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認知症の方が不安になっている際の対処法は? 症状は進行しますか?

認知症の方は、どうしてもこれまでにできたことができなくなってしまったり、思い出せなくなってしまったりするため、不安を強く感じてしまう傾向が強いと感じています。そんな時にどのように対処したら良いのでしょうか?また、症状はどんどん進行してしまうのかということについても知りたいです。

A症状や本人が感じていることを理解することが重要なポイントになります。

認知症になると、物忘れがひどくなってしまい、自分自身のことも分からなくなってしまいます。また、家族のことも分からなくなってしまうため、今どこにいるのか、何をすべきなのかといった疑問がわき出してきます。それでは不安がどんどん募ってしまうため、どのような症状が現れているのか、本人がどのように感じているのかを理解し、接することが重要なポイントになります。

平栗 潤一
平栗 潤一
一般社団法人 日本介護協会 理事長

認知症になると、最初は物忘れがひどくなったと感じるくらいですが、進行していくとついさっきやっていたことも分からなくなってしまったり、今どこで何をしているのか分からなくなってしまったりします。安心感を得るために、家族や介護施設のスタッフに同じことを何度も何度も確かめるようになるのです。

今回は、認知症の方に対する理解を深めるために、不安になってしまう理由や対処法、介護する側が感じる不安について解説していきます。認知症に関する不安を解消したいと考えている方は、ぜひ目を通してみてください。

認知症の方が「不安」になってしまう理由

認知症の方が不安を感じて、これまででは考えられないような行動を取ることが多く見られます。まずは、認知症の方が不安になってしまう理由からご紹介しましょう。

自分がおかしくなってしまうのではないか

認知症になると、いつもの散歩道なのに帰り道が分からなくなってしまったり、電話を掛けたのにどのような用事があったのか忘れてしまったりすることも少なくありません。たまにだったらそこまで気にしないかもしれませんが、それが何度も毎日にように続いてしまうと、「どうしてこうなってしまったのか」、「このままもっとおかしくなってしまうのではないか」といった疑問を持つようになり、大きな不安に苛まれるようになります。

家族に見離されてしまうのではないか

「このままおかしくなっていくのではないか」という疑問からくる不安によって、家族に見離されてしまうのではないかという不安も生まれます。「普通に生活できていたからこそ一緒に暮らしてもらえていたのだろう」、「これ以上おかしくなったら家族に捨てられてしまうのではないか」というネガティブな思考に陥ってしまう方も少なくありません。

不安によって起こる症状

認知症が進行し、不安が強くなっていくことで、様々な症状が現れます。続いては、具体的にどのような症状が現れるのか見ていきましょう。

不安をもたらす中核症状

認知症の方が不安を感じるようになるのは、中核症状が原因であるケースが多いです。中核症状にはどのようなものがあるのでしょうか?

記憶障害

認知症になると記憶を司っている海馬という場所がダメージを受け、記憶障害が起こります。老化による物忘れは誰にでも見られますが、それと認知症による記憶障害には違いがあります。

記憶には、数日前から数分前のことを覚えておく短期記憶と数年から数ヶ月前のことを覚えておく長期記憶というものがあり、認知症は短期記憶が失われやすいのです。症状が進行していくと長期記憶へと記憶障害が広がっていきます。

見当識障害

見当識障害は、時間や場所、周りにいる人との関係を理解する能力が低下してしまうことを指します。見当識障害は、今の時間や日時が分からなくなることから始まり、場所が分からなくなっていきます。そして、症状が進むと普段は合わない近所の方を忘れるようになり、最終的には家族のことも忘れるようになってしまうでしょう。

例えば、孫の存在を忘れてしまい幼いころの娘や息子と勘違いしたり、配偶者を近所のおばさんやおじさんだと認識したりといったケースがよく見られます。

理解力や判断力の低下

認知症になると、理解力や判断力も低下してしまいます。信号や踏切を渡るのはどのタイミングか分からなくなってしまう方、乗り物の運転で必要な判断が難しくなってしまう方も多く見られます。本人は気が付けないので、家族が少しの異変にも気が付けるように注意を払うことが重要です。

実行機能障害

実行機能障害は、計画を立てて工程を進めていくための能力が低下してしまうことを指します。それまでは普通にしていた料理が難しくなってしまったり、電化製品の使い方が分からなくなったりといった症状は、比較的早い段階から現れます。

症状が進行すると、着替えも難しくなるでしょう。下着を衣服の上に身に付けたり、シャツばかり何枚も着たりするようになったら、主治医に相談し適切なアドバイスをもらうようにしてください。

この他にも、動作をすることが難しくなる失行見て得た情報を認識するのが難しくなる失認言葉を使って表現するのが難しくなる失語などの症状が見られるケースもあります。障害が現れるタイミングは人によって異なり、症状が現れる場所も個人差が大きいです。

中核症状から派生する周辺症状

中核症状が現れると、認知症の方の不安や自尊心の低下、混乱を誘発します。不安感が強くなった状態で、周りの環境や対応の仕方、患者さまの経験や性格などが絡み合うと周辺症状が現れます。問題行動だと見なされることもありますが、適切なケアを行えば軽減したり、消失したりする可能性も高いです。

では、周辺症状にはどのような症状があるのか見ていきましょう。

暴力や暴言、介護の拒否

認知症になると感情を司っている前頭葉が萎縮したり、脳が疲れやすい状態になったりします。そうなってしまうと、感情を抑えることが難しくなり、暴力や暴言につながる可能性が高いです。また、介護されることをプライドが許さない場合は介護の拒否をする方もいます。

暴言や暴力が現れるのは、様々な要因が重なったときです。大きな不安のやり場がない、家族が認知症に対して否定的な感情を持ち患者さまに対して迷惑そうな感情をあらわにしているといった場合は、暴力や暴言が現れる可能性が高いです。

介護を拒否する方は、介護されることによってプライドが傷つけられたように感じているケースが多く見られます。また、自分自身の思い通りにならない歯がゆさから介護を拒否することもあります。

抑うつ状態や無気力状態

脳が疲れやすくなると、何かしようと思っても力が湧いてきません。それによって、無気力になってしまう方が多いです。また、できないことがどんどん増えていき、プライドが傷付くことで抑うつ状態になってしまうケースも少なくありません。

妄想

妄想は、客観的に見てみるとあり得ないような考えを周りが訂正できないほど確信を持って信じ続けてしまう症状です。妄想の中でも、物盗られ妄想は多く見られます。認知症の方がどこかに置き忘れた財布やお金を家族の誰かに盗まれたと信じこむ物盗られ妄想で、同居している嫁が盗んだと怒るケースが多いです。

その他にも、いじめられたと勘違いする被害妄想や配偶者が浮気をしているという嫉妬妄想などがあります。

幻覚

幻覚は、レビー小体型認知症で多く見られる症状です。衣服や床に落ちているごみを人間や虫、動物と勘違いすると幻覚だけではなく、知らない誰かが話しているという幻覚を見るケースが多いです。薬物や水分不足、睡眠不足が原因で幻覚を見る人もいます。

この他にも、昼夜逆転の生活を送るようになったり、食べ物ではないものを食べようとしたりする異食、排せつ物をいじる弄便などの不潔行為も周辺症状に含まれます。

不安状態になると症状は悪化する?

認知症は、不安を感じると症状が悪化しやすくなります。これまでのも説明してきたように、認知症になるとこれまでにできていたことができなくなったり、自分の家の場所が分からなくなったりします。もしも自分がそうなってしまった場合を考えてみると、大きな不安を感じるでしょう。

そしてその不安が積み重なっていくと、暴言や暴力、抑うつ状態、無気力状態、妄想がどんどん激しくなっていきます。それでは家族にもさらなる負担がかかってしまうため、できるだけ不安を解消することが重要なポイントだと言えます。

不安に陥っている方への対処法

認知症の方が不安に陥っている場合、適切なケアをしなければ逆効果になってしまう可能性もあります。では、認知症による症状で不安に陥っている方に対する対処法についてみていきましょう。

不安になる理由を把握することが重要

認知症を完治させるための治療法は存在していませんが、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の症状を軽減したり、進行を遅くしたりするための薬は開発されています。認知症薬として処方されているドネペジルやガランタミン、リバスチグミン、メマンチンなどを飲むことで症状を抑えることができ、不安感を軽減できるでしょう。

ただし、認知症の方は飲み忘れてしまうことも多いため、家族のサポートが必要です。また、脳神経を活性化させることで進行のスピードを抑えられるので、リハビリもおすすめです。見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触れるという五感を刺激することが大きなポイントになります。

リハビリに通わなくても、音楽を聴く、絵を描く、ペットと一緒に暮らす、園芸を楽しむといったことを自宅でするのも脳神経の活性化につながります。本人が楽しみながらできることをすればストレスも感じることがありません。

もちろん、本人がどのような不安を感じているかを把握することも大切です。不安を取り除けるようにサポートし、認知症ならではの症状が現れてもきつく叱らないようにしましょう。適切な声掛けをすることで認知症の方自身もいら立ちを抑えられるようになります。

介護する側が不安になることも

認知症の方に限ったことではありませんが、介護をしていると介護する側が不安に駆られてしまうことも少なくありません。最後に、介護する側が気を付けたい介護うつについてみていきましょう。

介護うつに注意(周りに頼ることが大事)

介護うつは、介護している側がストレスや不安を感じ、発症してしまううつ病です。身体的な負担はもちろんですが、精神的な負担や大きな責任を感じることが大きなストレスになってしまい、発症するケースが多く見られます。

介護うつになると、慢性的な疲れや倦怠感があり、食欲もなくなりやすいです。さらに、不眠になる方や引きこもりになる方、ひどくなると自殺願望が芽生えるケースもあるのです。

介護が負担になってしまい介護うつになる可能性が高いのであれば、最初から1人で抱え込まないことがとても大切なポイントになります。介護の負担を1人で全て担おうとすると介護うつになる可能性が高くなりますが、家族や親せきを頼って分担しながら介護を行えば心身の負担は大幅に軽減するでしょう。それによって、介護うつになることを回避できます。

家族や親せきなど身内だけでの解決が難しい場合は、地域包括ケアセンターや市町村の窓口で相談してみましょう。そうすることで、介護サービスについて情報を手に入れられます。場合によっては、訪問介護やデイサービス、グループホームなどの利用も検討してみてください。

介護うつかどうかチェックしてみよう

  • 物ごとを決めることや選ぶことが以前より難しくなった
  • 周りから疲れているようだと受診を勧められることが増えた
  • 介護することにうんざりし、みじめになり悲しくなる
  • 何ごとにも興味を失い、何も楽しむことができなくなった
  • 食べ物に興味がなくなり、何を食べても美味しくなく食欲がなくなり、体重が減った
  • 落ち着きがなくなり、 イライラし怒りやすくなった
  • なぜ、私だけが……と自分の状況は、報われなく悲しい
  • 疲れやすく、重く抜けない疲労感を感じる
  • 異性や世の中のニュースに興味がなくなった
  • 頭痛や肩こりがひどくなった
  • 自分が役に立たない存在で、ひどくみじめで不幸せに感じる
  • 何に対しても集中できない。持続できない
  • 他の人との関わりを避け、誰とも会いたくない
  • 死んで、もうこの世からいなくなりたいと思う
  • 下痢や腹痛、動悸やめまいなど原因不明の体調不良が続いている
  • 朝起きるときに、特に気分の落ち込みがひどい
  • 身だしなみに気を使わなくなった(同じ服ばかり着ている)
  • 寝つきが悪く、熟睡できなくなった
  • 自分に自信がなくなり、全てに消極的でネガティブ思考になった
  • 急に悲しくなり、感情が抑えきれずに場を選ばず涙が出てしまう
引用元:株式会社ユニマット リタイアメント・コミュニティ「【セルフチェックリストつき】介護うつは改善や回避ができるうつ病!

このうち、4つ以上当てはまった場合は、介護うつを疑ってみましょう。チェックした数が多ければ多いほど早めに対処しなければいけない状況なので、メンタルクリニックなど専門家がいる医療機関への受診をおすすめします。

双方が不安を覚えないようにする

家族が認知症になってしまうと、さまざまな不安を覚えるようになりますし、家族が抱える負担が大きくなってしまいます。それによって、介護される側も介護する側も大きな不安に苛まれてしまうケースが非常に多いです。しかし不安を抱えたまま介護をしていると、苛立ったままケアをすることになり、認知症の症状が悪化してしまう可能性を高めてしまいます。

介護される側と介護する側、双方の負担を軽減するためには、自分たちだけで解決しようとせず、周りを頼ることが大切なポイントだと言えるでしょう。適切なケアを提供し、介護うつを発症しないためにも、地域包括ケアセンターや市町村の窓口を頼ってみてください。

平栗 潤一

この記事の監修

平栗 潤一

一般社団法人 日本介護協会 理事長

大手介護専門学校にて教職員として12年勤務し、約2000名の人材育成に関わる。その後、その経験を活かし、認知症グループホームや訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅などの介護事業や、就労継続支援B型事業所や相談支援事業所などの障がい福祉事業を運営。また一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して活動中。

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