養護老人ホームとは|生活保護の場合の入居可否・かかる費用などを解説
老後生活が始まったら、老人ホームなどの施設に入居したいと考えている人もいるでしょう。しかし、一般的に老人ホームへ入居するとなると相応の費用がかかります。
ただしなかには小額の費用で入居できる施設もあります。なかでも今回は「最後の砦」といわれている養護老人ホームについてご紹介。入居基準から入居にかかる費用や養護老人ホームのメリット・デメリット、特別養護老人ホームとの違いなどを解説していきます。
介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、認知症ケア上級専門士、認知症介護実践リーダー、米国アクティビティディレクター、他。介護職として働く傍ら、レクや認知症、コミュニケーションに関する研修講師も務める。2014年米国アクティビティディレクター資格取得。レクリエーションを通じ、多くの高齢者に「人と触れ合う喜び」を伝え、「介護技術としてのレクリエーション援助」を広める一方、介護情報誌やメディアにおいて執筆等を手掛けている。『認知症の人もいっしょにできる高齢者レクリエーション 』(講談社)など著書多数。
養護老人ホームとは
養護老人ホームとは「経済的に困窮し生活していけない、また自力では生活することのできない高齢者」が入居できる施設です。一般的に老人ホームに入居する際の条件となる要介護度などは一切関係ありません。身体的・精神的・環境的・経済的な理由から自宅では生活できない高齢者が入居し、自立できるよう社会復帰を目指す施設でもあります。
そもそも養護老人ホームは、戦前から存在していました。孤独な高齢者を保護するための施設としての役割を持っており、現在では住む場所のない、生活に困窮している高齢者を受け入れているセーフティネットの役割を担っている施設です。そのため、通常の介護を目的とした老人ホームとは目的から大きく異なり、長期的な利用や介護サービスなどは基本的にない施設だと考えておきましょう。
養護老人ホームの入居基準
養護老人ホームは、介護サービスを提供する一般的な老人ホームとは異なる施設だと前述しました。では、具体的にどのような基準を満たしている人が入居できるのか、解説していきます。
入居できる具体的な基準とは
生活が困難で経済的にも困窮している65歳以上の高齢者であること、さらに市区町村長に入居が認められていることが条件となります。その際、介護の必要がないこと、病気などもなくサポートさえあれば自立した生活が送れることも基準の一つです。ただし、市区町村によっては、独自の取り決めで「要介護であったとしても入居可」としている場合があります。
具体的には以下のような状況になった際に養護老人ホームに入居できます。
養護老人ホームに入居できる事例
- 家賃が払えずに賃貸物件から追い出されてしまった
- 過去に犯罪歴があり、賃貸住宅を借りられず、さらに介護施設への入居もできない
- 同居している家族などから虐待を受けている
- 独居であり認知症の症状によって安全に生活できない
- ホームレスの状態である
- 年金がなく、職にも就けない状態である
基準の例外も
養護老人ホームの入居条件は、65歳以上の高齢者で経済的、かつ環境的に通常の生活が送れない状態であることが前提です。しかし、一方で例外のケースとして65歳以上という条件を満たさない場合でも養護老人ホームに入居できることがあります。
たとえば、65歳以下ではあるものの老衰が見られ救護施設に空きがなく入所できない場合や、65歳以下で認知症を発症した場合(介護保険法施行令第2条第6号に該当することが条件)、夫婦の1人が養護老人ホームに入居可能でもう1人の年齢が入居可能な年齢に到達していないがそれ以外の基準には当てはまる場合です。
いずれも住んでいる市区町村が設けている基準にもよるため、窓口への確認が必要です。
養護老人ホームは生活保護を受けていても入れるか
養護老人ホームは、生活保護を受けている人でも入居は可能です。生活保護を受けているということは、低所得であったり生活を送るだけの所得がなかったりする状態となります。これは養護老人ホームの入居条件から外れるものではないため、生活保護受給者も入居できます。
養護老人ホームは老人福祉法の改正によって、さらに「経済的理由」が重要になった
養護老人ホームの入所などに関する法的な措置について、2006年(平成18年)4月1日から老人福祉法の一部が改正されました。老人福祉法の中にあった「老人ホームへの入所措置等の指針について」は1987年(昭和62年)1月31日に定められたもので、改正に伴い2006年(平成18年)3月31日に廃止とされました。
新しい指針について、養護老人ホームの目的などは変わっていません。入居基準は「身体上もしくは精神上」を理由とした高齢者の入居ができないとしていた以前の指針から、「環境上の理由および経済的理由」と改正され、より生活に困窮した高齢者のための指針となりました。その高齢者の身体的状態や精神的状態の理由でも入居が可能となったのです。
養護老人ホームにかかる費用
ここからは、養護老人ホームに入居した際にかかる費用について解説していきましょう。
入居時にかかる費用
一般的に有料老人ホームとなれば、入居時に一時金などの費用がかかる場合があります。しかし、養護老人ホームに入居する際には、保証金や一時金などの費用は一切必要としません。入居費用がかからないので、経済的に不安がある人でも安心して入居できるでしょう。
1カ月あたりにかかる費用は
養護老人ホームでは、入居する本人やその家族の前年度の収入によって料金が変わってきます。通常得られた収入から税金や医療費、介護保険料、自己負担の介護保険サービス料などの経費を差し引いた「対象収入」を基準として判断します。例えば、1カ月あたりの収入が50万円で差し引かれる経費が25万円だった場合、対象収入は25万円です。
入居者本人の前年度の対象収入によって、1~39までの区分に分けられた費用を支払うこととなります。区分1の対象収入は27万円以下で、費用は0円です。区分2~38は対象収入が27万1円から150万円以下で、費用は1,000~8万1100円と区分によって大きく異なります。収入対象が150万1円以上となれば区分39で、かかる費用の上限は14万円です。
対象収入が27万円以下であれば1カ月あたりにかかる費用はありませんが、前年度の収入によっては1,000~14万円までの費用が必要となる可能性があります。また、この他にも扶養義務者がいれば扶養義務者の前年度の対象収入から費用が発生する場合もあるでしょう。
養護老人ホームのメリット・デメリット
養護老人ホームは他の有料老人ホームと異なる目的を持った施設であることから、入居するメリットとデメリットもそれぞれ異なっています。では、養護老人ホームのメリット・デメリットとはどのようなことが挙げられるのでしょうか。
メリット
費用が低額であること
養護老人ホームの大きなメリットの1つが、他の有料老人ホームに比べて費用が低額であることです。有料老人ホームへの入居となると、どうしても1カ月あたりにかかる費用も多くなってしまい、入居に際しての一時金などを支払わなければならない場合もあります。その点、養護老人ホームであれば対象収入によりますが1カ月あたりの費用が0円~となっているので経済的にも安心して入居できるでしょう。
万が一の場合にも対応してもらえる
養護老人ホームには、他の有料老人ホームと同様に夜間でも最低1人は職員が常駐しています。そのため、万が一夜間に何かあった場合にすぐに誰かが駆け付けてくれる環境になっており、安心できる環境だと言えます。
支援を受けながら社会復帰を目指せる
養護老人ホームの目的は利用する高齢者の社会復帰を目指すことにあります。さまざまな理由で入居している人がいますが、その多くは自立度が高く支援があれば社会復帰を目指せる人です。生活の支援を受けながら社会復帰を目指せることは、高齢者にとっても非常に大きなメリットとなり得るでしょう。
デメリット
生活に困窮しているからと言って必ずしも入居できるわけではない
養護老人ホームに入居する際には、必ず自分の住んでいる市区町村の窓口に申請をしなければなりません。「措置」という形で入居を認められなければ、例え申請をしたとしても入居はできません。さらに、最近では措置自体を渋ってしまう窓口もあり、入居するまでのハードルは非常に高くなっている可能性もあります。
65歳以上で養護老人ホームへの入居基準に当てはまっていたとしても、措置が認められなければ入居はできないので、あらかじめ必ずしも入居ができるものではないことを認識しておきましょう。
介護度が重くなった際に退去しなければならない
養護老人ホームは、最終的に社会復帰を目指す目的を持っています。介護を目的とした施設とは大きく異なっているのです。そのため、介護度が重くなってしまうと対応できる人員体制がなく、介護を目的とした施設への転居を求められてしまうでしょう。
また、医療的ケアが必要となってしまった場合にも、養護老人ホームから退去しなければならないケースがあります。あくまでも、養護老人ホームは介護施設ではないこと、社会復帰を目指すための施設であることを認識しておくことが必要です。
養護老人ホームと特別養護老人ホームとの違い
養護老人ホームは、高齢者の社会復帰を目指すための施設です。しかしながら、養護老人ホームは名前が似ていることから特別養護老人ホームと勘違いされやすい側面を持っています。では、養護老人ホームと特別養護老人ホームの違いとはどのような点なのか、ここから解説していきましょう。
目的の違い
養護老人ホームの目的については前述したとおり、経済的かつ環境的に生活が困難である高齢者を受け入れ、社会復帰を目指すことです。一方、特別養護老人ホームの目的は養護老人ホームとは大きく異なり、在宅での生活が困難な高齢者に生活上の「介護」を提供することとなっています。自宅で介護を受けられない場合に、特別養護老人ホームで必要な介護を受けながら生活することができます。
養護老人ホームは「養護」を目的としており、特別養護老人ホームは「介護」を目的としている点に大きな違いがあると言えます。
入所基準の違い
養護老人ホームの入所基準には、経済的な理由や環境上の理由によって生活が困難であることが挙げられます。
一方で、特別養護老人ホームでは要介護3~5に認定されていることが条件です。どちらも原則として、65歳以上であること、一定の健康状態を維持していることが条件となりますが、要介護度が高ければ養護老人ホームではなく特別養護老人ホームの入所対象となるため、特別養護老人ホームへの入居を促されるでしょう。
サービスの違い
養護老人ホームと特別養護老人ホームは、その目的の違いからサービス内容についても異なります。特別養護老人ホームは介護を目的とした施設であることから、介護サービスが充実しています。一方、養護老人ホームは生活に困っている高齢者を支援する目的の施設であることから、基本的に介護度が低く身の回りのことは自分でできる人が入居しているので、施設による介護サービスは実施していません。
かかる費用の違い
養護老人ホームでは、入居者や家族の対象収入によって0~14万円までの費用がかかります。特別養護老人ホームでも利用者の介護度や所得、利用する部屋によって費用が異なりますが、大抵の場合1カ月あたり8万~13万円程かかるとされています。
特別養護老人ホームについては下記の記事にて詳しく解説しています。
困った際は養護老人ホームに相談を
生活動作は自立しており、経済的もしくは環境上の理由から生活が困難である場合には、養護老人ホームを利用できます。養護老人ホームは、基本的に社会復帰への支援が受けられる施設となっているので、その後の生活基盤を築くためにも役立つでしょう。
養護老人ホームへの入居は、必ず自分の住んでいる市区町村長に措置として認められなければなりません。そのため、生活に困っているからと言って必ずしも入居できるわけではありません。
入居を希望する方は、市区町村の窓口に相談してみることをおすすめします。地域によっては支援センターなどを設置していることもあります。困っている状態であれば、何かしらのアドバイスや適切な選択肢を得て今後どのようにしたらいいのか解決していくことが大切です。
また、下記からご希望のエリアを選択すると、生活保護相談可の老人ホーム・介護施設を検索できます。生活保護の方で入居を検討している方はご活用ください。
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関東 [731]
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北海道・東北 [175]
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東海 [167]
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信越・北陸 [35]
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関西 [627]
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中国 [47]
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四国 [46]
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九州・沖縄 [141]
この記事のまとめ
- 養護老人ホームは高齢者の自立支援をする施設
- 他の有料老人ホームと比べて費用は低額
- 特別養護老人ホームとは目的から異なる施設
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