介護保険制度の歴史について2000~2021年までの流れを教えてください!
介護保険制度は2000年に作られてから今までに内容が変わってきたと思います。しかし、どのように変わってきたのが具体的には分からないので教えてもらいたいです。2000年~2021年までの流れについて詳しく知りたいと思っています。
A介護保険制度はその時々の状況に応じて改正されています。
介護保険制度は、その時の状況に応じて適切な内容になるように改正されてきました。介護する側の負担を減らしながら、要介護者に少しでも自立した生活を送ってもらえるように常に考えられています。これまでには、2005年、2008年、2011年、2014年、2017年に改訂され、次回は2021年となっています。
介護保険制度は、2000年に制定された介護保険法によって定められている制度です。1960年代から老人福祉政策は始まり、1963年には老人福祉法が制定、1982年には老人保健法が制定されています。長い歴史の中で高齢者問題はどんどん大きなものとなっていき、介護保険制度も状況に応じていろいろな変更が加えられてきました。
2000年4月にできた介護保険制度とは
介護保険制度は、2000年に作られた制度です。まずは、介護保険制度がいったいどのような制度なのか解説していきましょう。
介護保険制度が作られる前にはさまざまな問題が
介護保険制度が作られる前には、老人福祉法や老人保健法といったものがありました。しかし、それらの制度にはさまざまな問題点がありました。いったい、どのような問題があったのでしょうか?
老人福祉の問題
老人福祉の対象は、特別養護老人ホーム、ホームヘルプサービス、デイサービスといった介護施設で受けられるサービスです。老人福祉の問題は、次のとおりです。
- 利用者さまがサービスを選択できない
- 所得調査が必要になるため心理的な抵抗感が生まれる
- 市町村が直接運営もしくは委託運営するサービスが基本となっているのでサービスが同じようになりがち
- 収入によって利用者さまの負担が増えるため中所得者や高所得者にとって負担が重くなってしまう
老人医療の問題
老人医療の対象は、老人保健施設、療養型病床群、一般病棟、訪問看護、デイケアといった医療的なケアも可能な施設で受けられるサービスです。老人医療では、次の問題がありました。
- 福祉サービスの基盤整備が不十分
- 介護を理由にした一般病院への長期入院が問題になった
- 特別養護老人ホームや老人保健施設よりも医療費が高くなる
- 要介護者が長期的に療養する環境が整っていない
老人医療を担っていた病院は基本的に治療をすることがメインと考えられていたため、スタッフや環境面が介護向けに整っていなかったことが問題の原因だと考えられます。居室の面積が狭いこと、食堂や浴室が介護用に整備されていないことなどの理由もあり、要介護者が長期的に暮らすことは難しいと考えられるようになっていきました。
このように、老人福祉と老人介護にはさまざまな問題があり、これ以上高齢者が増えると老人福祉や老人医療制度による対応には限界が訪れるのではないかと懸念されるようになってきました。それが介護保険制度の導入を考える要因の1つになったと考えられます。
介護保険制度の導入に関する基本的な考え方
続いては、介護保険制度に関する基本的な考え方について見ていきましょう。
介護保険制度が作られた背景
介護保険制度は高齢化が進むことによって、要介護者が増えたり、介護をしなければいけない期間が長期化したりすることを想定して作られました。高齢者が増えていくだけではなく、核家族化もより顕著になっていき、これまで要介護者を支えてきた家族の状況も以前とは大きく変化しています。そのようなことを踏まえて考えてみると、従来の老人福祉制度や老人医療制度では対応が難しくなっていくと考えられるようになったことが介護保険制度を作る背景にあります。
介護保険制度の基本的な考え方とは
介護保険制度は、高齢者を社会全体で支え合っていく仕組みです。1997年に介護保険法が成立し、2000年に施行されました。
介護保険制度は、自立支援、利用者さま本位、社会保険方式という考え方を根底に持っています。自立支援はその言葉のどおりで身の回りの世話をするだけではなく自立支援をサポートすることです。そして、ご利用者さまが多岐にわたるサービスから選択し、総合的な介護・医療サービスを受けられるようにするために生み出されたものでもあります。
従来の制度と介護保険制度の違い
従来の制度
従来の制度では、行政窓口に申請することで市町村が受けるサービスを決め、医療と福祉は申込窓口が別々でした。また、市町村や社会福祉協議会などの公的な団体が提供するサービスを提供することが前提となっていました。さらに、中高所得者はご利用者さまの負担が大きかったため、利用するハードルが高いという課題も改善点の1つだと言われていたのです。
介護保険制度
介護保険制度の場合は、ご利用者さま自身が受けるサービスの種類や事業所を選ぶことができます。また、ケアマネジャーが介護サービスを利用するためのケアプランを作ってくれるので、福祉サービスだけではなく利用サービスも含めて総合的な利用が可能になっています。民間企業や農協、生協、NPOなどさまざまな事業者が提供するサービスを利用でき、所得に関係なくご利用者さまの負担が基本的に1割という点も、大きな変更点です。
介護保険制度の仕組み
介護保険が作られた背景についてみてきました。次は、介護保険制度がいったいどのような仕組みなのか解説していきます。
介護保険料の支払いについて
介護保険料は、40歳になって介護保険に加入することで支払い義務が生じます。40歳~64歳までの被保険者であれば、健康保険と共に徴収されます。保険料の決め方は、健康保険組合によって違うため加入している組合に確認してみましょう。
協会けんぽや職場の健康保険、共済組合の利用保険に加入している場合は、給与に介護保険料率をかけて算出し、事業主が半分負担することになっています。国民健康保険に加入している場合は、所得割、均等割、平等割、資産割の4つを自治体の財政にあわせて計算しされるため、介護保険料率も変わります。所得割は、世帯ごとの被保険者が前年にどのくらいの所得を得たのか考慮して計算されるものです。
65歳以上の被保険者は、年金から天引きされるのが原則となっています。ただし、負担が大きくなることを防ぐために、低所得者の保険料は軽減されています。その時に使われている国の調整交付金です。
サービスを受けられる被保険者の条件
サービスを受けられるのは、65歳以上の第1号被保険者です。保険料は65歳以上の第1号被保険者も40歳から64歳までの第2号被保険者も支払いをしなければいけませんが、サービスの対象になるのは第1号被保険者のみとなっています。第2号被保険者は、老化が原因となる疾病によって介護認定を受けた場合のみサービスの対象になります。
介護保険の対象になる疾病とは
第2被保険者の場合、特定の疾病を患っている場合に介護保険が認定され、第1被保険者と同じく介護サービスを利用できます。対象となる疾病は次の16種類です。
特定疾病
- 末期がん
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症
- 後縦靱帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病
- 早老症
- 若年性認知症
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 多系統萎縮症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節や股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
介護保険被保険者証を貰える場所
介護保険被保険者証は、各自治体の介護保険課や高齢者支援課などが窓口になります。自治体によって窓口の名前が異なるので確認しておきましょう。65歳以上の人には被保険者証が一人ひとり郵送され、40歳から64歳までの人は介護認定が済んだら発行されます。
介護保険被保険者証が発行されるのは65歳の誕生月ですが、発行されただけでは介護保険サービスを利用することはできません。介護保険サービスを利用する場合は、介護認定を受ける必要があります。
介護保険制度・改正の歴史をご紹介
2000年からスタートした介護保険制度は、これまでに何度も改訂されてきました。続いては、これまでの歴史を振り返っていきましょう。
2005年に1回目の改正
2005年の改定では、予防重視型のシステムへ転換することや施設給付の見直しに関する内容が盛り込まれました。
予防重視型のシステムへ転換は、要介護者への介護給付だけではなく、要支援者に対する予防給付を新しく創設しました。さらに、要支援者に対するケアマネジメントを地域包括支援センターで実施し、市町村が介護予防事業や包括的支援事業がおこなう地域支援事業を実施することも2005年の改定で盛り込まれました。
施設給付の見直しは、介護保険施設などに対する食費や居住費などを保険給付の対象外にしました。つまり、全て自己負担になります。しかし、低所得者に対しては補足給付を設けたので、低所得者にとってはメリットが大きい制度へと変化しました。
2008年に2回目の改正
2008年の改定では、介護サービスを提供する事業者の不正事案の再発防止や介護事業の運営を適正化する内容に変更されました。法令遵守などの業務管理体制の整備を義務付けたり、事業者の本部への立ち入り検査権を創設したりされました。さらに、不正をした事業者に対する処分逃れ対策などについて改定されています。
2011年に3回目の改正
2011年の改定では、高齢者が住み慣れた地域で少しでも長く自立した生活を送れるように医療や介護、生活支援サービスなどを途切れることなく提供する地域包括ケアシステムを作り出すための取り組みをスタートすることが決められました。
医療と介護の連携を強化するために、24時間対応の定期巡回サービスや随時対応サービス、複合型サービスを創設する、介護療養病床の廃止期限を猶予するなどの政策が盛り込まれています。また、介護人材の確保とサービスの質の向上を目指すために、介護福祉士や一定の教育を受けた介護スタッフによるたんの吸引を実施できるようにする、介護福祉士の資格取得方法の見直しを延期するなどの政策が盛り込まれました。
その他にも、高齢者の住まいを整備することや認知症対策を推進すること、保険料の増加を緩和するといったものが新たに加わっています。
2014年に4回目の改正
2014年の改定では、持続可能な社会保障制度の確立を図るために、効率的で質の高い医療提供体制の構築や地域包括ケアシステムの構築をおこなえるように考えられていきました。そして、医療や介護の総合的な確保を推進し、医療法や介護保険法の整備も2014年の改定に盛り込まれています。
2014年には放射線技師法の見直しや外語保険法における介護保険事業計画などの作成に関する改定がおこなわれました。また、翌年の2015年には予防給付の見直しや特別養護老人ホームの機能重点化、歯科衛生士法などの見直しといった改定がおこなわれています。
2017年に5回目の改正
2017年の改定では、高齢者の自立支援、要介護状態の重度化防止、地域共生社会の実現を図ることが目的となっていました。また、制度自体の持続可能性を確保し、必要としている人に必要なサービスが行き届くようにすることも、2017年の改定で盛り込まれた要素です。
高齢者の能力に応じた自立した生活を支援することによって、要介護状態の重度化を防ごうとしています。そのために、リハビリ職との連携やケアマネジャーの支援などをすることは盛り込まれました。
2020年に改正、2021年から施行
2020年に改正されました。施行は2021年です。その改定ではいったいどのような変更がなされるのでしょうか?現在決まっているのは、介護施設を利用している低所得高齢者が支払っている食費の月額自己負担額を2万2,000円引き上げること、高所得高齢者が介護サービスを受ける際の月額上限を4万4,000円から年収に応じて9万3,000円や14万0,100円に引き上げることです。
しかし、2割負担の拡大やケアプランの有料化、要介護1と要介護2の生活援助サービスを市町村へ移行するといった点は見送りになっています。2割負担の拡大に関しては、一定以上の所得を得ている後期高齢者の医療費自己負担が2割になることが打ち出された影響が大きいと考えられます。
今後は何を目指して改正されるか
2019年12月には、2021年~2023年を対象とする第8期介護保険事業(支援)計画作成に関する制度改正議論がおこなわれました。その中で、2021年~2023年という短いスパンではなく、2040年度も見据えた介護保険制度の改革が必要だと確認されました。
なぜかというと、団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年から介護のニーズがさらに高まっていき、2040年にかけて高齢者が増加するペースは鈍化しても現役世代の負担は大きくなると考えられるからです。
現役世代にさらに重い負担がのしかかっていく今後のことを見据えた制度を作らなければいけません。ICTの導入や働き方改革、介護職員への処遇改善なども進めていく必要があります。これからの時代は、介護保険制度の在り方がさらに問われる可能性が高くなるため、高齢者の実情だけではなく周囲にいる支援者に対するサポートに関する内容もより充実させる必要があるでしょう。
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関東 [12230]
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北海道・東北 [6918]
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東海 [4891]
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信越・北陸 [3312]
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関西 [6684]
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中国 [3581]
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四国 [2057]
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九州・沖縄 [7730]
小濱介護経営事務所代表、C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問、C−SR 社)医療介護経営研究会 専務理事ほか。全国各地で介護事業コンサルティングを実施。介護事業経営セミナーの開催実績は北海道から沖縄まで全国で年間300件以上。全国各地の自治体主催講演、各介護協会、社会福祉協議会主催での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」等の連載、寄稿多数。 「これだけは押さえておきたい算定要件シリーズ」「これならわかる〈スッキリ図解〉実地指導」ほか著書多数。
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