任意後見制度とは|メリット・デメリット、費用、手続きの方法をわかりやすく紹介
任意後見制度とは高齢になり判断力や思考力が衰えた方の代わりに、親族や第三者に財産管理やサービス契約といった手続きを委任できる制度です。手続きを委任された人のことを「任意後見人」といいます。今回は任意後見制度のメリット・デメリット、かかる費用、手続きの方法を紹介します。
大手介護専門学校にて12年で約2,000名の人材育成に関わり、その後、人材定着に悩む介護事業所の人材育成や運営支援を実施。2020年4月からは一般社団法人日本介護協会の理事長に就任し、介護業界の発展を目指して介護甲子園を主催している。
任意後見制度とは
年齢を重ねると、物事に対する判断力が落ち、自分の意思を正確に伝えられなくなる可能性があります。
「任意後見制度」とは、判断力が落ちてしまった際に備えるための制度です。将来、自分が老いて判断能力が衰えてきた場合に、自分に代わり財産管理や必要な契約締結等をしてくれる「後見人」を選ぶ制度になります。
親族や安心できる人を後見人として指名しておくことで、安心した老後を迎えることができるようになります。
任意後見制度は成年後見人制度の一部
判断能力を失った人の代わりに、親族や第三者が金銭の管理、各種サービスの契約手続きを代行できる制度を「成年後見人制度」と呼び、専任された方を「後見人」といいます。
成年後見人制度には「任意後見制度」と「法定後見人制度」があり、後見人はそれぞれ「任意後見人」と「法定後見人」に分かれます。
任意後見人と法定後見人との違いとは
任意後見人は判断能力がある状況において本人の意思で選任された後見人です。
一方、法定後見人は、本人の判断能力が失われた後に親族などが家庭裁判に申し立てることで、裁判所によって選ばれる後見人です。裁判所の判断なので、客観的かつ公平に後見人を決められます。
原則として「任意後見監督人」が必要になる
任意後見監督人は任意後見人を監督する立場の人です。任意後見人が提出する財産目録などから「適正に役割を果たしているか」を判断しています。任意後見監督人を選任することによって任意後見契約の効力が生じますので、原則として選ぶ必要があります。
ただし任意後見契約に関する法律の第四条によると、以下の場合は専任する必要がないとされています。
任意後見監督人の選任が必要ではない条件
- 本人が未成年者であるとき。
- 本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人である場合において、当該本人に係る後見、保佐又は補助を継続することが本人の利益のため特に必要であると認めるとき。
- 任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。
- 民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百四十七条各号(第四号を除く。)に掲げる者
- 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
- 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
任意後見監督人を選任するためには、家庭裁判所に選任申し立てが必要です。ちなみに「任意後見人を選任した本人とその親族」「破産していて復権していない人」は監督人になれません。
任意後見人ができること
任意後見人ができることは主に次の2つです。ただし契約内容は原則自由です。当事者同士の合意で契約内容を決定できるので、法律の趣旨に反しない限りにおいては、自由に内容を決めることができます。
財産管理
被後見人の財産を適切に管理します。財産とは、自宅や社屋といった不動産や預貯金が当てはまります。また受給している年金の管理、税金・公共料金などの支払いも任意後見人に任されます。
医療・介護サービスや生活支援の手配
医療・介護サービスや生活支援に関する手配は任意後見人の役割です。具体的には以下の手続きを代行します。
- 要介護認定の申請~認定までの手続き
- 介護サービスを提供する機関と契約の締結
- 介護費用の支払い
- 医療契約の締結や入院手続き
- 入院費用の支払い・生活費の送金
- 老人ホームの申込み~入居までの手続き
任意後見人には3種類ある
任意後見人の契約は、開始時期に応じて3つのタイプがあります。
即効型
任意後見契約の締結と同時に後見開始となるタイプです。契約を締結したら、ただちに家庭裁判所で監督人の選任申し立てをします。
将来型
被後見人の判断能力の低下が見られたタイミングで、監督人の選任申し立てを開始するタイプです。契約の締結から実行までかなりの時間がかかります。
期間が空くので受任者が契約そのものを忘れていたり、関係性が変わっていたりする可能性があります。開始まで継続的に支援(見守り支援)することを取り決めておくと安心でしょう。
移行型
任意後見契約の締結時に、見守り契約や財産管理の委託契約をします。本人の判断能力の低下に合わせて任意後見に移行するタイプです。
任意後見制度のメリット・デメリット
任意後見制度にはメリットだけでなく、デメリットもあります。こちらでは任意後見人のメリット・デメリットを2つずつ紹介しましょう。
任意後見制度のメリット
はじめに任意後見人のメリットを紹介します。
老後の生活を安心して送れる
「認知機能の衰え」は誰しもが直面する老後の問題です。認知症はいつ発症してしまうかわかりません。任意後見制度は判断能力が衰えたときに対する保険です。万が一のときに自分の生活をサポートしてくれる人がいることで安心して生活できます。
自分の希望を事前に伝えられる
法定後見制度と違って、判断能力がある時点で手続きできるのもメリットです。利用者の希望を実現できます。主に以下の内容について、事前に契約書に書いておけるのが大きなメリットです。
- 利用したい介護サービス
- 受けたい治療の方針
- 入居したい介護施設
- 自宅の売却に関する条件
- 任意後見人
任意後見制度のデメリット
続いて任意後見制度のデメリットを紹介します。
死後のことはサポートできない
任意後見制度は生前に特化した制度です。そのため死後のことはサポートできません。主に以下のことは範囲外となります。
- 葬儀に関すること(場所、費用など)
- お墓に関すること(場所、費用など)
- 遺品整理に関すること
上記のような死後のことを相談する場合は「死後事務委任契約」という、別の手続きを進める必要があります。
任意後見人によってはトラブルが起こる可能性がある
任意後見人は本人が直接選べます。信頼できる方や、家族であれば安心です。しかし本人が仮に認知症になってしまった場合「自分自身の要望を正しく叶えられているか」を確認する方法がありません。その結果、金銭トラブルが起きてしまう可能性もあるようです。
こうしたトラブルを回避するために「任意後見監督人」がいます。ただし、逆にいうと「任意後見監督人しかいない」という状況です。依頼者が単身の場合は選定する際「任意後見人・任意後見監督人ともに、信頼できる人か」を冷静に判断しましょう。また依頼者に家族がいる場合は、家族が「任意後見人が役目を果たしているか」を確認することが必要です。
任意後見人にかかる費用とは
任意後見制度では、公正証書の作成と任意後見制度の選任申し立てで費用が発生します。費用は本人の財産から支払われます。
公正証書の作成費用
公正証書の作成費用は以下の通りです。
項目 | 金額 |
---|---|
公正証書の作成手数料 | 1万1,000円 |
公正証書代 | およそ1万円 |
登記嘱託手数料 | 1,400円 |
登記手数料 | 2,600円 |
任意後見人監督人の選任申し立てにかかる費用
任意後見人監督人の選任申し立てにかかる費用は次のとおりです。
項目 | 金額 |
---|---|
申立手数料の収入印紙代 | 800円 |
登記手数料 | 1,400円 |
切手代 | 3,000~5,000円程 |
ただし本人の精神鑑定が必要な際は、5~10万円を目安に別途で費用が必要です。
任意後見人への報酬
法律上、任意後見人への報酬は必須ではありません。ただし弁護士や司法書士といった第三者を後見人にする場合、報酬を支払うことが多いです。
その場合は公正証書に報酬規定を記載します。報酬金額、支払い方法、支払時期を盛り込むことが必要です。
東京家庭裁判所による「成年後見人等の報酬額のめやす」では、以下の金額を目安にしています。
管理財産額 | 月額報酬の目安 |
---|---|
1,000万円以上5,000万円以下 | 3~4万円 |
5000万円以上 | 5~6万円 |
任意後見人監督人への報酬について
任意後見人監督人への報酬は法律上必須ではありませんが、第三者に依頼する場合は支払うのが一般的です。親族の場合はないことが多いです。
支払う報酬の金額は最終的に裁判所が決めます。その目安は以下の通りです。
管理財産 | 月額報酬の目安 |
---|---|
5,000万円以下 | 1~2万円 |
5,000万円以上 | 2万5,000~3万円 |
任意後見人の手続き・必要な書類とは
任意後見人の手続きの流れ、また必要な書類を紹介します。
1. 任意後見人の受任者を選ぶ
任意後見人の受任者に資格はありません。親族、友人、弁護士、司法書士、企業から選べます。複数人選ぶことも可能です。
しかし、以下の方は選任できません。
任意後見人になれない人
- 未成年者
- 家庭裁判所に免ぜられた法定代理人や保佐人・補助人
- 破産者
- 行方不明の人
- 被後見人に訴訟をした人とその配偶者・直系血族
2. 任意後見人契約の内容を決める
任意後見人に頼みたい契約内容を決めます。
財産管理や介護・生活サービスの手配は任意後見契約の基本内容です。ペットの世話や死後の葬儀の手配は当事者の合意で委任契約することになります。
「施設に入居する時は〇〇施設へ入所を希望したい」「年に数回墓参りに行きたい」と、認識に齟齬がないよう具体的に記載したプランを作っておくことで、締結後の認識の相違をなくすことができます。
3. 申立に必要な書類をあらかじめ準備する
申し立てには以下の書類が必要になります。なおこれらの書類は東京家庭裁判所のホームページからダウンロードできます。他の地域にお住まいの方は、管轄する家庭裁判所のホームページをご確認ください。あらかじめ揃えておくことで、この後の手続きがスムーズに進みます。
- 任意後見監督人選任申立書
- 申立事情説明書
- 親族関係図
- 財産目録
- 相続財産目録
- 収支予定表
- 任意後見受任者事情説明書
- 本人情報シート(成年後見制度用)
- 診断書(成年後見用)・診断書付票
4. 公正証書を作成して締結する
契約内容が決定したら、被後見人の住居に近い公証役場で公正証書を作成してもらいます。公正証書の作成で契約は締結となります。
公正証書の作成にあたっては被後見人と受任者の両方が赴いてください。被後見人が出向けない場合は、公証人に出張を頼めます。公証人とは契約書、委任状、翻訳書などの文書について公的であることを証明する公務員です。
参考:日本公証人連合会「公証人とは」公正証書作成の際に必要な書類は以下の通りです。
公正証書作成で必要な書類
- 当事者本人の確認資料
- 委任者(被後見人になる人)の戸籍謄本(抄本)および住民票
- 受任者(後見人になる人)の住民票
参考:日本公証人連合会「任意後見契約公正証書を作成するにはどんな資料が必要ですか?」
公証人から法務局へ後見登記を依頼する
契約が締結したら、公証人は法務局に後見登記を依頼します。依頼後、2~3週間で登記完了となります。法務局で登記情報をまとめた書面を「登記事項証明書」といい、任意後見人が銀行や役所の手続きをおこなうために必要な書類です。
5. 家庭裁判所に任意後見人監督人の選出申し立てをする
任意後見人契約を開始するタイミングで、被後見人の住所地(住民登録をしてる場所)を管轄する家庭裁判所で監督人の選任申し立てをします。申し立てが可能なのは本人以外に配偶者、四親等内の親族、任意後見人の受任者です。本人以外の申し立てでは、本人の同意が必要です。
6. 家庭裁判所による審理
家庭裁判所は申込みの後に「資料の確認」「本人や親族の調査」「鑑定」をします。資料が不足している場合は送付を依頼されることがあります。また場合に応じて、本人や親族に聞き込み調査をしたり、判断能力を鑑定したりします。
鑑定が必要になった場合は10万~20万円の費用が発生します。
任意後見人は老人ホーム・介護施設の入居の際に必要になることがある
老人ホーム・介護施設への入居には身元保証人が必要になることが多いです。入居者に任意後見人が専任されている場合は、身元保証人になり得る家族がいなくとも入居ができる場合があります。
現在、老人ホームへの入居をお考えで、身元保証人となりうる家族がいない方は、事前に「任意後見人は必要か」を施設に確認しておくことをおすすめします。
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関東 [12230]
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北海道・東北 [6918]
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東海 [4891]
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信越・北陸 [3312]
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関西 [6684]
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中国 [3581]
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四国 [2057]
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九州・沖縄 [7730]
この記事のまとめ
- 任意後見人は成年後見人制度の一部で自分で受任者を選べる
- 後見人は主に財産管理や介護・生活サービスの手配、その他契約で決めたことを代行できる
- 「任意後見人がいるか」が老人ホーム・介護施設の入居条件になる場合もある
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