【医師監修】筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは|治療法や初期症状、介護のポイントなど
歳を重ねると徐々に体が思うように動かせなくなったり、筋肉が痩せていったりすることもあります。なかには病気によって体がうまく動かせなくなり、介護が必要になる場合もあります。
体が動かせなくなる病気の代表例が「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」です。今回は筋萎縮性側索硬化症(ALS)がどのような病気なのか、症状や介護の方法について、医師監修のもとわかりやすく解説します。
横浜市立大学医学部卒業。2011年より現職。現在は、いなほクリニックグループ共同代表として認知症在宅医療を推進する一方、N-Pネットワーク研究会代表世話人、日本認知症予防学会神奈川県支部支部長、レビー小体型認知症研究会事務局長などの取り組みを通じて、認知症診療の充実ならびに認知症啓発活動に精力的に取り組む。『 レビー小体型認知症 正しい基礎知識とケア 』(池田書店)など著書多数。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは
筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは手や足、のど、舌の筋肉や呼吸するときに使う筋肉が徐々に衰えていき、使いづらくなってしまう病気です。ALSは筋肉が落ちて動かせなくなるため、筋肉の障害のように思うかもしれません。しかし実際に病気でダメージを受けているのは筋肉ではなく、運動神経となります。
運動神経が関わっていない部分は普通の人と変わりません。例えば、視覚や聴覚などの五感(知覚神経)や排せつ機能(自律神経)、頭で考えること(脳の中枢神経)はできるものの、脳からの命令を筋肉が受け取れず、体が動かせなくなってしまうのです。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因は不明とされていますが、神経の老化が影響しているとの見方もあります。他にも、神経伝達物質である興奮性アミノ酸の過剰分泌による代謝異常やフリーラジカル(電子が不安定な原子・分子団)の関連性などの学説もありますが、未だに確かな原因は掴めていません。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は難病の1つですが、毛沢東やホーキング博士など有名人も闘病していたことが知られています。近年では美容家の佐伯チズさんもALSを発症しながら、晩年まで発信を続けたことが注目されました。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は遺伝するのか
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は遺伝性はあまりないといわれています。
ただし、ALS全体のうち約5%が家族内で発症する「家族性ALS」です。家族性ALSの場合、両親のどちらか、または兄弟や祖父母などの近しい存在にALSを発症した人がいる傾向にあります。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)と筋ジストロフィーの違い
筋肉が動かしづらくなる病気として「筋ジストロフィー」も有名です。筋萎縮性側索硬化症(ALS)と筋ジストロフィーは混同されがちですが、性質が異なります。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動神経に原因がある病気です。一方、筋ジストロフィーは遺伝子の変異によって筋肉の変性や壊死が生じます。症状が似ていても、原因や仕組みが違うことを理解しておきましょう。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)には2種類ある
筋萎縮性側索硬化症(ALS)はどのような初期症状が現れるかによって、2種類のタイプに分類できます。
四肢型
四肢型は、手足の筋肉が先に衰えて力が入りにくくなってしまうタイプです。例えばものが掴めずにこぼしてしまったり、前に進もうと思っているのに足が出なかったり、しゃがむとそのまま立ち上がりにくかったりします。特に足は痙縮(筋肉の緊張が高まった時に表れるつっぱり感)を引き起こしやすいです。
球麻痺型
球麻痺型は、舌や口の筋肉から衰えて動かしづらくなってしまうタイプです。例えば舌の筋肉が衰えて呂律(ろれつ)が回りづらくなります。また、飲み込もうとしているのに口の筋肉が衰えるせいで飲み込みづらくなってしまうこともあります。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の症状とは
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の症状は段階に応じて異なります。また、人によって症状が進行するスピードも違ってきます。運動障害や構音障害、嚥下障害、呼吸障害などさまざまな障害が生じ、症状が進行すれば寝たきり状態となるため介護が必要です。
人工呼吸器をつけなかった場合だと、余命までの平均期間は2~4年です。ただし、最初にALSと診断されてから短期間で症状が進んでしまう人もいれば、長年にわたって症状が見られるものの特に人工呼吸器を使わなくても問題ない人もいます。このように、症状の進行具合や表れ方にはかなりの個人差があることも特徴です。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の初期症状は
初期症状でよく見られるのは、四肢型なら手足に力が入りにくくなり、球麻痺型なら舌や口を動かしづらくなります。四肢型と球麻痺型の割合としては、6割が四肢型、4割が球麻痺型になるといわれています。
四肢型の場合、初期症状の段階ではなにもないところでつまずいたり、持っているものを重く感じたりする程度なので、気付きにくいかもしれません。しかし、球麻痺型だとこれまでスムーズに嚥下できていたものがつっかえやすくなったり、ろれつが回らなくなったりするため、異変に気付きやすい傾向にあります。初期症状の段階で体の異変に気が付いたら、早めに病院を受診しましょう。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)ではリハビリも必要
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行を少しでも遅らせるためには、服薬治療だけでなくリハビリも必要となります。なぜなら、体を動かさなければ筋力はさらに低下してしまうためです。これを廃用症候群ということもあります。ベッドのうえで長年過ごすことで手足の筋肉などが弱ってしまうのです。
リハビリに関しては、症状の進行具合や状況、できる環境によって内容は異なります。まずかかりつけの医師や地域の保健師、ケアマネジャー、難病医療連絡協議会の専門員などに相談しましょう。
日本神経学会が監修した「筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン」によると、四肢・体幹運動機能障害に対するリハビリにはストレッチと関節可動域(ROM)の維持訓練、軽度~中等度の筋力低下が見られる場合は適度な筋力増強訓練も有効な可能性があると示しています。
参考:一般社団法人日本神経学会「筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013」また、構音障害に対しては、口腔の周辺にある筋肉や舌筋の運動療法、顎関節の可動域を維持する訓練が有効な可能性があるとしています。ただし、四肢・体幹運動機能障害に対するリハビリと構音障害に対するリハビリのどちらも、過度な運動はかえって逆効果をもたらす可能性があるため、専門医絵に相談しましょう。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の介護の方法
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、徐々に体の自由が利かなくなってくることから介護が必要となります。家族がもしALSにかかったら、どのようなことに気を付けて介護するべきなのでしょうか。
食事について
食事をする時はできるだけ体を起こした状態で、食事後も1時間程度はその姿勢を保つことが大切です。一度に口に入れる量を少なくし、飲み込みやすくするために固形物を食べたら汁物を取ります。
食べ物は飲み込みやすいように、柔らかくつぶつぶした食感のないなめらかなテクスチャにします。また、水気が含んだもののほうが飲み込みやすいです。例えば肉や果物はピューレ状にしてなめらかにします。パンは食べやすいようにミルクなどに浸しましょう。
汁物はそのままだと飲み込みづらいので、増粘剤(とろみ剤)を使用します。増粘剤は薬局でも売られており、汁物と混ぜ合わせるだけで簡単にとろみをつけられるアイテムです。
食事の介助をする時のポイントとして、食事に集中できる環境を作ることが大切です。例えばテレビをつけていたり会話をしながら介助を続けたりすると、飲み込むことに意識が集中できなくなり、むせやすくなります。
また、1回の食事量を減らして食事回数を増やすのもおすすめです。特に息苦しさを感じている人はたくさん食べると胃が張ってきて余計に息苦しくなるため、食事の回数を増やして息苦しさを緩和させましょう。
ALSの症状が進行し、ものを食べるのも厳しくなることがあるかもしれません。口からの食事が難しくなった場合は、胃ろうという選択肢もあります。胃ろうとは、食べ物を直接胃に運ぶための医療措置です。胃ろうだと気管を使わないため、誤嚥のリスクも軽減でき、比較的安全に栄養を摂取できます。
胃ろうについては、以下の記事で紹介しています。
呼吸について
ALSだと呼吸機能も徐々に衰えていき、自力で痰を出しづらくなるでしょう。痰をうまく出せないとむせる原因にもなってしまうため、数時間ごとに機械で痰を取り除きます。
また、もし呼吸困難に陥った場合は「人工呼吸器」の利用が必要な場合もあります。そのままにしておくと命に危険が及びます。ですので、初期段階では就寝中のみ鼻マスク型の人工呼吸器を使います。もし症状が進行した場合は、日中から人工呼吸器を使う必要があるかもしれません。症状に合わせて、対象の方が最も楽に過ごせる方法をとりましょう。
人工呼吸器をつけていると在宅介護が難しいように感じるかもしれませんが、最新の人工呼吸器は小型化が進んでおり、自宅で過ごしたり外出したりできるようになっています。最新の人工呼吸器を使用すれば在宅介護時に大きな問題にはなりにくいでしょう。
コミュニケーションについて
ALSの症状が進行していくと話しづらくなり、うまくコミュニケーションを取れなくなるかもしれません。
症状が進んでしまった際によく用いられるのは「コミュニケーションボード」と呼ばれるイラストや50音などが書かれたボードです。練習する必要はありますが、コミュニケーションが取りやすくなるでしょう。また、意思伝達装置や入力スイッチなどのICT機器を使い、指や目の動きから意思疎通を図れます。
介護施設には入れるのか
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は徐々に症状が進行し、基本的に完治しない病気といわれています。重度の進行が見られる場合は夜間も続けて介護しなくてはいけないため、家族の負担は非常に大きなものになってくるでしょう。
近年、介護施設ではALSに罹患した人の入居も受け入れてくれるところが増えてきています。もし介護施設への入居を検討されている場合は、施設へ問い合わせる際にALSの入居実績はあるのか、人工呼吸器や痰吸引に対応してもらえるかどうかを必ず尋ねておきましょう。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は適切な対処で進行を遅らせることができる
ALSを完治させるのは現代の医療だと難しいですが、専門家と一緒に適切な対応を取っていけば進行を遅らせることもできます。
ALSと診断されてから10年以上経過しているのに人工呼吸器を装着していない人もいるほどです。進行具合には個人差があるものの、一人ひとりに適した治療・リハビリでQOLの向上を目指していきましょう。
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この記事のまとめ
- ALSは運動神経の障害で、体が思うように動けなくなる
- 原因は不明で完治させる方法も見つかってはいないが、対症療法でQOLの向上を目指せる
- 最近はALSに対応してくれる介護施設も増えている
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