小田急電鉄小田原線「鶴川」駅からバスで10分程度、畑に囲まれた場所に「緑山グランドハイツ」はあります。春には多くの桜が咲くのどかなエリアです。施設内にも数本の桜の木があり、青空をバックに美しく咲き誇る桜がとても印象的な施設です。
当施設の特徴は「生活の自由度」。介護付き有料老人ホームとしては珍しいほど、入居者様の行動に規制がなく、外出制限も設けていません。今回はそんな緑山グランドハイツが考えている施設の強みについて、施設長の及川 裕美子(おいかわ ゆみこ)さんにお伺いしました。
入居者様の「あたり前の生活」を実現したい
――本日はよろしくお願いします。先ほど建物を拝見しましたが、造りが老人ホームらしくないというか、一般的な集合住宅に近いイメージで驚きました。
建物自体はもともと日経新聞社の独身寮だったんです。その建物を開設当初から19年間使っています(※)。「玄関から出るとすぐ外」という介護付き有料老人ホームは珍しいと思いますね。ご見学に来られた方にも驚かれます。
※2022年2月から株式会社日本アメニティライフ協会が事業主体となり、それまでは株式会社Azzurroが管理をしていた。――確かにそうですね。一般的にはビジネスホテルのように屋内に居室があるイメージです。だから玄関から出ても外の景色は見られない。当施設のように外に面している居室は珍しいですよね。なぜこの造りを維持しているのでしょうか?
入居者様に「ご自宅と同じ、日常的な生活を続けていただきたい」と考えているからです。いわゆる「当たり前な生活」ですね。
私たちの住まいって、基本的には玄関の扉を開けたら外の景色が見えると思います。ただ老人ホームでは屋内生活がメインとなるので、外の景色を見ることが極端に減ってしまうんです。
多くの施設ではケガなどのリスクを避けるために、屋内に居室を設けていると思います。しかし非日常な空間にした分「それまでの生活」から離れてしまうのは確かです。すると、ストレスを感じますし、本来持っている機能が失われてしまいます。
私たちは「“当たり前な生活”をご提供したい」と考えております。だからあえて、玄関開けると外の空気がすえる環境になっています。
――なるほど。確かに長年重ねてきた生活環境を変えるのはストレスを感じますよね。「非日常によって本来持っている機能が失われてしまう」とは、具体的にどういったことでしょうか?
例えば屋内に居室があると、居室から出ても天気・気温を判断できません。こうした生活を続けるうちに気候や四季を感じる能力が失われる可能性があります。
その点、緑山グランドハイツでは毎日の生活のなかで、天気・気温を判断できます。外に面していますので、夏は暑いし冬は寒いです。また気軽に外出ができます。だから着るべき服は、きちんと入居者様ご自身で判断して選んでおられますね。
――なるほど。「外出」とありましたが、介護が必要な方でも頻繁に外出することはできるのでしょうか?
はい。当施設では認知症状のある方や介護度が重い方でも、外出は自由です。またどなたでも居室に鍵をかけて生活していただきます。家に鍵をかけるのは“当たり前”だからです。
――それは非常に珍しい取り組みですね。多くの施設では、認知症の方に外出制限がある印象です。
そうなんです。認知症状がある方は「ご病気をしている」「衰えてしまった」と思われてしまう。すると「人としての生活」とは別のカテゴリーに分けられてしまう感じがするんですよ。
当施設の居室についても「寒暖差を感じることで体調を壊してしまうのではないか」とご指摘を受けることもあります。しかし、施設に入居される前はみなさま、普通にご自宅で暮らしてこられたと思うんです。それを過度にサポートするとストレスがかかってしまうと思います。
――「お年寄りだから」とサポートすることで、入居者様の生活環境を変えてしまい、かえってストレスを掛けてしまうということですね。
はい。入居者様には高齢者としてではなく、あくまで同じ人として自然な形で毎日を過ごしていただきたい。だから当施設の食器はすべて(落としたら割れる)陶器ですし、正直なところ段差は多くあります。ゴミ捨てもご自身でおこなっていただきますし、居室には洗濯機を備えつけてご自身で洗濯していただいています。
その人らしさを発揮できる「選択肢に溢れた毎日」
――すべてご自身で日常生活をおこなっておられるんですね。
はい。「ゴミを捨てる」「段差を乗りこえる」などは、すべて「あたり前の生活」です。こうした日常動作をサポートするほど「当たり前」から離れていってしまう。すると「できないこと」が増えてしまうと思います。
またサポートをするほど「その人らしさ」も失われてしまうと思っています。
――「その人らしさ」が失われてしまうとは、どういうことでしょうか。
過度に手助けをすることで「その方の行動を制限してしまうこと」につながると思います。例えば介護付き有料老人ホームによっては「運動機能を維持するために、半ば強引にリハビリやレクリエーションに参加させる」というところもあると思います。
ただ、それは入居者様の意思ではない。あくまで「施設側の考えに入居者様を当てはめている」「管理している」ということですよね。
こうした生活を続けていくことで「入居者様の意思で決定したこと」が失われていきます。すると「自分らしさ」を発揮できず、施設の考えに縛られてしまうんです。
私たちは「入居者様の選択」を常に尊重したい。だから「レクリエーションがありますよ」という情報は伝えますが、入居者様が「参加したくない」とおっしゃるならば無理強いはしません。食事や入浴などに関しても、入居者様の選択を尊重しています。
――入居者様の意思はどのように確認されているのですか?
問答で判断することもありますし、普段の会話から入居者様の人となりを認識することもありますね。例えば「往診だけでは不安だから病院に行きたい」とおっしゃる方は、長生きしたいと考えている方だと思います。ですので食事の塩分調整などを積極的におこないます。
「長生きするより、穏やかにストレスなく余生を過ごしたい」という方には、基本的に好きな味付けで食べていただくようにしています。
ストレスのない暮らしをいちばんに重視
――ただ「過度にサポートしないこと」でリスクもあると思います。例えば2階、3階にはエレベーターのほかに階段がありますし、認知症状の方が外出をしたら転倒につながりそうなイメージもありますがいかがでしょうか?
その通りだと思います。私たちも入居時にご本人様とご家族様に「ケガなどを回避できるとは言い切れません」と念を入れてお伝えします。
――「ご自宅の延長のような暮らし」を意識しているからこそ転倒の可能性もある、ということですね。
はい。「ご自宅でも転倒は起こると思います」とお伝えしています。前提として、この考えに共感していただける方にご入居いただくことにしているんです。
老人ホームで段差をなくせば、転倒のリスクは下がるでしょう。しかしその代わり、環境の変化によってストレスを受けますし、段差を避ける能力は失われていってしまいます。私たちは「施設にあらゆる行動を管理・制限されるストレス」のほうが入居者様にとってはダメージが大きいと考えております。
実際に、54室60名定員のうち、20名弱は10年以上入居してくださっているという実績があります。長く健康に暮らしていただけるのは、ストレスがかかっていない証拠だと考えております。
またリスクはありますが、実は転倒などのケガは少ないです。私たちは、つい心配し過ぎてしまいますが、認知症の方も「外が暗かったら出歩くのは危険だ」とか「風が強い日は扉を開けないほうがいい」ということを自覚していらっしゃいます。
――過度にサポートしないことが、足腰などを鍛えることにつながり、その結果転倒のリスクが低下しているんだな、と思いました。
その通りだと思います。ちなみに当施設は3階建てですが、大浴場やダイニングは1階にあります。特にリハビリをしなくても、毎日の生活のなかで自然と足腰が鍛えられているのは事実ですね。
「わがまま」を積極的に受け入れる
介護付き有料老人ホームでは珍しくペットと一緒に入居していただけます。中庭で散歩させることも可能です。
――介護付き有料老人ホームでペット可の施設はかなり珍しいですよね。
そうですね。可能な限り入居者様のご希望を実現させていただきます。ペットを飼われている方にとって「ペットと過ごす生活」は当たり前だと思うんです。「ご自宅から施設に入って、できなくなったこと」をなくすために「わがままは積極的に言ってください」と常日頃から入居者様にお伝えしております。
悪い意味のわがままではなく「今まで自分がやってきたこと」です。例えば新型コロナウイルスがまん延する前には、自由時間に車で一緒にショピングセンターにいくこともありました。また「ほしいものがあるが、買いに行けない」場合は、お買い物の代行も可能です。
こうしたわがままを実現することで、先ほどの「自分らしさの維持」にもつながると考えております。
――では最後に緑山グランドハイツに入居を希望する方にメッセージをお願いします。
繰り返しですが、緑山グランドハイツでは「当たり前の生活」を意識しています。「これまでの生活に24時間365日介護がついてくる」と認識していただけましたら幸いです。医療的な処置を除いて、幅広いニーズを持った方にご入居いただくことができますので、お気軽にご相談ください。
この記事の寄稿者
緒方
介護のほんね編集部。認知症サポーターです。
介護を始めたての方に向けて、老人ホームや認知症に関する知っておきたい情報を、誰もが分かる簡単な言葉でご紹介します。