筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは? 治療法や初期症状など

歳を重ねると徐々に体が思うように動かせなくなったり、筋肉が痩せていったりすることもあります。ただしなかには病気によって体がうまく動かせなくなり、介護が必要になる場合もあります。この病気を「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」と呼びます。今回は筋萎縮性側索硬化症(ALS)がどのような病気なのか、症状や介護の方法について分かりやすく解説いたします。

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平栗 潤一

この記事の監修

平栗 潤一

一般社団法人 日本介護協会 理事長

大手介護専門学校にて12年で約2,000名の人材育成に関わり、その後、人材定着に悩む介護事業所の人材育成や運営支援を実施。2020年4月からは一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して介護甲子園を主催している。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは

筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、手や足、のど、舌の筋肉や呼吸する時に使う筋肉が徐々に衰えていき、使いづらくなってしまう病気です。ALSは筋肉が落ちて動かせなくなるため、筋肉の障害のように感じられるかもしれませんが、実際に病気でダメージを受けているのは筋肉ではなく、運動神経となります。

運動神経が関わっていない部分は普通の人と変わりません。例えば、視覚や聴覚などの五感(知覚神経)や排せつ機能(自律神経)、頭で考えること(脳の中枢神経)はできるものの、脳からの命令を筋肉が受け取れず、体が動かせなくなってしまうのです。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因は不明とされていますが、その一方で神経の老化が影響しているとの見方もあります。他にも、神経伝達物質である興奮性アミノ酸の過剰分泌による代謝異常やフリーラジカル(電子が不安定な原子・分子団)の関連性などの学説もありますが、未だに確かな原因は掴めていません。

また、この病気は遺伝性があるのか気になるところですが、遺伝性はあまりないといわれています。ただし、ALS全体では約5%が家族内で発症する「家族性ALS」も存在します。家族性ALSの場合、両親のどちらか、または兄弟や祖父母などの近しい存在にALSを発症した人がいる傾向にあります。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)には2種類ある

筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症すると初期症状が現れますが、どのような症状かによって2種類のタイプに分類できます。

四肢型

四肢型は、手足の筋肉が先に衰えて力が入りにくくなってしまうタイプです。例えばものが掴めずにこぼしてしまったり、前に進もうと思っているのに足が出なかったり、しゃがむとそのまま立ち上がりにくかったりします。特に足は痙縮(筋肉の緊張が高まった時に表れるつっぱり感)を引き起こしやすいです。

球麻痺型

球麻痺型は、舌や口の筋肉から衰えて動かしづらくなってしまうタイプです。例えば舌の筋肉が衰えて呂律(ろれつ)が回りづらくなります。また、飲み込もうとしているのに口の筋肉が衰えるせいで飲み込みづらくなってしまうこともあります。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の症状とは

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の症状は段階に応じて異なります。また、人によって症状が進行するスピードも違ってきます。運動障害や構音障害、嚥下障害、呼吸障害が発生するため、症状が進行すれば寝たきり状態となり、介護が必要です。

人工呼吸器をつけなかった場合だと、余命までの平均期間は2~4年です。ただし、最初にALSと診断されてから短期間で症状が進んでしまう人もいれば、長年にわたって症状が見られるものの特に人工呼吸器を使わなくても問題ない人もいます。このように、症状の進行具合や表れ方にはかなりの個人差があるのです。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の初期症状は

初期症状でよく見られるのは、四肢型なら手足に力が入りにくくなり、球麻痺型なら舌や口を動かしづらくなります。四肢型と球麻痺型の割合は6割の人が四肢型、4割の人が球麻痺型になるといわれています。

初期症状の段階では、なにもないところで躓いたり、持っているものを重く感じたりする程度なので、気付きにくいかもしれません。しかし、球麻痺型だとこれまでスムーズに嚥下できていたものがつっかえやすくなったり、呂律が回らなくなったりするため、早く異変に気付く場合もあります。初期症状の段階で体の異変に気が付いたら、早めに病院を受診しましょう。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は治るか

筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症した場合、治療で治るかどうかは重要なポイントです。結論から言えば、ALSは原因が解明されていないため根本治療も確立されていません。しかし、治療によって病状改善につながったり、生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)の改善を目指したりできます。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療法

ALSは筋肉が衰えて使いにくくなるだけでなく、痙攣や痙縮による痛みを伴う病気です。痛みは重症度に問わず、初期症状の段階でも表れる場合があります。こうした痛みに対する治療(対症療法)で、ALSにかかった人のQOL向上を目指していきます。また、リハビリにも痛みを和らげる効果が期待できるため、基本的には服薬治療とリハビリを並行的に進めていくことが多いです。

服薬治療

服薬治療では、まずリルゾールという薬を使っていきます。リルゾールとは神経細胞を保護し、ALSの進行を遅らせる働きを持つ薬です。主にリルゾールが使われますが、他にも一人ひとりの症状に合わせた対症療法で薬を処方していきます。

例えば、筋肉の痙攣や痙縮によるひどい痛みが発生している場合は、筋肉の緊張を和らげて痛みを軽減させる筋弛緩薬が処方されます。ただし、筋弛緩薬をたくさん使ってしまうとその分筋力低下も促進されてしまい、目指すべきQOL・ADLの向上も難しくなるでしょう。そこで近年は「芍薬甘草湯」という漢方薬を用いる場合もあるのです。

他にも、痛みを軽減させるためにオピオイドなどの鎮痛剤を処方する場合もあります。オピオイドは呼吸を抑制してしまうため、十分に気を付けて少量ずつ使用していきます。また、ALSにかかった人の中には肉体的だけでなく、精神的な原因から体の痛みにつながっていることもあるため、抗うつ剤の服用も検討されているのです。

ALSにかかると、なかなか寝つけなくなるという人も多いです。睡眠導入剤が処方されるケースもありますが、睡眠導入剤も呼吸を抑制してしまうものがあるので、ALSによって呼吸する筋肉が衰えていると命の危険につながってしまいます。そのため睡眠導入剤は市販品を購入するのではなく、医師に相談して呼吸機能検査を受けてから用いるのが一般的です。

初期症状が球麻痺型だった場合、症状が進行していくと徐々によだれが出やすくなってきます。場合によっては初期症状の段階で常によだれが出てしまう人もいます。恥ずかしさを感じ、精神的な苦痛にもつながるため、抗コリン薬(唾液の量を減らす働きを持つ)や三環系抗うつ薬(神経伝達物質の働きを調整する)などが処方されやすいです。

精神的な面から表情をうまくコントロールできなくなった場合は、三環系抗うつ薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などが処方されることもあります。SSRIは病気によって起きる不安を軽減させる作用を持ちながら、三環系抗うつ薬と比べて副作用が少ないです。身体への負担も少なくなり、より症状の改善へとつながるでしょう。

リハビリ

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行を少しでも遅らせるためには、服薬治療だけでなくリハビリも必要となります。なぜなら、体を動かさなければ筋力はさらに低下してしまうためです。まだ症状が出ていない機能を維持し、QOLを保っていくためにもリハビリは重要です。

リハビリに関しては、症状の進行具合や状況、できる環境によって内容は異なります。まずかかりつけの医師や地域の保健師、ケアマネジャー、難病医療連絡協議会の専門員などに相談しましょう。

日本神経学会が監修した「筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン」によると、四肢・体幹運動機能障害に対するリハビリにはストレッチと関節可動域(ROM)の維持訓練、軽度~中等度の筋力低下が見られる場合は適度な筋力増強訓練も有効な可能性があると示しています。

また、構音障害に対しては、口腔の周辺にある筋肉や舌筋の運動療法、顎関節の可動域を維持する訓練が有効な可能性があるとしています。ただし、四肢・体幹運動機能障害に対するリハビリと構音障害に対するリハビリのどちらも、過度な運動はかえって逆効果をもたらす可能性があるため、推奨されていません。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の介護の方法

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、徐々に体の自由が利かなくなってくること、認知症と合併して発症する人が増加傾向にあることから、介護が必要となります。家族がもしALSにかかったらどのような介護をしていけば良いのでしょうか?

食事について

食事をする時はできるだけ体を起こした状態で、食事後も1時間程度はその姿勢を保つことが大切です。一度に口に入れる量を少なくし、飲み込みやすくするために固形物を食べたら汁物を取ります。

食べ物は飲み込みやすいように、柔らかくつぶつぶした食感のない滑らかなテクスチャにします。また、水気が含んだもののほうが飲み込みやすいです。例えば肉や果物はピューレ状にして滑らかにします。パンは食べやすいようにミルクなどに浸しましょう。

汁物はそのままだと飲み込みづらいので、増粘剤(とろみ剤)を使用します。増粘剤は薬局でも売られており、汁物と混ぜ合わせるだけで簡単にとろみをつけられるアイテムです。

食事の介助をする時のポイントとして、食事に集中できる環境を作ることが大切です。例えばテレビをつけていたり会話をしながら介助を続けたりすると、飲み込むことに意識が集中できなくなり、むせやすくなります。

また、1回の食事量を減らして食事回数を増やすのもおすすめです。特に息苦しさを感じている人はたくさん食べると胃が張ってきて余計に息苦しくなるため、食事の回数を増やして息苦しさを緩和させましょう。

ALSの症状が進行し、口から食事をするのも厳しくなってきたら胃ろうを検討します。胃ろうとは、食べ物を直接胃に運ぶための医療措置です。胃ろうだと気管を使わないため、誤嚥の心配もありません。

呼吸について

ALSだと呼吸機能も徐々に衰えていき、自力で痰を出しづらくなるでしょう。痰をうまく出せないとむせる原因にもなってしまうため、数時間ごとに機械で痰を取り除きます。

また、呼吸困難に陥った場合は人工呼吸器も使います。初期の段階では就寝中に鼻マスク型の人工呼吸器を使うことで呼吸を補助します。症状が進行していけば常に鼻マスク型の人工呼吸器を身につけることになり、さらに進行すれば喉から気管に向けて直接人工呼吸器の挿入が必要です。

人工呼吸器をつけていると在宅介護が難しいように感じるかもしれませんが、最新の人工呼吸器は小型化が進んでおり、自宅で過ごしたり外出したりできるようになっています。最新の人工呼吸器を使用すれば在宅介護時に大きな問題にはなりにくいでしょう。

コミュニケーションについて

ALSの症状が進行していくと話しづらくなってコミュニケーションを取るのも難しくなります。また、人工呼吸器を直接挿入する際に気管を切開しなくてはいけないので、声が出せなくなってしまいます。このような状況でもコミュニケーションが取れるように、早めに手段を考えておくべきです。

よく用いられるのは、コミュニケーションボードと呼ばれるイラストや50音などが書かれたボードです。練習する必要はありますが、コミュニケーションが取りやすくなるでしょう。また、意思伝達装置や入力スイッチなどのICT機器を使い、指や目の動きから意思疎通を図れます。

介護施設には入れるのか

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は徐々に症状が進行し、基本的に完治しない病気と言われています。重度の進行が見られる場合は夜間も続けて介護しなくてはいけないため、家族の負担は非常に大きなものになってくるでしょう。

近年、介護施設ではALSに罹患した人の入居も受け入れてくれるところが増えてきています。もし介護施設への入居を検討されている場合は、施設へ問い合わせる際にALSの入居実績はあるのか、人工呼吸器に対応してもらえるかどうかを必ず尋ねておきましょう。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は介護負担が大きい

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は介護負担が大きい病気とも言われています。在宅介護ですべてを補おうとするのは非常に大変です。介護負担の大きさは家族にとっても肉体的・精神的に厳しい状況に追い込まれてしまう可能性もあります。家族がALSと診断されたら、今後の介護や施設入居についても検討したほうが良いでしょう。

ALSを完治させるのは現代の医療だと難しいですが、専門家と一緒に適切な対応を取っていけば進行を遅らせることもできます。ALSと診断されてから10年以上経過しているのに人工呼吸器を装着していない人もいるほどです。進行具合には個人差があるものの、一人ひとりに適した治療・リハビリでQOLの向上を目指していきましょう。

この記事のまとめ

  • ALSは運動神経の障害で、体が思うように動けなくなる
  • 原因は不明で完治させる方法も見つかってはいないが、対症療法でQOLの向上を目指せる
  • 最近はALSに対応してくれる介護施設も増えている