入浴介助とは|洗う順番・やり方・施設内のマニュアルなどを紹介
施設への入居を検討している人の中には、入居後の生活に不安を抱えている人も少なからずいるでしょう。特に大切な家族が入居するとなった場合、入居後はこれまで以上に安全かつ安心して生活できる環境かどうかは、入居する施設を決める際にも大きな決め手となります。
普段の日常生活の中でも、入浴は入居者の身体的・精神的にも重要な役割を担っているものです。施設ではどのように入浴介助をしているのか、入浴時に起こる事故への対策はどのようにしているのか、などの安全面も気になるところでしょう。そこで今回は、施設での入浴介助について、なぜ介助が必要となってくるのか、入浴介助時に用意するものや気を付けていることなどをご紹介していきます。
大手介護専門学校にて12年で約2,000名の人材育成に関わり、その後、人材定着に悩む介護事業所の人材育成や運営支援を実施。2020年4月からは一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して介護甲子園を主催している。
入浴介助とは
入浴介助とは、その名の通り入浴に関する介助をすることを指します。自身で入浴ができれば問題ありませんが、なかには病気や障害などから自力では入浴できないこともあります。そこで、介護職や看護師に入浴時の手助けをしてもらうことを入浴介助といいます。
施設によって詳細なマニュアルは異なるかもしれませんが、正しい順番や準備、心構えをして入浴介助を実施しています。これらを理解していない人が介助してしまうと、不快な思いをしたり、危険にさらされてしまったりすることも十分にあり得るでしょう。施設であれば、ポイントをおさえたうえで介助してもらえます。
なぜ入浴介助が必要なのか
年齢が高くなればなるほど、体感温度に鈍感になってしまい、汗もかきにくくなります。自身でも「汚れていないから入浴しなくても良いのではないか」と考える人も多くいます。しかし、入浴には大切な役割があるのです。
入浴の目的としては、体を清潔に保つこと、心身のリラックス効果、機能向上が挙げられます。たとえ汗をかいていない状態でも、皮膚に付着した汚れや細菌は存在しています。入浴せずに過ごしていると汚れや細菌が繁殖してしまい、体臭がきつくなってしまったり、最悪の場合感染症を引き起こしたりする原因にもなるでしょう。
また、入浴することで副交感神経が働き、睡眠不足やイライラの解消といった心身のリラックスにもつながります。そして、入浴すると体の血行が良くなり代謝が改善されます。血行が良くなれば、普段寝て過ごすことの多い人に心配される床ずれや筋拘縮などの予防にもつながるでしょう。
入浴は心身ともに大きくQOLを向上させることが可能です。自身の身だしなみが整うことで自尊心も高まります。そのため、入浴が満足にできなければ入浴介助を受けることが大切です。
入浴介助をするにあたって用意するもの
入浴介助をする際には、まず必要なものを用意しておきます。必要なものがしっかりと準備されていることで、本人に負担をかけることなく入浴介助を実施できるでしょう。ここからは、入浴介助時に用意するものをご紹介します。
タオル
入浴後、体を拭く際に必要となるタオルは吸水性の高いものを用意しておきましょう。吸水性が高ければそれだけ拭く時間を短縮でき、利用者の負担を軽減できます。また、タオルはできるだけ大きめのものを選ぶと、より体を拭く時間を短縮することにつながります。介助を受ける人のなかには、体を拭く際にもその姿勢が辛く負担となってしまうこともあることから、入浴後の体を拭く時間はできる限り短縮できるようにします。
着替え
入浴後の着替えもあらかじめ準備しておくと、入浴後の体を冷やさずに服を着てもらうことができます。また、人によってはオムツの準備が必要な場合もあります。オムツを履いていることを恥ずかしいと感じている人もいるので、なかなかオムツが必要だと自分から言うのをためらってしまいます。そのため基本的には、介助する側からオムツが必要かどうかを確認します。
柔らかいスポンジなど
体を洗う際には、必ず刺激の少ない柔らかいスポンジやボディタオルなどを用いるようにします。高齢者の肌はどうしても刺激への耐性が弱まってしまっています。そのため、刺激の少ない柔らかいスポンジやボディタオルを用いて、なおかつできる限り優しく体を洗うようにしましょう。
滑りにくい靴
入浴の際に介助する側が転倒しないよう、滑りにくい靴が必要です。介助する側が転倒してしまえば、それだけ事故の危険性も高まります。滑りにくい靴を用意しておくのは、介助者だけでなく介助を受ける側の事故を減らすためにも重要です。
エプロン
介助者がつけるためのエプロンも準備しておきましょう。入浴介助の際には、介助者も濡れてしまう可能性があります。あらかじめ濡れてしまわないようにエプロンを着けておくと良いでしょう。
身体を洗う順番は
入浴介助では、体を洗う順番も重要です。要介護者の負担をできる限り軽減するために、心臓へ急な刺激を与えないよう手足などの末梢から体幹の順に体を洗っていきます。
手足などの抹消には無数の細い血管が流れており、そこからお湯をかけたり洗い始めたりすることで、血行が良くなります。血行が良くなることで必然的に体温も上昇するため、高齢者に多い冷え性の改善にも効果的です。以下の手順が一般的となっています。
必ずこの手順に沿わなければならないわけではありません。本人の希望を聞きつつ、体を洗っていくことが大切です。
人によってはどうしても先に洗ってほしいところや、他人には触られたくないところがあります。信頼関係を築く際にも重要となりますし、本人の精神的な負担を軽減するためにも重要なこととなります。
手順に沿う必要はないと前述しましたが、手足などの抹消からお湯をかけ始めることだけは徹底しなければなりません。心臓から遠いところから始めることで、要介護者の身体的な負担を軽減することにつながります。
体を洗う順番としては、上半身から下半身が一般的です。顔や首から洗い、手先から腕、胸から背中にかけて上半身を洗っていきます。
下半身は足先から洗い始め、ふくらはぎから太もも、臀部、陰部、肛門と洗っていきます。陰部や肛門に関しては自身で洗ってもらうように促しますが、肛門に関しては手が届きにくいところでもあるので必要であれば手伝います。
高齢者の肌は、乾燥しやすく弾力もありません。できるだけ刺激を与えないように、どこを洗うときにも強くこすらないようにします。強くこすってしまうだけでも痛みを感じてしまったり、皮膚にダメージを与えてしまったりするので注意が必要です。
入浴時に気をつけること
入浴は要介護者にとって、体の清潔に保つためだけでなく心身のリラックスにもつながるものです。さらに、入浴によって血行が良くなれば床ずれや筋拘縮の予防にも役立ちます。
非常に心身への良い効果が期待できる入浴ですが、その一方で入浴時には多くの事故も発生しやすいです。入浴介助の際に気を付けておきたいことについて、解説していきましょう。
転倒
入浴介助がどの程度必要かによっても、転倒の危険度は異なります。浴室内は床が濡れているため、非常に滑りやすい状態となっています。また、浴室と脱衣所の段差がある場合、少しの段差でも転倒してしまう恐れがあります。高齢者でなくても転倒してしまう危険は十分にあります。高齢者が転倒してしまうと、それだけで骨折などの重大なケガにつながりやすいです。
転倒防止のために、浴室内に手すりやすのこを設置すると効果的です。さらに、介助者側も転倒しないよう見守ったり、介助者自身滑りにくい靴を履いたりすると良いでしょう。
入浴後には、転倒防止のために足の裏を優先的に拭くようにしましょう。その後、タオルで全身を拭いても遅くはありません。まずは、転倒のリスクを軽減することが大切です。
ヒートショック
ヒートショックは、急激な体温の変化で起こるショック症状を指します。高齢者や病気を持っている人、体が弱っている人に多く発生しています。
気を付けたいタイミングとしては、脱衣の瞬間や脱衣所から浴室へ浴室から脱衣所へ入る瞬間、湯船に浸かる瞬間が挙げられます。入浴介助前には脱衣所と浴室の温度差がないように温度を上げておくなどして対策をしておきましょう。
すりむき傷
高齢者の肌は、乾燥しやすく弾力もないため少しの摩擦であってもすりむき傷につながってしまう恐れがあります。このすりむき傷を皮膚剥離といいます。どこかにぶつけた拍子や何かで軽く擦ってしまった場合にも起こりやすいケガです。
入浴介助時にはスポンジなどを用いて洗いますが、その際にもこすりすぎないように優しく洗うことで皮膚剥離を起こさない対策となります。また、介助時に椅子を用いる場合でも椅子にタオルを敷いておくなどの配慮を欠かさずにしておきましょう。
のぼせ
体力が低下している高齢者は、通常よりものぼせやすくなっていることが多いです。そのため、入浴時間は最大でも15分ほどとして、湯船に浸かる時間は5分ほどを目安としてください。
のぼせてしまうことで、入浴後体調が悪くなってしまうことも十分に考えられます。体調が悪くなってしまえば、今後さらに入浴への気持ちも向きにくくなりますし、利用者の体の負担も大きくなってしまいます。しっかりとのぼせないように入浴時間を管理しましょう。
洗い残し
入浴したとしても、洗い残しがあっては意味がありません。感染症を予防するためにも洗い残しがないようにしましょう。本人にも洗い残しているところがないか、かゆみを感じるところがないか確認していきます。
事前の体調チェック
入浴前には、体調のチェックが欠かせません。高齢者は自身が体調不良でも自覚症状がないことも多く見受けられます。
入浴後に急に体調不良が悪化してしまうこともあるので、事前に体調をチェックしておくことが大切です。血圧や心拍、体温などのバイタルサインをチェックし、健康であることが確認できたら入浴できるよう徹底します。
施設では「できることは自分でする」を重視している
施設での入浴介助について、どのように実施しているのかなどを解説してきました。施設では常に利用者の健康と安全に配慮しながら、入浴介助を実施しています。入浴介助を見学することは難しい場合もあるので、一般的にどのような介助をしているのか把握しておくのも大切でしょう。
施設で実施している入浴介助は、あくまでも利用者が自身でできないことをサポートするための介助です。入浴介助をしてもらうにしても、利用者自身でできるところは利用者にお願いしています。これは、介助したくないなどの理由ではなく、利用者の日常動作を維持するために非常に重要なことです。
できることを自分でしてもらうことで利用者にとっても自尊心が高まりますし、本来であればできたのに、それができなくなってしまうリスクを避けられます。これまでできていたことはそのままに、入浴介助でできないところをサポートすることを施設では重視しているのです。
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この記事のまとめ
- 入浴介助は清潔を保ち、心身のリラックス効果を高めることが目的
- 入浴時には転倒やヒートショックなどに十分配慮する
- できるところは自分でやってもらうことが大切
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