正常圧水頭症とは│治療(手術)法や診療ガイドライン、予後など

家族が突然「正常圧水頭症」に罹患してしまった、またはその疑いがあると診断された場合、どうすればいいのか分からなくなる人も多いでしょう。特に正常圧水頭症はそれほど名が知れた病気というわけでもなく、初めて名前を知った人も多いはずです。

もし家族が正常圧水頭症と診断、もしくは疑いがあると言われた場合、どのような治療が必要になってくるのでしょうか?そこで今回は、正常圧水頭症に関する基礎知識から検査・治療方法などについてご紹介します。正常圧水頭症について詳しく知りたい人はぜひ参考にしてみてください。

正常圧水頭症とは│治療(手術)法や診療ガイドライン、予後など
平栗 潤一

この記事の監修

平栗 潤一

一般社団法人 日本介護協会 理事長

大手介護専門学校にて教職員として12年勤務し、約2000名の人材育成に関わる。その後、その経験を活かし、認知症グループホームや訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅などの介護事業や、就労継続支援B型事業所や相談支援事業所などの障がい福祉事業を運営。また一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して活動中。

正常圧水頭症の定義、ガイドライン

まずは正常圧水頭症がどういった病気なのかご紹介していきます。正常圧水頭症とは高齢者によく見られ、頭の中にある脳脊髄液が溜まりすぎて脳を圧迫してしまう病気です。

脳は非常に柔らかい臓器で、硬い頭蓋骨によって守られています。しかし、そんな硬い骨に直接脳が当たってしまうと壊れてしまうため、クッション代わりに脳脊髄液と呼ばれる水で満たされ、脳が直接頭蓋骨に当たらないようになっているのです。

脳脊髄液は脳室という場所から新しく作られ、古くなった液は体内に吸収・排出されるようになっています。正常圧水頭症は、何かしらの原因で脳脊髄液が吸収されずに溜まってしまい、水圧で脳が圧迫されて機能マヒを起こしてしまう病気です。最初は頭蓋骨内の圧力も上昇していくのですが、だんだん脳室が拡大していくと圧力はほぼ正常に戻ってしまうため、正常圧水頭症という名前が付けられています。

「治る認知症」ともいわれる

脳が圧迫されると、認知症のような症状を発症します。ただし、正常圧水頭症を治療して脳が圧迫されなくなれば、そのような症状も改善されていきます。さらに、高齢者に多く見られる病気であることから「治る認知症」ともいわれているのです。

正常圧水頭症に係る原因と予防法

正常圧水頭症は、脳脊髄液がうまく吸収されず溜まっていくことで発症します。しかし、なぜ液が溜まってしまうのでしょうか。ここでは詳しい原因と予防するためのポイントを解説していきます。

正常圧水頭症の原因

正常圧水頭症には、他の病気によって引き起こされる続発性正常圧水頭症と、原因が分かりにくい特発性正常圧水頭症の2種類があります。

続発性正常圧水頭症は、くも膜下出血や髄膜炎、頭部外傷などが原因で発症します。

一方、特発性の場合は原因を特定することは難しいといわれています。ただし、多くの患者が高齢者という点から、加齢による影響が少なからずあるのではないかと考えられるでしょう。さらに、身内で複数の特発性正常圧水頭症が見られるケースもあることから、遺伝が関係しているのではないかともいわれています。

現在はこのほかにも、過去に頭部をぶつけた影響が出ているなど、さまざまな仮説が登場しています。どれが原因になっているのか研究が進められている最中です。

正常圧水頭症を予防するためには

特発性正常圧水頭症の場合、原因が不明であるため予防することは困難です。もしそれらしき症状が見られた場合、早めに病院を受診し早期治療につなげていきましょう。

続発性正常圧水頭症では外傷を防ぐことは難しいですが、髄膜炎ならワクチン接種をすること、くも膜下出血なら発症の2大リスクといわれている高血圧と喫煙習慣を改善していくことで、続発性正常圧水頭症の発症リスクを回避できます。

正常圧水頭症の症状

正常圧水頭症では認知症のような症状が見られると簡単にご紹介しましたが、具体的にどのような症状が見られるのでしょうか。早期発見するためにも、症状について把握しておきましょう。

歩行障害

一般的な認知症では、歩行障害は見られません。そのため、正常圧水頭症とそのほかの認知症を見分けるポイントにもなります。正常圧水頭症になると早い段階で歩行障害が見られ、がに股歩きのようになってしまうのが特徴的です。

歩行が不安定になりやすく、立ち上がったり歩く方向を変えたりするときにふらつきや転倒が起きやすくなります。高齢者の場合、転倒がきっかけで寝たきりになってしまう可能性もあるため、十分な注意が必要です。

意欲の減退

脳が圧迫されることで集中力が途切れやすくなったり、注意力が散漫になったりする傾向が見られます。認知症の場合はさらに記憶障害も起こりますが、正常圧水頭症ではそれほど大きな記憶障害は起こりません。どちらかというと声をかけても反応が遅くなったり、やる気がなかったり、表情も乏しくなったりするため、うつ病のような状態といえます。

排尿障害

病気が進行していくと排尿障害も起こるようになります。いきなり尿意を感じてトイレに間に合わなかったり、我慢できなくなったりするといった尿失禁が特に見られます。また、膀胱に尿を溜められず頻尿にもなりやすいです。

正常圧水頭症の検査

正常圧水頭症と正しく診断するためには、検査も必要です。続いては正常圧水頭症の検査方法についてご紹介しましょう。

髄液排除試験

髄液排除試験はタップテストとも呼ばれる検査方法で、背骨から細い針を差し、髄液を抜いて検査する方法です。髄液を抜いた後に歩行障害が緩和され歩きやすくなる変化が見られたら正常圧水頭症である可能性が高くなります。

髄液排除試験の効果は、1日で戻ってしまう人もいれば長期的に続く人もいたり、歩行障害だけでなく尿漏れや話し方などに変化が起きたりすることもあります。この試験で症状が改善されたら、髄液シャント術をすることで持続的に改善されていくのが一般的です。万が一髄液排除試験で効果が見られなくても、再度検査を実施したり他のテストをしたりします。

脳 MRI

脳のMRI検査を実施する方法です。正常圧水頭症に罹患していると、MRI検査で特徴的な画像所見が見られます。それは、脳室の拡大と頭のてっぺんにある脳実質が詰まって見えるというものです。認知症の場合、脳が委縮するため頭蓋骨と脳実質の間に隙間ができるのですが、正常圧水頭症だと詰まって見えるため、認知症とは所見が異なります。

また、脳のMRI検査では同時に脳梗塞や脳の血管に問題が見られないかなども確認していきます。

全脊髄 MRI

全脊椎MRIは、頚椎・胸椎・腰椎・仙尾骨の全脊椎を観察できる診断方法です。ヘルニアの診断をする際に用いられますが、正常圧水頭症でも頚椎症や腰椎症の合併がないか調べるために使用します。頸髄が圧迫されたり神経根障害を発症したりしていると、歩行障害・排尿障害につながるケースもあるため、この検査がおこなわれます。

脳 SPECT

SPECT検査とは、MRIでは見られない脳の血流を検査する方法です。脳の機能が低下している箇所は脳の血流も停滞してしまうため、特発性正常圧水頭症やアルツハイマー型認知症などの診断に有用となります。SPECT検査はあくまでも補助的な検査であり、MRIなどと合わせて診断していきます。

正常圧水頭症の治療

正常圧水頭症は発見が遅れてしまうと、手術したとしても何らかの障害が残るなど、大きな改善が見込めない可能性があります。そのため、早期発見・早期治療が重要なポイントです。ここからは正常圧水頭症の具体的な治療方法について解説していきましょう。

手術

正常圧水頭症の治療は基本的に手術を実施し、吸収されずに溜まった髄液を他の場所へ流していく必要があります。そのために実施するのが、「シャント術」です。

シャント術は約1時間程度で終わる手術で、脳神経外科関連の手術の中ではある程度簡単な手術といわれています。ただし、全身麻酔下で実施するので全身麻酔や手術が実施できる状態であることが条件になってくるでしょう。シャント術には3種類の方法があります。

VPシャント術

VPシャント術は脳室から腹腔にシリコン管を通し、髄液をおなかの中で吸収させる方法です。VPシャント術にも前頭部に穴をあけて挿入する方法と、後頭部に穴をあけて挿入する方法があります。

後頭部から挿入した方が見た目も良いのですが、その一方で管を回旋させる必要があり、挿入する方向がずれやすくなるのはデメリットです。また、VPシャント術は脳に悪性腫瘍が見られた場合、シャントを通して腹腔へ転移する可能性があるともいわれています。

LPシャント術

LPシャント術は腰から腹腔にかけてシリコン管を通し、おなかの中で吸収させる方法です。髄液排除試験と同様にまず細い針を差し込んで髄液がきちんと排除されたことが確認できたら、太い針を挿入しその中に細いシリコン管を挿入していきます。

治療として一般的なのはVPシャント術ですが、脳の中に管を通すためどうしても脳が傷ついてしまうリスクがありました。しかし、2015年に特発性正常圧水頭症に対するLPシャント術の有用性が初めて立証されたことにより、LPシャント術が普及していったのです。現在ではLPシャント術を選択する人も増えてきています。

脳室に管を通さないことによるメリットは大きいですが、LPシャント術にもデメリットはあります。まず、脳室内だけでなく腰部くも膜下腔の間に閉塞がないことが前提条件となるため、閉塞があった場合LPシャント術はできません。また、シャントの機能不全がVPシャント術に比べると起こりやすいともいわれており、再度正常圧水頭症の症状が見られるようになるかもしれません。

VAシャント術

VAシャント術は脳室から心臓(右心房)へシリコン管を通し、髄液を血液へ移して体内に吸収させる方法です。以前はVAシャント術も選ばれていましたが、最近ではほとんど実施されていません。しかし、腹膜炎に罹患したことがある人や腹部の手術を受けたことがあり、腹腔内での癒着が懸念されている人の場合は、VAシャント術が選ばれる可能性があります。

シャント術は体内に管を通すことになるため、どの方法でも必ずリスクは存在します。メリットだけではなく、必ずリスクの部分も理解しておくことが大切です。

リハビリをする場合も

手術後は髄液がきちんと流れれば正常圧水頭症の改善も見込めますが、どうしても筋力が低下してしまい、いくら治療が成功していても歩行障害が悪化する恐れがあります。歩行障害を悪化させないためにも手術前からリハビリを実施し、術後も体調に問題がなければ翌日にでも再開されます。

正常圧水頭症の症状の1つである意欲の減退により、リハビリの意欲が薄れ、「やりたくない」といわれてしまうかもしれません。そんな時は無理強いをさせずに本人が好きな音楽を聴いたり、読書をしたり、会話から昔の出来事を話したりしてみましょう。人とのコミュニケーションも良いリハビリになります。ぜひ積極的に話しかけてあげてください。

正常圧水頭症の予後

正常圧水頭症の治療でシャント術を実施すると、わずか数日で症状が改善される場合もありますが、人によっては数週間、もしくは数カ月以上経過しないと改善されない場合もあります。

また、どれくらい症状が改善されるかにも個人差があります。90%近く回復する人もいれば、50%程度しか回復しない人もいるのです。こうした改善の程度は治療前には予測できません。予後は何不自由なく暮らせる人もいますし、症状をぶり返してしまう人もいます。

それでも多くの場合、治療により症状は改善されていきます。特に歩行障害は高確率での改善が期待できるでしょう。

歩行障害が改善されれば排尿障害も併せて改善されやすくなります。これは、自力移動がしやすくなることでトイレにも間に合いやすくなるためです。歩行障害が改善されれば意欲減退の改善にもつながり、自立度はどんどん高まって介護の負担も軽減されていくことでしょう。

基本的にシャントが体内に入っている以上、激しい運動は難しいですが、日常の生活で何か制限されるようなことはありません。それでも歩行にふらつきが見られる場合もあるため、見守りが必要になるケースもあるでしょう。

また、シャントが体内に入った状態になるので、定期的に受診し問題がないか検査してもらう必要があります。定期的に受診していないと、シャントの異常や再発などの早期発見が難しくなるため、医師の指示に従って定期的な受診をするようにしてください。さらに、症状がぶり返した場合も早めに医師へ相談するようにしましょう。

正常圧水頭症は適切な検査と治療が大切

正常圧水頭症は高齢者に多く見られることから、認知症と間違われやすい病気です。しかし、認知症とは異なりきちんと検査して治療・リハビリを実施すれば、症状も改善されていきます。治療後も症状がなかなか改善されないときは介護保険を利用してサポートを受けられることもあるので、役所の福祉相談窓口などへぜひ相談してみてください。

この記事のまとめ

  • 脳脊髄液が吸収されず脳を圧迫する病気を、正常圧水頭症という
  • 正常圧水頭症で見られる症状は主に歩行障害・意欲の減退・排尿障害の3種類
  • 治療ではシャント術を実施し、脳脊髄液を他の場所で吸収させる

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