インタビュー

自閉症児の父が、新しい視点から貢献したいと思ってつくった「アインシュタイン放課後」 株式会社アイム代表 佐藤典雅さんインタビュー

川崎市宮前区にある「アインシュタイン放課後」は、アメリカ・ロスアンジェルスでの親子の実体験を活かして、発達障害の子どもをサポートする放課後デイサービス。運営する株式会社アイム代表の佐藤典雅さんに事業への想いをお聞きしました!

アインシュタイン放課後

アインシュタイン放課後とは

川崎市宮前区にある「アインシュタイン放課後」は、アメリカ・ロスアンジェルスでの親子の実体験を活かして、発達障害の子どもをサポートする放課後デイサービス。運営する株式会社アイム代表の佐藤典雅さんに事業への想いをお聞きしました!

株式会社アイム代表 佐藤典雅さん 株式会社アイム代表 佐藤典雅さん
川崎市宮前区で放課後等デイサービス「アインシュタイン放課後」を運営。自身の子どもが自閉症のためロスアンジェルスで9年間過ごす。ヤフー・ジャパンのマーケティング、東京ガールズコレクションとキットソンのプロデューサーという変わった経歴を持つ。
アイムホームページ:http://www.imhappy.jp
自閉症がっちゃんブログ:http://blog.livedoor.jp/gacchan_blog

自閉症の息子の受け皿を探した時、親として危機感を持った。

アインシュタイン放課後 【中浜】どんなきっかけでこの放課後デイサービスを始めたのですか?

【佐藤】もともとヤフー株式会社でマーケティングの仕事をしていたのですが、息子の楽音(がくと)が3歳の時に検診で自閉症と言われ、そこから妻と自閉症についてインターネットで調べるようになりました。結局その時は自閉症がなんだかよくわからなかったのですが、一つだけわかったことはアメリカのロスアンジェルスでは取り組みが進んでいるということ。そこで子どものためにアメリカに引っ越そうかと考え始めた時、ちょうど知人からロスアンジェルスで子会社を立ち上げる人を探しているという話が来ました。そこで、ヤフーから東京ガールズコレクションを手がける会社に移り、ロスアンジェルスに引っ越すことになりました。

【中浜】アメリカに行ったのは偶然だったのですね。

【佐藤】本当にタイミングのよかった奇跡的な偶然ですね。そこで子会社を作ったり、新規事業の立ち上げをしたりする仕事をしていました。それから9年が経ち息子も13歳になり、学校でも「できることはできるようになった」と言われたので、今度は子どもではなく自分のキャリアを優先しようと思って帰国しました。
帰国してからは自分の子どもの受け皿を探していろんな施設を回っていたのですが、もっと違ったアプローチの仕方があるのではないかと感じたのです。日本は自閉症に対する取り組みがアメリカと比べて30年遅れていると言われていますが、実際に自分の子どものことを考えた時に「なんとかしないといけないだろう」と、親として危機感を持ちました。
まったくこの分野のことは知りませんでしたが、もともと新規事業立案が本業です。去年の10月に本格的に自分でやろうと決めて場所探しや書類集めをし、翌年1月には行政から指定事業所として受理されました。

【中浜】かなり早いですね(笑)

【佐藤】ここはうちの子どものためだと思って頑張りました(笑)
この子の年齢に合わせて事業を拡大していきたいですね。うちの子どもの役に立つことがほかのお子さんの役にも立つと思っています。そんな親目線で事業をスタートしました。

10年前、渡米。ロスで知ったIEPとShadowの仕組み。

アインシュタイン放課後 【中浜】3歳で自閉症とわかった時、日本じゃダメだ、ロスに行こうと思ったのはどうしてですか?

【佐藤】正直、日本で自閉症の取り組みがどうなっているのかまったく知らなかった。ただ、調べると確実な受け入れや体制が確立されていないと感じました。自閉症と診断されたところでどこに行ってなにをしたらよいのかよくわかりませんでした。一方でアメリカのことを調べると自閉症の子どものための施設のホームページがたくさん出てくるんです。きっと受け皿があるだろうなと思って引っ越しましたが、実際引っ越してみてものすごくよくできていることがわかりました。
まず、学校に我が子が自閉症だと伝えるとすぐにその子のための委員会ができます。この委員会は、校長先生、担任の先生、作業療法をする人、言語セラピスト、理学療法をする人、など、だいたい5人くらいが集まっています。話し合いや観察のあと、IEPと呼ばれる分厚いレポートが作られます。IEPにはその子がどんな課題を持っていてどんなことをするべきかが全部書いてあります。 アインシュタイン放課後 【中浜】IEPはどれくらいの期間でできるのですか?

【佐藤】IEPそのものが出来上がるのにそんなに時間はかかりません。そしてこのレポートは1年に1回作られます。そこで前回の目標に対してどこまで達成できたかも書かれます。
さらに重要なのが、このレポートの中にはその子にセラピストを何時間つけられるかという予算計画が書かれています。これはレポートであると同時に、その子がどれだけのサービスを受ける権利があるかを保証する契約書でもあります。
うちの子は重いほうだったので、担任の先生とは別に1人のセラピストが専門についてくるということになりました。このセラピストはShadow(シャドウ)と呼ばれて、常にうちの子についていてくれます。

【中浜】この予算はどうなっているのですか?

【佐藤】これはすべて行政が負担してくれて、親の負担はありません。さらに放課後はセラピストが週に4回2時間ずつ家にも来てくれます。放課後デイサービスもあり、我が家の場合は週1回そちらにも行っていました。
こうした人がいてくれることによって、安心感もありましたし勉強にもなりました。セラピストはUCLA(カリフォルニア大学ロスアンジェルス校。全米でもトップクラスの大学)で心理学を学ぶ学生で、若くて勉強熱心だったのですごくいい方たちでした。

【中浜】学生にとっても自分の将来の勉強になり、親にとっても負担なく利用できる。よくできている仕組みですね。

【佐藤】実は同じ仕組みを日本で実現できないかと思い実現可能な範囲から新しい試みにチャレンジしています。息子の通っている宮前平中学校でテストケースとしてうちのスタッフをサポーターとして派遣させて頂いています。これまでは日本において、親自身が毎日学校に付き添わないといけないケースもありましたが、今後プロのスタッフが付き添えるようにという試みです。 アインシュタイン放課後

親の閉塞感をなんとかしたい。

【中浜】日本ではなぜ取り組みが遅れているのでしょうか?

【佐藤】二つあると思います。一つは今までの対応が福祉という枠組みだけの中で捉えられてきたことです。私自身は事業戦略とマーケティング畑の人間です。またパートナーの河野はオムロンで事業開発をグローバルに手がけています。二人とも福祉出身ではないのですが、だからこそ提供できる新たな視点があると思っています。今後いろいろな分野の方々に協力して頂きながら、新しい方法論に取り組んでいきたいと思っています。

【中浜】なるほど、違った目線でということですね。もう一つはなんでしょうか?

二つ目は、親が関係していると思います。すべての親御さんではないですが、中には子どもが自閉症だということを受け入れにくいとか肩身が狭いと思う人もいます。本当は社会や行政に対して親が大きな声で協力を求めることができればいいのですが。私にとって自分の子どもを表に出していくことはとても重要です。社会や自分の住んでいる地域の方々に知っていただくことで、サポーターを1人でも増やすことができる。どんな子どもであれ、隠したり恥じたり遠慮するのではなく、誇りに思っていい存在だと思います。もちろん子どもたちをなんとかしたいという想いもありますが、親の閉塞感をなんとかしていきたいという想いでこの放課後デイサービスをやっています。 アインシュタイン放課後 アインシュタイン放課後

その子の人生が充実することを一緒に模索するカリキュラム。

アインシュタイン放課後 アインシュタイン放課後 【中浜】カリキュラムには「レクリエーション」ではなく「クリエイティブ」の時間と書かれていますね。表現力が豊かな子たちが自閉症の子には多いですか?

【佐藤】普通の人が思わないアっと思うような構図や色づかいをしますよ!うちの生徒さんには多動症の子供が多いため、ずっと動き回っていて一つのことに集中するのが難しいです。しかし、粘土とかペイントとかハサミを手にすることによって、一つの作業に集中することができます。 とても重要なことなのですが、言葉の不得意なお子さんは言葉による感情表現が不得意なため、多くのストレスやフラストレーションを抱えてしまいがちです。それでクリエイティブな活動を通じて子どもたちに自己表現とコミュニケーションの手段を増やしてもらいます。そうすることによって感情的な欲求不満を抑え込むのでなく、解放してあげることも大切です。
さらに、いわゆる発達障害といわれる子どもたちは変わった個性と世界観の持ち主です。変わった個性ということは、人とは違った視点や感受性を持っているということ。ここを伸ばしてあげればほかの人にはできないことができると思っています。正直、普通の企業に勤めることはないと思いますが、本人が充実した一生を送ってほしいと親としては思っているので、彼らの人生の糧になることがらを一緒に模索していきたいです。 アインシュタイン放課後 アインシュタイン放課後 アインシュタイン放課後 【中浜】通常のデイサービス施設と違って、ITにもかなり力を入れているみたいですね?教室にあるパソコンの数に驚きました。

【佐藤】生徒用に12台あります(笑)。時々、パソコンやタブレットをやりすぎると自閉症になるといったことをいわれるのですが、逆だと思っています。パソコンをやったから自閉症になるのでなく、自閉症だからパソコンが好きなのです。IT技術の恩恵によって新しいコミュニケーション手段、知的好奇心の開拓が可能になりました。今後IT技術は生活や仕事にもっともっと入り込んできます。健常者であれ発達障害であれ、今後パソコンや電子機器を使いこなせない方が危機的かなと思っています(笑)。
うちの子に関していうと、アメリカで育ったからというのもあるのですけど言葉があまり得意ではないので、ひらがな・カタカナ・漢字を使い分けて読むのは難しい。英語ならアルファベットを覚えてつづりを羅列して検索すればほしい情報が手に入ります。だから自閉症の子には英語とパソコンはとても相性がいいなと思っていました。

【中浜】なるほど。確かに自閉症の方で人との対話はできないけれどPCのテキスト入力ならできるという方もいますね。

【佐藤】それとものごく重要なことなのですが、うちの子も含めて自閉症の子って普通に知能テスト受けると知能レベルが低いと診断されます。私たち大人が期待するような方法で反応しないので、思考力や認識力も弱いと思われがちです。でもその反対なのですよ。うちの生徒さんもみんな小さいうちから独学でお母さんよりも上手にiPhoneやiPadを使っています。そんな彼らの思考力が弱いわけがありません。彼らの思考回路が私たちと違うだけで劣っているわけではないのです。
うちの楽音(がくと)は誰も教えてないのに、パソコンで画像編集をするのですよ。ある時、彼が使っているフォルダが40GBくらいあったので驚いて見てみたら、好きな動画から好きなシーンを切り抜いて貼り付けたものに全部連番をつけて管理していた。一つのフォルダには7000枚以上の画像が入っていたのを見て目が点になりました(笑)。
こういった知的な遊びができるという選択肢が、彼らの人生の充実感に繋がればいいなと思っています。そして、パソコンを使って英語や音楽などにも繋げていければいいなと。このあたりへの重点をおいたカリキュラムを開拓していきたいと思っています。 アインシュタイン放課後 アインシュタイン放課後 アインシュタイン放課後 アインシュタイン放課後

大切なことは機転を効かせて臨機応変にやること。

アインシュタイン放課後 アインシュタイン放課後 【中浜】僕はふだん高齢者のデイサービスで介護の仕事をしていて、認知症であると何かができなくなることだと思われていると感じています。でも、認知症の人にもできることがたくさんある。自閉症もそうですよね。さきほどのお話を聞いて介護とはそんなところが似ていると感じました。できることをうまく伸ばしたり引き出したりすれば可能性は広がります。今後、仕事の仕方がどんどん変わっていくことを考えると、一般企業で働くことはなくても得意な仕事を何か任せてもらえることが増えるかもしれないと思いました。

【佐藤】そうですね。今は工場などでのおこづかい程度にしかならない手作業をする仕事が多いと感じています。そこにクリエイターやマーケターがディレクションをしてセンスのあるものを作りブランド化して出せば、もっと利益を彼らに還元することができると思っています。私はいつもいっているのですが、同じクッキーをつくるのであれば、売れないクッキーでなく鳩サブレーをつくれと。私の本業はブランドとマーケティング主体の事業戦略ですから、そうした仕組みも作っていきたいですね。

【中浜】そうした価値をどう表現して見せていくかは、今の福祉にはなかなか足りていない部分ですね。

【佐藤】このデイサービスはもちろん福祉や保育の経験のある人に運営してもらっていますが、そうした新しいプログラムを作る時には外部からクリエイターを呼び、役割分担をしながらやっていきたいです。
放課後デイサービスを始める時、いろんな人から「専門家じゃないのにできるのか」と言われました。でも、我が家もそうですが、自閉症の子はプロの家にだけ生まれてくるわけじゃないんですよね(笑)。ほとんどの発達障害の子どもは素人の家に生まれてきて、周りの家族はその子育てをしながらコツを取得していきます。プロしか扱えない子だったら全ての家庭が崩壊してしまうはずでしょ(笑)。
なんだかんだいって、子どもの一番のニーズを把握しているのは他人であるプロでなく、当事者である身内です。大切なことは機転を効かせて臨機応変にやること。既成概念や常識に縛られないことです。だって、常識を超えたところに自閉症の子どもたちはいるわけですから。
ここにいる経験のあるスタッフにも今までの経験を白紙にして新しい目線で見直すように伝えています。そして最も重要なのは、子どもにとっての良いサービスとは生徒の親との二人三脚によって生まれるものです。そんなわけで一緒に子どもの可能性を探ってくれる親御さん大歓迎です。

この子はかわいそうな子じゃない。

【中浜】最後にメッセージをお願いします。

【佐藤】私は親として自分の子どもが自閉症であることを、かわいそうだと思ったり不憫だと思ったりしたことはないのですよ。大変だなとは思いますが(笑)。まわりがこの子はかわいそうだと決めつけた瞬間、かわいそうになってしまう。でもこの子は生まれた時からそういう感性で生きているから、自分のことを不憫だと思ったことはないはずです。大変とかわいそうは決してイコールではない。差別や偏見を取り去るためにも、この子はかわいそうな子じゃないと親が胸を張っていくことが大切だと感じています。株式会社アイムとしては、「私には私の個性がある」「私は私である」、全ての人が胸を張って「I am アイアム」と言えるような場所を創っていきたいと思っています。ありがとうございました。 アインシュタイン放課後

編集者の一言
「一人ひとりの強みを個性として捉えること」それを見出すことの大切さを改めて教わった様に思います。誰もが住みやすい場所や環境・意識を整えていくことがこれからさらに求められていく上で、海外のアイデアや経験を取り入れていくことを障がいの分野でも求められているのではないでしょうか。また、他職種の強みを生かした新たなサービスや視点が福祉を変えていくのでしょう。
「I am(アイアム)」と誰もが胸を張って言える場所をみぢかに増やしていきたいと思いました。
中浜 崇之

この記事の寄稿者

中浜 崇之

二代目編集長。介護福祉士、ケアマネジャー。2014年に世田谷デイハウスイデア北烏山を立ち上げる。2010年より「介護を文化に」をテーマに介護ラボしゅうを立ち上げ運営中。(http://kaigolabo-shuu.jimdo.com/

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