廃用症候群とは|症状や予防法、看護計画の立て方などを紹介
病気やケガの治療のために入院や手術をすると、どうしてもベッドでの安静状態を強いられます。安静状態が長く続くと筋力が衰えたり、体が思うように動かなくなったりします。また、精神的に落ち込んでうつ状態になる場合もありますが、これらはすべて「廃用症候群」です。
高齢者の場合、廃用症候群を発症してしまうとそのまま寝たきりになってしまう恐れがあるので正しい対処が必要です。今回は、廃用症候群とはどんな症状なのか、予防法や治療法を含めて解説していきます。
大手介護専門学校にて12年で約2,000名の人材育成に関わり、その後、人材定着に悩む介護事業所の人材育成や運営支援を実施。2020年4月からは一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して介護甲子園を主催している。
廃用症候群は「運動器障害」「循環・呼吸器障害」「自律神経・精神障害」などの症状が特徴
廃用症候群とは、何らかの理由で体を動かす機会が減ってしまうことで身体能力の大幅な低下や精神障害が生じた状態です。「生活不活発病」とも呼ばれます。
しかし「特定の疾患があるから」「○日安静状態が続いたから」といった具体的な指標はありません。確定するには「運動器障害」「循環・呼吸器障害」「自律神経・精神障害」などの症状が出ていること、なおかつ医師の診断が必要です。
運動器の障害とは、筋力低下や筋肉の伸張性の低下、骨密度の低下や関節の拘縮・可動域の低下といったものです。安静状態が1週間ほど続くと10~15%の筋力が低下するともいわれています。
循環・呼吸器障害でみられる症状は、食べ物が誤って肺に入り肺炎になってしまう誤嚥性肺炎や、少し体を動かしただけで息切れを起こすなどの心肺機能低下、血管に血の塊がつまる血栓塞栓症などが挙げられます。
自律神経・精神障害は「気分的に落ち込みやすくなる」「前向きな気持ちややる気が減退する」「うつ状態や幻想・妄想をはじめとする精神状態の変化が起こる」といった症状です。
廃用症候群を発症すると体を動かすことが億劫になり、次第に動くこと自体を嫌がるようになってしまいます。しかし、安静状態が必要な状況では発症を防ぐことは難しく、最悪の場合は寝たきりになってしまう可能性があります。
廃用症候群によって起こる弊害について
では、廃用症候群を発症するとどんな弊害を引き起こしてしまうのでしょうか。 ここでは主にみられる症状を解説していきます。
【筋骨格系への弊害】関節の可動域が狭まるなど
人の筋力は1週間安静にしていると10~15%ほど低下するといわれますが、安静状態が3~5週間も続くと50%にまで低下します。さらに筋肉の萎縮も起こり、伸張性が低下し、同時に骨密度の低下や、関節の可動域が狭まるために「今までできていたことができない」「何もないところでつまずく」「ちょっとぶつけただけで骨折する」といった弊害が生まれやすいです。
【心血管系への弊害】酸素不足による持久力の低下
安静状態が続くということは、ベッドに横になっている時間が非常に長くなる状態を示します。体を寝かせると心臓から全身に運ばれる血液の量が少なくなるので、体全体で酸素が不足気味になり持久力が低下します。その結果、少し動いただけで息切れを起こす、起き上がる時に血圧が低下する起立性低血圧を起こすといった症状が出やすくなるのです。
【呼吸器系への弊害】肺炎を起こす危険性が高まる
体が横になると呼吸するための筋肉が動かしにくくなるので、自然と呼吸が浅くなります。呼吸が浅くなると必要な酸素を取り込もうと呼吸回数が増えてしまいます。また、筋肉の動きが悪いと咳がしにくくなるため、気道内に分泌物が溜まりやすく肺炎を起こす危険性が高まるので注意が必要です。
【泌尿器科系への弊害】尿路結石や尿路感染症の可能性が高まる
横になっている時間が長いと膀胱や尿道に尿が溜まりやすく、尿路結石や尿路感染症を起こしやすくなります。安静状態が求められると、オムツや尿器を使う場合が多く、このことが症状を悪化させる原因にもなっているため、なるべくトイレで排尿するよう促すことが大切です。
【消化器系への弊害】免疫機能にも異常をきたす恐れあり
急な入院など環境の変化や寝たきりの状態は、食欲低下や便秘といった症状も引き起こします。積極的に食べなくなるので体重が減少し体力も落ちるなど、体の免疫機能にも影響が出てくるので注意が必要です。
【神経系への弊害】抑うつ状態・認知機能の低下など
通常、人の脳は光や音・匂いといった外からの刺激に反応することが適度な負荷となって機能を維持しています。ところが室内で寝たきりのままになると、そういった外からの刺激が極端に少なくなります。すると脳の機能を保てなくなり、精神状態が不安定になりがちです。さらに急激な環境の変化による緊張や不安が抑うつ状態を引き起こしたり、認知機能を低下させたりします。
【皮膚への弊害】床ずれや皮膚の壊死につながる
人は眠りにつくと適度に寝返りを打ちますが、これは体の一部に負担がかかり圧迫による血行障害を起こさないための生理現象です。しかし、安静が必要な場合は無意識に寝返りを打てないケースが多々あります。そのため、圧迫され続けた体の一部に負担がかかり皮膚が壊死してしまう床ずれを起こす危険があります。
【精神・社会的な弊害への弊害】社会復帰が難しくなることも
神経系に起きた弊害による「うつ状態」や、情緒が不安定になって目には見えないものが見える・混乱した言葉遣いや行動を起こす「せん妄」、今がいつでここはどこなのかがわからなくなる「見当識障害」を起こす場合があります。そうなると家族がうまく認識できずに家庭生活に弊害が出たり、対人関係に支障が出たりと、社会復帰が難しくなることがあるのです。
廃用症候群を予防する方法は運動・食事・コミュニケーション
長期間の安静が必要になる入院や手術では誰でも廃用症候群を発症する可能性があります。廃用症候群の認識が広まった今では入院中であってもなるべく体を動かすことが推奨されているので、医師の指示に従って予防に努めることが大切です。
「日常的な運動」が大原則として大切
家族が入院や手術となったら身の回りの世話をしてあげたくなるものですが、過度な親切心が廃用症候群のリスクを高めることにつながってしまいます。たとえ時間がかかっても、自分でできることは自分でするなど、前向きな気持ちが不可欠です。
運動も大げさなものではなく、ベッドに寝たまま手首や足首を回す、手や足の指を動かすといったシンプルなものでも効果があります。手足を軽く揉みほぐすのも血流を促す効果がありますし、日課にすると気分転換にもなります。
体が動かせるようであれば軽めのストレッチやヨガなどの柔軟運動もいいでしょう。動きがあまりないので運動効果が薄いと思われがちですが、筋肉をゆっくり動かす柔軟運動は見た目以上に体力を消費します。固まった筋肉をほぐし、血流を促してくれるうえに適度な疲労感が味わえる柔軟運動は廃用症候群の予防として効果的です。
食事による予防も効果的
廃用症候群にかかると食欲が低下しがちなため、低栄養状態になりやすくなります。主食・主菜・副菜を基本とした栄養バランスのよい食事はもちろん、見た目からも食欲がわくように盛り付けなども工夫すると効果的です。
廃用症候群では筋力の低下や筋肉の萎縮が起こりやすいのが特徴です。筋肉の材料になるたんぱく質を多く含んだ肉類や乳製品を効率よく摂れるメニューを多めにするのもいいでしょう。
食事内容を工夫しても食欲が戻らない場合は、食欲が低下した原因を突き止める必要があります。単純に気分が乗らないのか、嚥下(えんげ)機能が低下して食べることを嫌がっているのか、消化機能が衰えて食欲がわかないのか、人によって理由はさまざまです。
嚥下訓練をする、消化しやすい食事内容に変えるなど状況に合わせて対策を取り、低栄養状態が長く続かないように気を配る必要があります。また、水分補給はあらゆる症状の改善に役立つのでこまめに取れるようにしておくのも大切です。
積極的に会話をする
家族と会話をすることも廃用症候群の予防につながります。廃用症候群は精神面にも影響が出るところが特徴です。本来、脳は適度な負荷がかかることで正常な機能を保てる器官です。しかし、長期間の寝たきり状態は体も動かさずに人との接触も少なくなるので脳に負荷がかかりません。
体の状態によっては運動が難しい場合もありますが、人との会話は可能なことが大半です。家族と交わす何気ない会話でも脳にはいい影響を与えます。うつ状態やせん妄などの症状も廃用症候群の一端でしかないため、会話が増えれば脳が活性化し、精神状態の改善が期待できます。
家族はなるべく話しかけるように意識し、悩みがあるなら相談に乗るなど、会話が楽しいと本人が思うような環境づくりをしてあげましょう。
廃用症候群の治療・看護計画の立て方について
廃用症候群になってしまった場合、最も効果的なのが早期のリハビリです。立ち上がったり座ったり、歩くといった日常的な運動が取り入れやすいですが、むやみにやらせようとしても効果は期待できません。ではどのように進めていけばいいのでしょうか?
専門家と話し合って看護計画を立てる
本人の意向を踏まえて医師や看護師、ケアマネジャー・理学療法士・作業療法士とよく相談する必要があります。廃用症候群では生活の質(QOL)の向上や日常生活動作(ADL)の向上などの観点から看護計画を立てます。QOLやADLの向上は治療にはもちろん、病気によるストレスの緩和にもつながるので必ず本人に意向を確認しながら行いましょう。
廃用症候群は、発症の原因となっている病気や障がいの治癒に大きく作用してしまうのでQOLの向上は必須です。快適に過ごせるよう室内のインテリアを変えたり、いつでも趣味が楽しめるように整えたり、外出しても支障がないようであれば車椅子で散歩に出かけるのもいいでしょう。
家族に介護が必要となったら何でもしてあげたくなるのは仕方がありません。しかし、先に何でもやってあげてしまうと本人の意欲を削いでしまいます。「トイレは自分一人で行きたい」「着替えは手伝ってほしい」といった本人の意思をしっかり確認して可能な範囲でADLの向上を図ることが大切です。
長期間寝たきりの状態が続くと外部との交流が絶たれてしまいがちです。日常的に接する人が家族だけ、というのは精神衛生上もよくありません。本人の意思を確認しながら、デイサービスへ通うなどの交流の機会を設けることで少しずつ社会性を取り戻していく必要があります。
立ったり座ったりするだけでも廃用症候群のリハビリになる
あらゆる症状を発症する廃用症候群の治療にはリハビリが有効です。立ったり座ったり、歩いたりするだけでも十分効果が期待できます。しかし、無理な運動は転倒などの危険が伴うので医師や作業療法士の指導のもと、状況に合わせて無理なく進めてください。自宅でリハビリをする時は必ず家族の目が届く場所で始めましょう。
また、リハビリの内容は本人の意向をよく聞き取りながら決めていくとスムーズです。「トイレは一人で行きたい」「趣味の手芸ができるようになりたい」といった要望がある場合は、その内容に沿った動作を取り入れるなどすると本人も意欲的にリハビリに取り組んでくれるようになります。
リハビリを始める時は、なぜリハビリが必要なのか・リハビリによって何ができるようになるのかといったことをしっかり説明し、本人が前向きな気持ちになれるような雰囲気作りが大切です。
もし、本人に意欲がなく目標が立てにくい場合には無理強いせずに悩みを聞いたり、話し相手になったり、リハビリに対して前向きな気持ちになれるようサポートしてあげる必要があります。
症状が重い場合は廃用症候群リハビリテーション科の受診も
病院の中には廃用症候群を発症してしまった人のためのリハビリテーションを実施しているところもあります。症状が重い場合や、家族のサポートが難しい場合にはそういった廃用症候群リハビリテーション科を利用するのも1つの手です。スタッフは皆、症状に対する知識が深く、本人が抱えがちな悩みも理解しているので家族も安心して任せられます。
主なリハビリ内容としては、座る時間を増やして手足を動かす運動をする、立ち上がりや歩行練習、1対1や少人数でのレクリエーションなど、本人の状態に合わせて進めていきます。
まずは廃用症候群の予防に努めることが重要
今回は、廃用症候群とはどんな症状なのか、予防法や治療法を含めてご紹介しました。病気やケガの治療には安静にしていることが第一ですが、その結果廃用症候群を発症してしまうことはよくあります。廃用症候群にかかると、発症の原因となっている病気やケガの治癒にも大きく影響してしまうので療養が長引く可能性が高く、特に高齢者の場合はそのまま寝たきりになってしまう場合も珍しくありません。そうならないために、まずは予防に努めることが重要です。「寝たきり状態は一時的なもの」と本人と話し合い、あきらめないようしっかりサポートしてあげることが大切です。
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この記事のまとめ
- 廃用症候群の症状はさまざま
- 運動や食事での予防が効果的
- 治療法は本人の意向を踏まえたリハビリ
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