インタビュー

自然音で安心できる空間をつくり出す!医療法人社団 和風会 ライフサイエンス研究室長 加藤みのるさんインタビュー

心地よい環境をつくり出す自然音を介護福祉の現場に生かす研究を続けている加藤みのるさんに話を聞きました。

自然音を介護に取り入れようと研究する加藤みのるさんにインタビュー

心地よい環境をつくり出す自然音を介護福祉の現場に生かす研究を続けている、医療法人社団 和風会ライフサイエンス研究室長の加藤みのるさんに話を聞きました。

加藤みのるさん

加藤みのるさん
医療法人社団 和風会 ライフサイエンス研究室長
トランペット奏者時代に“音楽家の病気”と出会い、その治療法を広く一般に使えないかと考え、自然音に可能性を見出す。介護福祉の現場に取り入れるべく研究を続けている。

ミュージシャンとしてアメリカに渡り、“音楽家の病気”に出会う

【中浜】自己紹介をお願いします。

【加藤】医療法人社団和風会ライフサイエンス研究室の加藤みのるです。現在は自然音による音楽療法を研究しています。もともとは、20年以上前からトランペット演奏者をやっていました。

【中浜】え?ミュージシャンなんですか。

【加藤】はい。アメリカに渡り、音楽の勉強をしているときに、ある先生に出会ったことが、今につながっています。

【中浜】トランペットの先生ですか?

【加藤】もちろんトランペットの先生なのですが、“音楽家のお医者さん”でもあるんです。

【中浜】何を治療するのですか?

【加藤】フォーカル・ジストニアという、音楽家の運動障害のような症状を治療します。その症状は演奏しようとすると、指が動かなくなったり、舌や唇が固まったりして、突然音が出なくなるんです。それも、何十年も経験のあるプロ演奏家にも起こるんです。

【中浜】どうしてでしょうか?

【加藤】体の同じ機能をずっと使い続けてしまうために、その機能がショートしちゃうんですよ。プロの演奏者であればあるほど、脳が特定の部分を使い続けていることがあります。

【中浜】一流の演奏家が急に音を出せなくなるなんて、不思議な感じがします。

【加藤】やはり、それだけのストレスとプレッシャーがあるんです。ひとつの見方として、年齢を重ねていくと、それまでのストレスの蓄積によって、スキルや自信よりもプレッシャーの方が強くかかるようになります。すると、本来の能力を行動にうまく活かせなくなってしまうんです。プレッシャーが強まることでバランスがとれなくなってしまうということですね。

【中浜】どちらかというと、メンタル的な心の問題ですか?

【加藤】脳ですね。脳機能の問題だと言われています。脳は、恐怖感の方が快感よりも蓄積されやすい。それによって、一度症状が出ると、どんどん進んでいってしまいます。

【中浜】なるほど。アメリカでその先生に出会って、フォーカル・ジストニアの勉強もされていたんですね。

【加藤】その先生は、オーケストラで活躍するプロの演奏家などの治療も行っていました。私は、その先生のところに週7日、8年間ずっと通い続けました。先生のところには、全米、ヨーロッパなどいろんなところから患者が訪れていたので、私は先生がいかに治療をするのかを見て学ぶ。そのあと、先生からレッスンを受けたり、ディスカッションしたりしましたね。先生は、患者の問題になっている点に関して、的確に運動機能の整理をして改善させていきました。

音楽って環境なんだ! 自閉症の子どもに教えてもらったこと

【中浜】それが、音楽療法とどうつながっていくのでしょうか。

【加藤】アメリカで学んだフォーカル・ジストニア治療の技術、同じくアメリカで学んだ行動学を取り入れて、一般の人たちにも使えなないだろうか、と考えたのがきっかけです。何か刺激を与えることで、体に影響が出るようなものを作れないだろうか、と。
最初は、多摩リハビリテーション学院(同法人)で、発達障害、特に自閉症の子どもに音楽療法としてのアプローチで、臨床を始めました。それまで続けていたフォーカル・ジストニアの治療の研究にあわせて、それを発達障害や高齢者が心地よくいられるような環境づくりに活かす研究を進めて、今に至っているというわけです。

【中浜】実際に現場で実践し始めて、どうでしたか?

【加藤】やはり、自閉症の子どもたちとのコミュニケーションの中で、沢山気付かされた事があるんですよ。

【中浜】なんでしょうか。

【加藤】僕らは「音楽」という言葉のカテゴリがちゃんと分かれているから、こういうものが音楽なんだって感じます。でも、症状の具合にもよりますが、自閉症の子どもたちは、そういうカテゴリを持っていない場合もあるんです。じゃぁ、音楽ってなんなんだ?......音楽は環境でしかないんだ!そう気づいたのです。

【中浜】なるほど、音楽を突き詰めていくと、環境なんですね。

【加藤】そうです。「これが快だ」ということを体が認知していれば、人間はその環境に対して、心地よい状態だと感じることができます。では、一番分け隔てなく体に影響を与えることができる音はなんだろう?そんな視点から、僕は「自然音」にたどり着きました。

ありのままの脳に訴えかける自然音

【中浜】自然音を研究する上で、加藤さんはかなりこだわっているそうですね。

【加藤】はい、北は白神山地から、南は屋久島まで、実際に音を録りに行っています。

【中浜】僕みたいな東京に住んでいる立場からすると、例えば青梅に行くと、自然だなぁと感じます。でも、屋久島の方がやはり音が良いのでしょうか?

【加藤】いや、青梅だから足りないものがあるのではなくて、それぞれに個性があって、掘り下げ方や使い方が違ってくるのです。

【中浜】なるほど、使い方なんですね。

【加藤】例えば、中浜さんは三鷹のご出身だと聞きました。もし、三鷹に人間が住んでいなかったら、そこにはどんな森ができていたのでしょうか。こんなことを考える学問があるんですよ。潜在自然植生といいます。この地形でこの気候であれば、こういう自然が育つ、という。

【中浜】へぇ、そんな学問があるんですか。

【加藤】何が言いたいかというと、今いる場所が本来どんな状態、またはどんな自然であったかを、体は知っているんじゃないか、ということです。そのあったであろう自然な音を、僕が作ることもあります。
自然の音は、その人の育成と関連しています。分かりやすい例をあげると、波の音が顕著で、青森の人が聴くと寒い、沖縄の人が聴くと温かいと感じるんです。

【中浜】育った環境によって、感じるものが違うんですね。

【加藤】もともとの脳の機能からして、その環境がよいか悪いか、安全かどうかを判断しているのは、本能に近い部分である爬虫類脳だと言われています。人が動物として持っている感覚であり、睡眠時に使っているようです。つまり、音によってそこを刺激してあげると、ここは眠ってもいい場所なんだな、と思わせることができます。

【中浜】人間が動物として持っているものに作用させるんですね。

【加藤】はい。そこをいかに刺激できるかですね。より自然としての力を持っている、脳が感じられる音を自然音から学んでいます。

【中浜】加藤さんの自然音へのこだわりがうかがえますね。

【加藤】自然音に、より注目をするようになった経験があるんですよ。75歳くらいの高齢で、中学生くらいで目が見えなくなった方が僕のところへいらっしゃいました。もう補聴器をつけないと聞こえないくらい。その方は、海の近くで育ったそうで、「海を感じたい」と話されるんです。なんとか、その人が海を感じることができないか......。

【中浜】海の音を録りに行くんですね。

【加藤】はい。でもね、海の音って、ただとっただけでは海だってわからないんですよ。「ザーッ」というだけだったり。写真家が撮った写真は伝えたい事と目的が明確であるのと一緒で、音にもやはり焦点があるんです。だから、その人の心のなかにある音をきちんと見つけてあげる作業をしなければならない。ただ音があれば体が反応するのではなくて、きちんと意識できる音が存在するということがわかってきました。

【中浜】心のなかに音の風景があるんですね。その方はどうだったんですか?

【加藤】耳が遠くなっていたので、骨伝導式のヘッドホンで聞いてもらいました。はじめは何も言わないんですよ。でも、3分くらいして、「あぁ、波だ!懐かしいなぁ!」って大きな声を出すんです。すごい衝撃でした。あぁ、この人の頭のなかに、自分が波を感じていたときの風景が浮かんでいるんだ、と実感しました。

【中浜】そうでしたか!音の録り方もそうですが、やはり機材もいいものを使わないといけないんですか?

【加藤】そうですね、録音・再生する機材のレベルももちろん大切です。人間の耳はわずかな差も聞き分けることができますからね。幸いにも、いまの音の専門機材は、それに耐えうるだけの性能を持っています。

【中浜】人間って、そんなに音に対する敏感さを持っているんですね。鳥などの動物は音に強いイメージがありますが、人間にもちゃんとその能力があるとは。

【加藤】目と違って、寝ていても耳は感じ取っています。目は視野の範囲しか見えませんが、耳は360度、どこで何が起きているのか、この場所が安全なのかどうかという判断ができる能力を持っています。そんな聴覚が持っている能力は生命維持には欠かせません。

「心地よい音」の裏付けを取っていく

【中浜】臨床では何を見ているのですか?

【加藤】心拍などの心臓機能や脳機能の変化です。例えば、眠れる状態というのは、心拍数が落ちて、血圧も下がっていきます。相関的に、副交感神経も優位になります。

【中浜】その人が心地よいと感じているのか、心拍などで確認して、ふさわしい音を探っていくというわけですね。

【加藤】はい。自然音のどの波形のタイミングで心臓や脳に変化が出るかなどを、検証を繰り返して臨床していくと、傾向が見えてくるんです。心地よい、もしくは不快であるという心理的な感覚の裏で体が変化しています。つまり、気持ちや感情の底にある体や脳が心地良いと感じた事がデータとして表れてくるのです。

臨床を体験してみる。 睡眠深度が上がった際のモニター画面 今回計測したデータ。心拍や脳波などのデータから効果的なタイミングを探る。

—今回計測したデータ。心拍などの波形から効果的なタイミングを探る。

自然音を介護福祉に生かす 睡眠薬の代わるものを

【中浜】これまでお話いただいたことを、いかに介護福祉に持ち込めるかをさらに研究されているわけですね。

【加藤】そうです。そのひとつとして、睡眠薬に代わるようなものをつくりたいと考えています。睡眠薬は、飲み始めるとどうしても増えていきます。もちろん、運動などが対策にもなりますが、高齢だったり体が不自由だったりして運動ができなかったらどうするか。やはり睡眠薬を服用することになります。だって、その方が早いですから。でも、睡眠薬に頼ると、認知症や介護度が進んでしまう一つの要因になり得ます。音には副作用がないので自然音を使って、それを食い止めたいのです。

【中浜】それは個人単位で音を処方していくのでしょうか。

【加藤】個人処方もできますが、一般へ普及させるため、どういう音であれば多くの人に効果があるのかを調べています。音は環境のひとつだと言いましたが、環境には音のほかに温度や湿度などもありますよね。特別な設備があれば、湿度や温度設定を最適にできますが、一般家庭ではできません。そこで、普通の家のなかでも、きちんと影響を出せる音の研究もしなければなりません。

【中浜】気温と湿度ってそんなに関係が?

【加藤】音と同じようにとても大切です。発汗も心拍も変わってきますし、夏場と冬場でも心地よさの条件が大きく変わってきます。音は環境のひとつであり、逆に言えば、音は環境の一部でしかないんです。

【中浜】なるほど、音をつくりだす環境全体のマネジメントも考えなければいけないんですね。ちなみに、目覚めやすい音ってなんですか?

【加藤】例えば鳥の声です。白神山地では、夏場の時期だと4時30分ごろの日が昇る瞬間に、森中の鳥が一斉に鳴くんですよ。日が昇ってしまうと、とたんに静かになる。これは太陽が見えない雨の日でも一緒です。地球と太陽の磁場の関係などいろいろ考えられることはありますが、鳥は生きているサイクルのなかで、朝が来るタイミングを知っています。それは、僕たち人間も一緒なんじゃないかと思っています。つまり、鳥が鳴く時間は人間が目覚めるのにぴったり。その音を聞けば、僕たちの体は、もう起きる時間なんだと認識するわけです。

【中浜】人間って自然に対してそんなに素直に体ができているんですね。

【加藤】人間にも自律神経による循環がありますからね。交感神経と副交感神経のバランスの話はよく聞きますよね。

【中浜】普段何気なく感じている心地よさも、実は生命につながっているとは驚きです。

自然音はコミュニケーション空間をデザインしてくれる

【加藤】もうひとつ、介護福祉のコミュニケーションにも自然音を使うことができます。

【中浜】えっ、コミュニケーションにですか?

【加藤】これも自閉症の子どもから気づいたことなのですが、自閉症の子どもたちは、程度やタイプにもよりますが言語による発想がうまく使えない場合があります。言語による発想を使わない状態で環境に適応するとなれば、生命と直結している直観的なところで好きか嫌いかを判断していると考えています。その能力が彼らはすごく高いのではないかと思います。

【中浜】生命と直結……あ、音ですね!

【加藤】そのとおりです。ここが安全だと感じる感覚と音をいかにマッチングさせていくか、ということです。

【中浜】それをどう使うのですか?

【加藤】周囲の環境の変化を受け入れてもらう場面で効果があると考えています。言葉で伝えなくても、今はこれをする時間なんだ、今はこれをしてもいい時間なんだ、という時間の区切り、切り換えをスムーズにさせることができるのではないかと。

【中浜】確かに、何かにこだわっている状態で、それを取り上げてしまうと、パニックになってしまいますね。

【加藤】そうです。上手に場面や行動を移行するのが難しい場合があります。だから、環境の変化、外側からの働きかけが大変なストレスになります。そこで、音を使って、自分のなかから環境の変化を認識してもらうのです。

【中浜】環境の変化と安心感はとても大切ですよね。これって、認知症の方にも当てはまりますよね。認知症の症状が強いと、どうしてもコミュニケーションをとりきれずにうまく伝わらないこともあったり・・・

【加藤】はい、認知症の方も同じです。ここは寝てもいい環境なんだ、いまは何かに挑戦する時間なんだ、そんなことをストレスなく察知してもらうことができますね。
デイケアで実際にやってみたところ、サービスを提供するスタッフさんにも利点があることがわかりました。

【中浜】気になります!

【加藤】声掛けがしやすくなったんですよ。例えば、運動の時間に、鳥が日中に鳴いたりするアクティブな音をかけると、「さぁ、みなさん運動してみましょう」という雰囲気になり、促しやすいんです。

【中浜】いかに伝えるかを試行錯誤しているスタッフさんにもプラスになるんですか。

【加藤】自然音は、人と人とのコミュニケーション空間をデザインすることを可能にさせるんです。一人ひとりに異なる心地よい音だけではなく、多くの人が集まって、みんなが心地よいという気持ちを共有するような音もつくれるのです。

【中浜】睡眠に向けた筋肉が緩むような心地よさだけではなく、運動に向けて体を覚醒させるような心地よさもつくり出せるんですね。

治療のヒントは耳が360度であること

研究室で実際に、臨床で使用している「音のクスリ」を聴いてみた。そして加藤さんと近くの公園に行き感覚の変化を体感する。

【加藤】音の感覚のバランスを整えることで、脳を整えていくのです。脳は、耳から入ってきた莫大な量の情報を常に処理しています。そのために、脳はフィルターを設けて情報を選んでいます。人としゃべっていれば、その声に耳の焦点を置きますよね。

【中浜】パンクしないように脳のほうで選んでいるんですね。

【加藤】はい。でも、そのフィルターがうまく機能していないと脳の整理ができず、結果として心の不調につながってしまいます。それが認知症だったり、発達障害のパニックだったり、鬱だったりにつながるケースがみられます。外側の環境がきちんと伝わらなくなってしまうんです。

【中浜】どうすればいいのでしょうか。

【加藤】ヒントは耳が360度であるということです。意識を外側に向けるように促すことです。例えばこっちで人が話している、あっちでカラスが鳴いている、後ろの遠くの方で川が流れているというように、きちんと自然の音を聴いてみることが大切です。一方向のスピーカーじゃなくて、360度いろんな方向から音を体感するんです。そうして意識を外側に向けることでニュートラルな感覚を呼び覚ましてあげる。そこから治療がスタートします。

【中浜】一度リセットして、もともとある機能を整えていくんですね。

【加藤】そうすることで、改めて、外側の状況をきちんと受け取れるようになります。

【中浜】なんだかすべてのお話がつながったような気がします。

【加藤】音を通して脳を整え、さらに心を整える。それは、自分の居場所をつくっていくようなものです。ストレスとか恐怖感で人は動けなくなります。それを上手に取り払っていく。介護福祉にとどまらず、医療の現場も同じだと思います。安心していいんだよということを一緒に共有できるかどうかが大切なのです。心の整理ができるような居場所を、きちんとした研究と裏付けによって、みなさんに提供していきたいですね。

加藤みのるさん

編集者からの一言
「音は環境なんだ」そんな言葉がとても強く印象に残っています。普段意識しない自然音で人様々な作用を受けていることや、都会の中にいると自然音から離れ、人間の動物として持っている力が弱まってしまうのだということが体感として感じることができました。 音を環境として捉え、様々な病気などがある方でも自然体でいられる環境作りが始まっているんですね。

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中浜 崇之

この記事の寄稿者

中浜 崇之

二代目編集長。介護福祉士、ケアマネジャー。2014年に世田谷デイハウスイデア北烏山を立ち上げる。2010年より「介護を文化に」をテーマに介護ラボしゅうを立ち上げ運営中。(http://kaigolabo-shuu.jimdo.com/

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