高齢者向けのおすすめの体操はありますか?
よく介護施設などで入居者の人たちがレクリエーションの一環として体操をしていると聞きます。高齢になると自分から体を動かすことがあまりないようなので、体力に自信がなくても無理なく取り組めて楽しみながらできる体操のやり方を教えてほしいです。また、体操が持つ役割についても教えてほしいです。
A無理なく体を動かせる椅子に座ったままできる体操があります。
機能訓練や孤立感の解消など、体操が持つ役割はいくつかあります。しかし、高齢になると体力が落ちてしまうのでジョギングや筋トレといった激しいスポーツは難しいと考えられます。体操であれば体力が低下した高齢者でも無理なく運動できるので、ぜひチャレンジしてみてください。ペットボトルなど、日常生活で身近にあるアイテムを使った体操や椅子に座りながらできる体操は、体力に自信のない方でもスタートしやすいでしょう。
介護施設の多くでは、入居している高齢者が楽しみながら運動できるレクリエーションが実施されています。高齢になると、積極的に出歩くことがなくなり、運動機能の低下が考えられるだけではなく、他者とのコミュニケーションの低下も見られます。運動機能の維持や脳の活性化、転倒予防のためにも、運動は欠かせませんが高齢だと体力が落ちていることもあり、激しいスポーツはできません。
そのため、無理なくできる「体操」が有効的と言えます。ここでは、高齢者向けの体操が持つ役割や高齢者向けの体操をいくつかご紹介していくので、高齢者と一緒に暮らしているご家族の方は参考にしてください。
高齢者向けの体操の役割
高齢者にとって、なぜ体操が有効であるのか、その理由を解説していきましょう。
自立した生活に向けての機能訓練
老化現象は人間であれば誰もが起こることです。特に高齢になると一人ではできないことも多くなり、誰かのサポートがなければ、うまくいかないこともあるでしょう。
しかし、体操をすれば身体機能の維持だけではなく向上も目指せます。自立した生活に向けての機能訓練にも用いられるため、適度な運動を取り入れて健康を維持していきましょう。
コミュニケーションの促進で孤立感を無くす
身体の機能や体力が低下していくと、外出することさえ億劫に感じてしまうことがあります。意識をして外出しなければ、人と触れ合う頻度も少なくなってしまうでしょう。
そんな時に、体操を取り入れれば引きこもりの状態から脱却できる可能性があります。家族と一緒に体操をするだけではなく、他の人たちと一緒に体操ができる環境に飛び込めば、自ずと他者とコミュニケーションが取れます。
地域で実施している体操教室や介護施設に通いレクリエーションに参加するなど、積極的に出歩くことで運動機能の回復だけではなく引きこもりの回避にもつながります。
社会参加にもつながる
高齢になると、できないことも多くなり社会から取り残されていると感じてしまうこともあります。「社会に必要のない人間」と感じてしまえば、さらに出歩くことがなくなり体力の低下などを招いてしまうのです。
社会的役割を失わないためにも、体操は有効なので取り入れていきましょう。体操をすれば、体の機能訓練となり体力アップにも役立ちます。
体力があれば、地域での行事への参加やボランティアへの参加などができ、生きがいを感じることにつながるでしょう。社会から取り残されている感覚もなくなり、心に余裕もできるでしょう。
家族の介護負担を軽くすることにつながる
体操をすれば身体機能の向上が見込めます。体を動かさない習慣が続けば、身体機能がさらに低下し要介護度が進んでしまうリスクも上がります。その結果、家族の介護負担が多くなってしまう可能性もあるでしょう。
介護負担を軽減するためにも、高齢者のいる家庭では体操を取り入れて身体能力の向上を目指していきましょう。
日常生活の動作を高める作用
立つ、座る、歩く、横になるなど、日常生活ではさまざまな動作が必要です。しかし、高齢になれば一人でおこなうことが難しくなってしまうケースもあるのです。
こうした日常生活の動作を無理なくしていくためにも、体操を取り入れることで機能低下を防ぐことができます。
高齢者に体操が必要な理由
高齢者は意識的に動かなければ身体機能の低下を招きます。しかし、体力が落ちてしまうと激しい運動は難しくなってしまうでしょう。若いころにはジョギングやテニスなど、運動をしていたとしても歳を重ねるごとにうまく動けずに悔しい思いをした経験を持つ高齢者もいるのではないでしょうか。
介護が必要な段階ではなくても、健康ではないと言えるのであれば体操を日常生活にうまく取り入れて身体機能の向上を図っていきましょう。
フレイルとは
上記のように、介護の必要がなくても身体機能の低下がみられる状態のことを「フレイル」と言います。フレイルとは、健康と要介護の中間にあたり、身体機能の低下や認知機能の低下が徐々に起こっている、その段階を意味しています。
「虚弱」と日本語では表され、2014年に日本老年医学会が提唱しました。フレイルの状態になると機能の低下を心配し、元の状態に戻らないのか不安になる人もいるでしょう。しかし、フレイルの段階であれば適切な治療や予防によって改善できる可能性もあるので、積極的におこなうことが大事となります。
フレイルが進む要因
フレイルが進む要因は、3つに分けることができます。
身体的要素 | ・筋力低下
・栄養不足 ・運動器障害 |
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精神・心理的要素 | ・認知症の進行
・うつの進行 |
社会的要素 | ・独居
・引きこもり |
認知症やうつになると、人との交流が減る、やる気がなくなるなどによってフレイルの状態が悪化する危険があります。
一人暮らしや引きこもりの状態になることでも、精神的に悪影響となり運動不足を招く要因にもなるので、フレイルが進んでしまう要因となるのです。
フレイルについては、下記の記事を参考にしてください。
体操をする前にする目的を決める
フレイルを進行させないためにも、体操をする習慣をつけることは重要です。フレイルが進む要因でもある3つの要素を取り除くためにも体操を始めてみましょう。
しかし、体操の種類は豊富にあります。そのため、まずは体のどの部分を鍛えるのか決めてから取り掛かると良いでしょう。腕や足、腰など、自分や家族が弱っていると感じている部分を選んでみましょう。
高齢者向けの体操10選
ここからは、高齢者におすすめの体操をご紹介していきます。誰もが気軽にできるものばかりを集めたので、目的に合わせてチャレンジしてみてください。
道具を使った体操
まずは、日常生活で使用するアイテムを使った簡単にできる体操をご紹介します。
ペットボトルを使った体操①
中身の入ったペットボトルを1つ用意してください。
- ペットボトルを持ちおへそあたりの高さに持ったら両手でペットボトルを上に投げます。
- 落とさないようにキャッチをする動作を10回程度繰り返しましょう。
上記の体操時には、くれぐれも高く上げ過ぎないようにしてください。胸の前あたりや高くでも顎のあたりまで上げると、落とさず安全にできます。
ペットボトルを使った体操②
握力を鍛える時に有効な体操です。中身の入ったペットボトルを2本使います。
- 座ったまま両腕を前に伸ばしてください。
- 1の状態のまま、ペットボトルを握る・力を抜くを繰り返しましょう。
- 2を10回程度繰り返してください。
ペットボトルは柔らかめのものを選ぶと握りやすいのでおすすめです。
ボールを使った体操
持ちやすく掴みやすい15cmほどのビニール製のボールを使用した体操です。握りにくい場合には、少し空気を抜くと軽い力でも握りやすくなります。
- 椅子に座ったままの状態で胸の前でボールを持ちます。
- 手のひら全体を使ってゆっくりとボールを潰していきましょう。
- 限界まで潰したら、ゆっくりとボールを元の状態に戻していきます。
- 2~3を10回程度繰り返して終了です。
胸・肩・二の腕を鍛えられる体操です。腕は水平に保つことを心掛けるとより機能アップにつながります。潰すのではなく、ボールを引っ張る体操もあります。指を使ってボールを7秒ほど引っ張っては元に戻すの動作を10回ほど繰り返す体操です。指先の力を鍛える効果が期待できます。
椅子を使った体操
次に椅子に座ったままできる体操をご紹介していきます。立ったまま実践するよりもチャレンジしやすいでしょう。
ボクシング体操
ボクシングは激しい運動だから無理だと感じる方もいるでしょうが、座ったままできる体操なので高齢者でも手軽にできるでしょう。
- 椅子に座り、胸の前で握りこぶしを作ります。
- 右・左とリズムよく前にパンチをするように腕を突き出します。
- 無理のない範囲で上記の動作を数回繰り返しましょう。
腕の筋力維持として効果的で好きな音楽に合わせておこなうと、リズムよく体操をすることができます。
つま先上げ体操
足の筋力アップにおすすめの体操です。
- 椅子に座ります。
- 足を肩幅程度に開いてください。
- かかとを床に付けたまま、両足のつま先を上に上げてください。
- 20回程度繰り返しましょう。
つま先を上げるだけの簡単な体操ですが、数をこなしていくうちに足に疲れが出てきます。足に痛みを感じたら、無理をせず休息を取りましょう。
かかと上げ体操
つま先上げ体操と一緒におこなうと、より筋力アップにつながります。
- 椅子に座ります。
- 足を肩幅程度に広げましょう。
- つま先を床に付けたまま、両足のかかとだけを上にあげます。この動作を20回程度おこないましょう。
手の位置は、好きな位置に置いたままで大丈夫です。
立ち上がり体操
筋力維持のための体操で、正しい立ち上がり方を高めるためにも有効です。
- 椅子に座ります。背筋を伸ばし、少し浅く座るようにしましょう。
- 足を少し開きます。手は胸または膝の上においてください。
- その状態のまま、真っ直ぐに椅子から立ち上がります。
- 座る・立つの動作を交互に10回おこないましょう。
立ち上がる際には、反動をつけないことが大切です。また、バランスを崩さないように家族などが見守ると安心でしょう。
身体のみでできる体操
最後に身体のみでできる体操をご紹介していきます。用意するものはなにもないので、最も手軽にできる体操でしょう。
グー・パー体操
握力維持と強化に効果的な体操です。
- 両足を肩幅くらいに広げて立ちます。
- 腕を真っ直ぐ前に伸ばしましょう。
- 1、2の状態を維持したまま拳を握る、開くの動作を繰り返してください。
- グー・パーを交互にしていき、無理なくできる範囲まで続けていきましょう。
パーにする時には、しっかりと手を開くようにしてください。
首の体操
首のストレッチにもなる体操をご紹介していきましょう。肩こりの予防、咀嚼や嚥下機能の賦活などの効果が期待できます。
- 肩幅くらいに足を開き、リラックスした状態で立ちます。
- まずは、首を前に倒します。
- 次に後ろに倒しましょう。
- ゆっくりと元の状態に戻し、右を向きます。次に左を向き、前向きの状態に戻していきます。
- 最後に右横に倒す、左横に倒すと全部で6つの方向に倒す、向くの動作をしていきます。
- 2~5を10回程度繰り返しましょう。
運動をしばらくしていなかった高齢者は、体操でも続けることが難しい場合があります。そのため、首の体操のような簡単な体操であれば、始めやすいと言えるでしょう。立ったままの状態で首を動かすことが難しい時には、椅子に座ったまましても構いません。自分がやりやすい体勢で始めましょう。
深呼吸体操
高齢であれば腹筋をすることが難しいので、呼吸法で腹筋を鍛えていきましょう。
- 肩幅程度に足を広げ、リラックスした状態で立ちます。
- おへそに両手をあてて、大きく深呼吸をしていきましょう。
- お腹の膨らみや凹みを意識しながら深呼吸をすることで、腹筋を手軽に鍛えられます。
- 10回程度繰り返してください。
運動習慣がないと、運動をすること自体に抵抗を感じる方もいるでしょうが、呼吸であれば誰もが取り入れやすいと言えます。首の体操と同様に始めやすいのでチャレンジしてみましょう。
始めやすい体操を取り入れて楽しく介護予防
機能訓練や日常生活の動作を高めるために、体操を取り入れることが有効です。しかし、高齢者であると激しい運動ができないことから、気が付かないうちに運動や体操とは無縁の生活をしているのです。
その結果、フレイルの状態や要介護の状態に進んでいく可能性もあるので、誰もが手軽にできる体操を日常生活に取り入れて介護予防をスタートしてみましょう。家族や友人などと一緒におこなうことで、コミュニケーションも活性化し、生活にもハリが出るでしょう。
上記でご紹介してきたさまざまな体操を無理のない範囲で続け、楽しく介護予防をしていきましょう。
理学療法士。佛教大学大学院社会福祉学修士課程修了。専門は生活期リハビリテーション。病院・デイサービス勤務後2014年合同会社松本リハビリ研究所設立。全国の老人ホーム、デイサービス、介護施設でリハビリ介護のアドバイザー、生活リハビリセミナー講師、雑誌・書籍の執筆など活動中『転倒予防のすべてがわかる本 』(講談社)など著書多数。
YouTubeチャンネル「がんばらないリハビリ介護」/オンラインサロン「松リハLAB」
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