フレイル健診について、概要や受け方などを教えてください
高齢者はフレイルが進行しやすいと聞きました。フレイル健診というものがあるようですが、どのような健診なのでしょうか? 両親が高齢に近付いているので、フレイルとフレイル健診の受け方も詳しく知りたいです。
Aフレイル健診とは、後期高齢者医療健診で受けられるフレイルのリスクを把握できる健診です。
フレイルとは、要介護状態になってしまう可能性がある段階を示します。フレイル健診は質問票を通じて、自分がフレイル状態かどうか把握できるようになっています。そのため、早期発見や改善を図れ、介護予防に活用できる大事な健診です。
高齢になるとフレイルという状態になりやすくなります。フレイルになっていると、将来要介護が必要になるリスクが高まってしまいます。しかし、改善に取り組めば進行の遅延や介護予防につながる段階でもあるので、状態の把握はとても大事なことです。
そのフレイル状態を把握できるものがフレイル健診です。フレイル健診はまだ導入されたばかりなので、目的や受け方を知らない方も多いでしょう。この記事ではフレイルの基本知識からフレイル健診の概要・受け方などについて詳しく解説していきます。
フレイルとは
フレイルは、健常な状態から要介護に移る途中段階を示します。加齢により筋力が衰えて転倒などの事故が起きやすく、脳疾患や血管系の疾患などを患いやすく、突然介護が必要になる場合が多いです。多くの高齢者は歳による体の衰えを感じるフレイル期間を経て、少しずつ要介護状態に移行します。
フレイルが示すのは体の衰えだけではありません。認知機能障害やうつ病といった精心的な問題、独居・経済的な貧困といった社会性なども含まれます。
例えば、体が思うように動かなくなったため、外に出る機会がなくなれば社会とのつながりが薄れ、独立してしまいます。また、年金暮らしとなるので経済的な不安を抱えやすく、それがメンタル面でも影響を与える可能性があります。
引きこもりや寝たきり状態が続けば、筋力はどんどん低下するので、いずれは介護が必要になります。精神機能や社会性の低下も要介護とのつながりが大きいので、3つの要素をまとめた概念というのがフレイルなのです。
高齢者がフレイル時期に心身的または社会的なダメージを受けると、回復力が低下するので外からのストレスに対して抵抗力が低下してしまいます。しかし、早い段階から適切な改善に取り組めば、要介護への移行を阻止できる段階でもあるのです。要介護状態を回避するためにも、高齢者はフレイル状態かどうかを把握しておくことが大事ですね。
フレイルのチェック方法
フレイルを調べる方法には、フリード氏が提唱する評価基準をベースに作られた身体的フレイルのチェックと、厚生労働省が作成した総合的なフレイルチェックの2つがあります。チェックリストに答え、点数に応じてフレイルかどうかセルフチェックが可能です。
身体的フレイルのチェック
身体的フレイルは、体重減少・筋力低下(握力)・疲労感・歩行速度・身体活動の5項目からチェックしていきます。下記の評価基準に当てはまるかどうかでフレイルの段階を確認できます。
表 日本版CHS基準(J-CHS基準) | |
---|---|
項目 | 評価基準 |
体重減少 | 6カ月で、2~3kg以上の体重減少 |
筋力低下 | 握力:男性<26kg、女性<18kg |
疲労感 | (ここ2週間)訳もなく疲れたような感じがする |
歩行速度 | 通常歩行速度<1.0m/秒 |
身体活動 | ①軽い運動・体操をしていますか? ②定期的な運動・スポーツをしていますか? 上記の2つのいずれにも「1週間に1 度もしていない」と回答 |
3つ以上該当:フレイル、1~2つ該当:プレフレイル
引用:厚生労働省「食事摂取基準(2020年版)の策定方針について」総合的フレイルのチェック
厚生労働省が作成した基本チェックリストは、2006年から健康度を測るために使用されています。このチェックリストでは、身体・精神・社会の低下を総合的に評価することが可能です。
No. | 質問票 | 回答 | |
---|---|---|---|
1 | バスや電車で1人で外出していますか | 0.はい | 1.いいえ |
2 | 日用品の買い物をしていますか | 0.はい | 1.いいえ |
3 | 預貯金の出し入れをしていますか | 0.はい | 1.いいえ |
4 | 友人の家を訪ねていますか | 0.はい | 1.いいえ |
5 | 家族や友人の相談にのっていますか | 0.はい | 1.いいえ |
6 | 階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか | 0.はい | 1.いいえ |
7 | 椅子に座った状態から何もつかまらずに立ち上がってますか | 0.はい | 1.いいえ |
8 | 15分間位続けて歩いていますか | 0.はい | 1.いいえ |
9 | この1年間に転んだことがありますか | 1.はい | 0.いいえ |
10 | 転倒に対する不安は大きいですか | 1.はい | 0.いいえ |
11 | 6ヶ月間で2~3kg以上の体重減少はありましたか | 1.はい | 0.いいえ |
12 | 身長(cm)・体重(kg)・(BMI=)(注) | ||
13 | 半年前に比べて堅いものが食べにくくなりましたか | 1.はい | 0.いいえ |
14 | お茶や汁物等でむせることがありますか | 1.はい | 0.いいえ |
15 | 口の渇きが気になりますか | 1.はい | 0.いいえ |
16 | 週に1回以上は外出していますか | 0.はい | 1.いいえ |
17 | 昨年と比べて外出の回数が減っていますか | 1.はい | 0.いいえ |
18 | 周りの人から「いつも同じ事を聞く」などの物忘れがあると言われますか | 1.はい | 0.いいえ |
19 | 自分で電話番号を調べて、電話をかけることをしていますか | 0.はい | 1.いいえ |
20 | 今日が何月何日かわからない時がありますか | 1.はい | 0.いいえ |
21 | (ここ2週間)毎日の生活に充実感がない | 1.はい | 0.いいえ |
22 | (ここ2週間)これまで楽しんでやれていたことが楽しめなくなった | 1.はい | 0.いいえ |
23 | (ここ2週間)以前は楽にできていたことが今ではおっくうに感じられる | 1.はい | 0.いいえ |
24 | (ここ2週間)自分が役に立つ人間だと思えない | 1.はい | 0.いいえ |
25 | (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする | 1.はい | 0.いいえ |
上記のチェックリストの回答から1点の数を数え、次の表と照らし合わせてフレイルの可能性があるか確認してみてください。
項番 | フレイルのリスクがある点数 | チェック内容 |
---|---|---|
1~20 | 10点以上 | 主に日常生活全般をチェック |
6~10 | 3点以上 | 運動器の機能の低下をチェック |
11、12 | 11が「はい」で、12のBMIが18.5未満 | 栄養状態のチェック |
13~15 | 2点以上 | 口腔機能の低下をチェック |
18~20 | 1点以上 | 認知機能の低下をチェック |
21~25 | 2点以上 | 心理状態のチェック |
フレイル健診とは
フレイル健診は、高齢者のフレイルリスクを確認できる健診です。健診の対象は75歳以上の後期高齢者で、2020年4月に導入が始まりました。
健診方法は質問票への回答です。今まで後期高齢者を対象に実施されていた健診の質問票の代わりに、フレイル状態をチェックできる「後期高齢者の質問票」へと切り替わりました。
フレイル健診の目的
現役世代の健診の質問票は、さまざまな病気の起因となるメタボリックシンドロームに着目した内容でした。
しかし、後期高齢者はフレイルになるリスクがあるので、フレイルの疾病予防や重症化予防を強化していく取り組みが必要だと考えられるようになりました。その背景から、厚生労働省は高齢者の特性の応じた保健事業の実施を求めました。
2018年4年に公表された「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン」にて、フレイルの把握ができる質問票の作成が検討事項に記されました。
そして、「高齢者の保健事業のあり方検討ワーキンググループ」が2019年10月に発表された「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン 第2版」にて、策定された新たな質問票や利活用方法、別途資料で質問票の解説などが公表されました。
フレイル健診の質問表
フレイル健診で使用される「後期高齢者の質問票」では、高齢者の健康状態を把握できる、なおかつ回答する高齢者の負担を考えて15項目の質問で構成されています。
また、それぞれの質問からは健康状態、心の健康状態、食習慣、口腔機能、体重変化、運動・転倒、認知機能、喫煙、社会参加、ソーシャルサポートの10種類を把握することが可能です。では、気になる質問票を見てみましょう。
類型名 | No | 質問文 | 回答 |
---|---|---|---|
健康状態 | 1 | あなたの現在の健康状態はいかがですか | ①よい ②まあよい ③ふつう ④あまりよくない ⑤よくない |
心の健康状態 | 2 | 毎日の生活に満足していますか | ①満足 ②やや満足 ③やや不満 ④不満 |
食習慣 | 3 | 1日3食きちんと食べていますか | ①はい ②いいえ |
口腔機能 | 4 | 半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか ※さきいか、たくあんなど |
①はい ②いいえ |
5 | お茶や汁物等でむせることがありますか | ①はい ②いいえ | |
体重変化 | 6 | 6ヵ月間で2~3kg以上の体重減少がありましたか | ①はい ②いいえ |
運動・転倒 | 7 | 以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと思いますか | ①はい ②いいえ |
8 | この1年間に転んだことがありますか | ①はい ②いいえ | |
9 | ウォーキング等の運動を週に1回以上していますか | ①はい ②いいえ | |
認知機能 | 10 | 周りの人から「いつも同じことを聞く」などの 物忘れがあると言われていますか | ①はい ②いいえ |
11 | 今日が何月何日かわからない時がありますか | ①はい ②いいえ | |
喫煙 | 12 | あなたはたばこを吸いますか | ①吸っている ②吸っていない
③やめた |
社会参加 | 13 | 週に1回以上は外出していますか | ①はい ②いいえ |
14 | ふだんから家族や友人と付き合いがありますか | ①はい ②いいえ | |
ソーシャルサポート | 15 | 体調が悪いときに、身近に相談できる人がいますか | ①はい ②いいえ |
上記の質問票の回答に応じて、医師が高齢者に状態を聞き取りや声かけを行い、治療や改善が必要な場合は適切な対応方法を提案してくれます。
例えば、質問No.1は主観的に健康状態を把握できる質問です。「よくない」「あまりよくない」と回答された方には、その状態が急性なのか、慢性的なものなのか医師から聞き取りされます。
そして、服用する薬や疾患との関連性などを確認しつつ、慢性的に健康状態が悪ければ健康センターの相談窓口や、かかりつけ医に、急性的な体調不良であれば医療機関の紹介などの対応がなされます。
健診を受けて終わりではなく、フレイルの気があれば今後の方針や対処法などを提案してもらえるので、介護予防に取り組むことが可能です。
フレイル健診の受け方は?
主にフレイル健診が受けられる場は後期高齢者医療健診です。後期高齢者医療健診は市区町村が実施する75歳以上を対象とした健診で、毎年6月以降に自治体から受診券が配布されます。そして、指定の医療機関にて健診を受けられます。
受診後、1~2カ月ほどで、受診した医療機関から結果が出ます。自治体から結果の通知が届くことはないので、医療機関に訪れて結果を受け取ってください。
また「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン 第2版」では、質問票の活用場面について記載されています。健診の場以外に、地域サロンなどの通いの場、かかりつけ医などで、健康状態を評価するために活用されることが期待されています。そのため、質問票の導入が進めば、フレイル健診が受けられる場が増えていくでしょう。
フレイル健診の結果は国保のデータベースに入る
フレイル健診を行った時の結果は国保データベースに保管されます。国保データベース(KDB)とは、国保連合会が管理する特定健診・特定保健指導・医療・介護保険などの情報が集約されているシステムです。
統計情報や個人の健康情報を提供し、保険者(保険事業を行う者)が効率的で効果的な保険事業に取り組む支援を目的にしています。
例えば、保険者が国保データベースから特定健診などの結果を分析し、ハイリスクの被保険者を抽出します。そして、医療機関の受診を確認した上で、個別保険指導者の対象者と指導内容の効率よく決められるようになります。
さらに、今まで保健師などの保険者の手作業で健康に関するデータ作成が行われていましたが、国保データベースを用いることで効率よく作成できるようになりました。
それによって、地域の現状把握や健康課題を明らかにすることが容易になります。課題を踏まえら上で、自治体は地域の傾向に合わせた健康事業計画の策定が可能です。
国保データベースは地域の傾向水準の向上に寄与されると考えられています。フレイル健診の問診票と国保データベースに保存される医療・健診・介護情報と紐づけることで、高齢者に求められる保険事業や医療機関へとつなげられると期待されているのです。
地域全体で高齢者を支える「超高齢社会」
高齢者は体力や免疫力の低下で病気やケガをしやすく、その影響で突然介護が必要になるケースが多いです。要介護状態になるまでフレイル期間があるので、早期発見と改善が高齢者の健康寿命を伸ばすことにつながります。
フレイル予防・重症化予防は重要な課題の1つとして挙げられています。フレイルという言葉が浸透しはじめ、地域全体で予防への取り組みが実施されています。2020年4月からは後期高齢者医療健診にて、フレイルの状態も把握できるようになりました。
セルフチェックでもフレイルの傾向は把握できますが、より細かく適切な対処法を知るためにも健診は必ず受けるように心がけてくださいね。
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北海道・東北 [709]
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大手介護専門学校にて教職員として12年勤務し、約2000名の人材育成に関わる。その後、その経験を活かし、認知症グループホームや訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅などの介護事業や、就労継続支援B型事業所や相談支援事業所などの障がい福祉事業を運営。また一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して活動中。
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