回想法とは|テーマ・手法・正しく実践する方法を紹介
認知症の方の非薬物療法として有名なのが「回想法」です。過去の記憶を思い出すことで脳に刺激を与え、認知症の進行を緩やかにすることが期待されています。
回想法について耳にしたことはあれども、やり方が分からない場合もあるでしょう。今回は実践する手順や事前の注意点、テーマの探し方、各手法の具体的な内容などを紹介します。在宅介護に取り組んでいる方をはじめ、認知症の改善・予防を考えている方はぜひご覧ください。
介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、認知症ケア上級専門士、認知症介護実践リーダー、米国アクティビティディレクター、他。介護職として働く傍ら、レクや認知症、コミュニケーションに関する研修講師も務める。2014年米国アクティビティディレクター資格取得。レクリエーションを通じ、多くの高齢者に「人と触れ合う喜び」を伝え、「介護技術としてのレクリエーション援助」を広める一方、介護情報誌やメディアにおいて執筆等を手掛けている。『認知症の人もいっしょにできる高齢者レクリエーション 』(講談社)など著書多数。
回想法とは認知症の非薬物療法
回想法とは認知症の非薬物療法の1つです。写真や会話を通して昔の記憶をさかのぼることで脳に刺激を与え、認知症の予防や進行抑制の効果が期待できます。
認知症の方は記憶時間の短い短期記憶は失われるものの、記憶時間の長い長期記憶は保たれます。例えば「今朝、食事をしたこと」は短期記憶であり忘れてしまいがちです。しかし「学生時代は野球をして遊んでいた」「小学生のころにはよく駄菓子屋に通っていた」などの昔の記憶は残ります。
「回想法」は長期記憶を生かした治療法であり、脳機能と精神面の両方を通して認知症対策ができます。
認知症の治療や予防に関しては以下の記事もご覧ください。
回想法の歴史
回想法が生まれたのは1960年代のアメリカです。提唱したのはアメリカで最も影響力のある老年学者ともいわれるロバート・バトラー氏でした。
バトラー氏は当時、アメリカ心理学会に所属していました。当時は年をとってから回想する人についてネガティブに捉えられており「現実逃避」「老年精神病の初期症状」などと考えられていました。バトラー氏はその状況にショックを受けたといいます。
そこで彼は考えを転換しました。高齢者同士の回想は、悩みの共有などによって精神的なストレスを軽減することにもつながると考えたのです。また人生を振り返ることで自尊心を得られること、過去の未解決な事象を整理できることにも着目し、回想法についてあらためて積極的に提唱し始めました。
なぜ回想法が認知症の予防、進行抑制になるのか
では続いて「なぜ回想法が認知症の進行抑制に効果的なのか」ということに関して、認知症の原因から説明しましょう。
認知症はそもそも1つの疾患の名前ではありません。さまざまな要因によって脳の認知機能が低下してしまった状態です。ストレスや老化、生活習慣病などによってアルツハイマー病やパーキンソン病、脳血管性疾患といった疾病を患った結果、脳機能が衰退してしまい、認知症を引き起こすといわれています。
認知症についてより詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
回想法に取り組むことで「確認すること」や「思い出すこと」、また「人に話して伝えること」ができ、脳が活性化します。しかも本人にとって自分の人生を誰かに話すという行為は楽しいものであり、前向きに実践することが可能です。結果、認知症の予防・進行抑制が期待できます。
その他の認知症の非薬物療法一覧
ちなみに非薬物療法は回想法以外にもあります。以下が主な非薬物療法で「アクティビティケア」ともいわれます。
- 認知機能リハビリテーション
- 生活リハビリテーション
- 園芸療法
- ペット療法
- 音楽療法
認知症の種類によっては薬物療法も効果的ですが、非薬物療法も介護施設で頻繁に取り入れられており効果を発揮しています。
回想法には2種類ある
1960年代にバトラー氏が提唱した当初から、回想法には対面(個人回想法)とグループ(グループ回想法)の2種類があります。在宅介護の場合は対面が多くなるでしょう。一方、介護施設や通所サービスの事業所ではグループで回想法に取り組むことも多くあります。
個人回想法とは
聞き手(介護者)と語り手(認知症の方)の2人で回想法に取り組むパターンです。在宅介護中の家族が取り組むこともあれば、ソーシャルワーカーや訪問看護師などが聞き手になる場合もあります。
個人回想法のメリット
個人回想法の場合は1人ひとりにフォーカスして話を聞けます。より精度の高い回想ができるほか、話が散らかることも少ないのがメリットです。
グループ回想法とは
10名前後のグループになって回想法をする手法です。グループホームをはじめとする介護施設では介護士や看護師が聞き手になって取り組まれることが多くあります。
グループ回想法のメリット
同時期を生きてきた他人の話によって自分自身の回想も深まり、より脳が刺激されるのがグループ回想法のメリットです。また話が盛り上がりやすく、比較的ポジティブな雰囲気で会話ができます。
回想法を実践する順序
では実際に回想法をするにあたっての順序について紹介します。事前にどんな準備をすべきで、どのような流れで進めればいいのでしょうか。
まずは個人かグループかを決める
個人回想法かグループ回想法かを決めましょう。もしグループで取り組む場合には、一緒に同席するメンバーの関係性などにも気を遣うことが大切です。
参加メンバーについてリサーチする
聞き手としては相手の返答に答えられるよう準備をしておく必要があります。「分からない」は禁句であり、同調したり肯定したりしなければいけません。相手の生まれた年齢を把握しておき、年表などでリサーチをしておきましょう。
テーマと道具の使い方を決める
回想法をする場合はテーマがさまざまあります。例えば「生まれ育った家庭」や「学校での生活」「社会的な出来事・トレンド」「服装」「勤めていた会社」などがあります。詳しくは「回想法の手法」にて後述しましょう。
また道具もさまざまです。写真を見せたり、クイズを出したり、音楽を流したりと五感を刺激する道具を使うことでより会話が盛り上がったり、鮮明に回想できたりします。こちらも後述します。
回想法のテーマの一覧
回想法のテーマを決める際は幼年期からさかのぼって決める場合が多くあります。幼年期から現在にかけての記憶をたどっていく手法です。ではテーマの例を紹介しましょう。
幼年期 | 家庭での生活 |
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住まい |
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遊び |
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洋服や髪型 |
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買い物 |
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学童期~青年期 | 学校での生活 |
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習い事 |
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交友関係 |
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就職・仕事 |
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娯楽 |
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壮年期 | 仕事 |
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出産や子育て |
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定年 |
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これから |
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回想法の手法
回想法は先述したとおり、対面とグループでの手法に分かれます。そのなかでも細分化された手法があり、道具を使って思い出を深堀りしていくのが主な流れです。さまざまな道具を組み合わせて進めるのも手段の1つですので、ぜひいろいろと試してみてください。
写真を見せる
対象者の若かりしころの姿や住んでいた街の風景、使っていた道具などの写真を見せながら回想法を進める方法です。当事者がビジュアルで当時の風景を確認できるので、細かな資料があれば、より分かりやすく回想ができるでしょう。
質問をする
会話のなかで、回想を促す手法です。ただし詳しくは後述しますが、時には記憶違いがあり、事実とは異なる返答を受ける可能性もあります。その際に決して否定をしてはいけません。常にすべての答えを受け入れながら会話を進めましょう。
思い出の品を使う
実際に家事をするうえで使っていた製品や遊び道具、仕事で使っていたツールなどを用いながら回想を促す手法です。在宅介護でする場合は自宅に残っているものを見せて触ってもらいます。介護施設でする際は家族に協力してもらい思い出の品を借りましょう。視覚的にはもちろん、匂いや触感なども含めて回想できるのが魅力になります。
クイズを出す
質問の方法に似ていますが、クイズを出すのも手段の1つです。対象者に答えてもらいながら進めていきます。「昭和クイズ」などで楽しみながら回想法ができますので、場が盛り上がりやすくなるのが特徴です。
NHKの回想法ライブラリーも利用できる
NHK(日本放送協会)では「回想法ライブラリー」という名称で高齢者が気軽に回想法に取り組めるWebページを展開しています。回想法ライブラリーでは昭和の日本の暮らしが年表と写真でまとめており、ITが普及する前に使われていた道具やテレビ番組、生活のスタイルなどを擬似的に体験できるのが魅力です。
スマホ1つで回想法ができるので、使いやすく便利なツールです。また親族で集まる際などに話題づくりの一環としても利用できるので、興味がある方は試してみてください。
回想法を実践する際の注意点
ではいざ、回想法を実践する際に気をつけるべきポイントを紹介します。あらかじめ「やってはいけないこと」を知り、安心して回想法に取り組んでください。
はじめにテーマと手法を決めておく
先述したとおり、回想法には「テーマ」と「手法」があります。先にテーマと手法を決めておくことでスムーズに回想法を始められるのです。準備をせずに始めてしまうと、認知症の方も不安になってしまいます。
必ず「話すこと」をゴールにする
回想法はその名前から「思い出す行為」を目指してしまうケースがあります。しかし脳機能を最大限まで高めるためには「話して伝えること」を目的にしましょう。特に会話が盛り上がると、そのぶん認知症の方は気分がよくなり、どんどん会話を進めてくれるようになります。
否定をしない
回想法のなかで事実と違う部分があってもとがめてはいけません。認知症の方は長期記憶が残っているといえども間違ってしまう可能性があります。認知症でなくても過去の記憶が改ざんされてしまうことと同じです。すべて肯定をすることで話している側も気持ちがよくなりますし、話が途絶えにくくなります。
嫌な思い出を無理に話させない
思い出すなかで、もちろん嫌な思い出や他人に知らせたくない過去もあるでしょう。その際に「思い出してもらわないと」と焦って無理やり聞き出してはいけません。その記憶が引き金となって、回想法が中断してしまう可能性もあります。本人が話したい内容だけを聞き入れましょう。プライバシー保護にも気を付けてください。
「クロージング」を意識する
クロージングとは回想法の締めくくり方を指す言葉です。回想法以外の心理的な療法全体についてクロージングは非常に重要になります。
例えば、戦争中の話をした場合、そのままで終わると不穏な空気になることがあります。最後は、皆でおやつを食べたり、お茶を飲んだり、現在の話をしたりして、明るく終わらせるのが良いでしょう。
暗い気持ちで終わらず、最後に明るい話題を持ってくることでその後の日常生活にも活気が出ます。
回想法を学びたい方は資格の取得も効果的
本格的に回想法に取り組むにあたって、勉強をしたいと考えている方は回想法の資格を取得するのもいいでしょう。
介護福祉士や社会福祉士の資格とは別に「心療回想士」という資格があります。先述したような回想法の手段やテーマ、その他の注意点など、回想法に関する知識などを網羅的に学ぶことが可能です。現在、介護施設で働いている方などはもちろん、これから在宅介護を進めていく方、今後、介護関係の資格を取得しようと考えているといった方にもおすすめです。
回想法を利用して楽しみながら認知症対策を
回想法を使うことで、楽しみながら認知症の対策ができます。すでに認知症になってしまった方は進行抑制につながりますし、まだ認知症になっていない方にとっては予防になるでしょう。非薬物療法としても気軽にできますので、必ず注意点を守ったうえで実践してみてください。
またそのほか認知症の非薬物療法にはペット療法や園芸療法など「生きがい」を感じることで脳を活性化する手法があります。生きがいを感じることと認知症の進行とは相関があるといわれています。詳しくは以下の記事もご覧ください。薬を使うのはもちろん、他の療法も組み合わせながら認知症の対策をしましょう。
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この記事のまとめ
- 回想法は認知症の予防と抑制の両方に効果がある
- 回想法は自分の過去を「話してもらうこと」がゴール
- 回想法にはテーマと手法がある
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