11月9日~13日に開催している株式会社高齢者住宅新聞社主催の「住まい×介護×医療サミット」に参加しました。医療法人社団悠翔会の佐々木淳理事長が「認知症と地域包括ケアシステム・地域共生社会」と題したセミナーを開催。「本当に効果がある認知症ケアとは」という観点で、セミナーの内容を抜粋して紹介します。
全国で462万人もいる認知症高齢者
認知症とは脳の老化による症状そのものを指します。高齢化とともに増えているのが実状であり、2013年時点で全国に462万人もいます。90歳以上になると60%以上が認知症を患っており「『認知症』は大多数の人を指す言葉になり、もはや病気ではない」という考え方も広まっています。
認知症について知りたい方はぜひ以下の記事も参考になさってください。
【専門家が監修】認知症とは|症状・予防法・検査方法などを解説
認知症の介護で最も大変なのは本人である
認知症の介護は大変だといわれます。しかし最も大変なのは他ならぬ本人です。認知症では数々の問題行動が起こるとされていますが、それらは実は合理的だといわれるほどです。
弄便だって、便が皮膚に付いてしまい気持ちが悪いからこそ、起こしてしまう行動です。つまり介護者が認知症の方を差別したり怒ったり、行動を強いたりするから、本人は逃避、防御、攻撃、などの行動を取るのです。
介護者としては「行動だけをみて評価してしまう」のではなく「その行動が起こった原因について探ること」が大事になります。
また認知症の方は周囲の感情や表情に非常に敏感であり、精神感覚は逆に研ぎ澄まされています。なので、一度ネガティブな存在が刷り込まれると、もとに戻すことは難しいのです。そういった意味でもネガティブな存在にならないように気をつけなければいけません。
認知症は治療できない?
ここからお話は認知症の治療におよびました。基本的に完治が難しいといわれている認知症。しかし佐々木先生は治療によって改善できる認知症もあるといいます。
他の病気が認知機能を低下させていないか
うつや甲状腺機能低下症などの他の病気が認知症の症状を引き起こしているケースがあり、その場合は根本の原因となる病気を治療することで軽減できます。
お薬が影響していないか
お薬の副作用による認知機能低下も多いといいます。お薬が認知機能に影響をもたらしている場合もあるので、日常的に服薬している方は医師に相談してみましょう。
日本で人気の抗認知症薬は効果があるのか
抗認知症薬はさまざまあります。なかでも日本で人気が高いのがアリセプト(一般名:ドネペジル塩酸塩錠)です。しかし世界ではあまり人気がありません。ただ、試験データを見るとアリセプトは服薬し始めてから約3年間は効果を発揮していることが分かります。
ただし、30カ月目以降は飲んでいる人と飲んでない人でほとんど差がないことが分かっているのも特徴です。つまり長期的なアリセプトの服薬ではなかなか症状が緩和されない可能性もあります。
最も治療に効果があるのは笑顔であり生きがい!
39歳で若年性認知症を発症した丹野智文さんを例に、佐々木さんは「笑顔が認知症の治療」になりうるといいました。
「丹野さんは、6年前から認知症の進行が感じられない。発症してからこんなにお元気な方はなかなかいない。そんな丹野さんの認知症治療はポジティブでいつも『笑顔』であることではないのか。」といいます。
丹野さんはまさに『笑顔で生きる -認知症とともに-』という書籍を出されている方です。このポジティブさこそが認知症の症状緩和に繋がっているのではないか、といいます。
キーワードは「生きがい」
海外のアルツハイマー型認知症の研究によると「生きがい(人生の目的)」の有無によって認知症の進み方がまったく違うことが分かっています。生きがいがある人は認知症の進行が緩やかになるわけです。
そのうえで佐々木先生は「生きがいは自分のなかではなくコミュニティのなかにある」といいます。生きがいを守れるようなコミュニティ形成こそが「認知症のケアの本来のかたち」とおっしゃるわけです。
どんなケアが生きがいを生み出すのか
例として佐々木先生は「江ノ島のようかん屋さんで働いていたトヨさん」のお話をされました。彼女は認知症であり、普段は小規模多機能型居宅介護に通っています。元気なときは施設であんこを煮てようかんを作っているのです。そのようかんは「トヨさんのようかん」として地域のカフェ「亀井野珈琲」で販売されています。結果「トヨばあちゃんにしか作れない味」として地域の方から愛されています。
彼女を「認知症を患ったおばあちゃん」としてしまうのではなく「ようかんづくりの名人」として見ることが認知症ケアの本来のかたちです。できないことではなく、できることにフォーカスすることで、その方の強みを発揮できる環境が構築されます。またそれが生きがいにも変わってくるのです。
このように「新しい役目」を地域で創出することがケアにとって重要になります。
独居ではなく「人とのつながり」
認知症のケアのお話になると、老人の独居問題が取り沙汰されますが、独居でも地域に友達がいれば問題ありません。むしろ施設で孤立してしまうほうが問題です。独居ではなく「孤立」であることのほうが認知症にとっては悪影響になってしまいます。
1人で食事をすることを「孤食」といいます。男性の孤食の場合、死亡率が18%も大きくなることも分かっているのです。地域に対する自分の役割を理解して、生きがいに思ってもらう。そして人とのつながりを維持してもらうことが認知症のケアにつながるのです。
佐々木先生は最後に「どんなに丁寧なケアよりも、人とのつながり、人間関係が大切です」という言葉でセミナーを締めくくられました。
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この記事の寄稿者
緒方
介護のほんね編集部。認知症サポーターです。
介護を始めたての方に向けて、老人ホームや認知症に関する知っておきたい情報を、誰もが分かる簡単な言葉でご紹介します。