費用は20万8,007円/月×240カ月=4,992万1,680円です。ここに入居一時金が加わるため、合計でかかる費用は4,992万1,680円+1,110万円=6,102万1,680円となります。
- 毎月の料金:20万8,007円
- 入居一時金:1,110万円
- 合計の費用:6,102万1,680円
※要介護1、介護保険の自己負担割合が1割の場合で算出
なお、これはあくまでも一例ですので、入居する施設や利用するオプション、本人の要介護度などによって金額は変動します。また20年過ごすうちに要介護度が重くなり、介護費用が高くなっていくこともあります。実際に自分が施設に入居することでどれくらい費用がかかるのかを知りたい方は、お住まいの地域にある介護施設の料金などを参考にシミュレーションしてみると良いでしょう。
在宅介護を選択した場合
在宅で介護を受ける場合、介護度などの状態によって、訪問介護や訪問看護などの外部サービスを月々利用することになります。また、必要に応じて住宅の改造費や、介護用ベッドといった介護用品の購入費などの初期費用がかかります。在宅介護の場合の費用のシミュレーションには、この「毎月の介護費用」と「初期費用」を把握することが大切です。
公益財団法人 生命保険文化センターがおこなった「2021(令和3)年度『生命保険に関する全国実態調査』」によると、在宅介護の場合に要する介護費用は、1カ月当たり平均4万8,000円となっています。また住宅改造や介護用ベッドの購入など、一時的にかかった費用の平均は74万円です。
この平均をもとに、実際に在宅介護で70歳から90歳までにかかる費用を算出します。70歳から90歳までの20年間、つまり240カ月間の介護費用は月4万8,000円×240カ月=1,152万円です。そこに初期費用の74万円が加わるので、合計で介護にかかる費用は1,152万円+74万円=1,226万円となります。
- 毎月の介護費用:4万8,000円
- 介護に関わる初期費用:72万円
- 合計の費用:1,226万円
このシミュレーションはあくまで平均に基づいた場合の算出になりますので、外部サービスの内容や利用頻度、介護度の変化によって金額は変動します。また施設への入居と違い、食費や水光熱費などは含まれていませんので、生活そのものにかかる費用も見越しておくことが必要です。
老後資金はどうやって貯める?
そんな老後資金は、どのようにすれば確保できるのでしょうか。貯金だけでなく、利用できるサービス、制度など老後資金を貯める方法について紹介します。
確定拠出年金
日本の年金には大きく分けると「公的年金」と「私的年金」があります。確定拠出年金とは自身で掛け金を確定できる私的年金です。ただし運用の結果によって、将来の受取額は変動します。
確定拠出年金には企業型と個人型の2種類があり、個人型は「iDeCo」と呼ばれます。掛け金は全額控除の対象ですので、確定申告・年末調整をすることで税金の還付を受けられるのも魅力です。
個人年金保険
個人年金保険は、一定期間保険料を納めることで、定められた年齢以降保険金を受け取れるという保険商品です。なかには所得控除ができるものもあります。
株や投資信託など
老後資金を貯めるために、株や投資信託をする人もいます。少額から長期的な積み立てができるのがメリットです。さらに、運用益を再投資することで元本を増やし、より大きな利益を期待できるという「複利効果」もあるのがポイントになります。
なお年間で40万円を上限に投資できる「つみたてNISA」も人気です。最大800万円まで非課税で運用できます。
投資商品は元本保証ではありません。貯蓄に回す金額をすべて、投資商品に振り分けるのではなく、貯蓄と投資のバランスを上手にとりながら、無理のない範囲で活用してください。
ゆとりある老後に向けて
この記事では老後資金にかかる費用と積み立て方を紹介しました。現在の日本では、男性の平均寿命は81.47歳、女性の平均寿命は87.57歳とされています。
参考:厚生労働省「令和3年簡易生命表の概況」65歳で退職すると想定した場合、およそ16~22年分の老後資金が必要です。なお、平均寿命はさらに延びるといわれています。
また、老後に必要とされる費用には介護費用も関わってきます。施設に入居するのか、在宅で介護を受けるのかといった選択や、実際にかかる介護費用を想定しておくのも、ゆとりある老後のために必要なことです。
資金を備えることも重要ですが、健康寿命が長ければ長いほど、介護費や医療費を削減できます。そのため、老後資金と同様に心身の健康にも気を配るのも大切な観点です。
健康寿命については下記の記事を参考にしてください。
ゆとりある老後を迎えるためにも、健康に気を遣うことはもちろん、老後の資金について前もって計画しておくことも必要でしょう。
CFP®認定者、CDA、相続手続きカウンセラー。大手金融機関での営業など、お金に関する仕事に約30年従事。乳がんを発症した経験から、備えの大切さを伝える活動を始める。2015年2月に金融商品を販売しないFP事務所を開業。子どものいない方やがん患者さんの相談、介護資金などの終活にまつわる相談、医療従事者へのセミナーなどをおこなっている。
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