寄稿

超高齢社会のなか高齢者住宅業界の再編は進む? 気になる現状と今後の展望は?

KPMGヘルスケアジャパンの松田淳代表取締役・ パートナーによるセミナー「業界再編が進む高齢者住宅業界の現状と展望」をレポート。介護事業者のM&Aや病床の減少などの動きがあるなか、今後の高齢者住宅はどうなるのでしょうか? 注目すべき点をご紹介します。

高齢者住宅業界の展望

高齢者住宅新聞社主催「住まい×介護×医療サミット」に参加しました。医療・ヘルスケア関連産業の戦略立案などをしているKPMGヘルスケアジャパンの松田淳代表取締役・ パートナー「業界再編が進む高齢者住宅業界の現状と展望 病院業界の状況を交えて」と題したセミナーを開催。高齢者住宅について、介護・医療業界の動向を踏まえて解説されました。

介護に関わる方が気になる業界の展望について、データを交えてレポートします。

日本の高齢者住宅業界を取り巻く現状とは

日本で高齢化が進んでいることは、言わずと知れた周知の事実です。要介護者向けの施設の平均年齢は85歳といわれます。85歳の人口は2060年までずっと増加傾向にあるのです。

さらに松田氏は死亡者数の予測にも注目しています。厚生労働省の推計では、2015年から2039年の間に死亡者数は約40万人も増加する見込みです。

これらのデータから、介護が必要な高齢者や終末期を迎える方が増えていくことが確実視されています。このような現状で、高齢者の住宅に関係が深い介護業界や医療業界はどのように変化していくのでしょうか。

介護業界の成長スピードは低下傾向

「介護の需要は高まる一方で、介護業界としての市場規模の成長スピードは低下する傾向にある」と松田氏は話します。背景にあるのは人材確保の難しさ建築費の高騰です。

KPMGヘルスケアジャパンのデータによると、特に月額費用が20万円以下の低価格帯の施設は成長率が低下しています。反対に月額50万円以上の高価格帯の施設は、市場規模も拡大傾向です。運営事業者としても数多くの施設を出店できないなか、エリアやターゲットを絞って展開する流れがあるといいます。

また高齢者住宅の需要に対する供給率は、全体としてはやや上昇しています。しかし実際は、サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームの拡大による影響が大きいのです。要介護者向けの施設だけに着目すると、供給率もやや減少しています。

運営事業者の新規参入も減少、大手の買収事例も

介護業界は、1~2施設のみを運営する小規模の事業者が多いことが特徴です。新規参入も多いことで知られていましたが、最近では大幅に減少しているといいます。

人手不足の影響はもちろん、既存の事業者による運営ノウハウの高度化、介護報酬制度の難易度の向上など、新規参入に対するハードルも上がってきているそうです。

このような時流の変化を受け、業界内でのM&Aの案件数も増加しています。例えば東京建物株式会社の傘下にあった「東京建物シニアライフサポート」は、2020年12月1日よりSOMPOケア株式会社に譲渡されることが決定しているのです。大手といわれる事業者の間でもM&Aが進んでいることは、注目すべきでしょう。

医療業界にも大きな再編の波が

一方の医療業界では、病床の数を縮小する動きが広まっています。日本は人口に対する病床数が多いことが指摘されているのです。

病床が減れば、これまで療養目的で入院していた方などは、病院以外の施設や自宅で受け入れる必要が高まります。そのため介護施設の需要がさらに高まることも予測されますし、医療業界から介護業界に進出する流れも生じるでしょう。

しかし、介護業界からは安易に医療業界に参入できません。資格などのハードルが高いためです。そこで介護業界としてはどのように医療機関と協力するのか、はたまた競合するのかが課題になると見込まれます。

これからは「サービス品質の向上」がポイント

このように、介護・医療業界は今後より一層の再編が進む見込みです。特に介護分野に関しては、運営事業者によって拡大か撤退かの二分化が進むと松田氏は話します。

高齢人口が増加するため、介護は都市の重要な機能として位置づけられるようになるでしょう。事業者が事業を拡大するためには「サービス品質の向上」がカギです。

昨今では地域包括ケアとして、施設サービスや居宅サービスを幅広く展開する事業者も増えています。同じ事業者による総合的な事業展開で情報共有や連携を期待する声が多い一方で、実際には多くの方が「連携が取れていない」と感じているというアンケート結果もあります。

総合的なサービスを提供することが本当に効果的なのか、また医療業界とはどのように連携するのかなど、事業者は重大な判断を迫られているといいます。

また現状では「事業者の質」よりも、責任者や担当者といった「個人レベル」で評価される傾向も顕著です。「どのような事業者か」よりも「どのような責任者か」「担当者を知っているか」などで判断されるケースがあります。

事業者としては、自社のサービス範囲の検討個人レベルではないマネジメントも含めて、事業全体のサービス品質を向上することが求められるのです。

業界の動向に今後も注目

介護のほんねには日々、介護施設探しのさまざまなご相談が寄せられます。なかでも「病院から退院を迫られていて急いでいる」という方は多いものです。病床が減少することを踏まえると、退院を迫られるケースはより一層増えるでしょう。

国としても、これまでの療養型病床の受け皿となるよう「介護医療院」を新設するなどの対策を進めています。介護医療院の数は2019年12月31日時点で301施設でしたが、2020年6月30日時点では515施設と増加傾向です。既存の介護施設以外の新しい選択肢として、存在感を増してくるかもしれません。

※参考:厚生労働省老健局老人保健課「介護医療院の開設状況について(令和2年8月17日)

一方で松田氏のセミナーにもあったように、個人レベルの評価が施設の評価につながっているケースも数多く見受けられます。「施設長をよく知っているから」「担当者さんの評判がいいから」という理由で施設を選ばれる方も多いのが現状です。

今後、事業者としての価値を重視してサービス品質を向上する流れが生じれば、介護施設の選び方や人気度も大きく変わる可能性があります。

政策の方向性や事業者の判断など、業界の動向にはあらゆる要因が影響します。今、介護に関わっている方はもちろん、近い将来に介護をするかもしれない方も、介護業界の動向に注目してみてはいかがでしょうか。

【専門家監修】介護施設・老人ホームとは|厚生労働省の定義・種類・費用・選び方など
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【専門家監修】介護医療院とは|施設・人員基準などをわかりやすく解説
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シニア向け分譲マンションとは|はじめに知っておきたい基本情報を紹介
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宮本

この記事の寄稿者

宮本

介護のほんねニュース編集部。
話題のニュースから介護関連キーワードまで、気になるトピックについて解説します。認知症サポーターです。

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