ユニットケアとは|定義・メリットとデメリット・個室との比較について
現在、介護施設には幅広いタイプの施設が存在しています。施設の種類が違えば、介助の仕方やケア方針もさまざまです。
今回はそのなかでも「ユニットケア」をご紹介しましょう。ユニットケアの定義から特徴、利用するメリット・デメリットに加え、集団ケアとの比較もしているので、ぜひご参考ください。
介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、認知症ケア上級専門士、認知症介護実践リーダー、米国アクティビティディレクター、他。介護職として働く傍ら、レクや認知症、コミュニケーションに関する研修講師も務める。2014年米国アクティビティディレクター資格取得。レクリエーションを通じ、多くの高齢者に「人と触れ合う喜び」を伝え、「介護技術としてのレクリエーション援助」を広める一方、介護情報誌やメディアにおいて執筆等を手掛けている。『認知症の人もいっしょにできる高齢者レクリエーション 』(講談社)など著書多数。
ユニットケアの定義とは
まずはユニットケアの定義からご紹介していきましょう。ユニットケアとは、介護施設への入居後もなるべく自宅に近い環境で生活することを目指した介護の形です。
介護施設では、同じ施設内で他の入居者と共同で生活をすることになります。ユニットケアの場合、10人程度の入居者を1ユニットとします。ユニット内には1人ずつに居室があり、さらにリビング・食堂などの共用スペースが存在します。1人ずつに居室が設けられていることでプライベート空間を維持でき、しかも家庭でいうリビングのような共用スペースで他者と交流することが可能です。
従来型の多床室では同じ部屋に4人程度が暮らしており、カーテンの仕切りしかなかったため、プライバシーの保護が難しい状態でした。複数人がまとめられているため介護も流れ作業になってしまい、一人ひとりを大切にした生活とはいえません。そこでユニットケアを取り入れることで、入居者の空間や生活リズムを大切にした暮らしをサポートできるようになったのです。
ユニットケアが目指していること
厚生労働省の「2015年の高齢者介護~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~」で、ユニットケアが目指していることを提示しています。それは「介護を必要とする場合でもこれまでのごく普通の生活を送れるようにすること」です。
ここでいう「ごく普通の生活」は、一人ひとりの個性や生活リズムに沿って営まれ、さらに社会や他の人との人間関係が築かれた生活を指しています。ユニットケアを実施することで個性や生活リズムが守られながらも、リビングでは少人数の入居者が交流できコミュニケーションを取れるため、ごく普通の生活に近付けるのです。
結果的にユニットケアは制度化され、2002年からユニットケア型の特別養護老人ホームに対応する「施設整備費補助金」が設けられました。これをきっかけにユニットケア型の介護施設が増えていったのです。
参考:厚生労働省「補論2 ユニットケアについて」ユニットケアの対義語「集団ケア」とは
「集団ケア」はユニットケアの対義語といえる存在で、主に従来型の介護を指します。先ほどもご紹介したように、これまでは入居者一人ひとりよりも集団での介護を重視するやり方でした。
例えば、大人数の要介護者をまとめて管理し、食事やレクリエーションなどもすべて決められた時間に、1つの共用スペースへ集合して実施するというものがほとんどでした。この集団ケアは介護職にとってまとめてサポートができるため、手間も掛からず効率的な介護ができていました。
現在ではユニットケアを採用する施設が増えてきています。しかし、居室はそれぞれ個別に設けられているものの、食事や入浴などのサービスの面では決められた時間にしか利用できない集団ケアがいまだに多いのが現状です。
ユニットケアのメリット・デメリット
ユニットケアにはいくつかメリットがあります。一方で、完全個室、多床室に比べると、デメリットもあります。ここからはユニットケアのメリット・デメリットを挙げていきます。
ユニットケアのメリット
ユニットケアは従来の集団ケアとは異なる特徴を持っています。ユニット型独自のメリットも非常に多いです。どのようなメリットがあるのか、詳しく紹介していきましょう。
個別ケアを実施できる
従来の介護手法とは異なり、個別ケアが実施できる点はユニットケアの大きなメリットです。個別ケアによって一人ひとりの状況に合わせた介護が実現できます。
近年では、従来の多床室でのケアに比べると、個別ケアが実現できるようになりました。例えば、体調が悪い場合は居室で休み、共用スペースではなく居室で食事をすることもできます。
職員の目が行き届きやすい
ユニットケアでは少ない人数を見守り、ケアしていくことになるため、介護職員の目が行き届きやすいのがメリットです。
また、ユニットごとに固定配置されることで入居者の毎日の様子を観察でき、変化にも気付きやすくなります。より細やかなケアができるのです。
人間関係を築けて交流しやすい
1つの部屋にベッドが複数置かれている「多床室」の介護施設もあります。一見、同室の人とコミュニケーションを取る機会が多いと感じるかもしれません。しかし会話をしない場合も多く見られます。多床室であるがゆえに、関わりを避けたいという気持ちになってしまうためです。
医療経済研究機構が発表した「介護保険施設における個室化とユニットケアに関する研究」では「多床室だと入居者間で活発なコミュニケーションは見られにくい」としています。例えば6床室の特別養護老人ホームでは、日中12時間のうち、入居者間の会話が2回以下の部屋が全体の約3分の2を占めていました。
一見、人との距離が近い多床室で会話が少ないのは、プライバシーを守る手段が「お互いを無視すること」だからです。互いに声が聞こえてしまうなか、絶えず他者の視線を受けると、非常にストレスがたまります。なので、無視をし合うことでプライベートな時間を確保しているのです。
一方、ユニットケアを取り入れることで入居者の生活形式が変わることがあります。これまで1日の半分をベッド上で過ごしてきた人も、リビングにいる時間が長くなったのです。1人になれる空間を保障することで、心に余裕が生まれ、他者と交流する意欲が促されているといえます。
参考:医療経済研究機構「介護保険施設における個室化とユニットケア に関する研究」入居者と介護職が家族のような関係になれる
先ほども紹介したように、少人数制であるユニットケアは、入居者や介護職の入れ替わりが少ないです。毎日同じ人と生活できるため、お互いにどんな人か知ることもでき、交流が増えていくことで家族のような関係になれます。
1人の時間も確保できる
ユニットケアならきちんと一人ひとりに居室が用意されており、1人の時間を楽しめます。これもユニットケアならではのメリットです。人と交流したいときは共用スペースで自由に交流でき、逆に1人の時間を楽しみたい人は居室でゆったりと過ごせます。
認知症の症状が軽減する場合もある
少人数でいつも同じ人と生活を共にすることは、認知症の人にとって安心をもたらします。認知症の人は環境の変化を嫌う傾向にあります。環境を変えたことで症状がひどくなった場合、環境を戻すことで不安も和らぎ、症状が軽減するケースもあります。
認知症の方だけが入居できるグループホームでは、基本的にユニットケアが導入されています。その背景には認知症の進行を緩和する狙いがあるのです。
ユニットケアのデメリット
ユニットケアにはデメリットも存在します。具体的にどのようなデメリットがあるのか解説しましょう。
人間関係のトラブルが発生した場合に気まずくなる
ユニットケアは少人数での生活が基本なので、一度人間関係のトラブルが発生してしまうと気まずくなって生活に支障をきたす恐れがあります。これは入居者間だけでなく、入居者と介護職でも起こり得るものです。
個室によって孤独感が増す場合もある
人によって異なるものの、1人の時間を大切にしたい人もいれば、中には常に誰かと一緒にいたいという人もいます。常に誰かと一緒にいたい人にとっては、個室があるよりも多床室でいろんな人がいたほうが安心できるという場合もあるでしょう。逆にユニットケアの個室のせいで孤独感にさいなまれる場合もあります。
集団ケアに比べると費用が高い
ユニットケアは、集団ケアに比べると手厚いケアが受けられるため、月額費用が高くなることが多いです。そのため、入りたくても入れないという方もいるでしょう。
ユニットケアと集団ケアを比較
ユニットケアと集団ケアを比較すると、どのような違いが見られるのでしょうか。続いては、食事・入浴の観点から特徴を比較していきます。
食事で比較
集団ケアの食事は、施設内に設置された食堂へ集まって食べることがほとんどです。場合によっては居室内で食事をする場合もありますが、基本的には食堂で食べます。
一方、ユニットケアの場合も集まって食事をとるものの、場所はユニット内の共用スペースです。数十人という大人数が集まって食事をすることはなく、少人数での食事になります。
また、ユニットに台所を設けておけば自由に食事づくりをしたり、配膳や後片付けを手伝ったりできます。このような日常生活行為が継続されることで、ADL(日常生活動作)の維持が可能となり、介護施設でもある程度自立した生活を送れるのです。
入浴で比較
集団ケアの場合、浴室は施設に1カ所、もしくは各フロアに1カ所ずつ設けられていることが大半です。しかも大規模な浴室が多く、自宅の浴室とは見た目がまるで異なります。この浴室は複数人が集中的に入浴できるようにするためで、介助時も流れ作業になりやすい部分です。
ユニットケアではユニット内にそれぞれ浴室が用意されていることが多いです。入浴が難しい人のために、複数のユニットで共用できる機械浴を含む浴室が設置されている場合もあります。
ユニットケアで入居者一人ひとりの生活が尊重される施設へ
今回はユニットケアの定義やメリット・デメリット、集団ケアとの違いについてご紹介してきました。ユニットケアは10人程度の少人数が1つのユニットとして生活を送る介護を指します。ユニットケアを取り入れることで入居者一人ひとりに対する個別ケアも実現でき、従来以上に細やかな介護になるでしょう。
ただし、現在はユニット型の施設は増えているものの、食事や入浴の時間が決められているなど、本当の意味でユニットケアが実現できている施設はまだ少ないです。また、国は2001年からユニットケアの推進を手がけていますが、間取りや設備を改修するためにリフォーム工事が必要であり、多額の費用もかかってしまうことからまだ全体的な普及には至っていません。
それでもユニットケアの導入により、家庭に近い雰囲気で生活できるのは、多くの高齢者にとってメリットになる部分です。入居者一人ひとりの生活が尊重されるように、ユニットケアの拡大を期待しましょう。
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この記事のまとめ
- ユニットケアは、10人程度の少人数が1つのユニットになって生活を送る
- 集団ケアと違い、細やかで目の行き届いた介護ケアも可能
- 2000年ごろから推奨されているが、本当の意味でのユニットケア型施設は少ない
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