ヒートショックとは|症状や対策、予防、なりやすい人の特徴などを紹介
ヒートショックは、血圧の乱高下によって体に負担をかけてしまい、脳梗塞や心筋梗塞などの健康被害をもたらす可能性があります。誰にでも起こり得る身近なショック症状です。特に高齢の人は、血圧を正常に保つ機能が低下するために、ヒートショックのリスクが高まるといわれています。近年、ヒートショックによる浴室での溺水も増加傾向です。
この記事では、ヒートショックの「基礎知識」「症状別の対処法」「予防策」について解説します。ヒートショックの理解を深めて、事故を防ぎましょう。
大手介護専門学校にて12年で約2,000名の人材育成に関わり、その後、人材定着に悩む介護事業所の人材育成や運営支援を実施。2020年4月からは一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して介護甲子園を主催している。
ヒートショックとは温度差によって血圧が大きく変動すること
ヒートショックは温度の急な変化が体に与えるショックのことです。
急激な温度差は、血圧の大きな変動を引き起こし全身の血流量の減少を招きます。その結果、脳梗塞や心筋梗塞などを引き起こしてしまう可能性があるのです。最悪の場合、急死にいたる事態となります。
暖かい場所から寒い場所へ移動したときに身体が小刻みに身震いするのも、実はヒートショックです。ヒートショックは身近な症状であることを知っておきましょう。
ヒートショックは入浴中に発症しやすい
特にヒートショックは入浴時に発症することが多いと分かっています。冷気に包まれた脱衣所や浴室から、熱い湯船に浸かることで、ヒートショックが起こるのです。11月~3月の冬期シーズンは、特に寒暖差が大きいため注意しなければいけません。
参考:消費者庁「高齢者の事故を防ぐために/(別添)高齢者の事故に関するデータとアドバイス等」
ヒートショックによる高齢者の死者数は年間7,000人以上
消費者庁の調べによると、高齢者の不慮の事故による死因は「転倒・転落」「誤嚥等の不慮の窒息」「不慮の溺死及び溺水」の順に死亡が多いことが報告されています。
この「不慮の溺死及び溺水」の7割は浴槽における溺水です。まさに入浴中にヒートショックを引き起こし、浴槽で意識がなくなったと考えられます。
2018年は7,088名の死亡が報告されました。死亡者数の推移も増加傾向であり、交通事故よりも多い結果です。
※65歳以上を高齢者として集計
ヒートショックが起こる理由は血管の収縮
急な温度変化がヒートショックを引き起こす原因となります。体の仕組みと合わせて、ヒートショックが起こる理由を解説しましょう。
温度と血圧の関係
- 寒い(冷たい):血管が縮んで血圧が上昇
- 暑い(熱い):血管が広がり血圧が低下
人間をはじめとする恒温動物は、気温の変化に合わせて体温調節が必要です。寒いときは筋肉を震わせるなどして、熱を作ります。同時に、体内の熱を逃さないために、血管を細くして血流の量を減らします。そのため血管が縮むことで、血圧が上昇するのです。
反対に暑い場所では、熱を逃すために血管が広がり、血圧が低下します。
急な温度変化が起こると急速に血圧が上下するため、体に負担がかかります。するとヒートショックによるめまいや立ちくらみが発症するのです。さらに脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす恐れがあります。
10度以上の温度差がある場所への移動は、特に気をつけてください。自宅でも、暖房の効いた部屋から「浴室」「脱衣所」「トイレ」といった寒い場所へ移動するときには注意が必要です。
ヒートショックの症状と対処法
ヒートショックになったときの症状はさまざまです。どのような症状が現れるのか解説します。
症状 | 対処法 | |
---|---|---|
軽度 |
|
症状が治まるまで安静にする |
重度 |
|
|
【軽度な症状】めまいや立ちくらみ
めまいや立ちくらみは軽度のヒートショックです。動かず安静にして、めまいや立ちくらみが治まるのを待ってください。
【重度な症状】呼吸困難・嘔吐・意識の消失
胸が締め付けられるように痛む場合は「心筋梗塞」の恐れがあります。心筋梗塞とは、心臓の筋肉に血液が流れなくなった状態です。すぐに救急車を呼んでください。
嘔吐している場合は、呼吸ができるように嘔吐物を取り除きます。
なお、入浴中にヒートショックになった人を見つけた場合は、口や鼻に水が入らないようにします。浴槽の水を抜いて、ご本人を湯船から出してください。一人で担ぐことが難しい場合、浴槽のお湯を減らし溺れないようにします。お湯を全部抜くと体重が重くなってしまいます。
【その他の症状】頭痛・ろれつが回らない・嘔吐・意識の消失
頭痛やろれつが回らない場合は「脳卒中」の恐れがあるので、すぐに救急車を呼びます。脳卒中は脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などの総称です。
脳卒中の場合もあるので、無理に動かしたり揺さぶったりしてはいけません。嘔吐物を取り除き、横向きに寝かせた状態で救急車を待ってください。
ヒートショックになりやすい人には特徴がある
ヒートショックになりやすい人の特徴は以下にまとめました。多く当てはまる人は注意してください。不整脈・高血圧・糖尿病などの疾患がある方は、高齢者でなくてもヒートショックになる確率が高いことが分かっています。
ヒートショックになりやすい人の特徴
- 65歳以上の高齢者
- 高血圧・糖尿病・動脈硬化がある
- 肥満、睡眠時無呼吸症候群、不整脈がある
- 冬場は浴室や脱衣所、トイレが寒い
- 食事や飲酒後に入浴する
- 熱い湯温や一番風呂を好む
- 入浴の時間が長い
ヒートショックを予防する10の対策
ヒートショックにならないために、予防策を紹介します。高齢の方はもちろん、一緒に暮らしているご家族も以下の項目に考慮して、ヒートショック予防に努めてみてください。
ヒートショックの予防策
1 | 入浴前に家族に一声掛ける |
---|---|
2 | 脱衣所や浴室を暖めておく |
3 | 湯温は41度以下、長湯しない |
4 | 肩まで浸からない、胸の下ぐらいが目安 |
5 | 浴槽からゆっくり立ち上がる |
6 | 食後、飲酒後、服薬後の入浴は避ける |
7 | 入浴前後に水分補給する |
8 | 冬期の外出は帽子・マフラー・手袋などを装着 |
9 | トイレに暖房器具を設置する |
10 | 排便時は無理にいきまない |
ご家族による日ごろの声掛けやコミュニケーションによって、命を取り留めることも大いにあります。なお、一人暮らしの高齢者の人は、冬場に冷える部屋を作らないように設備を整えることが大切です。
入浴前に家族に一声掛ける
入浴前は、ご家族に入浴することを一声掛ける習慣を身につけてください。いつもより長く入浴している場合など、もしもの状況に対してもご家族がすぐに気がつけます。
またご家族は入浴中の高齢者に注意してください。「いつもより入浴時間が長い」など心配なときは、すぐに声を掛けましょう。
脱衣所や浴室を暖めておく
ヒートショックは温度差で起こります。急激な血液の変動を防ぐために、冬場の脱衣所と浴室はあらかじめ温めておきましょう。
脱衣場や浴室が寒いと感じる場合は暖房機器を取り付けることをおすすめします。なお、トイレにも暖房機器や暖房便座を取り付けることも検討してください。
湯温は41度以下、長湯しない
湯温が高すぎると体に負担がかかります。湯温は41度以下が好ましい温度設定です。また湯に浸かりすぎると、疲労感が増し転倒しやすくなります。湯に浸かる目安は10分です。
肩まで浸からない、胸の下ぐらいが目安
肩まで湯に浸かってはいけません。湯量の目安はだいたい胸の下が浸かるぐらいです。半身浴でも問題ありません。特に心臓に疾患がある人や高血圧の人は気をつけてください。
浴槽からゆっくり立ち上がる
入浴中には体に水圧がかかっていますが、急に立ち上がると体にかかっていた水圧が一気になくなります。圧迫されていた血管が一気に拡張するため、脳の血液量が減り、意識障害を招くのです。
浴槽を出るときは、ゆっくりと立ち上がってください。浴槽に手すりを付けるなどのリフォームもおすすめです。要介護認定を受けている場合は、介護保険が適用されます。
食後、飲酒後、服薬後の入浴は避ける
食後や飲酒後は血圧が低下します。
とくに食後に急激に血圧が下がる「食後低血圧」の人は危険です。65歳以上の高齢者の3人に1人は食後低血圧と推定されています。食後にめまいや立ちくらみを起こした経験がある人は気をつけてください。
飲酒は転倒の原因にもなります。お酒が好きな人は、入浴後に飲酒してください。
また、医薬品には血圧を下げたり眠気を誘ったりする作用がある薬もあります。医薬品服用後の入浴も避けるようにしてください。
入浴前後に水分補給する
入浴時はたくさんの汗をかきますので、入浴前後に水分補給をしてください。脱水症状は血液の流れが滞るためヒートショックのリスクを高めてしまいます。
なお、冬場は入浴前に温かい飲み物を飲むこともおすすめです。体の芯が温められます。
冬期の外出は帽子・マフラー・手袋などを装着
冬場の屋内と屋外では、気温差は10度以上あります。外出時のヒートショックを防ぐためにも、帽子やマフラー、手袋を装着して寒さ対策をしてください。
トイレに暖房器具を設置する
ヒートショックは入浴時に多発すると解説しましたが、実はトイレでヒートショックになる人も多いのです。
日本の住宅のトイレには暖房が付いていないことも一因でしょう。また便座が冷たいと、その冷たさが要因でヒートショックになることもあります。浴室だけではなくトイレの温度管理についても、気を配ってみてください。
排便時は無理にいきまない
排便時にいきむことで、心臓に負担がかかり血圧が上がります。また排便後は血圧が下がるため、血圧の乱高下が激しくなるのです。
無理にいきむことは危険なため、便秘の人は注意が必要です。ちょっとした心がけでヒートショックは予防できます。
ヒートショック対策のリフォームと費用
上記のポイントで解説したように、ヒートショック対策のカギは「寒暖差をなくすこと」です。効果のあるリフォームとその費用を紹介します。
浴室暖房の設置
浴室暖房を設置することで、入浴前に浴室を暖めておくことができます。
浴室暖房の設置費用は5万~15万円が目安です。なお、暖房の設置に関しては介護保険は適用されません。
浴室の手すりの設置
浴室の壁や浴槽に手すりを付けることで、ゆっくり立ち上がることができます。軽度のヒートショックによりふらついたときも転倒のリスクを減らせるでしょう。
手すりの設置費用は3万~5万円が目安です。また、手すりの設置に関しては介護保険が適用されます。詳しくは担当のケアマネージャーに相談してください。
介護保険適用のリフォームについては、以下の記事でも紹介しています。気になる方は参考にご覧ください。
脱衣所やトイレに暖房を設置
脱衣所は入浴時に衣服を脱ぐため、暖かくしておくことでヒートショックを予防できます。浴室暖房より安価で、3万~5万円が目安です。
また脱衣所やトイレにコンセントがある場合は、家電量販店などで小型ヒーターを購入するのもいいでしょう。
暖房便座(ウォームレット)の設置
トイレの便座が冷えていると、座るときにヒートショックを起こす可能性があるのです。
暖房便座(ウォームレット)や温水洗浄便座(ウォシュレット)を設置することで、便座を暖かい状態に保てます。暖房便座の設置費用は2.5万~10万円が目安です。
断熱リフォーム
断熱リフォームには「窓断熱」「床断熱」「天井断熱」「外壁断熱」などがあります。断熱することで、住宅内の温度を均一に保てるのです。断熱する箇所や面積によって費用は異なります。
断熱リフォームの費用の目安
- 窓断熱:8万円~30万円
- 床断熱:20万円~120万円
- 天井断熱:15万円~30万円
- 外壁断熱:80万円~500万円
夏場のヒートショックにも注意
ヒートショックは冬期に起こりやすい事故ですが、冬場だけに限った現象ではありません。暑い夏のシーズンにも注意が必要です。近年の夏場は35度を越えることも多く、その暑さに反比例して屋内は冷房で冷えています。
前述したとおり「温度差が10度以上になるとヒートショックが発生しやすい」ことを思い出しましょう。炎天下の屋外から涼しい屋内へ入ったときに、ヒートショックになってしまうケースも十分に考えられます。
最近は異常なほど暑い猛暑日が続いてますので「夏型ヒートショック」にも注意してください。
予防策としては、冷房の設定温度を必要以上に下げないことです。また、冷房の効いた部屋に入るときは、ストールを巻いたり、カーディガンを羽織ったりすることで、温度差を緩和できます。
高齢者のヒートショックは家族が止める
ヒートショック予防は、高齢者のご本人だけではなく、ご家族も気に留めてみてください。
「高齢者の入浴時間を気にする」「湯温を低めに設定する」など、一緒に暮らす家族が配慮することで、リスクを大きく軽減できるでしょう。
また「居住スペースに温度差があるか」をいま一度確認してください。日本の住宅はトイレや浴室が冷える造りになっていることが多く、ヒートショックを引き起こす原因となります。
脱衣所に暖房を設置したり、暖房便座を取り付けたりと、「温度のバリアフリー化」を意識した対策を考えてください。
一人暮らしで入浴が不安な方へ
一人暮らしの高齢者の方は、入浴時にひと目が届きません。入浴が不安の方は、デイサービスや訪問入浴サービスを利用してもいいでしょう。なおこれらのサービスは、要介護認定を受けている方しか利用できません。
これらのサービスについては下記の記事をご覧ください。
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関東 [12229]
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北海道・東北 [6915]
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東海 [4890]
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信越・北陸 [3312]
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関西 [6679]
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中国 [3581]
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四国 [2057]
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九州・沖縄 [7729]
この記事のまとめ
- 入浴時にヒートショックになる人が多発
- 高齢者による死亡事故は交通事故死よりも多い
- 「脳梗塞」または「心筋梗塞」を生じた場合、対処法が異なる
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