認知症サポーターとは|なり方や養成講座の内容、役割などを紹介
認知症サポーターとは認知症の症状がある方々への理解を深め、サポートするための存在です。高齢化が進み「2025年には高齢者の5人に1人が認知症になる」といわれている日本において、とても重要な問題になっています。この記事では認知症サポーターの役割や認知症の人にもたらす影響、資格の取り方などを紹介します。
介護事業を運営する企業に勤務。2016年「RUN伴Tシャツコンテスト」で入賞。以降、全国の事業所やコミュニティのデザインに関わる。認知症サポーター養成講座の開催数では常に全国上位である。2019年2月からは横浜市多業種交流会「浜CHAN」会長に就任。「誰一人取り残されない世の中」と「認知症キャラバンメイト活躍の場の提供」をテーマに活動している。
認知症サポーターとは
認知症サポーターとは、認知症に関する正しい知識と理解をもち、地域や職域で、認知症の人や家族に対してできる範囲で手助けをする人のことです。自分自身が認知症に対する理解を深めるのはもちろん、地域のリーダーとして周りに影響をもたらしながら認知症のサポートをする役割になります。主催しているのは「認知症サポーターキャラバン」です。
認知症サポーターは、各自治体で開催されているおよそ90分の養成講座を受講するだけで誰でもなることができます。よって特別な職業や資格とはいえません。しかし社会的には非常に重要な役割です。サポーターは、自分の日常生活のなかで認知症への理解と支援の心をもって行動することが重要になります。
認知症の症状は人によって違いますが、周囲の人の不適切な関わり方が原因で徘徊や暴言、暴力が起こることがあります。認知症の症状は完治できないこともあり、周りの理解と対応が必要になるのです。
そのため、認知症サポーターキャラバンでは認知症サポーターを全国で養成し、認知症高齢者などにやさしい地域づくりに取り組んでいます。認知症サポーター養成講座は、地域住民、金融機関やスーパーマーケットの従業員、小・中・高等学校の生徒など、さまざまな人が受講できる内容です。
認知症サポーターの証は「認知症サポーターカード」
後述する研修を受けて「認知症サポーター」に認定されたら、原則として「認知症サポーターカード」が配布されます。カードのデザインは自治体によってさまざまですが「私は認知症サポーターです」と明記されたカードです。
2020年まで認知症サポーターの証は「オレンジリング」というラバーバンドでした。
しかし認知症サポーターキャラバンを運営する特定非営利活動法人 地域共生政策自治体連携機構は2020年11月13日「令和3年度以降の“認知症サポーターの証となる”グッズについて」というお知らせを発信。2021年からオレンジリングの無料配布を取りやめ、代わりに認知症サポーターカードを渡すことを決定しました。判断背景は以下の3項目です。
- 認知症の人に必要な際に提示して安心してもらえるよう、より携帯しやすい形状にすること
- 認知症サポーターとしての心得を常に振り返ることができるようにしておくこと
- 地域性や創意工夫を生かしたものとすることで、認知症サポーターが地域の一員としてより身近に感じられる効果が期待できること
なお「オレンジリング」については「有料で販売することもできる」としており、一部自治体では購入ができます。
認知症サポーター誕生の背景
厚生労働省は、2004年12月に「痴呆」という呼称を「認知症」に変更しました。翌2005年を「認知症を知る1年」と位置づけ、本格的に認知症のサポートをスタートしています。
さらに、2005年から2014年を「認知症を知り地域をつくる10ヵ年」と決定しました。認知症になっても安心して暮らせる町づくりを進めるために「認知症サポーターキャラバン」が発足し、認知症サポーターの養成が始まったのです。
2015年、同じく厚生労働省が発表した認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)では「認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進」が打ち立てられ、その主な施策として認知症サポーターが取り上げられています。
「2020年度末までに1,200万人の認知症サポーターを養成」という数値目標を掲げ、すでに実際に達成しています。2021年12月末現在の認知症サポーター数は約1,364万人です。
参考:認知症サポーターキャラバン「サポーターの養成状況」国が認知症サポーターに注力している背景
国がこうして認知症サポーター養成に力を入れているのは、高齢化に伴い認知症の人口が増え続けるなか、これまでのように介護施設や家族だけでは、認知症の人を支えることは困難という認識があるからです。
また、認知症の高齢者本人も、介護が必要になっても住み慣れた自宅、地域で生活し続けたいという思いを抱いています。今後、認知症はもはや特別なものではなく、日常生活や近隣の地域に当たり前にある存在になっていくでしょう。
そして認知症とそれ以外の人が1つの社会で暮らすようになります。住みよい社会になるためには、多くの人が認知症を知り、普段の暮らしのなかで認知症の人を見守り、できる範囲で手を差し伸べられることが必要です。
認知症サポーターによって認知症の人にどんなメリットがあるか
厚生労働省によると認知症サポーターに期待されることとして以下の5点があります。認知症サポーターは他の人の見本となるような接し方を意識しなくてはいけません。
- 認知症に対して正しく理解し、偏見をもたない。
- 認知症の人や家族に対して温かい目で見守る。
- 近隣の認知症の人や家族に対して、自分なりにできる簡単なことから実践する。
- 地域でできることを探し、相互扶助・協力・連携、ネットワークをつくる。
- まちづくりを担う地域のリーダーとして活躍する。
これらのふるまいが、認知症の人や周囲にどのような好影響を与えるのでしょうか。各項目について、メリットを紹介しましょう。
1. 認知症に対して正しく理解し、偏見をもたない。
現在はまだ日本で認知症の人に対する偏見が取り除かれているとはいえません。そこで認知症サポーターが認知症に対する誤解を解くことで、コミュニティレベルで国民の考えが変化していくことが期待されています。
認知症の人を特別扱いせずに接することは、偏見の目から人権を守ることにもつながります。サポーターが認知症の人々との正しい接し方を一般層まで普及させることで、社会全体の意識が変わっていくのです。
2. 認知症の人や家族に対して温かい目で見守る。
認知症の症状によって、日常生活で他人に迷惑をかけてしまうこともあります。認知症の人もそのことを自覚しているので、だんだんと行動ができなくなるのです。「また迷惑をかけたらどうしよう……」と日常的な行動に臆病になることで、症状が進行してしまう可能性もあります。
しかし常に温かい視点で行動を見守ることで、認知症の人やその家族が伸び伸びと生活できる環境を構築できます。その結果、認知症の人自身が行動的になっていくことが期待されています。
3. 近隣の認知症の人や家族に対して、自分なりにできる簡単なことから実践する。
他人事と突き放すのではなく、認知症に困っている方を支える姿勢が重要です。徘徊は周囲の人が寄り添って一緒に歩けば「散歩」になります。おかしいな?と思ったらすぐに交番等に連絡ではなく、まずは遠くからそーっと見守ってあげて下さい。その上で道に迷っている様子などが見られた場合は、やさしく声をかけてあげましょう。
「自分だけが行動しても意味がない」などと思わず、できることから始めることが重要です。小さな親切を積み重ねていくことで大きな変化につながります。
4. 地域でできることを探し、相互扶助・協力・連携、ネットワークをつくる。
認知症サポーターは各地域にいます。まずはサポーターが地域のコミュニティを構築し、多くの人を巻き込んで意識改革に取り組むことで、認知症に困っている本人やそのご家族が生活しやすい環境を作ることができるのです。
また認知症サポーターは認知症にまつわる施設についての知見もあります。困った人がいたらどこでどんな対処をすべきかが分かる。それだけで認知症の人も安心して行動できるはずです。
5. まちづくりを担う地域のリーダーとして活躍する。
認知症サポーターにはリーダーシップが求められています。リーダーとして地域全体の意識を変えられるような存在です。1人の意識が変われば地域全体の意識もだんだんと変わっていきます。すると認知症の人への理解が深まり、コミュニティができ、生活がしやすい状況が整っていくのです。
まずは認知症サポーターカードを付けた認知症サポーターが積極的に行動をし、ゆくゆくは地域や会社、学校などのコミュニティが認知症の人への正しい対応を学んでいく。最終的には認知症の人々への偏見がない世界を作るために認知症サポーターは活躍します。
認知症サポーターになる方法
では実際に「認知症サポーター」として活躍するためには、どこで何をすればいいのでしょうか。具体的な流れをご紹介します。
前述したとおり、認知症サポーターになるために特別な資格などは必要ありません。少しでも興味がある人は講座を受けてみましょう。
全国で開催されている養成講座を受講する
認知症サポーターになるためには「認知症サポーター養成講座」を受講する必要があります。受講するために特別な資格が必要なわけではなく、誰でも養成講座を受けることが可能です。現在は市区町村だけではなく、職場や学校などでも講座が開かれており、参加するタイミングを柔軟に選べます。
養成講座で話をするのは、認知症サポーターのなかでも講師の役割を持っている「キャラバン・メイト」です。当日は以下のようなテーマで、キャラバン・メイトが講座を展開していきます。
認知症サポーター養成講座の内容
- 認知症とはどのようなものか
- 認知症の症状
- 認知症の診断・治療
- 認知症の人と接するときの心がまえ
- 認知症介護をしている人の気持ち
- 認知症サポーターの役割
認知症の概要から「サポーターとしてどのように振る舞うべきなのか」といった意識まで幅広くお話があります。前述した5つの定義を守るためのお話です。
開催場所と時間については広報誌などでお知らせがあるほか、自治体事務局連絡先からお住まいの地域を選ぶとすぐに分かりますので、まずはご確認ください。
認知症サポーターキャラバン・メイトとは
認知症の支援について強い気持ちがある人は認知症サポーターの教育をするキャラバン・メイトを目指したいと考えるでしょう。いくつかの条件を満たせばキャラバン・メイトになることも可能です。
「認知症サポーターステップアップ講座」指導者養成研修を受ける
「認知症サポーターステップアップ講座」指導者養成研修は全国各地の自治体と全国キャラバン・メイト連絡協議会が共同で開催しています。講座には「キャラバン・メイト養成研修」と「キャラバン・メイト養成研修(企業組織内)」の2種類があり、それぞれで受講条件が異なりますので注意が必要です。
キャラバン・メイト養成研修
実施主体 | 自治体+全国キャラバン・メイト連絡協議会 |
---|---|
受講者の要件 | 下記のうち住民講座の講師を年10回務められる者
|
キャラバン・メイト養成研修(企業組織内)
実施主体 | 全国規模の企業・団体+全国キャラバン・メイト連絡協議会 |
---|---|
受講者の要件 | 実施主体が認めた者 |
養成研修を経て、キャラバン・メイトになったら晴れて養成講座を開催できるようになります。養成講座にも2種類あり、1つは「市町村とメイトの協働による認知症サポーター養成講座」です。地域住民や職場、学校などのさまざまなコミュニティに向けて講座を開くことになります。
もう1つが「会員・従業員を対象にした認知症サポーター講座」です。企業組織内での養成研修で資格を得たメイトこの講座で指導をすることになります。
キャラバン・メイトによる講座を受けた結果として、新たな認知症サポーターが誕生し、世間に対する認知症の支援の輪が広がっていくというサイクルが生まれます。2021年12月31日現在、日本全国にいる認知症サポーターの数は1,364万4,927人です。厚生労働省が2005年から15年にわたって進めてきた認知症への理解を深める運動が一定の効果を上げているといってもいいでしょう。
認知症サポーターキャラバンは世界中からも評価されており、2012年には世界保健機関(WHO)の報告書に掲載されました。また国際アルツハイマー病協会(ADI)の2012年の報告書では大きく取り上げられています。イギリスでは日本に習うかたちで「Dementia Friends」という団体が発足するほどです。
認知症サポーターはこれからの日本で必要な存在になる
世界に先駆けて日本で認知症への取り組みが促進されている背景には高齢化があります。認知症の人口はだんだんと増加しており、平成29年度高齢者白書によると2012年の認知症人口は460万人、高齢者人口のうち15%を占めています。この割合は2025年には20%にもなるといわれており、認知症サポーターはこれからの日本で必要不可欠な存在になることは間違いありません。
認知症の人がより生活しやすい世の中をつくっていくために、認知症サポーター、キャラバン・メイトの需要は高まりつつあります。認知症の人が増えるにしたがって、認知症への偏見はなくさなければいけません。また困っている人を救う必要性も高まるはずです。
現在、家族や周りに認知症の方がいらっしゃる人はぜひ認知症サポーターの役割を知り一人で抱え込まないようにしましょう。また興味のある人は受講をして認知症サポーターカードを受け取ることをおすすめします。
-
関東 [4772]
-
北海道・東北 [2431]
-
東海 [1650]
-
信越・北陸 [1002]
-
関西 [2391]
-
中国 [1152]
-
四国 [722]
-
九州・沖縄 [2389]
この記事のまとめ
- 認知症サポーターとは、認知症の人に対してできる範囲で手助けをする人
- 90分の養成講座を受講するだけで誰でもなれる
- 日本全国にいる認知症サポーターは1,200万人以上
豊富な施設からご予算などご要望に沿った施設をプロの入居相談員がご紹介します