【2020年】介護離職ゼロとは? 2015年からの取り組み・菅内閣の課題などを徹底解説

2020.10.21
介護離職のイメージ

現在、日本は超高齢社会に突入しています。2020年現在で65歳以上人口は3,617万人。総人口に占める高齢者の割合(高齢化率)は28.7%と実に4人に1人以上が65歳です。これは世界1位の数値であり、高齢化によってあらゆる問題が引き起こされています。

参考:総務省「統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-

特に高齢化に伴う大きな問題が「介護離職」です。国内で見ても優先度の高い課題であり、2015年の安倍内閣のころから現在まで、続けて国家施策が取られてきました。

今回は介護離職について「どのような問題か」「最新の介護離職率はどのくらいか」「政府の介護離職ゼロ施策とは何か」など気になることを解説します

そもそも介護離職とは

介護離職とは簡単にいうと「介護のために退職を余儀なくされること」です。特に在宅介護の場合は日中の間、ずっと自宅にて要介護の方を見守らなければいけません。外部サービスを使うとしても、フルタイムでの勤務が難しくなってしまいます。すると会社を辞めざるを得ない状況になってしまうのです。

介護が必要になるのは主に75歳以上の高齢の方々になります。つまり介護離職をするのはその子ども世代である40代後半~50代。課長や部長など、会社にとっては重要なポジションについている場合も多いのが特徴です。

そのため、介護離職は介護や看護の分野はもちろん、人事分野においても注目されている用語です。会社やプロジェクトの核となる人が退職してしまうのは大きな損害になります。会社としては今後も増えていくであろう介護離職に備えることを考えなければいけません。

2020年最新版の介護離職率を紹介

介護離職はいざ自分が経験しないと実感が湧かないかもしれません。しかし年間で10万人近い方々が介護のために離職を余儀なくされています。

最新の介護離職率は?

2020年10月現在で分かっている最新のデータは2017年に総務省統計局がリサーチした「平成 29 年就業構造基本調査」に掲載されています。この調査によると、2016年10月~2017年9月の段階で介護離職をした人の人数は9万9,000人です。

10万人ほどの方々が介護・看護のために離職をしているのが日本の現状になります。

では推移をグラフで確認してみましょう.

介護離職の推移

引用:厚生労働省「雇用動向調査

2007年は介護離職者数が14万4,800人で、介護離職率は2.2%を記録していました。5年後の2012年までに大幅に改善し10万1,100人まで数値は減少。介護離職率も0.5%下がっています。2016年には2万人近くも減少しましたが、最新のデータである2017年では9.9万人ともとに戻っています。

2015~2016年に減少した理由としては、安倍首相が進めた「アベノミクス」での施策が関係しています。そして安倍首相が退任した後も、菅首相は介護離職者数を減らすための施策を引き続き進める方針を明言していることにも注目です。

政府が介護離職を防止するために進める「介護離職ゼロ」の施策

では具体的に政府はどのような施策を進めているのでしょうか。アベノミクスの時代から2020年までを時代に沿って解説しましょう。

2015年から安倍首相が介護離職の防止に乗り出す

2015年、安倍政権は「一億総活躍社会の実現」のために「新・3本の矢」として「希望を生み出す強い経済」「夢を紡ぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」の3つを打ち出しました。

このうち「安心につながる社会保障」の具体策として打ち出されたのが「介護離職ゼロ」です。当時、政府の主要政策として高齢者介護が取り沙汰されたのは初めてのこと。具体的にどのような取り組みをするのか、注目が集まりました。

「新・3本の矢」の「安心につながる社会保障」で特別養護老人ホームが増加

介護離職者の数を減らすためには在宅介護から施設介護に促す必要があります。前述した通り、在宅介護のほうが介護担当者の負担が大きいからです。施設に介護を任せることで、自身で介護をする時間はほとんどゼロになります。

施設介護ができない理由として大きいのが入居費用の問題です。老人ホームに入りたくても、年金受給額だけでは入れない高齢者の方もたくさんいます。そこで、政府は介護保険を使って入居できる特別養護老人ホームの数を増やす方針を打ち出しました。

特別養護老人ホームは他の施設に比べて非常にリーズナブルな自己負担額で入居できるのが特徴です。特別養護老人ホームの施設数は2013年に6,754カ所でした。2016年には7,705カ所まで増加。定員は4万1,621人も増えました。

また2015年には、入居条件が要介護1から要介護3に引き上げられました。より入居のハードルが高くなったことで、介護の必要性が高い在宅介護の方が優先的に特別養護老人ホームに入居できるようになったのです。

参考:内閣府「安倍内閣の経済財政政策

特別養護老人ホームの数は増えたものの、介護人材が不足

ただし、同時に介護の現場からは非難の声が上がりました。施設数を増やすのは確かに大事なことですが、それ以前に介護職員の数が不足していたからです。

厚生労働省は「総合的な確保方策」の主要施策を打ち出し、介護人材の増加施策に乗り出します。介護職員のキャリアパスを築く、人材の専門性を生かす「ジョブ型雇用」を促進するなど、3K(きつい・汚い・危険)といわれマイナスイメージが定着していた介護職を魅力的な職業に変えるようなプランでした。しかし結果的にいうと、必要な介護人材はいまだに供給されていません。

2015年の6月に厚生労働省は2025年に向けた介護人材の需給を算出しました。

2025年度までに必要な介護人材は253万人です。しかし供給見込みは215万2,000人と37万7,000人も不足するという予測を立てています。

しかもそれでも特別養護老人ホームは足りていない

また介護人材が不足しているとともに、特別養護老人ホームの数もまだまだ足りていません。

2016年には特別養護老人ホームの入居待機者は12万人を越え、2019年4月には29万人を越えました。民間企業が特養を自由に開設できるアイディアなども打ち出されましたが、まだ実現していません。

2019年に一転、在宅介護者を増やす施策に転換

介護職員や特別養護老人ホームの不足を踏まえて、政府は一転、在宅介護を推進する施策に転換しました。介護職員がなかなか増えない結果、介護施設数も連動して不足する事態に陥ってしまったのがその要因です。また医療費が増大してしまうこと、さらに病床数が足りなくなることから、自宅での看取りを推奨するようになりました。

現在、在宅死率は12.9%ですが、政府は2038年までに3倍の40%まで引き上げる方針を打ち出しています。

「介護離職ゼロ」と「在宅介護の推奨」を成立させるための施策

しかし在宅介護を進めると介護離職率は高まることが予想されます。前述したとおり、在宅介護の場合は要介護者につきっきりで対応しなければならず、出社できないからです。

現状の在宅介護のうち54.6%が「老老介護」といわれています。老老介護とは定年後の65歳以上の高齢者同士が在宅介護をすることです。確かに定年後であれば介護離職は起こりえません。それでも現役で企業に勤めている方もたくさんいらっしゃいます。在宅介護を増やすと、どうしても介護離職は増えるでしょう。

ただし政府は離職せずに在宅介護をするための施策も推進してきました。

2015年からは「中小企業のための育児・介護支援プラン導入支援事業」をスタート。当事者ではなく、雇い主に向けて会社の事業を見直す施策を進めています。無料で会社の制度を見直してより介護と仕事の両立をしやすくなるように支援してくれる制度です。

また2017年に育児・介護休業法を改正。介護休業は93日間の休みを取得できる制度です。これまでは一度しか取得できませんでした。しかし改正後は合計3度まで取得が可能になり、より柔軟に介護休業を申請することが可能になったのです。

また政府は2018年の4月に介護保険制度を見直すタイミングで「介護医療院」を創設。「看取りまで長期的に入居する」という目的があります。また同時に介護老人保健施設と同じく、施設にて医療的なケアをした後に要介護のレベルを下げてから在宅復帰を促すという役割もあります。自立までは回復しないものの、要介護度が改善されることで、介護の負担を軽くできます。介護離職率の低下と在宅介護率の上昇の両方に貢献するものです。

しかしまだ数が少なく、介護離職に歯止めを掛ける政策とはいえません。どちらにせよ、介護従事者を先に確保しなければ、介護医療院の数も増やしようがないといえます。

さらに2021年からは育児・介護休業法の改正が進みます。介護休暇を時間単位で取得できるようになるのです。介護休暇は最大で5日間の休暇を取得できる制度になります。これまでは1日単位でしか取得できませんでしたが、今後は1時間単位で会社を休めます。

これまでの行政の施策をまとめると以下のような図になります。

介護離職対策の推移

これらの動きを見ても分かる通り、在宅介護の増加に舵を切りました。しかし介護離職と在宅介護とは親和性が高いことは確かでしょう。

例えば介護施設に入居する場合は介護離職のリスクがあるのは、入居までの期間です。なかなか施設が決まらない場合は、会社を休む必要があり、介護休業や介護休暇を知らなければ退職も視野に入ってしまいます。

在宅介護をする場合は、介護対象の家族によっては1日中つきっきりで面倒を見なければいけません。デイケアやデイサービスなどの介護保険サービスを活用すれば、仕事をする時間を確保できます。しかし経済的に余裕がないと、介護保険サービスを満足に使えず、仕事をする時間がなくなってしまうのです。

安倍政権時代は図にまとめたとおり、介護従事者を増やしたり、特別養護老人ホームを増設したり、また介護医療院という医療的なケアに厚い施設を作ったりと、施策を打ちました。しかし結果的には改善していません。

では菅内閣に残された課題とは何なのでしょうか。

菅内閣はアベノミクスを引き継ぐことを明言

菅内閣は10月2日に、介護離職防止の政策を引き継ぐことの答弁書を閣議決定しました。施策については「現在、介護の受け皿の整備、介護人材の確保、仕事と介護の両立支援など総合的な対策に取り組んでいる」と明言し、具体的な施策は打ち出していません。

では「介護の受け皿の整備」「介護人材の確保」「仕事と介護の両立支援」の3つのカテゴリに分けて、介護離職に歯止めをかけるために考えられる施策を書き出してみましょう。

介護の受け皿の整備

公的な老人ホームの増設

最初に安倍政権がチャレンジした特別養護老人ホームの増設は、単純に低価格で暮らせる施設ができることで、在宅介護の方々を減らすことにつながります。そのためには先述したとおり、介護従事者の数を増やすことが前提条件です。

民間と協力しての老人ホームの増設

老人ホームの設立のスピードでいえば、民間のほうが早く進みます。また行政の視点で見ると、設立費用を負担しなくて済むのも確かです。より前向きかつスピード感をもって進められるでしょう。

介護人材の確保

介護従事者への待遇のアップ

アベノミクス時代に特別養護老人ホームの増設が失敗に終わった理由は、ひとえに介護従事者の数が足りなかったことです。つまり介護従事者の数を増やすことで、介護施設の数も増えていきます。そのためにはまず、介護の業界で「働きたい」と思わせなければいけません。魅力的な業界に変えることで離職者を減らし、就職者を増やすことにつながります。

海外の介護人材の雇用

また厚生労働省はインドネシアやフィリピン、ベトナムといった海外の介護技能者の雇用を進めてきました。アジア諸国は自国の人材に日本の国家資格を取得してほしいと考えており、日本政府は海外の人材を集めたいと思っています。win-winの関係が成り立っているわけです。今後は「海外人材を雇用する方法の周知」「海外に向けた日本の介護のブランディング戦略」などを進める必要があります。

仕事と介護の両立支援

企業単位での働き方の見直し

「働き方改革」という言葉が流行したとおり、現在では従来の勤務体系に囚われない働き方がだんだんと普通になりつつあります。各企業が介護と仕事を両立できるような働き方を整備することが効果的でしょう。政府でも企業の働き方を見直しており、期待が高まっています。

介護保険サービスの利用ハードルを下げる

介護離職の大きな要因は「仕事と介護の両立を実現するための時間が足りないこと」です。

2021年の元日から介護休暇を時間単位で取得できるようになります。またデイサービスやデイケアなどの介護保険サービスを利用することで、介護離職の原因となる時間不足問題を改善できることでしょう。特に介護従事者が足りない現在では在宅介護が増えていくことが予想されます。介護保険サービスの利用をサポートする施策を取ることで、より介護離職は減っていくはずです。

今後の菅内閣の政策に注目

今回はアベノミクスからスタートした行政主導での介護離職防止施策について解説しました。菅内閣は今後、安倍内閣が成し遂げられなかった介護離職ゼロをどうやって遂行するのでしょうか。介護人材や介護施設、介護保険制度の改正など、まだまだメスを入れるべき部分はたくさんあります。2025年問題が迫る現在「介護離職ゼロ」という今後の施策に注目です。

介護のほんねでは企業の人事か・総務の方に向けて「介護離職防止サービス」をスタートしました。長年、介護と関わってき介護のほんねならでは施策で企業の介護離職防止に貢献します。詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

2025年問題突入まであと5年!人事・総務担当者が対策すべき「介護離職」とは
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寄稿者

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緒方 優樹

介護のほんね編集部。認知症サポーターです。
介護を始めたての方に向けて、老人ホームや認知症に関する知っておきたい情報を、誰もが分かる簡単な言葉でご紹介します。

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