認知症による徘徊への、おすすめの対策を教えてください
母の在宅介護をしています。最近、目を離すと外出をしようとしており、不安です。かといって、ずっと観察をしておくのは難しい部分もあります。おすすめの対策はありますか?
A徘徊の理由を知ったうえで機器を導入することをおすすめします。
センサーやGPSなどの機器を利用することで楽になる可能性があります。また対処法としては「なぜ外に出たいのか」を把握しておくことが前提として重要です。
認知症の方がとる行動で注意しておきたいことのひとつに、「徘徊」があります。徘徊は周囲の介護者や家族だけではなく、本人にもさまざまな危険が伴うことが予測されます。
しかし実際に徘徊癖がある認知症のご家族をお持ちの方は、それに対する対処法がわからないなど苦労している状態です。そこで今回は認知症患者の徘徊に関する基本情報と、徘徊に対する対策法を解説します。
認知症の「徘徊」とは
「徘徊」とは認知症の「周辺症状」と呼ばれる症状のひとつです。認知症者の徘徊は、簡単に説明すると「家の中や外をあてもなくうろうろと歩き回る行動」を指します。
なお周辺症状はBPSDとも呼ばれており、認知症患者本人の性格、体調、生活環境などに起因して現れるとされています。周辺症状の具体的な症状には抑うつ、妄想などがあり、今回のメインテーマでもある徘徊もそのうちのひとつに該当します。
詳細は後述しますが、認知症者の徘徊は一見すると意味もなくうろついているように見えるかもしれません。しかし本人の中では、何かしらの目的やきっかけがあって行動しているともいわれています。
ただし介護する側としては、認知症者の徘徊は早急に止める必要があります。なぜなら徘徊には非常に多くの危険が伴っているからです。具体的には交通事故やケガ、行方不明などがあり、時期や事故の程度によっては最悪命を落としてしまう可能性もあります。
このような理由から現在、家族の徘徊で悩まされている方は正しい対策法を知り、日々の生活で役立てるようにしましょう。
徘徊が起きる身体的な理由
ここからは認知症患者の徘徊が起きる主な原因を、身体的な角度から解説します。
記憶力が低下するから
認知症の方は中核症状のひとつである記憶障害によって、最近の出来事や過去の記憶なども忘れていくとされています。つまり認知症患者の方は、記憶力の低下が著しく進行しているということです。
この記憶力の低下によって起きる弊害のひとつに「当初の目的を忘れてしまう」というのがあります。
前述のように認知症患者の徘徊は、本人の中で何かしらの目的があって行われています。ところが記憶力の低下によってその目的すらわからないため、あてもなくうろうろしてしまうといった行動をとるようになります。
なお記憶障害と比較されがちな用語に「もの忘れ」がありますが、もの忘れというのは「いつ」「どこで」「誰と」「何をした」の一部分だけを忘れることを指します。
一方の記憶障害は、昨日起きた出来事のすべてを忘れてしまう症状ですから、何かしらの意図があって動いてもすぐにその目的を忘れてしまうため、結果的に徘徊と呼ばれるような行動をとってしまうのです。
判断力の低下
認知症の方は正しいほうを選択できない、つまり判断力の低下も著しく進行しています。一例ですが道に迷ったとき、一般の方ならスマホでの検索、地図の確認、交番で現在地と目的地を尋ねるといった対処法を選択することできます。
ところが判断力が低下した認知症者の場合は、迷子になったときの対処の仕方そのものがわかりません。よって徘徊によって警察に保護されるなどのケースも目立つようになります。
どういったきっかけで徘徊をするのか
前述のように、認知症者の徘徊は何かしらの目的があって行われるものとされています。では具体的に徘徊をする目的やきっかけにはどのようなものがあるのか? ここではその疑問について解説します。
懐かしい場所に行こうとして
認知症は主に高齢になってから現れることが多い症状です。一般的に多くの人は、認知症にかかる前は現役バリバリの社会人でした。
一例を挙げると会社への通勤や退勤、子どもの送り迎えなどがあります。認知症の方は、このような過去の習慣を再現しようとして徘徊を行う可能性があるとされています。
過去の習慣を再現する目的で徘徊を行ってしまうのは、先ほども解説したように記憶障害が大きく関係しています。
記憶障害になると現在の状況を忘れてしまうため、「会社に出社しなきゃ」「子どもの迎えに行かなきゃ」といった気持ちになり、結果的に徘徊という行動をとってしまうのです。
「なぜここにいるか」がわからなくなって
認知症の症状が進行してくると時間、場所、人などの判断がつかなくなる「見当識障害」が現れます。
このような状態になると介護する側が想像もしないような出来事が増加するようになります。特に時間、場所、人などを判断する力が著しく低下した認知症患者の方になると自分がどのような目的で「この場所にいるのか」というのが理解できません。
一例ですが病院の待合室、デイサービスなどの外出先から徘徊を行う方もいます。これは記憶障害などの影響によって「なぜ自分はここにいるのか?」という状況になっているためです。この自分の中で発生した疑問を解決する目的で徘徊が行われることもあります。
知らない人に不安になって
認知症の方は周囲の環境が変化したり、知らない人に会ったりすると周りの人間が想像する以上に不安、ストレスを感じます。
認知症は症状が進行すると、目の前の家族を認識するのも困難な状態になります。よって認知症が進行し、家族のことを理解できない状況になると自宅にいても「居心地が悪い…」と感じるようになるのです。
もちろん自分が今いる場所が自宅ということすらわかっていないことも多いため、これらの不安やストレスがそのまま徘徊へとつながっていきます。このようなケースでは本人の中で「自宅へ帰らなきゃ」という気持ちが強く湧いていると思われます。
もちろん自宅へ帰るつもりで徘徊を行っても、すでに記憶力や判断力が低下している状態ですから、最終的には迷子になってしまう可能性が高いです。
ちなみに先ほど上で解説した「定年した会社に行こうとする」という行動も、定年後の新しい生活環境に馴染めず、不安な気持ちに駆られることで起こしているといわれています。
徘徊への対策
警視庁が調査した結果によると、認知症の行方不明者は約1万5,000人(※2017年)とされています。徘徊によって行方不明になると介護者や家族は気が気でないという心境にも陥ります。
よって認知症の方の徘徊は、さまざまな対策を駆使して未然に防ぐことが大切です。ここからは徘徊に対する対策法を4つまとめましたので解説します。
自宅にセンサーをつける
徘徊対策として簡単に実践できることのひとつに、徘徊防止用のグッズを活用するというのが挙げられます。
現在はさまざまな企業、メーカーから徘徊防止用のグッズが販売されており、これらは早急に対策を打ち出したいという方には重宝されています。
徘徊防止用のグッズの中でも特に人気なのは、自宅に取り付けることができるセンサーです。玄関に人感センサーを取り付けることで、人が通ったときに音や光で知らせてくれます。
このようなセンサーを設置しておけば、仮に認知症の方が徘徊目的で外に出ようとしても音や光で家族に知らせてくれるため、徘徊を未然に防ぐことができます。
自宅にセンサー設置と聞くと「工事が必要なのでは?」という方もいますが、現在は配線がなく、乾電池で稼働するセンサーもありますので、自宅導入の敷居は決して高くはありません。
日中に家事をしている間に徘徊を行う方がいるご家庭にはぴったりのグッズといえるでしょう。
GPSグッズを利用する
これは、主に徘徊がすでに起きてしまったあとの対策法です。GPSとは人工衛星を利用したシステムのことであり、GPSの端末を持っていればどこにいても対象の現在地がわかるようになっています。
特に認知症者の徘徊対策として利用する場合は、小型のGPSがおすすめです。小型GPS端末には携帯できる発信機がありますが、認知症の方に忘れずに持ってもらうためには専用のポケットを作ったり、よく着用する衣類に縫い付けたりする方法で対策を施すのがよいでしょう。
また最近は日常生活でも自然に身に付けられような「腕時計型」「靴型」といった端末もあります。GPS端末を常に持ち歩かせたいというご家族の場合は、このような端末を利用する方法も適しています。
施設入居を考える
現在は共働き世帯も増加傾向にあり、認知症のご家族を持つ世帯にとっては徘徊を完全に止めるのは困難というケースもあるでしょう。このような場合は、老人ホームなどの施設入居も検討してみてはいかがでしょうか。
現在、介護を必要とする方で認知症を患っている方は増加傾向にあり、施設側もさまざまな対策を施しながら日々の介護を行っている状況です。
一例ですが徘徊対策をしっかりと行っている施設になると、職員間で「施設外へ出てしまう可能性がある」という情報を共有します。
そして、その情報を参考にしながら玄関の24時間施錠や外出時の職員付き添いの徹底といった対策を施します。よって利用者の安全を第一に考慮している施設であれば、自宅で介護するよりも安心できる生活を送ることができます。
また徘徊の症状が出ていても、本人にとって「安全」だと思える外出先(デイサービスなど)を作るのも効果的です。
安全に外に出る機会を増やすことで、地理感覚を養うなどの効果も期待できるため、仮に徘徊が起きても迷子にならずに済んだり、外出する能力そのものを維持したりすることができます。
経済的な事情で施設入居が難しいというご家庭は、地域のデイサービスやいこいの場といった本人の状態を理解してくれる外出先を見つけてみましょう。
薬で治療する
徘徊のリスクを少しでも減らすため、医療機関で処方される薬を用いて認知症の症状進行を抑えていく方法もあります。
現在、認知症に使用される薬にはコリンエステラーゼ阻害薬、NMDA受容体拮抗薬といったものがあります。これらは「認知機能改善薬」といわれていますが、実際には認知症そのものを治すのではなく、進行を遅らせるために使用します。
コリンエステラーゼ阻害薬は、記憶や学習に関わるとされているアセチルコリンの量を減らさないようにし、認知機能を改善させる効果が期待されています。
またNMDA受容体拮抗薬は、脳の神経細胞を傷つけるグルタミン酸神経の過剰な活性化を抑えることで、神経細胞を保護するという働きを持ちます。
薬を使っても認知症を改善するのは困難ですが、症状の進行を遅らせることは十分に可能です。
徘徊の方との接し方
最後に徘徊を繰り返してしまう方との、基本的な接し方などを解説します。
話を聞く
ご家族が徘徊をしてしまう場合は、ただ止めるだけではなく「話を聞く」という意識を持っておくとよいでしょう。また可能であれば「どうしたの?」「なぜ外に出たの?」といったように理由を問いかけてあげるのも効果的。
前述のように認知症の方の徘徊は、本人の中で何かしらの目的があって行われています。もちろん本人は記憶障害などの影響もありますから、理由を尋ねたところで明確な答えが返ってくるとは限らないでしょう。
しかし会話をすることで、その内容にヒントが隠されている可能性は十分にあります。たとえばですが「どこに行こうとしてたの?」という問いかけに対して「自宅」と答えた場合は、本人の中で今の環境への不安やストレスが溜まっていることが予想されます。
また行き先などではなく「家に誰かがいる」といった返答が返ってくるようであれば徘徊以外にも妄想の症状が出ている可能性があるでしょう。
このようにコミュニケーションを取ることで、「今どのような心理なのか?」「何が目的なのか?」といった疑問が解決されることもあります。
ここから解決策が見つかることもありますので、介護者や家族の方は辛抱強くコミュニケーションを取ることを忘れないでください。
怒らない
介護者や家族も人間ですから、徘徊が度々繰り返されるとついつい怒ってしまうこともあるでしょう。しかし認知症患者の徘徊に対しては、怒るのは逆効果です。もちろん「怒らない」というのは、実際にはなかなか難しいポイントです。
ですが認知症の方は怒られている内容は忘れてしまっても、そのときに感じた恐怖などは心の中に残るといわれています。
この恐怖が「この場所にいるのは怖い……」「ここにいると気持ちよく過ごせない……」という感情につながり、本人は安息の地を求めて徘徊を繰り返すことがあります。よって介護者や家族の方は、徘徊の頻度が多いケースでも決して怒らないようにしてください。
趣味を一緒に探してあげる
認知症の方は日々の生活で何もすることがなかったり、周囲から相手にされなかったりすると「自分の居場所はここにはない」「この居心地が悪い場所はどこだ」などといった感情を抱く可能性が高くなります。
この負の感情がそのまま徘徊という行動につながることもあります。よって、ご家族は本人が心から楽しめる趣味などを一緒に探してあげるといった対策を施すのもよいでしょう。
何かひとつの作業に集中できること、楽しめること、手を使って適度に体を動かせることなど、ただジッとしているだけではない生活を送ることで、本人にも「毎日が楽しい」という感情が湧いてくるかもしれません。
そのような感情が湧けば、自然と「自分の居場所はここだ」といったような気持ちになる可能性も高まります。
まとめ
今回は認知症者の徘徊に対する対応法などを解説しました。認知症者の徘徊は、周囲からすると意味のない行動に見えます。しかし、認知症の方の徘徊は、本人の中で何かしらの目的や意図があって行動しているといわれています。
よって介護をする方や家族の方は、決して徘徊という行動に対して怒らず、親身になって話を聞いてあげるなどの対応を心がけるようにしてください。
また徘徊を止めたい場合は、防止グッズや薬での治療といった複数の対策法を実践するとよいでしょう。現在、徘徊をしてしまうご家族をお持ちの方などはぜひ本記事を参考にしてください。
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大手介護専門学校にて12年で約2,000名の人材育成に関わり、その後、人材定着に悩む介護事業所の人材育成や運営支援を実施。2020年4月からは一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して介護甲子園を主催している。
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