床ずれ(褥瘡)とは、防止用具での予防法や、市販薬での治療法など
床ずれは、医学的には「褥瘡(じょくそう)」と呼ばれる皮膚の障害です。寝たきりや車椅子などで生活していて体を自由に動かせない人は、皮膚の特定の部位が圧迫されてしまい床ずれができやすくなります。そのため、介護が必要な高齢者に起きやすい症状の一つです。
床ずれは程度が軽く表面的なものから、筋肉や骨の付近まで進行した重症なものまで幅広い症状があります。進行度合いによって対処法も異なるのです。今回は床ずれ(褥瘡)の原因や対処法から、対策に役立つグッズまで紹介します。家族の介護にあたる人は、ぜひ参考にしてください。
理学療法士。佛教大学大学院社会福祉学修士課程修了。専門は生活期リハビリテーション。病院・デイサービス勤務後2014年合同会社松本リハビリ研究所設立。全国の老人ホーム、デイサービス、介護施設でリハビリ介護のアドバイザー、生活リハビリセミナー講師、雑誌・書籍の執筆など活動中『転倒予防のすべてがわかる本 』(講談社)など著書多数。
YouTubeチャンネル「がんばらないリハビリ介護」/オンラインサロン「松リハLAB」
床ずれ(褥瘡)とは
床ずれは、皮膚の同じ部位が圧迫され続けることによって障害をきたす疾患です。医学的には「褥瘡(じょくそう)」と呼ばれます。
寝たきりの人や車椅子を使用している人など、自分で体を動かすことが困難な場合に生じやすくなるのが特徴です。年齢は関係がなく、若い人でも体に合っていないギプスなどを使用していると、床ずれが起きる可能性があります。
介護が必要な高齢者は長時間同じ姿勢を取り続けることも多いため、床ずれができるケースも比較的多いです。まずは床ずれの原因について、より詳しく見ていきましょう。
床ずれはなぜ起きるのか
床ずれは、特定の箇所に力が加わり続けることや皮膚の状態が主な原因です。その他に、栄養面や用具による影響も考えられます。代表的な原因は次のとおりです。
圧迫
寝ているときや座っているとき、皮膚は少なからず圧迫されています。適度に体位を変えられれば問題ありませんが、体を動かせないと同じ箇所が長時間圧迫されることになり、血流が止まったり減少したりするのです。
血流が悪化することで、皮膚の表面や皮下組織には酸素や栄養が運ばれなくなります。すると、細胞は皮膚の表面から徐々に壊死してしまうのです。
通常であれば、壊死してしまう前に体にかゆみや痛みが生じます。しかし麻痺がある人や昏睡状態にある人は、かゆみや痛みに気づけません。異変に気付いても、自分で体を動かせないと体位を変えられず、症状が悪化してしまうのです。
剪断力、ズレ力
剪断力(せんだんりょく)またはズレ力とは皮膚がずれることを指します。上半身を起こした場合など傾きのある面に体が置かれたとき、皮膚の表面と内部の組織が違う方向に引っ張られ、ずれが生じる状態です。
状態は圧迫と異なりますが、皮膚や組織に対しては同じような影響が与えられます。
摩擦
皮膚が衣服や寝具などとこすれると、皮膚の表面は少しずつすり減ってしまいます。摩擦で皮膚が弱ると圧迫や牽引の影響も受けやすくなるため、床ずれが悪化する要因となるのです。
乾燥
乾燥した皮膚はバリア機能が弱り外部からの影響を受けやすい状態です。
年齢を重ねると皮膚の保湿成分が減少し、皮膚が乾燥しやすくなる傾向にあります。また高齢者の多くに見られるのが、湿布やテープなどの日常的な使用です。気付かないうちに粘着部分で皮膚の表面がはがれ、乾燥が進んでいるケースもあります。
湿気
乾燥とは正反対ですが、皮膚に過剰な湿気があることも床ずれを引き起こす一因です。長く浴槽につかった後に皮膚がふやけた状態を想像すると分かりやすいでしょう。表面が柔らかく弱くなってしまうため、ちょっとした刺激で皮膚を痛めてしまうのです。
長時間ベッドに横になることで汗がたまったり、失禁によって尿や便が長時間皮膚に付着したりすることもあり、高齢者はよりリスクが高い状態といえます。
栄養不足
満足に栄養を取れていない人は、体脂肪も少ない傾向にあります。体脂肪の役目の1つは、皮下組織への衝撃を和らげることです。そのため、体脂肪が不足していると内部にも衝撃を受けやすくなります。
また栄養が足りないことで、床ずれができた後の回復が遅くなることも問題です。
寝具や車椅子などが体に合っていない
外的な要因として、寝具や車椅子といった用具が適切ではない可能性もあります。「体の状態と寝具の硬さが合っていない」「車椅子が小さく常に圧迫されている」という状態では、皮膚への影響も避けられません。
介護用品や福祉用具を選ぶときは、ケアマネジャーや専門店などプロに相談すると安心です。
床ずれが起きやすい身体の部位
床ずれは、上記のようにさまざまな原因で起きる皮膚の障害です。皮膚は全身を覆っていますが、特に骨が出っ張っている部分に生じやすいことが特徴になります。
骨が出ている箇所は寝ているときや座っているときにも体重がかかりやすく、圧迫されやすいためです。床ずれが見られやすい部位は、特に気を付けてケアするようにしましょう。
仰向けで床ずれができやすい部位
- 後頭部
- 肩甲骨部
- 脊柱部
- 仙骨部
- 踵骨部(しょうこつぶ)
横向きで床ずれができやすい部位
- 耳介部
- 肩関節部
- 肘関節部
- 腸骨部
- 大転子部
- 膝関節部
- 外果部
車椅子で床ずれができやすい部位
- 座骨部
- 尾骨部
- 脊椎部
- 肘関節部
床ずれの重症度
床ずれは、最初のうちは皮膚の赤みや痛みといった比較的軽い症状です。しかし適切なケアをしなければ、皮膚がえぐれて骨や筋肉が露出してしまうほど悪化することもあります。
床ずれがどのように進行するのかについて、重症度の分類をもとに知っておきましょう。NPUAP(米国褥瘡諮問委員会)とEPUAP(欧州褥瘡諮問委員会)が共同で発表した、国際的に用いられている分類を紹介します。
参考:アルメディアWEB「褥瘡の重症度分類(深達度分類)」ステージⅠ:消退しない発赤
皮膚の一部に、指で押しても消えない発赤が現れます。表面の損傷などはなく、元の肌の色によっては見分けづらい程度の状態です。痛みがあったり、皮膚の硬さや温度が他の部位とは違ったりする場合があります。
ステージⅡ:部分欠損
皮膚が部分的に欠損している段階です。欠損は真皮までにとどまり、皮下脂肪や骨などはまだ露出していません。水疱ができるか、傷口が見られる場合は薄赤色をしています。
ステージⅢ:全層皮膚欠損
皮膚の全ての層が欠損してしまい、皮下脂肪が目視できる状態です。黄色の壊死組織が付着している場合があります。部位によって皮下脂肪の厚さが異なるため、ステージⅢにあたる褥瘡の深さも部位によって大きな差があることが特徴です。
ステージⅣ:全層組織欠損
皮膚だけでなく皮下脂肪の層まで欠損し、骨や腱、筋肉など内部の組織が露出している最重度の状態です。傷の底には黄色や黒色の壊死組織が見られることがあります。
床ずれの予防法はこまめな体位の交換
床ずれは皮膚の同じ部位に力が加わり続けることで発生します。そのため予防としては、特定の部位を圧迫し続けないようにすることが大切です。
寝たきりの場合は1~2時間に1回、体位を交換する
寝たきりで過ごしていると、どうしても体の同じ部位が圧迫されがちです。特に自力で体を動かせない人は、痛みを感じても寝返りができません。
家族や介護者は1~2時間に1回程度、体の向きを変えてあげましょう。仰向け、右向き、左向きと体位を交換すれば、体への圧力を分散できます。
車椅子の場合は15分程度を目安に立ち上がる
車椅子を使用している人も床ずれのリスクが高くなります。15分に1回を目安に立ち上がりましょう。
自力で立位を保てない場合は、立ち上がる代わりにベッドで横になるなど、適宜姿勢を変えられるように工夫してください。
グッズを使った床ずれの予防
床ずれの予防には、専用のグッズを用いるのも効果的です。体の圧迫を軽減してくれるものや、体が不自由でも自動で寝返りができるベッドなど、さまざまな種類があります。
福祉用具のレンタルは、ケアプランに組み込むことで介護保険の適用が可能です。興味がある人はケアマネジャーに相談しましょう。
ケアプランやケアマネジャーについては、以下の記事で詳しく紹介しています。
静止型マットレス
床ずれの予防効果があるマットレスです。一般的な寝具と異なり、マットレスと体が触れる面積が大きいため体圧を分散できる仕様になっています。長時間横になっていても1カ所に圧力が集中しづらく、床ずれが起こりにくくなるのです。
「自分で体位は変えられるが、ベッドに横になっている時間が長い」という人に向いています。
圧切替型エアマットレス
内部に「エアセル」という空気の筒が内蔵されているマットレスです。空気の圧が自動で切り替わるため仰向け、右向き、左向きと体位を変えられます。なかには背上げの機能が付いているものもあり、起き上がりのサポートも可能です。
自分で寝返りができない人の体位交換が自動でできるため、夜間の介護の負担も軽減されるでしょう。
体位変換器
体位変換器には寝返りの介助に使用する補助的な用具と、自動で体位を変えられるものがあります。
補助具は主に要介護者の体の下に挿入することで、寝返りを補助するものです。まくら型、バナナ型、スネーク型など多様な形状の用具があります。あくまでも補助具ですので、必ず介護者の手が必要です。
自動で体位変換ができるタイプは、エアマットレスと同様に寝返りや背上げをサポートします。
自動寝返り支援ベッド
マットレスだけでなく、ベッドそのものを床ずれ予防用のものに変えてしまうことも1つの方法です。一般的な介護ベッドの「高さ調節」「背上げ」「脚上げ」などの機能に加え、自動の寝返り機能が付いたベッドがあります。
自動寝返り支援ベッドを使えば、通常のマットレスでもベッドそのものが動くため、自動で体位交換が可能です。静止型マットレスと併用すれば、より一層の床ずれ予防効果が期待できます。
車椅子クッション
車椅子を使用している場合、背中や臀部の負担を軽減するためにクッションや座布団を使おうとすることもあるでしょう。しかし専用の用具でないと、体の他の部分に圧力が集中するなど、かえって負担をかけてしまうリスクがあります。
車椅子クッションは体圧の分散のほか、骨盤の傾き具合などにも考慮して開発されている専門用具です。目的に合わせて形状も多種多様ですので、体の状態に合ったものを使用しましょう。
白色ワセリンの塗布
床ずれを予防するためには体位の交換のほか、皮膚の状態を清潔に保つことが大切です。床ずれが生じる前から、日常的にスキンケアをしておきましょう。
特に床ずれができやすい部分には、白色ワセリンを塗ると効果的です。乾燥しがちな高齢者の肌を保湿し、おむつ交換などの摩擦も防止できます。
ただし床ずれができてしまうと、専用の薬が処方されるケースが大半です。薬剤については、記事の後半で紹介します。自己判断で処方薬以外のものを塗布して悪化させてしまわないよう、医師に相談してください。
床ずれが起こった後の対処法
床ずれは、予防していたつもりでも気がついたらできてしまうケースも多々あります。床ずれができた後の対処法について紹介しましょう。
まずは皮膚を洗浄する
初期の床ずれは、圧迫しても色が変わらない皮膚の赤みで気付くことが多いものです。指で押して白く変色すればまだ床ずれにはなっていません。
初期の床ずれや多少の傷ができた程度であれば、皮膚を清潔に保つことで改善が可能です。よく泡立てた洗浄剤で優しく洗い、ぬるま湯のシャワーでしっかり流してください。患部に余計な力を加えないよう、こすったりマッサージしたりすることは避けましょう。
洗浄後はガーゼなどで押さえて水分をふき取ります。不要な水分が肌に残ってしまうと、床ずれを悪化させる可能性もあるため注意しましょう。
消毒剤・外用薬の塗布
傷口がある場合、必要に応じて消毒剤や外用薬を用いるケースもあります。しかし、どちらも不適切なものを使用して悪化させないよう、まずは医師に相談してからにしましょう。
消毒する際は消毒剤が皮膚に残らないよう、ぬるま湯や生理食塩水でよく流すことが大切です。外用薬を塗るときも皮膚を引っ張ったりこすったりしないよう気を付けてください。
皮膚の再生を図るための処置
赤みだけではなく傷口や水ぶくれができていたら、皮膚を再生させる処置が必要です。傷口部分には薬剤を塗るか、ドレッシング材という被覆・保護材を当てて、外部の刺激を受けないよう保護します。
傷が深い場合は滲出液の吸収
傷が深くなると、滲出液が多くしみ出るようになります。そのため治療に用いられるのは、滲出液を吸収する作用を持つ外用薬です。また傷口が深くなるほど感染症のリスクも高まるため、感染予防や感染症の治療の薬を併用することもあります。
床ずれを治療するための外用薬
実際に床ずれの対処法として使用される外用薬には、どのような種類のものがあるのでしょうか。代表的な処方薬を4種類ほど紹介します。
ユーパスタコーワ軟膏®
主成分 | 精製白糖、ポビドンヨード |
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剤形 | 褐色の軟膏剤 |
細菌を減らして傷を治す作用を持つ軟膏です。患部を洗浄した後、軟膏をガーゼにのばして貼り付けるか、患部に直接塗ってガーゼでカバーします。
ヨウ素に対して過敏症の既往歴がある場合は使用できません。甲状腺機能に異常がある人や腎不全の人も注意が必要です。
カデックス軟膏®
主成分 | ヨウ素、カデキソマー |
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剤形 | 褐色の軟膏剤 |
殺菌を減らすヨウ素に加え、水分を吸収する成分を含む軟膏です。滲出液を吸収する作用があります。洗浄後、500円玉くらいの厚さを目安に塗布します。
ユーパスタコーワ軟膏®と同じくヨウ素を含むため、ヨウ素過敏症や甲状腺機能の異常、腎不全の人は慎重に判断しなければいけません。
ゲーベンクリーム®
主成分 | スルファジアジン銀 |
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剤形 | 白色のクリーム状軟膏剤 |
抗菌作用がある軟膏で、水分を多く含みます。ですので、傷口が乾燥している場合に多く用いられ、反対に滲出液が出ている場合には向いていません。カデックス軟膏と同じく500円玉くらいの厚さで塗布するか、ガーゼなどにのばして貼ることもあります。
フィブラストスプレー®
主成分 | トラフェルミン、ヒト型塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF) |
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剤形 | 液剤 |
感染の制御や壊死組織の除去、傷口の修復、血管の新生などの作用があります。傷から約5センチ離して、専用の噴霧器で噴き付けるのが一般的な使用方法です。
使用部位に悪性腫瘍がある場合などは使用できないため、処方されたときの注意事項を必ず守ってください。
おすすめの市販薬
床ずれはステージⅠ~Ⅳの重症度によって、適切な処置方法が異なります。医師に診察してもらい、状態に合った薬を処方してもらうことが基本的な治療法です。
しかし床ずれに気づいてもなかなか医師の診察が受けられない場合など、自分で対処したいと考えることもあるでしょう。家庭での処置に使用できる市販薬を紹介します。
コーフルS
主成分 | アクリノール、酸化亜鉛 |
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剤形 | 黄色の軟膏剤 |
殺菌力のあるアクリノールと、被膜を作り傷口を乾燥させる酸化亜鉛が配合された軟膏です。床ずれや湿疹、汗疹、ただれなどにも効果があります。
高齢者の皮膚トラブルだけでなく、乳幼児のおむつかぶれなどにも使える薬です。そのため、患部の範囲が広い場合や傷が深い場合には使用できません。
市販薬はあくまでも初期の対応策と考え、状態が悪化するようであれば早めに診察してもらいましょう。
床ずれのケアはプロに任せるのも手段の1つ
床ずれは症状の軽いものから、内部の組織が露出するほど進行したものまで、程度もさまざまです。「患部を清潔に保つ」「薬剤を塗布する」「定期的に体位を変える」など、対策や予防が必要となり、介護する家族の負担も大きくなります。
少しでも負担を軽減するために床ずれ防止グッズを使うほか、訪問介護や訪問看護などの利用も検討しましょう。例えば夜間の体位交換を依頼するだけでも、介護者の睡眠時間を確保できます。
また、介護施設でも床ずれのケアに対応しているところが多数です。身体的なケアはもちろん、食事やアクティビティなども工夫されており、楽しみながらより健やかな生活が送れるでしょう。
「床ずれができないか心配」「毎日のケアが大変」という人は、無理をしないようプロの力を借りてください。ご自身でケアを続ける場合も、医師の診断を仰いで適切な対応を心がけることが大切です。
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この記事のまとめ
- 床ずれ(褥瘡)は、皮膚の同じ部位が圧迫され続けることでできる
- 床ずれの予防には、定期的な体位交換と皮膚を清潔に保つことが必要
- 床ずれができたら医師の診断のもと、適切な外用薬を使用する
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