介護施設の「おやつの悩み」・・・
みなさんの介護施設では「おやつ」の準備に困っていませんか?今回は高齢者施設向けのおやつ定期お届けサービス「たびスル」を立ち上げたスターフェスティバル株式会社の吉田裕紀さんにインタビューしました。
企業向け宅配弁当のベンチャーが介護施設に提案する新たなサービスとは
【中浜】自己紹介をお願いします。
【吉田】スターフェスティバル株式会社で「たびスル」事業の責任者をしております、吉田裕紀と申します。
【中浜】よろしくお願いします。スターフェスティバルさんはどのような会社なんですか?
【吉田】元々のメイン事業は、お弁当のデリバリーサービスを展開している会社です。「ごちクル」(https://gochikuru.com/)と「シャショクル」(https://shashokuru.com/)という2つのサービスがメイン。「ごちクル」は、全国の法人・団体様向けに定番のお弁当をはじめ、全国各地の有名店のお弁当などをお届けするサービスです。
【中浜】全国のお弁当がネットで注文できるんですね。
【吉田】はい。7000種類を超える商品数が強みです。500円くらいのお弁当から、数千円もする接待でも使えるようなお弁当まで幅広く取りそろえています。
【中浜】社内の会議や研修、歓送迎会などのイベントにうれしいサービスですね。もうひとつの「シャショクル」はどういうサービスなんですか?
【吉田】「シャショクル」は企業で働く方のために、デリバリー型社員食堂として、オフィス内で一定時間だけ毎日日替わりでお弁当を販売するサービスです。お昼ごはんを食べに行く時間がなかなか取れない、エレベーターが混雑していて外に食べに行くのが大変という従業員の方の悩みを解決するのが目的です。
「お菓子は運べないの?」― 現場の声から浮かび上がった「おやつの悩み」
【中浜】そんなオフィス向けのお弁当デリバリーをされているスターフェスティバルさんは、高齢者に向けた「たびスル」というサービスもされているんですよね。今回はそのお話を詳しく聞きたいと思います。
【吉田】「たびスル」はデイサービス、グループホームなど、高齢者施設様向けに「おやつ」を定期宅配するサービスです。さまざまな種類、全国の銘菓を、施設の状況にあわせて柔軟に設定し、箱に詰めて定期的にお送りします。実は、高齢者施設で働くスタッフの方々は毎日たくさんの業務があり、忙しく働いています。その中の1つに「おやつ」の手配があり、現場では困っている人が多かった。その部分の手間を「たびスル」を利用することで省くことができるのです。
「たびスル」は、予算・人数・日数という3つの条件をもとに、各施設様に最適なメニューを組ませていただきます。施設様ごとの条件にきめ細やかに合わせ、定期的に「おやつ」をお届けするサービスなので、一度注文していただくと、その後は施設側での発注作業などは一切不要になります。さまざまな種類のおやつが食べられるようになることで、人手不足などに悩む施設で働くスタッフ様の負担軽減になることはもちろん、おやつを食べる方々の満足度向上にもなり、お役に立てるサービスになっています。
【中浜】僕はデイサービスをやっていますが、おやつの宅配っていままで聞いたことがありませんでした。よくこんなサービスが出てきたなぁ、と。どうやって思いついたのですか?
【吉田】もともと私自身も、会社のメイン事業であるお弁当事業に携わっていて、お弁当を提供していただく飲食店様の開拓とお弁当をご注文してくださるお客様の開拓、その2つの営業活動を行っていました。2014年の夏ごろから高齢者施設様にもアプローチするようになり、特にデイサービスやグループホームで、何かお弁当や食材の発注でご提案できるかもしれないと見込み、お弁当サービスのご提案をきっかけにしていろいろお話しさせていただいていたんです。
【中浜】確かにお弁当の需要はあるかもしれませんね。
【吉田】ただ、お弁当についてはことごとく断られてしまったんです。
【中浜】どうしてでしょうか?
【吉田】予算の問題もあったんですが、そもそも高齢者向けのお弁当には、飲み込みやすさやカロリーなど健康面で必要とされる条件がたくさんあり、ビジネスシーン向けのお弁当を得意とする弊社のお弁当はそのままではマッチしなかったんです。
【中浜】なるほど。高齢者の方の食事には形や柔らかさなど特別な配慮が必要ですからね。
【吉田】そんなとき、とある会社さんから「お菓子って運べない?」というご要望があったんです。そのときは「検討します」と言いましたが、正直、お菓子は単価が低くて難しいなぁ、としか思っていませんでした。しばらくして、とある大手の福祉サービスをされている会社の方とお話しする機会がありました。やはりお弁当は無理そうだという流れになったとき、ふとお菓子の話を思い出したんです。それで「おやつって普段どうされているんですか?」と聞いてみました。すると、手作りしている施設があったり、スタッフが買いに行っている施設があったり、業者に頼んでいる施設があったり、同じ会社の施設でも手配がばらばらであることが分かりました。さらに、手間もかかるし、予算管理も複雑だし、近所のスーパーでは種類も限られているし、「すごく大変なんだ」という声が上がったんですよ。そのとき、おやつに関して、大手の会社さんでも標準化できていなくて、みなさん課題意識を持たれているんだなということが浮き彫りになったんです。
【中浜】おやつの悩みってすごくわかるなぁ。買いに行かなきゃいけない手間もそうだし、予算も少ないし、やっぱり似たようなものになっちゃうんですよね。
【吉田】そうみたいなんです。どうやら、比較的たくさんの人が“おやつで困っていそうだ”というのが見えてきました。それで、ヒアリングしたことなどを元に、高齢者施設向けのおやつ定期宅配サービスについての事業計画書をつくり、社長に提案したんです。結果、この事業が承認され、自分がサービスの責任者として事業を立ち上げることになりました。2015年4月に準備をスタート、8月にサービスを開始し、今では事業部のメンバーも増え、サービスを拡充中です。
全国の銘菓で思い出のあの場所へ「たびスル」 5000種類をラインアップ
【中浜】サービス名の「たびスル」っていうのは、お菓子とはあんまりかかってないと思うのですが、これは?
【吉田】「たびスル」という名前はサービスを始める前に決めました。おやつお届けサービスを始めるなら、単におやつが届いて便利、というだけではなく、おやつを食べる人が本当に満足していただけるような強みをしっかり作らないといけないと考えたんです。施設で一日過ごされている高齢者の方々にとって、おやつは喜びの大きい大切な時間ですから、毎回似たようなお菓子ではなく、全国各地のいろんな銘菓で「旅」の気分を味わってほしいなと思ったんです。昔のことを思い出したり、行ってみたかった場所を想像したり、単に美味しいという喜びだけでなく、考える喜び、思い出す、さまざまな場所へ想いを馳せるような喜びを一緒に味わってほしい。だから、「旅をする」で「たびスル」というサービス名にさせていただいたんです。
【中浜】普通にどこのスーパーでも売られているお菓子ではなく、全国各地の銘菓が届くのが魅力なんですね。
【吉田】そうですね。ただ、銘菓だけになってしまうとそれはそれで飽きてしまうので、定番商品もご用意しています。銘菓も楽しんでいただきながら、せんべいやドーナツ、ゼリーなどの定番商品も取り入れ、毎日飽きないおやつの時間を提供できるようにしています。
【中浜】お弁当と同じく、お菓子の商品数もすごいんですか?
【吉田】はい!約5000種類をそろえています。
【中浜】ほんとすごいですね。選ぶのも大変なんじゃないですか?
【吉田】大変なのは、高齢者の方にとってどういうお菓子がよくて、どういうお菓子がだめなのか、という判断です。最初のうちはわからないことも多くて、ご意見をいろいろお伺いして、勉強させていただくのみでした。たとえば、もなかは、最初の僕の感覚では問題なさそうだと思ったのですが、ご利用者様の上あごにくっついてしまうなどの現場でしかわからない問題点があって、NGが出たこともありました。そういったお声をいただきながら、どんどん情報を蓄積して、商品を選んでいます。
1250施設に拡大!リピート率96%の理由は「5円単位の柔軟さ」
【中浜】高齢者施設などへのサービス導入は順調ですか?
【吉田】おかげさまで現在、約1250施設の皆様にたびスルをご利用いただいております。多いのはデイサービスなどの通所介護で約60%です。続いてグループホームが約15%。あとは、有料老人ホームや特別養護老人ホーム、ショートステイ、サービス付き高齢者向け住宅など、本当にいろんな施設様がいらっしゃいます。
【中浜】デイサービスのような通いの施設だと毎日、必要な数が変わっていきますよね。実際にどういう形で注文するんですか。
【吉田】施設様からいただいた人数、ご予算でメニューを組ませていただいて、基本的に2週間に一度のペースでお届けしております。
【中浜】1回で2週間分が届くんですね。
【吉田】ただ、条件がその都度変わってくることは想定しています。人数の変動があったりイベントがあったりして、来週は何人分減らしたいとか1週間分だけ休みたいとか、いろんな要望が出てくるわけですが、そこはかなり臨機応変に対応させていただいています。あとは、ここの施設ではおせんべい系をいっぱい出したいけど、ここの施設ではおせんべい系はNGにしてほしい、というジャンルの要望も当然出てきます。そこも、施設ごとの条件にあわせたメニューを組みます。ですので、お届けを重ねていくにつれてどんどんその施設様に最適にカスタマイズされていきます。また、特別なイベント用でご利用いただく場合もあったり、お客様のご利用用途は様々です。
【中浜】すごいですね。大変じゃないですか、いろいろと。
【吉田】どちらかといえば大変です(笑)。ただ、半年くらい前に、この柔軟な対応をやる意味があるなって確信が持てたんです。 やり始めてから1年くらいは、認知度も低くなかなか導入施設数も増えませんでした。そこで、現場からのお声を存分に取り入れて2年目に入るタイミングで全国への周知に力を入れ始めました。すると、一気にお問い合わせが増えて、1000施設を超えてきたんです。そのとき、私どものサービスで皆様に喜んでいただけているということを確信しました。数字としてはリピート率をひとつの指標にしており、現在では約96%にまで上昇しました。一度ご契約いただくと、皆さん便利だと感じてくださっているようで、基本的にほとんどの方が継続してくださいます。ですから、大変なところは企業努力でなんとかして、あとはより皆様に喜んでいただけるように徹底して対応していこうと思っています。
【中浜】柔軟な対応というと、予算面ではどうでしょうか?施設によって予算は一人あたり1日50円や100円など、おやつの予算はばらばらですよね。
【吉田】一人あたりの1日予算というのは平均50円〜100円くらいが多いのですが、施設によってバラバラです。原則では10円単位で調整しますが、施設様側からご要望がある場合は1円単位でも組まさせていただきます。
【中浜】1円単位!? すごいっすね。
【吉田】お菓子はあまり高価なものではないので、実は5円違うだけでも内容が変わってくるんですよ。予算があと5円あれば入れられるという商品が出てきます。そのあたりは、施設様と最初にお話しするときに、施設のご利用者様からどのくらいお金を徴収していて、そのなかでおやつの予算はどのくらいかという部分をしっかりお伺いして、もし少しでも余裕があるようでしたら、「もうちょっと上げられませんか。そうするとこんなお菓子も入れられるんですよ」とご提案させていただいております。
【中浜】施設の立場からすると、本当にありがたい対応をしてもらえるんですね。利用者さんはこれまで食べたことのないお菓子を食べられる喜びが増えますし、スタッフはおやつの心配をすることなく、現場に入って利用者に接する時間が増えます。人手が足りない施設ほど、自分たちで買いに行かなきゃいけないし、選ぶのも大変ですから
【吉田】まさにおっしゃるとおりです。おやつに必要な手配をすべて省けます。おやつを買いに行く。人数、予算をもとにメニューを考え購入しなければいけない等、諸々のお手間をすべて「たびスル」がやらせていただきますよ!そこで空いた時間をご利用者様との時間に使えるようになりますよ!というのが現場から見た「たびスル」の強みだと思っています。
たびスルは初回導入パックからお試しいただけます。
具体的なサービスイメージはこちら(https://tabisul.jp/sample70.html)
介護施設の「ちょっと困ってる」を解決していきたい
【中浜】これから「たびスル」をどうしていきたいですか?
【吉田】まずは「たびスル」を全国津々浦々の高齢者施設様にお届けができる状態をしっかり作り上げていきたいと思っています。全国にたくさんの施設があるなかで、まだ私どもは1250施設です。このご契約施設数を何万単位までにし、全国の高齢者施設様がおやつで困ることが無いようにしなければなりません。そのなかで、ご利用者様やスタッフ様のご意見をどんどんお伺いして、おやつに留まらず、現場の需要を見出して、新たに皆様のお役に立てるようにしていきたいです。
【中浜】いままでだれも手をつけてこなかった、どうしたらいいんだろうっていう課題をズバッと突いたサービスっていうのはいいですね。
【吉田】私どものようなベンチャー企業が意識しなきゃいけないのは「ちょっと困ってる」を見つけることです。普段、いろいろな方とお付き合いさせていただくなかで、常にアンテナを張って、「そういえば、これ地味に困ってるんだよね」という課題を感じ取るのが大切なんです。それが「たびスル」では高齢者施設様の「おやつ問題」だったのです。ものすごい困っていたなら、とっくに解決されていたかもしれません。少し困っているけど、まぁ自分たちでなんとかできるし…っていうのがミソだったのかなと振り返っています。
【中浜】その視点はおもしろいですね。デイサービスにいる立場からすれば、「それ、すげぇナイスアイデア!」って思っちゃう。ありがとうございました!
編集者の一言
高齢者のおやつマーケットって誰も手をつけてこれなかった分野な気がします。そしてどこの事業所も何を買えばよいかを悩み、さらにコストがない中で四苦八苦していることが多いのが現状だと思います。そんなちょっとした悩みの解決の一手になるサービスが、介護の現場を大きく変えられるかもしれないですね!
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この記事の寄稿者
中浜 崇之
二代目編集長。介護福祉士、ケアマネジャー。2014年に世田谷デイハウスイデア北烏山を立ち上げる。2010年より「介護を文化に」をテーマに介護ラボしゅうを立ち上げ運営中。(http://kaigolabo-shuu.jimdo.com/)