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認知症の方への接し方を教えてください

父が認知症になってしまいました。認知症だと分かっていても、会話がかみ合わなかったり、言うことを聞いてくれなかったりするので、つい感情的に接してしまいます……。それが良くないとは分かっているのですが、認知症の父との接し方が分からず悩んでいます。どのような接し方が正しいのでしょうか?

A認知症の方と接する時は、考えや気持ちを受け止めてあげることがとても大切です。

意思疎通が以前よりも難しくなるので、ご家族がイライラしてしまうのは無理もありません。しかし、頭ごなしに否定したり、怒ってしまったりすると、認知症の方の気を損ねてしまうので、受け入れる姿勢が重要となってきます。認知症の方の症状や気持ちを理解できるようになると、受け入れることがどれだけ重要なのか分かるようになるでしょう。

平栗 潤一
平栗 潤一
一般社団法人 日本介護協会 理事長

認知症の方を介護される方の多くは、どのような接し方が正しいのか悩んでいます。理解力や記憶力は低下しても、認知症の方も接し方が悪いと傷付いてしまい、ストレスとなって症状を悪化させる可能性があります。お互いがいつまでも笑顔で生活できるように、この記事で認知症の症状や接し方について確認していきましょう。

まずは認知症の症状を理解しておく

認知症の方に対して正しく接するためにも、まずは症状について理解を深めていくことが大事です。認知症になってしまうと、次の症状が見られます。

記憶障害

代表的な症状は記憶障害です。今しようと思った行動を忘れてしまったり、今まで覚えていた人やものの名前が思いだせなくなったりします。

老化によるもの忘れと思われがちですが、認知症の場合は体験したことの一部を忘れるのではなく、まるごと忘れてしまうのが特徴的です。加齢による物忘れであれば、ヒントがあれば思い出せます。しかし、認知症だとヒントを出しても、丸ごと忘れてしまっている状態なので思いだせません。

見当識障害

見当識障害とは、今自分がいる場所や状況が、年月日、周りの人との関係性などが分からなくなってしまうことです。今話している相手が誰なのか、通い慣れていた場所の道筋、時間も季節も正確に認識できない状態となっています。

判断能力の低下

判断能力が低下してしまうので、今まで自分で判断できていたことができなくなってしまいます。例えば、今日着る服のコーディネートや特定の問題を自力で解決できなくなるでしょう。また、物事の善悪も判断できなくなり、交通ルールの無視や意図せずに万引き、路線に侵入など社会における生活ルールが守れなくなり、トラブルを起こすこともあります。

行動・心理症状(BPSD)

個人の性格や環境変化などの影響も加わってしまうと、次のような行動・心理症状を起こす場合もあります。

  • 徘徊
  • 弄便
  • 暴力、暴言
  • もの取り妄想
  • せん妄
  • 異食
  • 失禁、排尿障害
  • 不眠、睡眠障害
  • うつ病

例えば「ここは自分の家じゃない」と言って家から出ようとしたり、「私物を盗まれた」とありもしないことをおこなったりする言動がBPSDです。この症状が介護者にとって一番の負担になる症状でしょう。

認知症の進行度によってBPSDの現れ方も変わってきますが、始めは不安や抑うつ状態が現れ、次第に妄想や幻覚に悩まされたり、徘徊などの行動に出やすくなったりします。最終的には人格が変わる、一切口を開かなくなる、食べ物以外のものを口に入れるなどの行動が現れます。悪化すると常に介護が必要な状態となるので、早めの対応が重要となるでしょう。

認知症の症状別の対処法

認知症の症状を見てきましたが、対処法を知っておくと介護の負担の軽減につながります。それでは、症状別の対処法を見ていきましょう。

人物誤認の対処法

認知症の方が自分を誰か正しく認識できず、別の人と勘違いして接してくる場合があります。この場合は、勘違いされている相手になりきって言葉を返すと、認知症の方の不安が和らぎますよ。

ただし、見知らぬ人や因縁の相手として認識されると、相手がパニックになり大騒ぎになる恐れがあるでしょう。その場合は、刺激を与える前に一度立ち去り、認知症の方が落ち着くのを待つと良いです。

物忘れの対処法

認知症の方で多いのは、すでに食事が済んでいるのに、「ご飯はまだなの?」と催促してくることです。普通は、「さっき食べたよ」と返すかと思いますが、それで納得はしてくれません。

この場合、食事を催促していること自体忘れるように支援する方法が効果的です。催促されても否定せずに、「今持ってくるね」と言ってキッチンに向かい、少し時間を空けます。戻ってきた頃には、食事の催促自体忘れている場合があるでしょう。また、催促がしつこいようであれば、後の食事に問題なければ、おやつやプチデザートを出して満足させる方法もあります。

見当識障害の対処法

例えば、今日の日付や曜日を繰り返し聞いてくる場合、単純に日付を知りたいだけではなく、時間や場所をしっかり認識できているのかという不安を打ち消すためだとされています。そのため、「何度も聞かないで」と相手を否定する言葉を返さないようにしましょう。

認知症の方からも見えやすい位置に時計やカレンダーを置き、一緒に今日の日付や曜日、時間を確認すると、本人も不安が和らぎますよ。

もの盗られ妄想の対処法

大切なものや今必要なものが見つからず、「盗られた」と騒ぎ出すこともあります。この場合、誰も盗んでいないことを説明しても、なかなか納得してくれません。相手を納得させるためには、まずは「盗まれたの!?大変、探さなきゃ!」という風に怒りや不安を共有し、一緒に探してあげると良いでしょう。

ただし、家族が見つけて本人に直接渡すと、「やっぱり盗んだんだ」と疑惑を深めてしまう場合もあります。そのため、探し物が見つかっても、本人に見つけさせるように誘導しましょう。そして、無事に見つかったら一緒に喜ぶと、家族を味方だと思ってもらえるようになりますよ。

徘徊の対処法

認知症の方が外に出ようとした場合、可能であれば一緒にでかけて、気が済んだら戻るという対策が理想です。しかし、それが1日に何度もあると、何もできなくなってしまいます。

徘徊してそのまま行方不明とならないように、徘徊感知危機やGPS、連絡先が入っているお守りなどを身に付けさせると、万が一徘徊した時も安心です。また、近所の人にも、見かけたら連絡がほしいと、事前に声をかけておくと連絡が入る可能性が高まり、すぐに対応できるでしょう。普段からご近所同士のネットワークを広げておくことも認知症介護では大事なことですよ。

失禁や便いじりの対処法

失禁や便いじりといった問題行動は、ついつい怒り声を上げがちです。しかし、認知症になったからと言って、羞恥心やプライドがなくなったわけではありません。怒りながら叱っても傷付くだけで、問題行為はなくならないでしょう。

失禁や便いじりをしても感情むき出しで怒らず、「綺麗な方が気持ち良いよ」という風に穏やかな声かけで着替えるように誘導しましょう。また、生活リズムに合わせて、定期的にトイレに誘導すると、失禁や弄便のリスクを減らせます。

幻覚の対処法

幻覚を見て突拍子もない言動で家族を困らせる認知症の方も多いです。理解しがたい世界ですが、認知症の方は幻覚に対して恐怖や不安を強く感じています。そのため、幻覚の内容を否定せずに、幻覚を追い払う不利や別の部屋に移動させたり、守る動作をとったりすることで、安心感を与えられます。

また、幻覚症状は服用する薬に原因がある場合も多いです。繰り返し幻覚を見る場合は、医師に相談した方が良いでしょう。

暴言・暴力への対処法

認知症になってしまうと自分のことを理解できず、また人からも理解されないことにイライラが募ります。そのイライラを爆発させて、自分の考えや望みを伝えようとした結果、妄言・暴力として現れてしまうのです。

攻撃的な性格に変わってしまった時は、まずイライラの原因を突き止める必要があります。認知症の方の怒りに共感し、原因を解消することで、元の落ち着きを取り戻してくれるでしょう。

手を尽くしても治まらない場合は、薬の変更で解消される場合もあります。暴言や暴力がヒートアップするようであれば、医師や薬剤師に相談してみてください。

症状を問わない認知症の方への接し方

認知症の方と接する際は、まず本人が抱える不安を受け止めてあげることが大事です。以前と比べて思うようにコミュニケーションがとれなくなり、不安になるのは家族だけではなく、本人も同じです。不安に感じていることを理解できれば、適切な接し方も分かってきますよ。

それでは、認知症の方と接する際のポイントをまとめたので、見ていきましょう。

否定したり叱ったりしない

認知症の方にも羞恥心やプライドは存在します。症状の影響で今まで通りの動作ができなくなり、毎度そのことを指摘されると傷付き、混乱を招く恐れがあるでしょう。もし失敗や同じ言動を繰り返しても、そのたびに否定や叱責はやめましょう。

主張が事実と違った内容でも、本人はそれが事実だと思い込んでいます。その状態で否定してしまうと、信頼関係が崩れてしまいます。信頼関係が崩れれば、ますます認知症の方と上手くいかない状態となってしまうでしょう。

褒める、感謝する、相槌を打つ

認知機能が下がっても感情がなくなるわけではありません。話をする時は適切な相槌を打ったり、褒めたり、感謝の言葉を告げれば、喜んでくれます。症状が出る前と比べてコミュニケーションが難しくなったからこそ、話を聞いてあげることや認めてあげることが、不安を取り除き、良好な関係を維持する秘訣と言えるでしょう。

放置するなど、ストレスを与えるのは厳禁

認知症の方と同居される方の中には、会話や要望を無視したり、放置したりする方もいます。忙しいとついつい放置してしまう方も多いと思いますが、その行為は本人に大きなストレスや孤独感を与えます。

ストレスが増えれば、本人の不満がどんどん積もり、いずれは表面化します。そうなると、大声を上げたり、暴力を働いたりするようになるでしょう。

何か話しかけてきた時は、話を聞いてあげ、可能な限り希望を叶えてあげましょう。幻覚や見当識障害など介護者を困らせる言動をとってきた場合は、症状別の対処法を参考にしてください。

かけがえのない存在であることを認識してもらう

今までできたことができなくなり、自分が自分ではなくなってしまう感覚に陥り、不安が大きくなる認知症の方は多くみられます。その不安が大きくなれば、うつ病を患ったり、自殺願望を口にしたりする可能性があるでしょう。

不安を解消するためには、認知症でも人の役に立っていると認識させることが大事です。認知症の方でも、長く続けてきたことは体が覚えている場合もよくあります。できる範囲で家事の役割を与え、家族の役に立っていると感謝を口にしましょう。

自分が家族や周りの人にとってかけがえのない存在だと実感できれば、不安や絶望感を和らいでいきます。信頼関係も構築され、本人もより素直に接してくれるようになるでしょう。

ただし介護をする側のストレスに気をつける

接し方が分かれば、認知症の方と良好な関係を維持できます。しかし、家族は長期的に介護と向き合わなければならず、多大なストレスを抱えることになるでしょう。ストレスを抱えた状態では、ダメだと分かっていても間違った態度をとってしまう可能性もあるので、溜め込み過ぎないように注意しなければなりません。

介護をする側は以下のステップで疲弊する

認知症介護をされる方の疲弊の進行には、4段階の心理ステップがあります。今、自分がどの段階なのか分かると、冷静さを取り戻せるでしょう。それでは、その4つの心理ステップをご紹介します。

第1段階 戸惑いや否定

家族が認知症を発症した段階では、突然の変化に戸惑いを感じるでしょう。認知症の疑いを理解しつつも、診断が事実だと分かると「何かの間違いだ」「どうせすぐに治る」という風に認知症を否定する場合もあります。まだ初期段階だからどうにかなると思い、ネットや本で認知症の予防法などを調べる人も多くみられます。

第2段階 混乱や怒り、拒絶

症状が進行すると、急激な変化にどう対応すればいいのか分からず、混乱する人も見られます。その状況でも介護は続けなければならず、自分がこんな大変な思いをしていることに怒りや拒絶の気持ちが沸きあがるでしょう。

介護への絶望感が強くなってしまうと、それに捉われてしまい、認知症の方だけではなく、他の家族や周りの人まで拒絶してしまう場合もあります。中には、怒りや拒絶の気持ちを持ちながら、表に出さないために周りから気付かれないケースもあります。

第3段階 割り切りや諦め

この段階までくると、認知症に対して割り切った考えや諦めの気持ちが生まれます。認知症はどんどん進行するもので、予防や治療はできないと理解しはじめます。同時に、認知症の方とどう生活していくのか、考え始める段階です。

第4段階 受容

認知症や介護を受け入れ、価値を認める段階です。ここまでくると、介護の経験や認知症の方との関わりが自分にとってかけがえのないものと考えられるようになります。いずれ、自分も同じような状態になるかもしれないと、より自分の老後を大切に考えられるようになるでしょう。

すべての方が順に心理ステップを進むわけではありません。次の段階に進んだと思ったら、前の段階に戻る、ずっと同じステップで止まったままという人もいるでしょう。しかし、ステップが進まないことに絶望するのではなく、最後には受容できる時期がやってくると前向きに考えることが大事ですよ。

認知症に対応しつつ、周りを頼ることが大事

介護を一人きりでおこなう方もいるでしょう。しかし、一人でできることには限界があります。介護は一人でやるというルールはないので、辛くなった時は周りを頼ることもストレスを軽減しながら、介護を続ける上では重要なものとなります。

ただ、周りが非協力的なこともあるでしょう。家族が協力的になるためにも、認知症の症状や本人の考え・気持ちを共有し、理解を深めることが大事です。また、家族だけでは手に負えないのであれば、介護サービスを利用して負担を軽減する方法も考えておきましょう。

平栗 潤一

この記事の監修

平栗 潤一

一般社団法人 日本介護協会 理事長

大手介護専門学校にて教職員として12年勤務し、約2000名の人材育成に関わる。その後、その経験を活かし、認知症グループホームや訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅などの介護事業や、就労継続支援B型事業所や相談支援事業所などの障がい福祉事業を運営。また一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して活動中。

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