「地域包括ケアシステム」で、介護の主体は国から地域へ
「地域包括ケアシステム」をご存じですか?現在厚生労働省が中心となって進めている、日本における介護の枠組みです。ごくごく大雑把にいうと、中学校の学区くらいの規模で地域を束ねて、そこで基本的に介護を提供する仕組みを作りましょうということです。
その際には、様々な資源の活用を一体に、地域での介護・福祉を実現することが謳われています。
この仕組み自体は、今後の日本の人口動態、社会保障費のバランスを考えると不可避だと思いますし、少しでもこの仕組みの中でよいサービスを作っていくことが必要だと思います。
ただ、この枠組みの考え方に、一つ大きな疑問があります。
実際、この前の段階で厚生労働省が発表した資料では、介護保険の増加に対応するためにボランティアに現行の業務を移管することが明確に謳われていました。
国から地域へ、地域からボランティアへ丸投げ・・・?
介護保険の給付総額を抑える必要があるのはよく分かるのですが、それをボランティアに移管することでコストを抑えるというのはいかがなものでしょうか。ボランティアはそもそも「自発的」というのが語源になっている通り、提供する方の意志があって始めて成立するものです。市町村ごとにボランティアを組織するということは、市町村ごとのボランティアの集まり方次第で、提供されるサービスが決まるということです。
受けたいサービスがその地域にない、ということが起きるかも
高齢者の生活を支える根幹のサービスが、市町村ごとに大きく異なり、しかもその時その時の状況で大きく変わってしまう恐れはないでしょうか?ボランティアは、その働き方が異なるだけで、公的機関や営利団体以上の能力や取り組みを期待できるものではありません。タダ働きしてもいい人に甘えることで、本来支払うべき金銭的価値を、ボランティアの成り手に負担させているだけです。
それ自体は、本人が満足しているのであれば問題ありません。ただ、その負担に強制力がないため、全国で永続的にサービスを提供できる保障がどこにもありません。
ボランティアはあくまで不要不急のサービス、「あったらいいな」の提供を期待するものにとどめ、政府としては必要なサービスは国で用意するか、適切なサービスを公的資金を使って組織を援助する形で提供する必要があります。
逆にボランティアを推奨したり一部支援することで、不公平な競争環境の元で営利団体などが参入できなくなり、消費者にとって必要なサービスがお金を払っても得られなくなる可能性すらあります。
はたしてこれで国民の生活は守られるのか?
「地域包括ケアシステム」が、「自治体に責任を丸投げし、自治体はどこかのボランティア団体に責任を丸投げする」ものでは、社会保障制度が維持されたところで国民の生活が守られない、意味がないものになってしまうのではないでしょうか?形式上の仕組みが守られることよりも、個々人の生活を守られる為の仕組み作りを切に望みます。
私はボランティア活動について、不要不急のもののみがあるべきと考えているわけではありません。
切実な悩みを抱えており、誰からも手が差し伸べられない現状を変えようとしているボランティア活動は素晴らしいと思います。
ただ、政府や公的機関がその活動を前提とするのは間違いですし、それでは幸せな地域社会は作れない恐れがある、と考えています。
この記事は株式会社こころみのブログを元に加筆・修正しております。
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この記事の寄稿者
神山 晃男
1978年生まれ 長野県伊那市出身
慶応義塾大学法学部政治学科卒業。
コンサルティング会社を経て、アドバンテッジパートナーズにて投資ファンド業務に従事。
2013年に株式会社こころみを設立、一人暮らし高齢者向け会話型見守りサービス「つながりプラス」事業を展開。
Twitterアカウントは、@akiokamiyama